ろまけん - ロマンシング剣闘 -

モノリノヒト

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第5部

第30試合 - 伝説の剣豪(本物)

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 大変な事になった。

 師匠超え、つまり伝説の剣豪、塚原日剋を倒せというのだ。

「俺から見たら鏑木くんだって相当なデータ派だ。
 その彼が、オーディンってやつは俺より強いってんだから、当然俺に勝てなきゃ勝機はないわけだろ?」

 言っている事の理屈は通っている。
 だが。

「お、おじさんと戦って勝てるわけない……」

 天晴は憧れの人物と戦う事に気後れしていた。

「そーゆーところがダメなんだよなぁ。
 デュエルが始まったら、誰が相手だろうと本気でやるんだよ」

 そういうと店長はエプロンを外し、ズボンのポケットから黄色く変色したハチマキを取り出した。

「そのハチマキって……!」

 天晴の記憶にもあるハチマキ。
 当時のように白くはないが、塚原日剋のもので間違いなかった。

「さ、始めるぞ」
「……」

 ハチマキを頭に巻いた店長が、唖然としたままの天晴を試合場に引っ張る。

(こういう大事な時に居合わせていない宮永……かわいそうな奴)

 * * *

「はくちゅ!」
「拍手?」

「違うわよ、くしゃみ!」
「ユッコ、誰かに噂されてるんじゃない?」

「うふふ、天晴くんかなぁ~」

 * * *

「天晴、お前が何もせず負けても俺は何も言わない。
 自分の力を最大限出せるように、悔いなく戦え」
「え、そんな事、言われても」

「天晴」
「は、はい」

 動揺する天晴に凄味のある声色で、店長が、塚原日剋が言う。

「お前相手に本気を出すのはこれが最初で最後だ。
 もう一度だけ言う。 悔いなく戦え」
「……!」

 言葉だけではない。
 明らかに普段とは違うオーラが漂っていた。

 否、漂うなどと生易しいものではない。
そのオーラは塚原日剋から噴出し続け、眼前の相手が只者ではない事を示していた。

 何度か手合わせはしたが、こんなオーラを見た事がない。
 下手を打てば……、再起不能になるかもしれない。

(……なんだ、これ……すげー、やばい)

 始まってもいないのに、天晴は背中が冷や汗でびっしょりと濡れていた。
 気圧された意識とは裏腹に、防衛本能がギアブレードを駆動させる。

 ──ガァァシュゥゥ!

「ロートルと侮るなよ。チャンピオンの力、見せてやる」

 ──ゴゴォォァァァ!

 塚原日剋のギアブレードが駆動する。

「名乗れ」
「は、はい!
 チーム蕎麦屋、とわり流、夜宮天晴……です」

「俺は塚原日剋。
 流派はない、我流だ」

 かつて、どこかで聞いた事のある名乗り。
 だが、そんなものとは似ても似つかない"ホンモノ"だけが持つ気迫。
 そして覚悟が、その名乗りには含まれていた。


 ……剣闘開始!!


 ──ピッ。

 半ば、無意識に動いたカードを通すという行動。
 何度となく行った反復練習の末の賜物たまものであるが、塚原日剋にはあだとなった。

 塚原日剋が身体を傾けたかと思えば、瞬きの間にその距離を詰められる。

 瞬歩しゅんぽ縮地しゅくちの合わせ技。

(え、はやっ……)

 横薙ぎで払われるのはカードすら通されていないギアブレード。

 片や、カーリッジのカードはぎりぎり通した天晴のギアブレード。

 ──ガキィ!

