ろまけん - ロマンシング剣闘 -

モノリノヒト

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第3部

第17試合 - 湖の騎士

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 ギアを構えろ、そう言われた天晴だが、気合が入っていない。
 いつの間にか翔は剣闘スペースの外に出ており、二人に声援を送っている。

(どういう事ですか、翔さん。
 俺はこの人と戦わなくちゃいけないんですか)

「おい」

 ──バシッ!

「いてぇ!」
「そんな態度でデュエルに挑むつもりか。
 デュエルとは神聖なもの、魂と魂のぶつかり合い。
 この場にない魂の抜け殻を斬ったとて、何の意味もない!」

「何するんだ、てめえ……!」

 翔さん、隣に立つ男、円卓、自分が劣っている、翔さん、"翔"……。

 様々なフラストレーションが天晴の中に蓄積され、そして爆発する。

 ──クゥゥゥン……!

 天晴はギアブレードを稼働させた。
 いつもよりひと際、大きな音を立てる静音タイプのギアブレード。
 劣等感にさいなまれた、天晴の怒りの咆哮であった。

 ──ギュイィィィン!

 それに対するランスロットのギアブレードも負けていない。
 ホールに響く二つの駆動音が、これから始まる戦いの厳しさを予感させていた。

(天晴くん、あなたならランスロットにだって勝てるわ。
 そんな旧式のギアでパルテノンという一大勢力に勝ったあなたは、デュエリスト界の新星……希望の星。

 その事実は、あなたの腕が凄いということの証明の他に、旧式が新型に勝つという図式で、多くのデュエリストに夢と感動を与えているのよ。

 だから、こんなところで負けないで、しっかりと勝ってから、うちに来てちょうだい、天晴くん!)

(以前見たのは春先だったが……今でも変化はないな。
 夜宮のギアは、至って普通の旧式のギアだ。

 国生とのデュエルは知らないが、黒澤とのデュエルはこの目で見た。
 こいつは愚直な奴だ。きっと真っ直ぐの打ち合いを仕掛ければ、受けて立つだろう。

 俺は黒澤とは違う。しっかりと有効なバフをかけた上で、打ち合いに持ち込んでやる。
 そうすればディフェンスタイプに近い、夜宮のギアは、俺のアタックタイプには打ち合いで勝てない)

(何がなんだかわかんねーけど、すげえイライラする……!
 なんなんだよ、こいつ、翔さんのなんなんだ……!)

「始める前に名乗っておこう。
 俺は円卓の騎士、ランスロット。
 流派は、玄武水湖流」
「無所属、夜宮天晴。
 流派は蕎麦屋とわり。
 よろしく。"マイケルさん"」

 ランスロットの視線が鋭くなる。

 ──いざ、剣闘開始!!


 * * *


「ひぃ……ひぃぃ……」
「……塚原日剋からは、やめるならいつでもやめていいと言われている。
 どうする」
「や、やめましぇん……」

 とある山奥にて、一人の男がしごき倒されていた。
 がたいのいい男は、息一つ乱さず、悠然と構えたままである。

「ならば、もっと腕を上げろ。腕は真っすぐだ」
「こ、こんなギャグ漫画みたいな修行して、本当に意味があるんですか、神威先生!」

 しごき倒されている男……カイルに指導を与えている男の名は、伊達神威だてかむいと言った。

「問題ない」
「いや、その、意味があるか聞いてるんですけど……!」

「……塚原日剋からは、やめるならいつでもやめていいと言われている。
 どうする」
「ひぃぃ、やめません、やめません!!」

(ううう! とは言っても、本当はやめたい! 辛い! 帰りたい!
 こんな中腰で、水の入った壺を両手に持って……。
 ゆ、指が。こ、腰がぁぁぁ!)

「どうした、震えているぞ。
 見ろ、腰の落とし方、足の曲げ方はこうだ」

 カイルと同じ条件で同じ体勢をしているのに、ピタリと止まる神威。

「両腕と壺をつなげろ、一本の棒になれ。
 それが出来たら、壺と腕は繋がっている、そういうものだと思え。
 これはギアブレードを扱う時に活きてくる修行だ」

(な、なるほど! そういう意味がわかれば、もう少しやる気が出てくるってもんですよ、神威先生!)

