ろまけん - ロマンシング剣闘 -

モノリノヒト

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第5部

第35試合 - 天晴のギアブレード

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『さあ、いよいよ後がなくなってきた夜宮天晴!
 一気に挽回して俄然がぜん有利になったオーディン!
 どうなるか予測のつかないデュエルになってきたぞッッ!!』

 ちらりとモニターを見る天晴。

 オーディンの耐久力は半分を切った程度、対して自分の耐久力はミリ程しか残っていない。

 あのゲージがどこまで信用できるかはわからないが、今までの経験上、そろそろ"もたない"という事はわかっていた。

 下手をすれば攻撃した直後にコアを排出という憂き目に遭う可能性すらある。

 だが、デュエルは体術を使っても問題ない。
 ギアブレードでの攻撃ができずとも、オーディンのように踏みつけるなどしてギアブレードにダメージを与えれば良いのだ。

 耐久力が心もとないからといって、負けは確定しない。
 それが邪道、デュエルの世界である。

(もう後がない、次の一撃で決めるしかない)

(と、夜宮はそう考えるだろう。
 そして隠し玉を使い、一撃で決着をつけにくる。
 えげつなく勝ちに行くなら、奴の自滅を待ってもいいが……。
 俺の求めるものは、そこにはない。

 目覚めろ、夜宮。
 お前が目覚めないのならば、目覚めるまで追い込んでやる)

(オーディンが攻めてこない……。
 俺を、待ってるのか?

 でも、あのカード一枚で当てられる未来が見えない)

「どうした夜宮、もう終わりか」

(オーディンとの距離は大体1メートル半ぐらい……。
 おじさんぐらいの鷹の目斬りを完璧に決めたとしても、相手にカードを入れるような隙がなければ、きっとかわされる。
 このまま攻める事はできない、無理だ)

「少しやりすぎてしまったかな。
 お前の生み出す未来が見てみたかったんだが」

(隙を作ればいいのか?
 フェイントを入れて?
 ダメだ、そんな付け焼き刃が通じる相手じゃないのはわかってるだろ。
 もっとシンプルに自分の身体を活かした方法を考えるんだ)

「フフ……。
 豚に念仏、猫に経と言ってな。
 いくら戦法を捻り出そうとも、お前にはお前に出来ることしか出来ないものだ」

「くっ」

「俺の予想を超えてこい、夜宮天晴。
 俺のグングニルを超えた先に、お前の未来がある!」

(……なんなんだ、この人は。
 俺の敵なのに、俺をどこかに導こうとしているみたいな……。
 今までの敵とは違う、本当に大きな人だ)

「……」

(なら、何も考えない。
 いつもの事を、いつも通りにやるだけだ)

『おおっと、夜宮天晴!
 大きく前傾姿勢に構えた!!
 またあの速さが見られるのかァーーッ!?』

「速さに賭けるか、それもいいだろう。
 だが予想の範疇はんちゅうの速さなら、かわすぞ。
 そこがお前という才能の限界だからだ」

(……)

(煽っても効果なし、か。
 落ち着いたオーラを纏っている。いい傾向だ。
 ここまでは全て予想の範疇。成長曲線も狙い通り。
 だが、あの時の回避だけは……。
 ……もう一度見せてくれ、夜宮天晴)

(動けば行くつもりだったけど、オーディンは動かない。
 やっぱり俺の行動を待ってる。それなら)

「行きます」

 あえての宣言。
 瞬間、オーディンの体に緊張が走る。

『夜宮天晴、飛び込んだぁぁぁッッッ!!』

「瞬歩だ!」
「二度も出せるかあ、まあまあだな~」
(だが、瞬歩だけじゃ足りねえぞ、どうする天晴)

「!!」

 極端な前傾姿勢で近づいてくる天晴を見ていたオーディンは、その手の動きを見逃さなかった。

(カードを通したな)

『夜宮のカードが変わった!』

(残念だ、夜宮天晴。
 お前もそこまでのデュエリストだったか)