「はぁ~、新型はやっぱり堅いね。
 終わったと思ったんだが」

 天晴のギアブレードを打ち抜いた塚原日剋が感想を漏らす。

 その隙に、思わず数歩下がりながらカードを入れ替える天晴。

(カーリッジはもうダメだ、一発でもっていかれた)

「踏み込みは極めればここまで先手を取れる。
 カードを使う時間は隙だって教えた通りだったろ?」

 ケラケラと笑う塚原日剋。
 対して全く余裕のない天晴。

「そんなに離れたいなら2メートル開けてやろうか?
 仕切り直しでも全然構わんぞ。
 次は鷹の目斬りを試させてもらいたいしな」

 そう、今のは高度な技術の踏み込みとはいえ、ただの横薙ぎ。
 塚原日剋の得意技、鷹の目斬りではない。

 あの神速の踏み込みから繰り出される打ち下ろしこそが、鷹の目斬りなのだ。

(なんだ……今、何が起きたんだ?
 店長さんの身体が傾いたと思ったら、倒れずにそのまま夜宮に突っ込んでいった。
 カードを通すわずかな隙に、横薙ぎが綺麗に入ってしまった。

 なんだ、俺は何を見ているんだ!?)

 端から見ている鏑木にすら理解が及ばない高等技術。
 塚原日剋が各種格闘技に詳しい事は知っていたが、それを組み合わせる事で、このような体捌きを実現できるというのか。

 これが、蕎麦屋の動きなのか。

 気圧されたままの天晴だが、塚原日剋も遊んでいるのか、鷹の目斬りを繰り出さない。
 天晴が踏み込もうと足を出せば、その足を踏まれ、機先を制される。

 踏まれた足を軸に、回し蹴りに切り替え応戦するも、さらりとかわされてしまう。

「どうした天晴、打ち合いに応じてやるって言ってるんだぞ?
 得意なんだろ、打ち合い」

(冗談じゃない、今から打ち合いなんかしたら、ダメージの大きいこっちのギアブレードが先に音を上げる!
 それをわかってて、挑発してきてるんだ!)

 天晴とて並みいる強豪を撃破してきた猛者である。
 その実力はもはや一流のデュエリストと呼んで差し支えない。

 しかし、そのいただきは、未だ遥か天高く──。

「「鷹の目斬り!!」」

 両者の顔が近づく程、接近する。
 だが、同じ技、同じ動きでも精度が段違いであり、完璧な体勢をとっているのは、やはり塚原日剋であった。

 逆に天晴は無理な姿勢のまま、ギアブレードを宙に晒している。

「踏み込みが甘いぞ、天晴ッ!」

(斬られる!)

 咄嗟の判断でギアブレードを手放し、塚原日剋のギアブレードに空を斬らせる。

「違うんだよなぁ」

 そして飛んでくるミドルキック。
 腹部に大きな衝撃を受けた天晴は、その姿勢の不完全さも相まって、たたらを踏む。

 そして拾われる天晴のギアブレード。

「二刀流~」

(えええ!?)

 天晴と鏑木は心の中で驚愕していた。
 てっきりギアブレードからコアを排出させて終わらせるのかと思いきや、まさか武器として使うとは。

(しかも丸腰相手に二刀流なんて聞いた事がない!
 型破りというか、自由すぎるぞ、店長さん!)

「天晴、ギアブレードからコアが排出されなければ"デュエルは"終わっていない。この意味がわかるな?」
「……」

 公式ルールならギアブレードを手放した時点で、既に敗北している。
 だが、非公式であるデュエルは、コアが排出されない限り負けとは認められない。

 デュエルにおける数少ないルールを悪用したこの二刀流。

「お前が身を置いている世界は、そういうところなんだ。
 もっかい身をもって知れ」

 二刀のギアブレードを巧みに操り、天晴の逃げ場を封じていく塚原日剋。
 始めは奪い返そうと躍起になっていた天晴だが、打ちのめされ続ける中で、次第に覇気を失っていった。

(……宮永、お前、今日この場に居合わせなくて良かったな)

「う、うわぁぁぁぁ!! もうやめてよ、おじさん!」
「デュエルは終わっちゃいねえぜ、天晴!!」

 二人のデュエル、いや、もはやデュエルの体を成していないそのしごきは、試合場から訓練場全体へと広がった。

 訓練器具を使い、逃げる天晴。
 子供のような天晴の反撃を軽くいなし、確実に攻撃を当てていく塚原日剋。

(鼻血がのどに入って、息が、できない……!)

