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エピローグ
第36試合 - いつか、その先へ
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激闘の後日──。
天晴は約束通り、オーディンに呼び出されていた。
……ファミリーレストランに。
「よく来たな、夜宮」
「……」
「どうした?」
「なんか、意外だなって思って。
よく来るんですか、ファミレス……」
「はは、しょっちゅうさ。
兄さんと、もう一人仲の良いやつがいてね。
その二人となら頻繁に来る」
「そうなんですか……」
「そのもう一人仲の良いやつというのが、今回のキーパーソンだ。
今はトイレに行っているが」
「……」
「すまない、待たせたみたいだな」
「噂をすれば影が差す、とでもいうべきかな」
「誤用だろ、それは」
「慣用句は常に進化するものさ」
「……」
「おっと、すまない。
蕎麦屋以来だな、夜宮。
俺はラグナロクの第4神、トール。
オーディンとは長い付き合いなんだ」
「あ、夜宮天晴です」
「まあ、こっちはお前の事をかなり知り尽くしているけどな。
悪く思わないでくれよ、情報は何より大切なんだ」
「あんまりいい気分はしませんが……」
「はは、そのおかげでお前の両親の事がわかったんだ。
それでチャラって事にしてくれ」
「そうですね、俺はその話を聞きに来ましたから」
「夜宮、お前の両親は今、本島にいる」
「本島、ですか」
「ああ。本島にあるギアブレードの研究施設で二人共働いている。
アドバンスドA/D/Tシリーズのプロトタイプの開発などを行っているようだ」
「剣闘関係、ですか。
何の為に、俺を捨てたんですか……!」
「すまない、そこまでは掴めていない。
それと、そのギアブレードの研究施設は極秘施設でな。
俺達の情報網をもってしても潜入することは不可能だった。
したがって、お前の両親に接触はできていない」
「そう、ですか……」
「悪い、夜宮。
俺達なりに調べたんだが、お前にとっては大した情報じゃなかったかもしれない」
「いえ、トールさん、そんな事ないです。
ありがとうございます」
「トール、可能な限り、引き続きの調査を進めてくれ。
研究施設に缶詰になっている可能性はあるが、外出する日があるかもしれない。そこを逃さないよう頼む」
「わかった、全力を尽くす」
「オーディンさん、どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「夜宮、何か勘違いしてはいないか?
俺は損得抜きでは動かない。
言っただろう、お前は俺にとって重要なサンプルだと。
お前が成長を続け、剣闘を続ける限り、俺は俺の出来る範囲で力になろう。
ただし、観察はさせてもらうがな」
嘘や偽りは一切感じない。
すとんと得心のいく説明であった。
「オーディンさん、聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「サンプルって、何のサンプルなんですか?」
「そうだな……、話しておいてもいいかもしれない。
俺は"剣闘士の可能性と育成理論"というレポートを書いている」
「はい」
「この理論は剣闘士のレベルを引き上げるだけではなく、デュエリストから正道のグラディエーターを輩出する事が真の目的なんだ」
「……!」
「俺の理論では、純粋な正道の剣闘士より、デュエリストを経験したグラディエーターこそが最強足りえると考えている。
サンプルというのは、そのアプローチの違いによるものなんだ」
(……やばい。
この人、なんて大きな事を考えてるんだ……)
「俺の中で、お前は"デュエルの中で進化する天才"というサンプルだ。
モルモット扱いされていい気持ちはしないだろうがな」
「い、いえ、むしろ、そんなに買われて……何て言っていいか」
オーディンは、そんな天晴を見て「フ……」と薄く笑うと、メニューを取り出した。
「今日の話はこんなところだ。
さあ、好きな物を頼んでくれ」
「よしっ、俺はハンバーグだ!」
「トール、お前は自腹だ」
「なん……だと……」
凄い人物のはずの、二人のやり取りが、妙に身近に感じた。
その事がおかしく思えて、天晴は笑ってしまう。
この時の天晴はまだ頭になかった。
彼らラグナロクとは、もう一度だけ戦う機会がある事を。
ラグナロク最強の敵、第2神バルドルが、主神オーディンの知己を得て、己と死闘を繰り広げる事になるなど、今の天晴には思いもよらなかった。
* * *
ところ変わって、本島。
とある道場の一室。
スポーツチャンバラよりも危険な、剣闘というマイナー競技に、興味のある若い男女が集まっている。
そんな彼らを相手に教鞭をとる男がいた。
「……という歴史があり、現在の剣闘が成り立っている。
諸君らが携わろうという剣闘は、大変危険な競技であることが、理解いただけたと思う。
それでも月謝を払い、剣闘を学びたいという者だけ残れ」
三十人はいたであろう男女が、次々と席を立ち、出ていく。
それでもまだ十数人が残っている。
「ここからは有料の講義になる。本当にいいのか?」
ダメ押しにもう一度、ふるいにかける男。
最終的に残ったのはたった六人の男女だった。
「……残ったということは、生半可な覚悟ではない、ということでいいな」
出て行った人物らとは明らかに面構えの違う六人。
何が彼らを剣闘に駆り立てるのか、それは男にとっては関係がなかった。
ただ、剣闘をやる事に理由などないのだから。
さて、今回は何人が残るだろうか。
これからの地獄を想像し、男の口角がクイと上がる。
「改めて名乗ろう。
講師の黒澤勇気だ。
お前達を剣島で戦えるデュエリストに育てあげてやる」
* * *
病院のラウンジにて……。
「アーサー、大丈夫ぅ?」
「トリスタンよく来てくれたわ、暇よ暇!」
「右を見ても左を見ても、オジジ様とオババ様ばっかり!