「尻が下がってきているな。
 ではこうしよう」

 どこからともなく神威が取り出したのは、剣山。
 生け花に使われる、いわゆる花留めである。

「ぎやぁぁぁぁぁ! 何置いてるんですか!」
「そのまま尻餅をつけば、ぐさりと刺さる。痛いぞ」
「痛いぞ、じゃないですよ、うおおおおああああ!!」

 ぐぐぐ、と下がりつつあったカイルの尻が持ち上がる。

「うむ、やればできる。
 お前は恵まれたフィジカルはないが、見どころがあるメンタルをしている。
 塚原日剋がお前を俺に預けた理由もわかる」
「そ、そりゃ俺だって……まさか、神威先生に教えてもらえるなんて思ってませんでしたよ……!」

(なんたって、現役の四天王、だぞ……!
 鉄壁のディフェンスを誇るディフェンスタイプの神威!
 俺が目標にしていたグラディエーター!

 でも、俺のギアブレードって、テクニカルタイプなんだよなぁ……。
 本当に役に立つのか、この修行おおおお!?)

「俺がお前を凄いと思うところは、その口だ。
 これだけ追い込んでいるのに、喋る余裕があるのは凄い」
「違いますよ! ツッコまないとやってられないんですよ!」

「そうか……。塚原日剋からは、やめるならいつでも」
「だからやめませんって!!」

 神威の発言が、どこまで本気かはわかりかねるが、必死に食らいついていくカイルであった……。


 * * *


 ──クゥゥゥン……!
 ──ギュイィィィン!!

 ガキィッ!!

(真っ向からの打ち合いが続いてる……。それでいいの天晴くん!?)

 ──シュッ、ピッ。

(また、カードを変えた!
 くそ、一合一合毎に、バフを変えて何かを確かめてる!
 なんだか、やりにくい!)

(驚いた、オールドタイプとはここまで隙のないギアなのか。
 カードを使い、バフによる強化を得る現代のデュエルでは、バフで強化された事によって相対的に何らかの弱点ができるのが普通。

 だが、夜宮はオールドタイプ故に、常に芯が一本通った性能のままだ。

 しかも思ったより耐久値が高い。
 並のディフェンスタイプなら、とっくに音を上げているはずだ。

 まあいい、どちらにしても、そのギアを弱点として捉える事は止めた。
 本当の弱点は、使い手自身である……夜宮、お前だ!)

 ──ガンッ! シュッ、ピッ。

(またか! 打ち合う毎にカードを入れ替える事で、俺をかく乱しているのか?)

 ランスロットの意図が読めない。
 天晴の焦りが剣先に現れる。

 顔色ひとつ変えず、打ち合ってはカードを入れ替えるランスロット。
 戦いのイニシアチブは完全にランスロットが握っていた。

(ランスロットが頻繁にカードを入れ替えるのは、既に見慣れた戦法だけど、実態はあのテクニカルタイプ顔負けのトリッキーさにあるわ。

 アタックタイプのギアを扱いながら、玄武水湖流というカウンターを主軸にした防御系流派を使い、冷静な頭脳で常に有効なカードを探る。

 当然、カードの入れ替えはめっちゃ早いし、アタックタイプだから打ち合いには強い。そう簡単に付け入る隙はないわ。
 円卓の騎士ナンバーツーの実力は、ラグナロクのナンバーズにだって引けを取らないんだから。

 そんなランスロットを相手に、どうやって戦うの、天晴くん)

 ──ギィン!

(……今の、なんだ!?)
(……これか!!)

 明らかに今までとは異なる手応え。

 そのデュエルは大きく動き出す。


 * * *


「ふんぎぎぎぎ!」
「お前は喋り過ぎだ。呼吸を整えろ」

 カイルは大岩を押していた。
 ただでさえ腐葉土で構成された地面は、足が滑る。
 どれだけ踏ん張っても、大岩が動く気配を見せることはない。

「こ、呼吸、ですか」
「そうだ」

「それって一ノ型みたいな」
「違う。
 人の力は、息を吐きだす時に最も効率よく発揮される。
 呼吸を整える事は、いつ力を発揮して、いつ力が出せないかを知る為に重要なことだ」

「はぁ」
「自分の呼吸を知り、相手の呼吸に合わせる事ができれば、明確に攻め時と引き時を理解する事ができる、わかるか」

「相手が息を吐いている時は、こっちは守って、こっちが息を吐いている時は相手を攻めるんですね!」
「うむ。言葉で説明するのは簡単だが、実戦の呼吸を安定させる事は難しい。常に呼吸を意識するんだ」

