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瑠璃の猫の日スペシャル
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※にゃんにゃんにゃんの日記念。
今回クロヴィスには、猫耳と尻尾という恐ろしい付属品があります。
レイスウェイク大公爵家当主の私室には、クロヴィスと彼に連れられてやってきたルリだけが残された。
黒い猫耳と尻尾を生やしたスミレは、ヴィオラントによって寝室へと連れ去られた。
二人がこれから何をするつもりなのか、いくら初心なルリにだって分かっている。
ヴィオラントに耳と尻尾に悪戯されて、可愛らしい顔を真っ赤にしながらも、どこか妖艶さを漂わせたスミレの姿を目の当たりにし、ルリの頬も赤く染まった。
しかし、彼女を火照らせるのは、何も妹のような大公爵夫人の艶姿のせいばかりではない。
「兄上とスミレは本当に仲がいい。我々も、ずっとあんな関係でいたいですね」
「ク、クロヴィス様……」
クロヴィスは眼鏡の奥で目を細め、優しい声でそう紡ぎながら、廊下へと続く扉に鍵をかけた。
奥の寝室に続く扉には、先ほどヴィオラントが鍵をかけたので、実質二人のいる部屋は密室になってしまった。
こつりと硬質な靴音を響かせて一歩近づいたクロヴィスに、本能的な危険を感じたルリは一歩後ずさる。
目の前の彼はひどく機嫌が良さそうなのに、ルリは背中に冷たい汗が流れたように感じた。
「あ、あの……」
「怖がらなくても大丈夫ですよ、ルリ。初めてですものね、優しくします」
「え? ……えっと……?」
「ああ、前言撤回しますよ。猫になったのがルリでなくてよかった。もしもあなたに猫耳や尻尾が生えていたら、きっと私は夢中で苛めてしまったに違いありませんからね」
「――っ!?」
艶やかな金髪の頭からぴんと尖った猫の耳と、上着の裾からしなやかな長い尻尾を見せながら、クロヴィスはそう言って空色の目を細めた。
スミレと同じく猫化という不可解な変化を遂げたクロヴィスの毛並みは、その髪と似た金色である。
スミレがふわふわと可愛らしい子猫を思わせるのに対し、クロヴィスの姿はアビシニアンのように気品を漂わせる風貌。
じわりじわりと追いつめられるルリは、哀れで無力な子鼠だ。
獲物を見つけて舌なめずりする猫から、彼女が逃れられる術などあるのだろうか。
「――あっ……」
「おっと、危ない」
怯えて震えるルリの足がもつれ、身体がぐらりと後ろに傾いだ。
しかしもちろん、さっと腕を伸ばしたクロヴィスに支えられ、みっともなく後ろにひっくり返ることはなかったが、ついに彼に捕獲されてしまった。
クロヴィスはそのままルリを抱き上げると、先ほど兄夫婦が睦み合っていたソファへと歩いていく。
そうして、わたわたと慌てるルリをソファに座らせると、自分はその前の床に膝をつき、両手は彼女の身体を囲うように座面に置いた。
「クロヴィス様……あの……」
「はい、何ですか?」
「あの、もう戻らないと……。陛下にも皇太后様にも、すぐに戻りますとお伝えしたのに……」
「大丈夫。ルドは何も言いませんよ。皇太后様には私から謝罪しますので、ルリは気に病む必要はありません」
「でも……あの、あの……」
ソファの背もたれにくっついて縮こまるルリが、クロヴィスには可愛くてたまらない。
クロヴィスは、「でもでも」と戸惑う彼女の方に身を乗り出すと、紅ものせていない無垢な唇をぺろりと舐めた。
「――っ、ひゃ!」
「それより、ルリ。お願いがあるのですが」
びくりと竦み上がった少女を楽しげに見下ろしながら、クロヴィスは笑みを浮かべてそう言った。
眉を見事な八の字にし、困惑した様子で見上げてくるルリの姿が、彼の中の嗜虐心を著しく刺激していけない。
クロヴィスは今すぐ襲いかかって鳴かせたい衝動を笑顔の奥に抑えながら、なるべく穏やかな声を装って続きを口にした。
「眼鏡をとってくれませんか?」
「あ、は、はい……?」
それに不思議そうに瞳をぱちくりしながらも、素直なルリは彼の言葉に従った。
