ろまけん - ロマンシング剣闘 -

モノリノヒト

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第5部

第33試合 - オーディン

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「お前の事はよく知っている。
 多分、お前以上にな」

「あ、光栄デス……」

「お前の蒸発した両親についても知っている。
 俺に勝ったら、教えてやるぜ」

「あ、ハイ……。

 えっ?」

「始めようか」

『お待たせしました、ご来場の皆さん!!
 ラグナロクのオーディン主催、剣闘エキシビションマッチ!

 ラグナロク主神オーディン VS チーム蕎麦屋、夜宮天晴!

 まもなく開始です!!』

 ──ワァァァァァァ!!!

「大会形式は初めてか?
 名乗りまでは同じだ。
 開始はアナウンサーが「剣闘開始」と告げてくれるから、それを合図に始めるんだ」
「はい、わかりました」

「敬語は使わなくていいぞ、これから一戦交える相手なんだからな」
「あ、いえ、使おうと思ってるわけじゃないんですけど、なんとなく」

「そうか、まあ、無理に正す必要もない。
 存分に力を発揮してくれ、存分にな」

 ──ガァァシュゥゥ!
 ──ヴァァァァァン!

「ギアの調子はいいようだな。
 色々と話したい事がある。
 程よく観客に見せながら、聞いてもらうとするよ」
「えっ、はい……」

(なんだろう、調子が狂うな)

「俺はチーム・ラグナロクの主神。オーディン。
 流派は朱雀飛天流」
「チーム蕎麦屋、夜宮天晴です。
 流派は、とわり流」

『さあ、お互いの名乗りが終わったところでェェェ!!

 いざ!!! 剣闘開始ィィィ!!!』

 ──ワァァァァァァ!!!!

 ひと際大きな歓声。

(しまった!)

 開幕に先制攻撃を仕掛けるはずが、歓声に気を取られてしまった。
 オーディンは、余裕のある笑みを湛えて、天晴の出方を伺っている。

(今更仕掛けても奇襲にはならない。
 おじさんが見せてくれた瞬歩は、機先を制するから意味があるんだ)

 オーディンはカードすら挿入していない。
 その姿に違和感を覚えながらも、無難にカーリッジのカードを挿入していく。

 ピピッ。

 舞台装置がギアブレードに挿入されたカードを読み取り、モニターにその効果を映し出す。

『夜宮天晴! カーリッジのカードを挿入ッッ!!
 いや!? あれは新型のギアブレードだ!
 カードを挿入するのではなく、スキャンするタイプだッッ!!
 これは期待!!』

 ──ワァァァァァ!!

(……!)

 天晴から、どっと汗が出る。

 これが大会形式。

 どんなカードを使ったかが瞬時に読み取られ、モニターに映し出される。
 使った本人はもちろん、観客にも、対戦相手にもカードの効果は丸わかりである。

 おまけに解説が煽る煽る。
 手の内を全て晒されているかのような気恥ずかしさが天晴を襲う。

「あ……」
「カーリッジか。
 お前はまず様子見にそのカードをよく使うようだな。
 恐らく、カードに不慣れである理由から、少数のカードをパターン化して使っているのだろう」

 まさにその通りであった。
 耐久性の高いディフェンスタイプを使う天晴は、まずは耐久力を底上げし、相手の出方を伺うスタイルになっていた。

 よく言えば新型に慣れて洗練されつつあるが、オールドタイプを使っていた頃のような荒々しさはもうない。

「では、俺のカードはこれだ」

 ──ピッ。

『対するオーディン! ハイディングのカードを挿入ッッ!?
 どういう意図だぁぁぁ!?』

(な、なんだ、ハイディングって? し、知らないカードだ……!)

 完全にオーディンの手の内に取り込まれつつある天晴であった。

 * * *

「ハイディングだって、オーディンってば、ふざけてるの?」

 観客席から見ていたユッコが憤慨する。

「仮にも第5神だった奴がそんな事を言っててどうする……。
 オーディンのやる事には必ず意味があるって知ってるだろ」

 鏑木が呆れつつ言う。

「へぇ、あいつがオーディンかぁ、確かに強そうだ。
 俺より強いかは断言できないがな」
「店長さん、結構負けず嫌いですよね?
 もしかして俺がオーディンの方が店長さんより上って言った事、根にもってます……?」

「それについてはもう殴ったからオッケーだ!
 で、ハイディングってなんなんだい、鏑木くん」

「ちょ……あれってやっぱりわざと……!
 ……はぁ、ハイディングですね。

 ハイディングはですね、ギアブレードの情報を隠す為に使うカードです」

「情報を隠す?」
「はい、カード情報は隠せませんけど、何タイプを使っているのかとか、モニターに表示されてる残り耐久力だとか、そういう情報を隠すカードです」

「なんだそりゃ、意味あるのか?」

「ないですね。
 大体、形を見たり、音を聞けば何タイプなのかおおよそわかりますし、耐久力についても、隠したところでカードなしで戦うのと同義。
 使うだけ無駄、圧倒的に不利になるマイナーカードです」

「ねー、バカみたいですよねー」
「いやいや、ユッコちゃん。俺はさすがデータ派だと思ったね。
 天晴がカードに疎い事を知っててあんなカード使ったんだな。
 何をされるかわからない天晴にしてみれば、気が気じゃないはずだぜ」

「ええ……あんなこけおどしに騙される天晴くんじゃないと思いますけど……」

(こいつ本当に第5神だったのか……?)