「昔は鼻血なんてしょっちゅうだったぜ。
 そういう時は口呼吸に変えるんだ。
 あと、目ぇ逸らすな。相手の攻撃をかわせねえだろ」
「ぐぇっ」

「そうそう、怯えててもいいから、俺の動きから目を離すな。
 うんうん、訓練器具を使うのはいい発想だ。
 使えるものは何でも使え、そこに突っ立ってる鏑木くんを盾にしてもいいぞ」

(えええ!?
 って、ホントに俺を盾にするのかよ!?)

「鏑木くん、悪いけどかわしてくれよな?」
「て、店長さん、勘弁してくださっ」
「鷹の目斬り!」
(えっ、はや)

「いぎゃあああ!!」

 鏑木の絶叫が訓練場中に響き渡った事で、天晴は我に返る事が出来た。
 鼻血の流れが、自身の血液の流れを感じ取るきっかけとなって、一気に視界が開けた。

 ──明鏡止水。

 塚原日剋の動きがよく見える。
 両手を振っているが、片方はフェイントだ。

 見える。

「おっ、攻撃をかわしはじめたか。
 いいぞ~、明鏡止水を使い始めたな。

 まあ、俺も使えるけど。

 ──明鏡止水」

 見切ったはずの攻撃が、吸い付くように天晴の身体に当たる。
 一瞬、追い付いたと思えば、またすぐに離される。

「そこまでボコボコにされてから使ってちゃ遅いんだよ。
 俺なんか蕎麦打ってる時は毎日明鏡止水してるぞ」

 果たして毎日するものなのだろうか、明鏡止水とは一体、うごごご。

 何の奥義なのかわからなくなってきた天晴だったが、塚原日剋の攻撃を受けながら、少しずつ意識を手放していく。

(ダメだ、明鏡止水状態でも、紙一重でかわしても追撃が飛んでくる。
 これじゃ、俺に勝つ手なんてない。
 オーディンって人は、おじさんより強いだなんて、無理、だ……)

「諦めたか、天晴。
 ちょっと才能がある奴は、すぐ諦めるからいけねえ。
 上手く行くのは最初だけなんだよ、何でもそうだ」
「……」

 その場に座り込んでしまった天晴に対し、二刀流でギアブレードを振り回しながら語る塚原日剋。

「そこでもう一歩踏み込めるかが肝なんだ。
 お前の感じてる限界は、限界なんかじゃないし、お前の深層心理では諦めちゃいないはずだ。
 もっと自分の身体と対話してみろ」

(自分の身体と……対話……?)

「最後に聞こうか、天晴。
 俺がお前にここまで本気を出す事は二度とないが……。
 もう満足したか?」

(おじさんの、全力……)

「満足したなら終わりにしよう。
 何もギアブレードを壊さなくても、このお前のギアブレードからコアを抜いてしまえば、それで仕舞いだ」

(俺の、ギアブレード……)

「いってぇ~……」

(鏑木、さん……)

「剣島は狭いようで広い。
 まだまだ上は目指せるし、若い連中にも負けないってわかっただけ、俺も収穫はあった」

 塚原日剋が、自分のギアブレードを足で挟み、天晴のギアブレードをいじりだす。

(コアを……取り出そうと、してる……?)

 ──負けたくない……。

 それはどこからの声であっただろうか。
 悲痛な叫び声、だが、音を上げた自分の身体ではない。

 ──こんな負け方は、嫌だ……。

 悲哀と悔恨が混じった声。

 ──俺は強いのに。

 その声が聞こえた時、再び、視界が広がった。

(俺の、ギアブレード……!)

 座り込んだ姿勢から一転、猛ダッシュでギアブレードを掴む天晴。
 驚きはしたが、にやりと笑う塚原日剋。

「やあああああ!!!」

 ──ピーン!

 
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