私のアオハルがこんなところで消耗されちゃっていいのかしら」
「ま~ま~、そういうと思って~、遊びにきたんじゃん♪」
「普通、お見舞いに来たって言わない?」
「い~じゃん、どっちでも同じっしょ」
「トリスタン。
んー、もうエリカって呼んだ方がいいのかしら。
円卓は解散しちゃったものね」
「やめてよ、気が滅入る話はさー。
あれはランスロット達が悪いんだし」
「ランスロット……マイケルにも悪い事をしたわ。
ううん、ガラハド、いえ、ジョシュアがついてきてくれた時、きちんと断るべきだったんだわ」
「アーサー、入院続きで気が弱くなったの?
私が尊敬する翔ちゃんは、そんなに弱い子じゃなかったんだけどナ~?」
「何よ、私だって反省することぐらいあるのよ」
「でも気にしてもしょうがないよ。
ジョシュアは治療の為に海外に入院。
マイケルもお兄さんだからついていったし」
「モードレッドも入院してるのよね」
「ああ、あのアンポンタンはちょっと別の病院だけどね。
面会しようなんて思わないでよ?」
「さすがにそこまで厚顔無恥じゃないわよ。
そういうエリカこそ、ガウェインは……?」
「知らな~い、どっか行っちゃったわ。
ま~、しばらく色恋沙汰はいいや、めんどくさいし」
「あっさりしてるわね」
「そういう翔ちゃんこそ、夜宮とは上手くいってるの~?」
「う~ん、ぶっちゃけ、好きかな」
「知ってる。そうじゃなくて、進展具合はどうなの?」
「……友達以上、恋人未満、かしら……」
「かーッ! 甘酸っぱいっ!!」
「夢の中でなら告白されたりしたんだけど」
「願望かよ! ってか、自分から言わないのかよっ!」
「結構頑張ってアピールはしたはずなんだけど……。
もしかしたら脈なしかもなあって」
「うえぇ……そんなことある?
