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第1章
第六話
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「声優だから」
隣を歩くあかりが、まずそう言った。
「声優が夢だから……じゃなくて?」
「うん。もうなったから。ダメ元で受けたオーディションでね、主役に抜擢されたの」
「すごいな。順風満帆だ」
「いいことばかりじゃないけどね。たしかに知名度はすっごく上がったし、仕事も来るようになった。けどね……」
あかりは顔を伏せる。跡永賀は不審顔で「どうかしたの?」
「オタクっていうのかな、そういう人がどうも……好きになれないの。ヘンでしょ?」
「いや……俺も似たようなもんだよ」
「そっか。ああいう人たちのおかげで、助かってるところは多いってのはわかってるの。けど、何か暗いというか、影があるというか……」
「そうだね。陰湿というか引き篭もり気質というか……」
「そうそう。面と向かっては強くないくせに、当人がいないとこで大きな顔をして……やっぱダメだなぁ」
「だよね。そう、なるよね」
こういうのが嫌だから、自分はオタクではありたくないのだ。ああいう性質も、こういう印象も、自分とは程遠いところにあってほしい。兄はお構いなしだろうが、自分は御免こうむる。
「四鹿くんがわかってくれて……オタクじゃなくてよかった。それじゃ、私はこれで」
表札で跡永賀の家の前だと察したらしいあかりに、「寄ってかない?」跡永賀はそう言った。すると少女はわずかに驚きを見せる。
「まだそういうのは、早いんじゃないかな」
「? ……あっ。いや、違う。そういうんじゃなくて……」
「そういうことってどういうこと?」
「だ、だからその……」
動揺する跡永賀に、あかりはくすくす声を出す。「安心した。やっぱり四鹿くんが彼氏でよかった」
「光栄です……」
嬉しいような、情けないような、不思議な気分だ。
玄関に両親の靴はなかった。跡永賀にとっては都合がいい。余計な茶々は入れられたくはないのだ。
「跡永賀、おかえり……?」
まず、出迎えてきた冬窓床が、あかりの――家族以外の存在に気づいた。「誰、その人」
「ああ、うん。姉さん、この人は……」
「はじめまして。弟さんの彼女です」
にっこり。笑って一礼するあかりに、冬窓床が口にしたことは、
「消えて」
ただ一言だった。
『え……?』
跡永賀とあかりは、二人そろって呆けた。どちらかが聞き返そうとするより速く、ノシノシとした足音。
「おぅ、帰ってきたでござるな、アットたん。そんで隣にいるのは……ほぅ」
「知っているのか」
訳知り顔になった兄に跡永賀が問うと、「もちろんですとも!」と強い声。
「彼女こそ、突然の主役抜擢からチャンスを手に入れ、一躍スターとなったアイドル声優、赤山あかり嬢ですぞ!」
「は、はぁ」
「ん? するとアットたんの言っていた彼女というのは……」
「そこの雌豚のこと」
不機嫌の権化のような顔をした冬窓床の言葉。「ね、姉さん? さっきからどうしたんだよ。こいつは素直に祝福してくれたのに。なぁ……?」
兄に水を向けた跡永賀。しかし同調することはなく、初無敵は太い指をあかりに向けた。
「●ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッッッ●ッ!」
叫んだ。あらん限りの罵りであった。
「この売●が! そんなに男に飢えてるのか! 男あさりが楽しいか、この●売! 恥を知れ! ●子にまみれた声を聞かせやがって! この――たわばっ」
その罵声は、跡永賀の拳でようやく止まった。「お前もか!」
隣を歩くあかりが、まずそう言った。
「声優が夢だから……じゃなくて?」
「うん。もうなったから。ダメ元で受けたオーディションでね、主役に抜擢されたの」
「すごいな。順風満帆だ」
「いいことばかりじゃないけどね。たしかに知名度はすっごく上がったし、仕事も来るようになった。けどね……」
あかりは顔を伏せる。跡永賀は不審顔で「どうかしたの?」
「オタクっていうのかな、そういう人がどうも……好きになれないの。ヘンでしょ?」
「いや……俺も似たようなもんだよ」
「そっか。ああいう人たちのおかげで、助かってるところは多いってのはわかってるの。けど、何か暗いというか、影があるというか……」
「そうだね。陰湿というか引き篭もり気質というか……」
「そうそう。面と向かっては強くないくせに、当人がいないとこで大きな顔をして……やっぱダメだなぁ」
「だよね。そう、なるよね」
こういうのが嫌だから、自分はオタクではありたくないのだ。ああいう性質も、こういう印象も、自分とは程遠いところにあってほしい。兄はお構いなしだろうが、自分は御免こうむる。
「四鹿くんがわかってくれて……オタクじゃなくてよかった。それじゃ、私はこれで」
表札で跡永賀の家の前だと察したらしいあかりに、「寄ってかない?」跡永賀はそう言った。すると少女はわずかに驚きを見せる。
「まだそういうのは、早いんじゃないかな」
「? ……あっ。いや、違う。そういうんじゃなくて……」
「そういうことってどういうこと?」
「だ、だからその……」
動揺する跡永賀に、あかりはくすくす声を出す。「安心した。やっぱり四鹿くんが彼氏でよかった」
「光栄です……」
嬉しいような、情けないような、不思議な気分だ。
玄関に両親の靴はなかった。跡永賀にとっては都合がいい。余計な茶々は入れられたくはないのだ。
「跡永賀、おかえり……?」
まず、出迎えてきた冬窓床が、あかりの――家族以外の存在に気づいた。「誰、その人」
「ああ、うん。姉さん、この人は……」
「はじめまして。弟さんの彼女です」
にっこり。笑って一礼するあかりに、冬窓床が口にしたことは、
「消えて」
ただ一言だった。
『え……?』
跡永賀とあかりは、二人そろって呆けた。どちらかが聞き返そうとするより速く、ノシノシとした足音。
「おぅ、帰ってきたでござるな、アットたん。そんで隣にいるのは……ほぅ」
「知っているのか」
訳知り顔になった兄に跡永賀が問うと、「もちろんですとも!」と強い声。
「彼女こそ、突然の主役抜擢からチャンスを手に入れ、一躍スターとなったアイドル声優、赤山あかり嬢ですぞ!」
「は、はぁ」
「ん? するとアットたんの言っていた彼女というのは……」
「そこの雌豚のこと」
不機嫌の権化のような顔をした冬窓床の言葉。「ね、姉さん? さっきからどうしたんだよ。こいつは素直に祝福してくれたのに。なぁ……?」
兄に水を向けた跡永賀。しかし同調することはなく、初無敵は太い指をあかりに向けた。
「●ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッッッッッッ●ッ!」
叫んだ。あらん限りの罵りであった。
「この売●が! そんなに男に飢えてるのか! 男あさりが楽しいか、この●売! 恥を知れ! ●子にまみれた声を聞かせやがって! この――たわばっ」
その罵声は、跡永賀の拳でようやく止まった。「お前もか!」
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