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ひとつの戦いを終えて
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口の中に巨大な氷を突っ込まれ、ドラゴンは動きを停止した。何度も炎を吐き出し、その度に氷は少しずつ小さくなっていく。
だが、炎をいったん封じてしまえばこっちのものだった。
「――あんたは、寝てなさいっ!」
激しく首を振っているドラゴンの首を駆け上がる。そして、脳天にメイスを振り下ろした。
ただのギルド職員には不可能な鮮やかな一撃。
――まるで、昔に戻ったみたいだ。
レミリアは一応、背後から皆の支援をする立場であった。だが、戦場ではそんなことは言ってられない。
レミリア達のいる場所まで、魔物が飛び込んでくることもしょっちゅうだったから、レミリアも、自分の腕で戦う術を否応なしに身に付けさせられた。
身体を強化し、力任せに武器を叩きつける。どうせ剣技なんてやるだけ無駄だろうとベルナルドに笑われて、選んだ武器は鈍器だった。
当たりさえすれば、確実に敵にダメージを与えることができる。限界まで強化した身体で思いきりメイスを叩きつければ、たいていの魔物の足を止めることはできた。
敵に囲まれた時、いつも駆けつけてくれるのはライムントだった――けれど。
レミリアは、マティアスの方を振り返る。
「マティアスさん、今のうち! ドラゴンの弱点は」
「わかってる!」
ドラゴンの弱点は、鱗の薄いところ。そして、今、目の前にある中で一番鱗の薄い場所と言えば――喉の下であった。
「ルーク!」
マティアスの声に、ルークも動いた。盾を構え、マティアスに合図する。
ルークが盾を構えたのは、防御のためではなかった。地面に突き立てられた盾を足場に、マティアスが跳躍する。
彼の剣は、ドラゴンの喉の下、一番鱗が薄いところを迷わず捕らえた。喉を貫いた剣は、根元までドラゴンの喉に埋まる。
「――退避!」
続くレミリアの声に、マティアス達がドラゴンから離れる。グルグル、と喉の奥から声を漏らし――どう、と横倒しになった。
尾の先が地面を数度叩き、動かなくなる。
(……今は、あっちにかまっている場合じゃない!)
「――ライムント様! ライムント様!」
かつての彼は、レミリアの前でこんな姿を見せたことはなかった。だが、今の彼はレミリアの知っている彼ではない。
エリンをかばったのだろうか。ドラゴンの炎に、彼の身体はひどいやけどを負っていた。エリンも、わずかに息をしているが時間の余裕はない。
(ヒール? 上級ヒール? ううん、それだけじゃ足りない――エクストラ・ヒールでないと!)
今の時代、それを使うことのできる者はいない。
回復魔術の最上位。レミリアが、女神の啓示を受けて初めて使えるようになったもの。だが、考えていてはだめだ。
ぴくりと、エリンの指先が動く。彼女の魂が抜け出ようとしているのを、レミリアは素早く察知した。
今のレミリアでは、まだ少し力が足りない。でもいけるだろうか――いや、考えている場合ではないのだ。
「エクストラ・ヒール!」
二人同時に――体内から、どんどん魔力が吸い出されていくのがわかる。まだ、だめだ。まだ、魔力の放出をとめるわけにはいかない。
レミリアの身体が眩いほどに光り輝き、白竜の盾の面々の視界を焼こうとする。
「……いけ……た……?」
時をさかのぼってから、これだけの魔術を使うのは初めてのことだった。体内からごっそりと魔力が失われていて、頭がくらくらとしている。
「ライムント様……?」
地面に倒れていた彼が、ゆっくりと身を起こすのが見える。よかった、成功だ――立ち上がろうとしたとたん、がくんと膝が折れた。
だが、炎をいったん封じてしまえばこっちのものだった。
「――あんたは、寝てなさいっ!」
激しく首を振っているドラゴンの首を駆け上がる。そして、脳天にメイスを振り下ろした。
ただのギルド職員には不可能な鮮やかな一撃。
――まるで、昔に戻ったみたいだ。
レミリアは一応、背後から皆の支援をする立場であった。だが、戦場ではそんなことは言ってられない。
レミリア達のいる場所まで、魔物が飛び込んでくることもしょっちゅうだったから、レミリアも、自分の腕で戦う術を否応なしに身に付けさせられた。
身体を強化し、力任せに武器を叩きつける。どうせ剣技なんてやるだけ無駄だろうとベルナルドに笑われて、選んだ武器は鈍器だった。
当たりさえすれば、確実に敵にダメージを与えることができる。限界まで強化した身体で思いきりメイスを叩きつければ、たいていの魔物の足を止めることはできた。
敵に囲まれた時、いつも駆けつけてくれるのはライムントだった――けれど。
レミリアは、マティアスの方を振り返る。
「マティアスさん、今のうち! ドラゴンの弱点は」
「わかってる!」
ドラゴンの弱点は、鱗の薄いところ。そして、今、目の前にある中で一番鱗の薄い場所と言えば――喉の下であった。
「ルーク!」
マティアスの声に、ルークも動いた。盾を構え、マティアスに合図する。
ルークが盾を構えたのは、防御のためではなかった。地面に突き立てられた盾を足場に、マティアスが跳躍する。
彼の剣は、ドラゴンの喉の下、一番鱗が薄いところを迷わず捕らえた。喉を貫いた剣は、根元までドラゴンの喉に埋まる。
「――退避!」
続くレミリアの声に、マティアス達がドラゴンから離れる。グルグル、と喉の奥から声を漏らし――どう、と横倒しになった。
尾の先が地面を数度叩き、動かなくなる。
(……今は、あっちにかまっている場合じゃない!)
「――ライムント様! ライムント様!」
かつての彼は、レミリアの前でこんな姿を見せたことはなかった。だが、今の彼はレミリアの知っている彼ではない。
エリンをかばったのだろうか。ドラゴンの炎に、彼の身体はひどいやけどを負っていた。エリンも、わずかに息をしているが時間の余裕はない。
(ヒール? 上級ヒール? ううん、それだけじゃ足りない――エクストラ・ヒールでないと!)
今の時代、それを使うことのできる者はいない。
回復魔術の最上位。レミリアが、女神の啓示を受けて初めて使えるようになったもの。だが、考えていてはだめだ。
ぴくりと、エリンの指先が動く。彼女の魂が抜け出ようとしているのを、レミリアは素早く察知した。
今のレミリアでは、まだ少し力が足りない。でもいけるだろうか――いや、考えている場合ではないのだ。
「エクストラ・ヒール!」
二人同時に――体内から、どんどん魔力が吸い出されていくのがわかる。まだ、だめだ。まだ、魔力の放出をとめるわけにはいかない。
レミリアの身体が眩いほどに光り輝き、白竜の盾の面々の視界を焼こうとする。
「……いけ……た……?」
時をさかのぼってから、これだけの魔術を使うのは初めてのことだった。体内からごっそりと魔力が失われていて、頭がくらくらとしている。
「ライムント様……?」
地面に倒れていた彼が、ゆっくりと身を起こすのが見える。よかった、成功だ――立ち上がろうとしたとたん、がくんと膝が折れた。
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『よし、殺そう』からの
『よし、呪い返そう』へ、、
このまま、最強で無双からの復讐といきましょう!
よし、殺そうを当分引っ張るんですよねえ…呪いの元凶不明なので!