柔らかそうな指先が、そっと繊細な仕草でクロヴィスの眼鏡をはずす。
そのままサイドを丁寧に畳み、請われるままにテーブルの上にそっと置いた。
それが済むと、クロヴィスは再びにこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。何しろ、あなたを逃がさぬために両手が塞がっていたもので」
「ク、クロヴィス様……っ」
「眼鏡があると、キスの時邪魔でしょう?」
それを聞いた瞬間、ただでさえ頬を赤らめていたルリが耳まで真っ赤になると、クロヴィスは唇を笑みの形にしたまま彼女のそれに押し付けた。
「……んっ……」
ソファに突っ張っていたクロヴィスの両手がふわりとルリの身体に回されて、宥めるようにそっと背中を撫でた。
屋敷の主人であるクロヴィスの兄は、彼がルリとの時間を有意義に過ごせるようにと席を外してくれた。
今頃は、兄も愛らしい細君と寝室でお楽しみのことだろう。
提供されたこの部屋の扉には鍵をかけ、二人だけの密室に。
クロヴィスの楽しみを邪魔する者は誰もいない。
腕の中に包み込んだこの純潔の乙女を、ついに彼は手にすることができそうだった。
柔らかい唇を怯えさせないように極力優しく啄みつつ、クロヴィスはゆっくりじっくり時間をかけて、ルリを味わうつもりでいた。
猫が、捕まえた獲物を食べる前に、手の中で弄ぶようなものだ。
「ちゃんと息継ぎをしなさい、ルリ」
「ん、はふ……クロヴィス……さま……っ」
「そう……上手ですよ」
何度も重ねるうちにようやくキスには慣れてきたルリだが、まだそれに応えられるほどの余裕はない。
ただただ頬を赤らめて、一生懸命受け入れようとする様はひどく健気で、クロヴィスはますます愛おしさを募らせた。
甘く優しく耳元で名を呼びながら彼女の首元に顔を埋め、白い首筋をちゅっと吸った。
とたんにびくりと竦む身体を抱き竦め、不埒な片手がついにルリの腿を撫で上げた、その時――
「やっ、やっぱりいけません! クロヴィス様!」
クロヴィスの頭の上でルリがそう叫んだかと思うと、彼の頭からぴょこんと飛び出ていた猫耳の片方にかぷっと噛み付いた。
「――っ! ルリっ……!?」
「皇太后様に、すぐに戻ると約束しました。ご心配をおかけしたくはありませんっ!」
ルリの柔らかい唇に食まれた猫の耳は敏感で、クロヴィスは思わず腰が砕けそうになって、ソファに肘をついた。
そうして彼が怯んだ隙に、とどめとばかりにルリの手が背後の尻尾をわしっと掴み上げた。
「――っ!」
耳を刺激された時以上の衝撃が、クロヴィスの背筋を駆け上がった。
えも言われぬ感覚に、とたんに呼吸は乱れ瞳が潤む。
それをいいことに、ルリはいやに真面目な顔をして、今度はそれを両手でぎゅうっと握り込んだ。
形勢逆転。
窮鼠猫を噛むとは、まさにこのことだった。
「――っ、こら、ルリ……やめなさいっ……」
「もう、落ち着いてくださいますか? いつものクロヴィス様に戻ると、約束してくださいますか?」
ルリの方もリンゴのように真っ赤になって必死だ。
相手を脅しているつもりはないのだろうが、そう言う間も彼女の手は金色の尻尾を撫で擦り、クロヴィスを呻かせた。
彼の衝動はひどく煽られつつも、身体の方はどうにも力が入らず言うことをきかない。
ぎりりと奥歯を噛み締めて、とてつもなく口惜しく思いながら、渋々ルリの言葉に頷くしかなかった。
「……わかりました。今は諦めます。だから、手を離しなさい」
「はい、クロヴィス様。無礼な真似をして、申し訳ありませんでした」
クロヴィスが嘘をついたりしないと信じるルリは、彼の降参にあっさりと尻尾を解放した。
そして、何故かキスをした時よりも顔を赤くして、さらに恥ずかしそうに俯いたかと思うと、「でも、あの……」とごにょごにょと続ける。
一方、尻尾を解放されてほっとしたのと、ルリにまた手を出せないという不本意な約束に頷いてしまったことに、クロヴィスはやれやれとため息をついた。
彼が「はいはい、何ですか?」と投げやりな返事をすると、ルリはもじもじしながら小さな声で告げた。