夜宮って朴念仁? 昔のおっさんみたいなタイプぅ?」
エリカの他人の恋愛をほじくる話にはキリがなく、翔もまんざらではない受け答えをしながら、自分の気持ちを固めていく一日となった。
* * *
「店長、蕎麦湯おかわりでーす」
「またかよ……タダで提供するのやめようかな」
「塚原さん、そう言わないでくださいよ。
ハマっちゃいまして」
「トモくん、キミねえ、蕎麦屋に来て蕎麦湯だけ飲むなんて非常識だよ~?」
「すみません、今月もギアブレードの修理で金欠でして……」
「困るんだよねえ、他のお客さんの迷惑にもなるし……」
「「いや、誰もいませんけど」」
「……ユッコちゃんもトモくんも、言いにくい事言ってくれるね……」
──ガラガラ。
「こんにちは」
「いらっしゃ……なんだ、鏑木くんか」
「はは、どうも。今日も閑古鳥が鳴いてますね」
「そろそろ秋も深まってきたから、売れる時期なんだけどなあ」
「二八蕎麦に負けてるんじゃないですか?」
「俺は十割蕎麦に賭けてるの!」
「……まあ、それはいいんですけど、今日はチーム蕎麦屋としての話をしに来ました」
トモ以外の全員の顔付きが変わる。
「……部外者の方がいるみたいですけど、いいですか?」
「え、俺?」
全員がトモを見る。
「……まあ、別にいいだろ。
で、今回は何の話だい、鏑木くん」
「はい。夜宮が次に戦うと推測される相手……。
ラグナロクの第2神、バルドルについてです」
* * *
テロンテロン山。
道なき道を往くと、小さな山小屋が一軒見える。
「神威先生ぇ~~!」
「む、カイル=エアシュート」
「お久しぶりでっす!」
「何しに来た」
「プロの剣闘士に合格したんで、その報告と、改めての修行のお願いでっす!」
「プロに……? そうか、めでたいな」
「ですです! でも、大会までは二年ありますから、もう一回基礎から叩き直してくださいっす!」
「……お前は、プロになったという意味を理解しているのか?」
「もちろんっすよ! 正道を歩むプロとして、剣闘の歴史に名を刻んでやりますよ!」
「……そうではない。
プロになったお前は、もう俺の敵だと言っている」
「……」
「……」
「マジっすか」
「大マジだ」
「それじゃ、組手し放題っすね!」
「野良バトルはデュエリストのやる事だ。プロのグラディエーターがやってはいけない」
「修行もダメなんですか!」
「好き好んで敵を強くする奴がどこにいる」
「ここにいると思いまっす!!」
「……お前はバカなのか?」
「そ、そこまで言うなら、シュンさんとは言いませんから、ミナギさんとかファーラさんとか、四天王の方々を紹介してくださいよ!」
「ミナギは教えるのが下手くそで何を言っているのかわからない。
ファーラも教えるどころかお前の芽を潰すだけだ。
そしてシュンは多忙」
「も~~、やっぱり神威先生しかいないじゃないですか!」
「俺とて好きで山暮らしをしているわけではないのだが。
塚原日剋に頼んでみたらどうだ」
「ダメっす! それはダメっす!
俺は天晴のライバルですからね!
正道と邪道、グラディエーターとデュエリストの違いはあれど、同じ剣闘の覇道を歩む者同士!
終生のライバルですから!!」
「……覇道」
「はいっす!!
塚原日剋のライバルといえば、シュンさんかもしれませんけど、神威先生だって塚原日剋をライバルだと思ってますよね!」
「……うむ」
「なら、決まりっす!
神威先生は、シュンさんを倒して、チャンピオンを目指す!
俺もシュンさんや神威先生を倒して、チャンピオンを目指します!
いずれ天晴が正道に来た時、ディフェンディングチャンピオンとして迎え撃ってやるんす!!」
「……その天晴という奴は」
「はい?」
「そいつは正道に来るのか?」
「いつかはわかりませんけど、来ます!
あいつは剣闘の天才っすから!
俺、才能ないんで努力しかできませんけど、絶対迎え撃ってやるんす!」
──天才VS努力。
6年前の大会は裏でそう言われていた。
片や5年の修行を積んだ努力の人、塚原日剋。
片や僅か半年で決勝まで上り詰めた天才、シュン。
(似ている)
カイルと天晴の関係性は、かつての塚原日剋とシュンの関係によく似ていた。
だが、完全に独学だった塚原日剋と違い、カイルには自分がついている。
かつて自分も感じた、天才達との埋まりようがない差を、努力で埋めようとしている男がいる。
己を超える強敵を育てる事もまた、一興と思う神威であった。
「カイル」
「はい!」
「お前は二人の天才を超えなければならない」
「……」
「シュンと、天晴だ」
「……はいっ!」
「荷物を置いてこい。早速始めるぞ」
「はいっ! 神威先生ぇ!!」
* * *
こうして彼らはそれぞれの道を歩み出した。
剣闘という遊びを通して繋がった道は、人々の心に多くの軌跡を残し、後世へと伝わるだろう。
小さな国の外れにある、剣島という小さな島──。
そんな小さな島で、今日もどこかでロマンシングな剣闘が繰り広げられている。
「お互い、名乗って! 礼!」
「構えて、いざ!!」
──剣闘開始!!