「はいっ! 呼吸に全集中するんですね!」
「おい、なんだか寒気がするからそういう事を言うのはやめろ」

 やれやれ、と言った風に神威が大岩の前に立つと、彼は片手を岩に当てた。

 そして。

 ──ズズズ……。

「うそぉっ!? 片手で!!」
「呼吸を知る事は、己を知る事だ」

「神威先生、まじぱねえっす……」

 よーし、と気合を入れなおし、岩に両手を当てるカイル。

(常時、力を入れる必要はない。息を吐きながら押すんだ。
 息を吐いている間だけ、力が出るって考えるんだ)

「はぁぁぁぁぁ……!!」
「……!」

 すると、大岩が。

 びくともしていない。

「呼吸の基礎がなっていない。
 息を吐くにはどうすればいい?」
「そ、それは息を吸うんでしょ?」

「では、息を吸うには?」
「吸うには、こう、はぁぁぁって」

「……」
「……あっ、わかった、わかりました!
 息を吐く必要があるんですね!」

「うむ、息をしっかり吐き、肺を空っぽにするぐらいの勢いでなければ、息を吸えない」
「なるほどぉ……」

「カイル、塚原日剋からは、やめるならいつでもやめていいと言われている。
 ……この"やめる"という意味は、俺が指導をやめていいという意味ではない、そう捉えている」
「えっ!? てっきりそういうことだと思ってました……」

「塚原日剋の真意はわからないが、俺は」

 基本的に寡黙かもくな神威は、言葉が上手くつむげない。
 修行の内容など、予め決まった内容を話す分には労しないが、自分の意見を率直に伝える事は大の苦手であった。

「……カイル、お前自身がやめるならいつでもやめていい、そういう意味に捉えている」
「俺が、ですか……」

 しかし、やめられるには惜しい逸材とも神威は考えていた。
 カイルを強く引き留める為、神威が選んだ言葉は。

「カイル、俺にはお前のスタイルがおおよそ見えている」
「えっ、俺のスタイル!?
 ……ちゃんとテクニカルですよね?」

「無論だ。
 故にそのスタイルに向けて、明確な修行を指示している。
 テクニカルタイプを扱うお前にとって、ディフェンスタイプ使いである俺に指示されるのは苦痛かもしれないが……。
 とにかくがむしゃらにでもついてくれば、結果は出す」

「苦痛だなんて、そんなことないです!!
 神威先生に教われる機会なんて、普通の剣闘士には一生ない事ですから!!」

 その言葉に確かな信頼を感じた神威は、己の疑念が落ちたように、ふっと笑う。

「よし、ならばついて来い」
「はいっっ!!」


 * * *


 それまで激しい打ち合いを行っていた両者だったが、ランスロットが距離を取る。
 体勢を低くし、ギアブレードを腰の後ろに隠し、まるで抜刀する前のような構えを取った。

(なんだ……居合の構え?)

 そう、居合である。

(ふぅん、本気で天晴くんを倒そうってわけね。
 いいのかしら、そんな奥の手を出して負けたら、格付けが決まっちゃうわよ。
 だって……)

 少数とはいえ、多目的ホールにいた人たちが、二人のデュエルをギャラリーしている。
 その中には、当然円卓の騎士を知っている者もいた。

 ──おい、あれ円卓の騎士のランスロットじゃないか。
 ──相手は……まさか噂の夜宮天晴? 蕎麦屋の?

(いつの間にかギャラリーが増えてるもの。
 もし負けたら、その噂は一気に広がるわよ、ランスロット)

「夜宮、お前はよくやった。
 だが、玄武水湖流の極意である、この居合の構えを俺に取らせた事で、お前の勝ちはなくなった。
 ギアを大切にしたいなら、降参しろ」

 そう言われて諦める程、天晴はいさぎよくはない。

「まだまだこれからだ」

(それに、なぜだか、こいつには絶対負けたくない。
 翔さん、見てて)

「行くぞ!」

 天晴の鋭い飛び掛かり攻撃。
 ランスロットの目が正確にタイミングを計り、そのギアブレードを抜いた。

 その刹那、天晴には砕け散る自分のギアブレードの姿が浮かんだ。
 天晴に備わった天性のセンスが、この攻撃を受けてはならないと、うるさい程に警鐘を鳴らす。

 ──ゴッ!!!!

「天晴くん!!」
「うわああああああ!!」

 ギャラリーから悲鳴にも似た歓声が上がった。

 
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