 鏑木が少々疑いの目を持ち始めてしまう程、ユッコの色眼鏡は曇りまくっていた。

 * * *

「さて、一合も打ち合わないうちから話すのも観客に悪い。
 軽く手合わせをお願いしようか」
「え、あ、はい?」

『おーっと、オーディン! まさかの真っ向勝負!!
 頭脳派とは思えない脳筋プレイに出た!!』

 オーディンがギアブレードを大振りに振るう。
 このぐらいなら、回避できると高をくくった瞬間。

(えっ)

 オーディンのギアブレードが"しな"った。

 目測を誤った天晴はオーディンのギアブレードの攻撃を、まともに身体で受けてしまう。

「くっ」

 だが、さほどの威力はない。
 わざとらしい大振りであったことや、オーディン自身が加減している事がダメージから察する事ができた。

「ほら、打ち返してこないと」
「いきます!」

 だが天晴に手加減など器用な真似はできない。
 確実にオーディンのギアブレードを狙い、袈裟斬りを一閃。

 ──シャシャシャシャ!

(当たった! だが、浅い! 受け流されてる!)

「そうそう、その調子だ。
 ある程度観客に見せておかないと、話もできないからな」

 オーディンの反撃。
 緩慢とした動きの大振り、今度は大きくバックステップする。

 だが。

(伸びた!?)

「うっ!」

 ギアブレードの先端が腹部を突く。

「あまり離れると逆に危ないぞ。
 死中に活と言ってな、危険な状況でこそ活きる道を探すのが正しい行動だ」

 まるでレクチャーでもするかのような物言いであるが、着実に天晴のダメージは重なっていく。

『一進一退の攻防!!
 だが、お互いのギアブレードにダメージはゼロだぞぉぉ!!』

「はあっ!」

 ──シャシャシャシャ!

(まただ! タイミングをずらしても、確実に受け流されてる!)

「今度はこっちの番だな」

 オーディンの攻撃に合わせて思い切って近づく。
 それすら読んでいたかのようにオーディンの斬撃が身体にヒットする。

「ぉぐうっ!」

「こう見えて、俺はお前の事を買っているんだぜ、夜宮天晴。
 俺の考案した"剣闘士の可能性と育成理論"には、お前をサンプルとしたケースも取り入れてあるぐらいだ」
「な、なんですかそれは」

 ──シャシャシャ……!

「俺の考える最強のグラディエーター論。
 一口に最強と言っても、どのような定義で最強を決めるのかは議論が分かれる」
「ぐうっ!」

(見えているのに、かわせない……!)

「単純に考えて、総合力で強い四天王・シュンが現在の最強だろう。
 だが、俺の理論では、彼は最強候補でしかない。なぜなら」

 ──シャシャッ!

(段々、当たらなくなってきた……!?)

「総合力とは何か? という課題が降りかかるからだ。
 肉体的な鍛錬、精神的修養、カードの扱い、知識、IQ、センス、体格……」
「うぐっ!」

「考えられる要素は無限にある。
 そこで俺は、多角的にどのような要素が有効かを確かめるべく、いくつかのサンプルを人選した」
「くそっ!」

 ──シャリッ!

「何が成功して、何が失敗で、どこでどうつまづいたのか。
 それらを明確に理論化する事で、剣闘のレベルは大きく引き上げられるはずだ」
「……くっ!」

 ──キィン!

「剣闘のレベルが引き上げられると何が起こるか、わかるか夜宮天晴」
「わっ……かりませんねぇっ!!」

 ──シャシャッ!

「時代の遡行そこうが起こると俺は考えている。
 つまり、今のカードを主軸にしたバトルから、昔のオーソドックスな斬り合いに戻ると踏んでいる」

「えっ!? でも、カードは強いですよ!?」

「動きを止めるな、夜宮天晴」
「ぐはっ!!」

 いつの間にか話に引き込まれていた天晴は、返事をした隙に良い一撃をもらってしまった。

「げはっ、がはっ!」

『息もつかせぬ攻防にぃぃぃ!
 見事な一撃が決まったぁぁぁ!!
 さすがはオーディン!!』

 ──ワァァァァァァ!!
 オーディン! オーディン!

 * * *

「うわぁ……みんなオーディンコールしてますよ、店長」
「この観客みんなサクラなのか? 金かかってんねえ」

「オーディンはあえて完全アウェーな空間を演出したんだと思います。
 全部サクラじゃないでしょうけど、きっと大半は金で買ってる観客ですよ。
 色んな意味でやばいやつなんです、オーディンってやつは」

「ほえ~、それにしても、ぬるい剣闘してんなぁ」
「そういえば、天晴くん、オーディンと何か話してるっぽいですね」
「何を話してるかはわかりませんけど、不気味ですね。
 何せ、あのオーディンですから……」

「いつまでもくっちゃべってるようなら野次っちゃおうかな?」
「店長、恥ずかしいんでやめてください」
「店長さん、ここアウェーなんで、俺ら総スカン食らいますよ」

「そういう意図もあるわけか~、やらしいねえデータ君は」

「それにしても、お互いの耐久力が全くと言っていいほど減ってないわ」
「夜宮は身体にダメージを受けてるから、ギアにダメージはほとんどない。
 対してオーディンは受け流しを主軸にしてるから、多少なりともダメージは……あっ」


「「ハイディング!?」」

 
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