天晴は約束通り、オーディンに呼び出されていた。
……ファミリーレストランに。
「よく来たな、夜宮」
「……」
「どうした?」
「なんか、意外だなって思って。
よく来るんですか、ファミレス……」
「はは、しょっちゅうさ。
兄さんと、もう一人仲の良いやつがいてね。
その二人となら頻繁に来る」
「そうなんですか……」
「そのもう一人仲の良いやつというのが、今回のキーパーソンだ。
今はトイレに行っているが」
「……」
「すまない、待たせたみたいだな」
「噂をすれば影が差す、とでもいうべきかな」
「誤用だろ、それは」
「慣用句は常に進化するものさ」
「……」
「おっと、すまない。
蕎麦屋以来だな、夜宮。
俺はラグナロクの第4神、トール。
オーディンとは長い付き合いなんだ」
「あ、夜宮天晴です」
「まあ、こっちはお前の事をかなり知り尽くしているけどな。
悪く思わないでくれよ、情報は何より大切なんだ」
「あんまりいい気分はしませんが……」
「はは、そのおかげでお前の両親の事がわかったんだ。
それでチャラって事にしてくれ」
「そうですね、俺はその話を聞きに来ましたから」
「夜宮、お前の両親は今、本島にいる」
「本島、ですか」
「ああ。本島にあるギアブレードの研究施設で二人共働いている。
アドバンスドA/D/Tシリーズのプロトタイプの開発などを行っているようだ」
「剣闘関係、ですか。
何の為に、俺を捨てたんですか……!」
「すまない、そこまでは掴めていない。
それと、そのギアブレードの研究施設は極秘施設でな。
俺達の情報網をもってしても潜入することは不可能だった。
したがって、お前の両親に接触はできていない」
「そう、ですか……」
「悪い、夜宮。
俺達なりに調べたんだが、お前にとっては大した情報じゃなかったかもしれない」
「いえ、トールさん、そんな事ないです。
ありがとうございます」
「トール、可能な限り、引き続きの調査を進めてくれ。
研究施設に缶詰になっている可能性はあるが、外出する日があるかもしれない。そこを逃さないよう頼む」
「わかった、全力を尽くす」
「オーディンさん、どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「夜宮、何か勘違いしてはいないか?
俺は損得抜きでは動かない。
言っただろう、お前は俺にとって重要なサンプルだと。
お前が成長を続け、剣闘を続ける限り、俺は俺の出来る範囲で力になろう。
ただし、観察はさせてもらうがな」
嘘や偽りは一切感じない。
すとんと得心のいく説明であった。
「オーディンさん、聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「サンプルって、何のサンプルなんですか?」
「そうだな……、話しておいてもいいかもしれない。
俺は"剣闘士の可能性と育成理論"というレポートを書いている」
「はい」
「この理論は剣闘士のレベルを引き上げるだけではなく、デュエリストから正道のグラディエーターを輩出する事が真の目的なんだ」
「……!」
「俺の理論では、純粋な正道の剣闘士より、デュエリストを経験したグラディエーターこそが最強足りえると考えている。
サンプルというのは、そのアプローチの違いによるものなんだ」
(……やばい。
この人、なんて大きな事を考えてるんだ……)
「俺の中で、お前は"デュエルの中で進化する天才"というサンプルだ。
モルモット扱いされていい気持ちはしないだろうがな」
「い、いえ、むしろ、そんなに買われて……何て言っていいか」
オーディンは、そんな天晴を見て「フ……」と薄く笑うと、メニューを取り出した。
「今日の話はこんなところだ。
さあ、好きな物を頼んでくれ」
「よしっ、俺はハンバーグだ!」
「トール、お前は自腹だ」
「なん……だと……」
凄い人物のはずの、二人のやり取りが、妙に身近に感じた。
その事がおかしく思えて、天晴は笑ってしまう。
この時の天晴はまだ頭になかった。
彼らラグナロクとは、もう一度だけ戦う機会がある事を。
ラグナロク最強の敵、第2神バルドルが、主神オーディンの知己を得て、己と死闘を繰り広げる事になるなど、今の天晴には思いもよらなかった。
* * *
ところ変わって、本島。
とある道場の一室。
スポーツチャンバラよりも危険な、剣闘というマイナー競技に、興味のある若い男女が集まっている。
そんな彼らを相手に教鞭をとる男がいた。
「……という歴史があり、現在の剣闘が成り立っている。
諸君らが携わろうという剣闘は、大変危険な競技であることが、理解いただけたと思う。
それでも月謝を払い、剣闘を学びたいという者だけ残れ」
三十人はいたであろう男女が、次々と席を立ち、出ていく。
それでもまだ十数人が残っている。
「ここからは有料の講義になる。本当にいいのか?」
ダメ押しにもう一度、ふるいにかける男。
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「……残ったということは、生半可な覚悟ではない、ということでいいな」
出て行った人物らとは明らかに面構えの違う六人。
何が彼らを剣闘に駆り立てるのか、それは男にとっては関係がなかった。
ただ、剣闘をやる事に理由などないのだから。
さて、今回は何人が残るだろうか。
これからの地獄を想像し、男の口角がクイと上がる。
「改めて名乗ろう。
講師の黒澤勇気だ。
お前達を剣島で戦えるデュエリストに育てあげてやる」
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病院のラウンジにて……。
「アーサー、大丈夫ぅ?」
「トリスタンよく来てくれたわ、暇よ暇!」
「右を見ても左を見ても、オジジ様とオババ様ばっかり!