 剣筋は見切っている。
 鋭い踏み込みからの振り下ろし。

 あと3.1秒の間に27.5センチだけバックすれば当たらない。

 オーディンのグングニルはそう告げていた。

『夜宮のカードは……』

(ハヤブサだ。
 入院中である円卓のアーサーから借りているカード。
 レア中のレアではあるが、俺の情報網からは逃れられない)

 天晴の鋭い振り下ろし。
 だが、既に紙一重で回避できる距離を取っている。

 オーディンの勝利は、目前まで来ていた。

「「いけぇーー!! 鷹の目斬りだぁーーー!!」」
「おい、恥ずかしいから技名を叫ぶな」

『エラー!! エラーだぁぁぁ!!』

(なにっ)

 ──キィン!! ピーーンッ!

 一瞬静まり返るシティホール。
 大勢の観客が、たった一点、排出されたコアを見ていた。

 負けるはずのない、主神オーディンの、コアを。

 * * *

『決着ゥゥゥーーーー!!!

 まさか、まさかの事態になりました!!

 我らが主神、オーディン、まさかの敗北ぅぅぅ!!!!』

 解説が盛り上げようとするも、大半がサクラで構成されている観客達は、どう盛り上がっていいか困惑している。

 その一角で。

「やったぁぁぁ!!!!」
「よくやったぞ、夜宮あああ!!!」

「二人とも、さっきからちょっと恥ずかしいんだが」

 やたらにテンションの高い二人と、一歩引いている店長の姿があった。


『しかし、エラーとは一体何が起こったのでしょうかッ!
 不肖ふしょうながら、わたくしめが、オーディンに直接お尋ねしたいと思いますッッ!!』

 解説がばたばたとホール中央に降りてくる。

『オーディン、わたくしにはわからなかったので、お答え願えますかッ!?』
『少し待て、確認がしたい』
『皆様、少し待ちましょう!!』

 その言葉に、にわかにざわつき始めるホール内。
 オーディンはゆっくりと天晴に近づく。

「夜宮、その左手に持っているカードを見せてくれないか」
「は、はい。いいですけど、借り物なので、破いたりしないでくださいね……」

「はは、そんな羽虫のような真似はしないぜ。
 ……なるほど、エラーの原因はこれか。
 これは知っててやったのか?」

 指摘され、気付く天晴。

「えっ、いや、知りませんでした!」
「フッ、そうか。
 ある意味でお前は俺の予想を超えてくれた。
 嬉しい誤算だぜ」

 不思議な感覚だった。
 負けた後だというのに、悔しさを微塵も見せないどころか、称賛してくれている。

 冷静に勝利と敗北の原因を探り、それを教えてくれる。
 どこまでも、オーディンという人物の懐は、深かった。

「確認がとれた。マイクを貸してくれ」

『皆様! ただいまより、オーディンから解説がございます!!』

『皆、今日のデュエルに思うところはあるだろうが、まずは聞いて欲しい。

 エラーの原因は、二枚のカードがスキャンされた事によるものだ』

 ──二枚?
 ──どういうこと?
 ──普通挿せるカードって一枚だけなんじゃ。

 ホール中がざわつく。

『夜宮の使っているディフェンスタイプはただの新型ではない。
 俺が考案したリファインディフェンスタイプという方式を採用している』

「「「え!!??」」」

 天晴本人を含めた蕎麦屋一同が驚く。

『このリファインタイプの特徴は、ディフェンスタイプの防御力を下げ、取り回しを重視したものだ。
 つまり、ディフェンスタイプとテクニカルタイプの両方の特性を備えていると考えてほしい』

「ははぁ、思った通り、凄く変なギアブレードだわ」

 店長だけが納得している。

『そしてリファインタイプのもうひとつの特徴として、カードのスキャン方法が通常とは異なっている。
 本島で開発され、一部が流通しているアドバンスドA/D/Tと呼ばれる最新型は"カードを挿入せず、スキャンする"タイプで統一されている』

「なんか、難しい話ししてる?」
「宮永、わからないなら黙ってていいぞ……」

『リファインタイプもカードスロットはスキャン方式を採用している。
 更なる特徴として、二枚のカードを重ねて通す事で、ダブルスキャンが可能になっている事が挙げられる。

