ろまけん - ロマンシング剣闘 -

モノリノヒト

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第5部

第32試合 - 崩壊

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大事おおごとになっているようだな。
 こっちも終わらせようか、アーサー」
「そうね、モードレッド。
 このバカげたお芝居もおしまいよ」

 ──ピピッ。

 示し合わせたかのように、お互いにカードを入れ替える。

 次の一合が、勝負を決める一撃になると知って。

 ──ギュアアィィン!
 ──フィィィィン!

「食らえ、アーサー!
 これがお前への手向けだ!」

「悪いけど、天晴くんが待ってるからね!
 特別に見せてあげるわ!」

「グリム・リーパー!」
「カレトヴルッフ!!」

 光に包まれた二振りのギアブレードが、互いに交差する。

 ──ベキィィン!!

 粉砕されるアーサーのブレード。

 ──ピーンッ……。

 排出されるモードレッドのコア。

「いたっ……」

 飛び散ったブレードの破片が、アーサーのこめかみを傷つけ、血を流させる。

「フハハハハハ!!」

 血に染まったアーサーの顔を見て、狂ったように笑いだすモードレッド。

「おい、モードレッド……?」

 波止場に響く大きな高笑い。
 あまりに異様な状況に、ガウェインが駆け寄ってくる。

「フハハハハハ、勝った、勝ったぞ!
 俺が新しい円卓の王だ!!」

「……アーサー、大丈夫ですか。
 今、トリスタンが救急車を呼んでます」
「ガウェイン、久しぶり、ね。
 うん、大丈夫、ありがと」

 アーサーは袂を分かった時と寸分変わらなかった。
 その事に胸を痛めるガウェインだったが、隣で狂ったように笑い続けるモードレッドにも困惑していた。


 * * *


 時は戻る。

 店長こと、伝説の剣豪、塚原日剋に打ちのめされた天晴は、敗戦のショックを受け入れきれぬまま、その悲報を聞く事となる。

「翔さんが入院!?」
「ラグナロクの情報網で掴んだものだ、間違いないぜ」
「すぐ行きます!!」

 大恩があるとはいえ、この日ばかりは学校へ行く気力がなく、サボっていた天晴。
 そのおかげか、いち早くその報告を受け取る事ができた。

 どたどたと駆ける天晴の姿を見ながら、店長と鏑木は少しばかり安心していた。

「やれやれ、恋は盲目ってか」
「落ち込んでるところに、どうかとは思ったんですが、伝えて良かったみたいですね」

「あいつは優しいからな。
 自分の事より他人の事を優先しちまう。
 ……でも、いいのかい、ラグナロクの情報って機密なんだろ?」
「多分、俺がこの事を伝える事も、オーディンの予想通りですよ、すごいんです。"グングニル"ってやつは」

「へぇ~、そんな事まで予想できるなんて、なかなか……」
「おじさん、ごめん、行ってきます!」

「おう、お前までケガするなよ」
「これ以上ケガしないよ!」

「……そりゃそうだ」

「やっぱり、アレはやりすぎですよ、店長さん……」
「うるせえやい、あれがウチの教育方針なの」

 * * *

 彼女は神に愛されていた。
 神は彼女に加護を与え続けた。

 彼女は神に愛されていた。
 神は時に試練を与え、成長を促す。

 彼女は、神に愛されていた。

「翔さん!!」
「天晴くん、ちょっと声大きいよ、ふふ」

 白い病室は、天国と見紛みまがう程に神秘的で、漂うアルコールの香りが、別世界であるような錯覚を引き起こす。

「包帯……大丈夫なの?」
「うん、こめかみを切っちゃったみたいで、最初は血が止まらなくて、大変だったよ」

「今はもう、大丈夫なんだね?」
「うん。大丈夫。
 でも、私がここに入院してること、よくわかったね……って、あれ、今日平日じゃないの?」

「……サボっちゃった」
「こぉらっ」
「ごめん」

「でも、来てくれてありがとう。
 一番つらい時、いつも来てくれるから、天晴くんはやっぱり特別な人なんだと思うな」
「タイミングがいいだけだよ……。翔さんの事は、大事に想ってるけど」