私のアオハルがこんなところで消耗されちゃっていいのかしら」
「ま~ま~、そういうと思って~、遊びにきたんじゃん♪」
「普通、お見舞いに来たって言わない?」
「い~じゃん、どっちでも同じっしょ」
「トリスタン。
んー、もうエリカって呼んだ方がいいのかしら。
円卓は解散しちゃったものね」
「やめてよ、気が滅入る話はさー。
あれはランスロット達が悪いんだし」
「ランスロット……マイケルにも悪い事をしたわ。
ううん、ガラハド、いえ、ジョシュアがついてきてくれた時、きちんと断るべきだったんだわ」
「アーサー、入院続きで気が弱くなったの?
私が尊敬する翔ちゃんは、そんなに弱い子じゃなかったんだけどナ~?」
「何よ、私だって反省することぐらいあるのよ」
「でも気にしてもしょうがないよ。
ジョシュアは治療の為に海外に入院。
マイケルもお兄さんだからついていったし」
「モードレッドも入院してるのよね」
「ああ、あのアンポンタンはちょっと別の病院だけどね。
面会しようなんて思わないでよ?」
「さすがにそこまで厚顔無恥じゃないわよ。
そういうエリカこそ、ガウェインは……?」
「知らな~い、どっか行っちゃったわ。
ま~、しばらく色恋沙汰はいいや、めんどくさいし」
「あっさりしてるわね」
「そういう翔ちゃんこそ、夜宮とは上手くいってるの~?」
「う~ん、ぶっちゃけ、好きかな」
「知ってる。そうじゃなくて、進展具合はどうなの?」
「……友達以上、恋人未満、かしら……」
「かーッ! 甘酸っぱいっ!!」
「夢の中でなら告白されたりしたんだけど」
「願望かよ! ってか、自分から言わないのかよっ!」
「結構頑張ってアピールはしたはずなんだけど……。
もしかしたら脈なしかもなあって」
「うえぇ……そんなことある?
夜宮って朴念仁? 昔のおっさんみたいなタイプぅ?」
エリカの他人の恋愛をほじくる話にはキリがなく、翔もまんざらではない受け答えをしながら、自分の気持ちを固めていく一日となった。
* * *
「店長、蕎麦湯おかわりでーす」
「またかよ……タダで提供するのやめようかな」
「塚原さん、そう言わないでくださいよ。
ハマっちゃいまして」
「トモくん、キミねえ、蕎麦屋に来て蕎麦湯だけ飲むなんて非常識だよ~?」
「すみません、今月もギアブレードの修理で金欠でして……」
「困るんだよねえ、他のお客さんの迷惑にもなるし……」
「「いや、誰もいませんけど」」
「……ユッコちゃんもトモくんも、言いにくい事言ってくれるね……」
──ガラガラ。
「こんにちは」
「いらっしゃ……なんだ、鏑木くんか」
「はは、どうも。今日も閑古鳥が鳴いてますね」
「そろそろ秋も深まってきたから、売れる時期なんだけどなあ」
「二八蕎麦に負けてるんじゃないですか?」
「俺は十割蕎麦に賭けてるの!」
「……まあ、それはいいんですけど、今日はチーム蕎麦屋としての話をしに来ました」
トモ以外の全員の顔付きが変わる。
「……部外者の方がいるみたいですけど、いいですか?」
「え、俺?」
全員がトモを見る。
「……まあ、別にいいだろ。
で、今回は何の話だい、鏑木くん」
「はい。夜宮が次に戦うと推測される相手……。
ラグナロクの第2神、バルドルについてです」
* * *
テロンテロン山。
道なき道を往くと、小さな山小屋が一軒見える。
「神威先生ぇ~~!」
「む、カイル=エアシュート」
「お久しぶりでっす!」
「何しに来た」
「プロの剣闘士に合格したんで、その報告と、改めての修行のお願いでっす!」
「プロに……? そうか、めでたいな」
「ですです! でも、大会までは二年ありますから、もう一回基礎から叩き直してくださいっす!」
「……お前は、プロになったという意味を理解しているのか?」
「もちろんっすよ! 正道を歩むプロとして、剣闘の歴史に名を刻んでやりますよ!」
「……そうではない。
プロになったお前は、もう俺の敵だと言っている」
「……」
「……」
「マジっすか」
「大マジだ」
「それじゃ、組手し放題っすね!」
「野良バトルはデュエリストのやる事だ。プロのグラディエーターがやってはいけない」
「修行もダメなんですか!」