 これがエラーの原因だ』

「ダブル、スキャン……」

『夜宮がスキャンしたカードは、ハヤブサのカードと、マグネットのカードだった。
 リファインタイプであれば、ハヤブサとマグネットの両方の効果を発揮する事ができる。

 現在、通常の大会では使用できない製品であるが故にエラーの原因となったが、製品の仕様通りの動作だ。
 よって、夜宮の見事な機転だったと、俺は褒め称えたい』


 ──ワァァァァァァ!!
 いいぞー! オーディン! オーディン!


「つまり……どういうことだってばよ?」
「宮永、お前ってやつは……。
 紙一重でかわしたオーディンのギアが、"予想していなかった"マグネットの効果で引き寄せられて、夜宮の攻撃を食らったって事だよ」

「なるほど、つまり……この勝敗は、逆だったかもしれねェ……と」
「……もうお前に説明はしない」


 ──オーディン! オーディン!


「待ってください、俺、混乱しないように、カードはホルダー毎に分けて入れてるんです。
 どうして二枚重なって入ってたんでしょうか」

「それは……恐らくあの時だな」


 ──オーディンのカードがマグネットであると解説が報じる──
 ──それを聞いた天晴は、カードを変更しようと取り出していた自身のマグネットのカードをホルダーに戻した──


「……あ。その時に間違ってマグネットをハヤブサのホルダーに入れてしまったのか……」

「あくまで偶然の産物だが……運も実力のうち、さ。
 まったく、お前の勝負強さには舌を巻くよ。
 お前が現れてから半年以上が経ったが、ちゃんとしたデュエルでは、まだ一度も負けていないとはな」

「え、いや、その、それは」

 天晴にしてみれば恥ずかしい噂話であった。
 何せ、一週間ほど前、恩人にボコボコにされたばかりである。

「これからはダブルスキャンの使用も視野に入れていけ。
 お前の戦いはこれで終わりではない。
 くどいようだが、俺の兄さんは強いぞ」

「や、やっぱりやらないといけないんですか……」
「強者の定めだ、諦めるんだな」

「うっ……。
 そ、そういえば、俺の両親について知ってるって言ってましたよね。
 ……教えてください、俺を捨てたあの人達が、今、何をしているのかを」

「それについては、また後日に会おう。約束だ」
「は、はい」

『デュエリスト同士、堅い握手が結ばれました!!
 これにて、エキシビションマッチ、ジ・エンドォォォ!!!』


 * * *


 夢のような一日であった。

 帰りも貸し切りのタクシーに乗って、蕎麦屋まで送ってもらい、一同は解散。

 天晴はそのままタクシーに乗って、病院へと向かった。
 真っ先に報告したい相手が、そこにいるからだ。

 だが、タイミング悪く、翔は入眠中であった。

「翔さん、ありがとう。
 借りたハヤブサのカードのおかげで、勝てたよ」
「すぅ……すぅ……」

 痛々しく顔に包帯を巻いたまま、安らかな寝息を立てる翔。

「オーディンはめちゃくちゃ強かった。
 運も実力のうちだって言ってくれたけど、偶然に偶然が重なっただけって感じでさ……。
 勝った気は全然しない」

 静かな病室で、静かに語る天晴。

「オーディンが本気出してたら、絶対勝てなかったと思う。
 だから、勝ったら言うって言ったけど、また次の機会に言うよ」

 そこまで言い、帰ろうとして、はたと思いつく。

「でも対外的に勝ちは勝ちなのか。
 じゃあ、半分勝ちの引き分けって事で、寝てる翔さんにだけ言っちゃおうかな……」

 何とも言い訳がましい理由だが、翔の耳元に近づき、ぼそりと呟く。

「……好きです、付き合ってください」

「すぅ……すぅ……んもー、ばかぁ……」

 あまりにタイミングのいい寝言に、ドキリとしてしまう天晴。

「カード、また今度返しに来るね、翔さん」

 
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