【完結】最弱テイマーの最強テイム~スライム1匹でどうしろと!?~

成実ミナルるみな

文字の大きさ
14 / 31
第2章

第一三話

しおりを挟む
【翌日――休日の午後:初無敵の部屋】
「それで結局、ただ寝ただけでござると」
「眠れなかったけどな」

 隈の浮いた顔で跡永賀は嘆く。昔のようにはいかなかった。姉の方は安らかな顔をして眠っていたが。
「要するに姉さんにとって、あかりは不穏分子ってところか」
「左様。しかし、同時にインセンティブにもなったようで」
「らしいな」

 事実、姉は動き出した。今までの家族の形が崩れてしまった。
「しかしあれだな、家族ってのも存外面倒なのかもな」
「家族、ええじゃないか。何もしなくても養ってくれて! いいぞぉ!」
「お前はそうでも、俺や姉さんはいつか自分で家庭を作る時がくるだろ。現状の家族……集団にこだわりすぎてもしかたないだろ」
「アットたんはこの家族は必要ないとな?」
「必要ないとは言わないが、そこまでこだわってはいない。いなくなってもうまく立ち回れるさ」
「ほほう」
 初無敵は意味深に笑い、「そういえば、こういうものがあるでござるよ」

 跡永賀に渡されたのは、一見何の変哲もない腕時計であった。デジタル式のよくある電波時計。
「そりゃ、よくあるけど。これがどうしたんだよ」
「まあ、つけてみるでござる。その方が話は早いでござる」
「…………」
 そう言うのなら。
 跡永賀は何がなんだかわからないまま――わかるため、自身の腕にそれを巻く。変化という変化はなし。やはり、何も起こらないではないか、と跡永賀はまばたき。
 そして世界は変わる。



【????】
 見晴らしのいい、どこまでも続く草原に、気がつけば跡永賀は立っていた。抜けるような青い空を、巨大な怪鳥が優雅に飛翔する。
 頬を撫でる風が運ぶ、土や草の匂い。そこには、確かなる大自然があった。
 深く息を吸う。澄んだ空気ゆえか、いつものような肺の痛みはない。

 まさかと思い、跡永賀は地を蹴る。
 走った。
 走れた。

 どこまでも続く青空の下を、跡永賀は走り続けた。大地の上を、跡永賀はいつまでも走り続けられた。
 今までの世界ではできなかったことが、そこではできたのだ。



「アットたんにも〝視えた〟でござるか? あの世界が」
 元の世界に戻ってきたのは、何度目のまばたきであったか。
「今のはこいつのおかげか……?」

 巻かれた腕時計を見上げる跡永賀に、初無敵は「左様」
「それを装着すると数分だけ異世界に居られるのでござる。それに――覚えているでござろう? その間の記憶――ここにいた感覚が」
「……っ」

 跡永賀は額に手をやる。たしかに、覚えている。あの世界にいたはずの数分間、自分は同時にここにいた。ここで、兄とつまらん雑談をした覚えがある。
 自分はたしかにあそこにいたし、ここにもいたのだ。
 これは矛盾か。

「これはいったい……」
「すごいでござろう?」
「なんだこれは」
「こういうものでござる」


 〈テスタメント〉


 ガサゴソ取り出された書類の最初には、そう書かれていた。ぱっと見は腕時計のカタログのようだが……
「新しく出るゲームでござるよ。今のはサービス開始前のお試し――体験版でござるな。ちなみに二度目はなし、時計を替えても同じだそうな」
「ゲームという割には腕時計の記事ばかりだな」

 パラパラとページをめくる跡永賀に、初無敵は「これの面白いところは、既存のハード――ゲーム機やPCを使わないところでござい」
「まさか、腕時計がコントローラーなんて言うんじゃないだろうな」
「そこまではわからぬ。ただ、アットたんならもうわかるでござろう? これはそういう次元のものではない」
「まぁ、な」

 あれはゲーム機――ハードがどうのこうのというレベルではない。そこはある種の現実――ヘタしたらそれ以上のリアル感――があった。最近のモーションセンサ―など比較にならないし、マンガによくある脳に繋いでどうのこうのでもない。

「公式サイトによると、キーアイテムはこれだけなのでござるよ。サービス開始までに、この中の――提携先の腕時計メーカーから好きな腕時計を選んでつけていれば、参加できるそうな。オープンβテストゆえ、費用は一切無料」
「これだけやって無料……赤字じゃないのか」
「おそらくは、需要が先細りしている腕時計メーカーをうまく抱き込んだでござろうな」
「ケータイあればそこまで必要じゃないからな」

 日時を知るにも、携帯電話があれば充分。最近は腕時計をしている人間は以前より少なくなっている。跡永賀もその一人で、使うにしても、何かの試験の時くらいだ。普段は面倒で着けていないし、探さなければ見つからない程度の代物だ。

「そうそう。だからこれを契機に景気をよく――ハッ」
「いや、そんなにうまいこと言ってないから。それはそうとしても、どういう仕組みで作動してるんだよこれ」
「さぁ」
「さぁってお前……」

 そんな訳の分からないものを勧めるなよ。跡永賀は心で不満を吐いた。
「質問に質問で返すでござるが、アットたんは現行のゲームの動作をきちんと理解できてるでござるか?」
「…………」
「そういうものでござるよ。事は面白ければ、便利であれば、後はどうでもいいのでござるよ」
「仮に説明されても理解できるとは限らないしな……」
「左様。自動車の原理なんてわからなくても、運転はできるでござる」

 結局、跡永賀はその資料を受け取ることにした。やると決めたわけではないが、それなりの興味はあったのだ。今までとはまったく違う、新しいゲームに。
 新世界に。
「いや、でも俺はオタクじゃないから」
「誰もそんなこと聞いてないでござるよ」



 適当に作った昼食を食べた後、跡永賀は自室に戻る。休日といえど、両親の姿は家にない。今頃母親はゲームセンターでやりたい放題やっているだろう。父親はその付添だ。子供が成長し、手が掛からなくなってからは、こうして休みの日も家を出ていることが多い。そこにある種の虚しさや寂しさを覚えないではないが、かといって家族揃ってどこかへ行こうにも、上の二人はインドア派で、出かけることに興味がない。

 そして、一番のネックは自分なのだ。
 この体では、あまり遠出はできない。
 皆、口にはしないが、そういった配慮が水面下ではあるように感じる。

「『新しい自分になれる』、か。何か化粧か整形のキャッチコピーだな」
 横になって〈テスタメント〉の資料を改めて読んでみる。そこには公式サイトの情報から、それを取材した記事、果てはBBSの憶測や眉唾まで印刷されていた。
「あいつ、まさかこれを俺に見せたくて……?」

 自分用にしては、あまりにも客観視された――体裁の整ったものだ。
 最後のページに到達すると、それは確信になった。
 そのページには、達筆な筆致があるだけだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。

しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。 しかし―― 彼が切り捨てた仲間こそが、 実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。 事実に気づいた時にはもう遅い。 道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。 “荷物持ちがいなくなった瞬間”から、 アレクスの日常は静かに崩壊していく。 短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。 そんな彼と再び肩を並べることになったのは―― 美しいのに中二が暴走する魔法使い ノー天気で鈍感な僧侶 そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。 自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。 これは、 “間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる” 再生の物語である。 《小説家になろうにも投稿しています》

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...