「好き好んで敵を強くする奴がどこにいる」
「ここにいると思いまっす!!」
「……お前はバカなのか?」
「そ、そこまで言うなら、シュンさんとは言いませんから、ミナギさんとかファーラさんとか、四天王の方々を紹介してくださいよ!」
「ミナギは教えるのが下手くそで何を言っているのかわからない。
ファーラも教えるどころかお前の芽を潰すだけだ。
そしてシュンは多忙」
「も~~、やっぱり神威先生しかいないじゃないですか!」
「俺とて好きで山暮らしをしているわけではないのだが。
塚原日剋に頼んでみたらどうだ」
「ダメっす! それはダメっす!
俺は天晴のライバルですからね!
正道と邪道、グラディエーターとデュエリストの違いはあれど、同じ剣闘の覇道を歩む者同士!
終生のライバルですから!!」
「……覇道」
「はいっす!!
塚原日剋のライバルといえば、シュンさんかもしれませんけど、神威先生だって塚原日剋をライバルだと思ってますよね!」
「……うむ」
「なら、決まりっす!
神威先生は、シュンさんを倒して、チャンピオンを目指す!
俺もシュンさんや神威先生を倒して、チャンピオンを目指します!
いずれ天晴が正道に来た時、ディフェンディングチャンピオンとして迎え撃ってやるんす!!」
「……その天晴という奴は」
「はい?」
「そいつは正道に来るのか?」
「いつかはわかりませんけど、来ます!
あいつは剣闘の天才っすから!
俺、才能ないんで努力しかできませんけど、絶対迎え撃ってやるんす!」
──天才VS努力。
6年前の大会は裏でそう言われていた。
片や5年の修行を積んだ努力の人、塚原日剋。
片や僅か半年で決勝まで上り詰めた天才、シュン。
(似ている)
カイルと天晴の関係性は、かつての塚原日剋とシュンの関係によく似ていた。
だが、完全に独学だった塚原日剋と違い、カイルには自分がついている。
かつて自分も感じた、天才達との埋まりようがない差を、努力で埋めようとしている男がいる。
己を超える強敵を育てる事もまた、一興と思う神威であった。
「カイル」
「はい!」
「お前は二人の天才を超えなければならない」
「……」
「シュンと、天晴だ」
「……はいっ!」
「荷物を置いてこい。早速始めるぞ」
「はいっ! 神威先生ぇ!!」
* * *
こうして彼らはそれぞれの道を歩み出した。
剣闘という遊びを通して繋がった道は、人々の心に多くの軌跡を残し、後世へと伝わるだろう。
小さな国の外れにある、剣島という小さな島──。
そんな小さな島で、今日もどこかでロマンシングな剣闘が繰り広げられている。
「お互い、名乗って! 礼!」
「構えて、いざ!!」
──剣闘開始!!
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小生意気な妖たちに絡まれ、毒を吐く蛙と戦い、ついには異世界「妖界」での政変にまで巻き込まれていく奏太。
その過程で彼は、一族が隠し続けてきた「残酷な真実」と、従姉・結(ゆい)の悲しい運命を知ることになる――
これは、後に「秩序の神」と呼ばれる青年が、まだ「ただの人間」だった頃の、始まりの物語。
★新作『蜻蛉商会のヒトガミ様』
この物語から300年後……神様になった奏太の物語も公開中!
https://www.alphapolis.co.jp/novel/174241108/158016858
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
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異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
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いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
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