「それでも、ありがとう」

 よく見れば、翔の手元にはギアブレードの柄が握られていた。
 羽のように綺麗だったブレード部分はなくなっており、壮絶なデュエルがあった事を物語っている。

「翔さん、それ……」
「ああ、うん。壊れちゃった。私のギア。
 いい子だったんだけどなぁ」

 その言葉を最後に、どちらも喋る事はなかった。
 静かな病室に廊下の喧騒が少し混じり、世界に二人だけが取り残されたような不思議な感覚になる。

 翔はギアブレードの柄をいじりながら、時折身体を動かす。
 天晴は天晴で椅子に座ったまま、じっと翔の手を見つめている。

 やがて一時間が経とうかという頃、翔が何かに気付いたように、ぽつりと呟いた。

「天晴くん……顔、腫れてない?」
「え? うん、多分腫れてないと思うよ」

「ううん、腫れてる。
 ごめんね、全然気づけなかった。どうしたの?」
「いや、ちょっと、おじさんの本気をぶつけられて……」

 他愛もない剣闘の話。
 手も足も出なかった相手にボコボコにされただけの話だというのに、天晴は恥ずかしいどころか、幸せすら感じていた。

 話の端々で、色んな相槌を打ち、様々な反応を返してくれる翔。
 そんな時間を、天晴はとても愛おしく思っていた。

「……それで、俺、今度、オーディンって人とやる事になった」
「……」

 そこで、一瞬の静寂が訪れる。
 翔が女性の顔から、デュエリストとしての顔つきに変わる。
 今となっては、その違いを見逃す天晴ではない。

「強いわよ、オーディンは。
 きっと勝てないわ」
「勝ち負けじゃないんだ。
 多分、俺にとって必要なんだと思う、オーディンって人とのデュエルが」

「そっか。男の子だもんね、退けない事だってあるわよね」

 ふと翔が見せた暗い影に、天晴は男の影を見た気がした。
 気のせいかもしれないその直感に、焦りが生まれる。

 言うしかない、今。
 天晴が翔に抱き続けているこの感情を。

「翔さん、俺、今こんな事言うの、変だと思うんだけどさ」

「何?」

 心臓が早鐘を打つ。
 それは天晴だけではなく、翔にしても同じであった。

 互いの鼓動が聞こえてしまいそうな程、動悸が激しくなる。

「……」

「……」

 ……。

 ……言えなかった。
 ここまで言っておいて、天晴には勇気が足りなかった。

 そして何とか口に出した一言は、盛大なフラグ。


「……オーディンに勝ったら、言う……」


「……うわぁ……」

 さすがの翔もこれは分の悪い賭けだと直感した。

 神は時に、試練を与えるものである……。


 * * *


 土曜日。14時ぴったりにタクシーが到着した。
 貸切となっているそのタクシーは、時間内であればどこにでも自由に寄ってくれるという。

 途中、近くのコンビニエンスストアに寄ってから、シティホールを目指す。

 天晴が初めて目にするそのシティホールは、有名なドームの半分ぐらいの大きさがあり、コンサートなどに使われるものであった。

 もちろん、剣島のシティホールであるため、剣闘大会でも利用されているものである。

「うへ~、最近の子は金持ちだねえ。
 こんなところ借り切っちゃうんだから」
「オーディンって経歴不明ですからね~」

「店長さん、宮永、それよりここから先は俺達が思っている以上にアウェーなはずです。オーディンはそういう奴だ。
 夜宮、だいじょ……夜宮!?」

「うごごご」

 天晴は緊張していた。
 緊張しすぎて言葉が覚束ない。
 いかにも「緊張していマス!」と言わんばかりの顔色に、見ている方が心配になる。

「だーめだこりゃ」
「天晴くん、しっかり……」

「オゴポゴ……オゴポゴ」

「逆に気の毒になるな、これは……」

 ホールに入ると左右に分かれた道と、中央に分厚い扉がある。
 中央の扉はホール中央に続いており、要するに天晴が一人で向かわなければならない扉だ。

 観客として見に来ている店長達は、左右の通路から抜けた観客席へ向かう必要があった。

「おい、天晴。しっかりしろ。
 まっすぐ行ったあの扉だからな?」
「インカニヤンバ……」

「も~、天晴くん、しっかりして!
 今からオーディンと戦うのよ!?」
「……ニャ、ニャミニャミ」

「夜宮、俺の指を見ろ。
 この指は何本だ?」
「モケーレ、ムベンベ……」

「天晴、落ち着け。
 大体、お前ここに来た事ないだろ。
 内装がどうなっているのかもわからない場所で無駄に緊張してどうする。
 ほら、さっさと行ってこい!」

 バシッ!と背中を叩く店長。

「ラーガルフリョゥトルムリィン!!」

 相変わらずよくわからない言葉を叫びながら、涙目で前進する天晴。

「「「どうしてこうなった……」」」

 全くである。

 ふらふらとした足取りでありながらも、自分が進むべき道はわかっている天晴。
 分厚く、重い扉を開き、前へ進んでいく。

 ……然して、鏑木の予想は的中する。
 天晴の異様な緊張は、この事を予見していたのかもしれない。

 オーディンは全てを予想していた。

 それこそ、貸し切りタクシーという普段なら絶対に利用する事のない乗り物の準備から、用意周到であった。


 ──ワァァァァァァ!!!


 割れんばかりの歓声が地面を揺らす。
 足元がふらつくような歓声の地鳴りに、天晴の心は浮足立っていた。


「よく来たな、夜宮天晴。
 会うのは久しぶりだな」

「アッ、ハイ。
 オヒサシブリデス」

「そう緊張しなくていい。
 ギャラリーを背負ってデュエルする事は、初めてじゃないんだろう?」

「ハイ、え、イエ、こんな量はハジメテです」

 あまりの歓声と緊張で、会話のテンポが少しずれる。

 ホールのど真ん中に立つオーディンの背後には、巨大なモニターが設置され、ホールを映している。

 まるでテレビで見た剣闘大会そのものの雰囲気だ。

 どこから集めたのか、500人はいると思われる観客で、会場は満員御礼。
 どこかにいるはずの店長も、ユッコも、鏑木の姿も見当たらない。

 まるで会場に一人取り残されたかのような場違い感に、心細さが増す。

 それすらも、何もかもが、オーディンの手の内であると知らずに。

 圧倒的な不利の中、オーディンとのデュエルが、始まろうとしていた──。

 
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