「あの……猫ちゃんじゃない、クロヴィス様がいいんです……」
「――うん?」
「あのっ、あのっ……初めては怖いので、いつものクロヴィス様がいいです……」
「……」
クロヴィスはたっぷり数秒固まって、ルリの言葉を反芻した。
それを理解したとたん、クロヴィスは満面の笑みを作って彼女に向き直った。
「そうですか。ああ、そうですね。私としたことが、失念しておりました。何もかも初めてのあなたに獣のようにがっついて、怖い思いをさせてしまいましたね。申し訳ない」
「いえ……あのっ……」
「しかも、兄の屋敷とはいえ、他所のリビングのソファで事に及ぼうとしたなんて」
「えっと、ええっと……」
「ルリに目を覚ましてもらえてよかった」
「あの……はい……」
その喜びを表すように、クロヴィスの頭に生えた猫耳はぴんと尖り、金色の尻尾も嬉しそうにゆらゆらと揺れていた。
(猫ちゃんなクロヴィス様って、可愛い……)
危機感の薄いルリは、本人が聞けば薄ら寒い笑みを浮かべそうなことを考えてついつい和んでしまう。
しかし、次にそっと耳元に囁かれた言葉に、彼女はまたもやぼっと顔を赤らめることになる。
「近いうちに、必ず仕切り直します――もちろん、ベッドの上でね」
その言葉に、恥ずかしくてたまらなくなったルリは、ついに両手で顔を覆ってしまった。
ただし、クロヴィスにだけ聞こえる小さな小さなか細い声で、確かに「はい」と頷いた。
今回クロヴィスには、猫耳と尻尾という恐ろしい付属品があります。
レイスウェイク大公爵家当主の私室には、クロヴィスと彼に連れられてやってきたルリだけが残された。
黒い猫耳と尻尾を生やしたスミレは、ヴィオラントによって寝室へと連れ去られた。
二人がこれから何をするつもりなのか、いくら初心なルリにだって分かっている。
ヴィオラントに耳と尻尾に悪戯されて、可愛らしい顔を真っ赤にしながらも、どこか妖艶さを漂わせたスミレの姿を目の当たりにし、ルリの頬も赤く染まった。
しかし、彼女を火照らせるのは、何も妹のような大公爵夫人の艶姿のせいばかりではない。
「兄上とスミレは本当に仲がいい。我々も、ずっとあんな関係でいたいですね」
「ク、クロヴィス様……」
クロヴィスは眼鏡の奥で目を細め、優しい声でそう紡ぎながら、廊下へと続く扉に鍵をかけた。
奥の寝室に続く扉には、先ほどヴィオラントが鍵をかけたので、実質二人のいる部屋は密室になってしまった。
こつりと硬質な靴音を響かせて一歩近づいたクロヴィスに、本能的な危険を感じたルリは一歩後ずさる。
目の前の彼はひどく機嫌が良さそうなのに、ルリは背中に冷たい汗が流れたように感じた。
「あ、あの……」
「怖がらなくても大丈夫ですよ、ルリ。初めてですものね、優しくします」
「え? ……えっと……?」
「ああ、前言撤回しますよ。猫になったのがルリでなくてよかった。もしもあなたに猫耳や尻尾が生えていたら、きっと私は夢中で苛めてしまったに違いありませんからね」
「――っ!?」
艶やかな金髪の頭からぴんと尖った猫の耳と、上着の裾からしなやかな長い尻尾を見せながら、クロヴィスはそう言って空色の目を細めた。
スミレと同じく猫化という不可解な変化を遂げたクロヴィスの毛並みは、その髪と似た金色である。
スミレがふわふわと可愛らしい子猫を思わせるのに対し、クロヴィスの姿はアビシニアンのように気品を漂わせる風貌。
じわりじわりと追いつめられるルリは、哀れで無力な子鼠だ。
獲物を見つけて舌なめずりする猫から、彼女が逃れられる術などあるのだろうか。
「――あっ……」
「おっと、危ない」
怯えて震えるルリの足がもつれ、身体がぐらりと後ろに傾いだ。
しかしもちろん、さっと腕を伸ばしたクロヴィスに支えられ、みっともなく後ろにひっくり返ることはなかったが、ついに彼に捕獲されてしまった。
クロヴィスはそのままルリを抱き上げると、先ほど兄夫婦が睦み合っていたソファへと歩いていく。
そうして、わたわたと慌てるルリをソファに座らせると、自分はその前の床に膝をつき、両手は彼女の身体を囲うように座面に置いた。
「クロヴィス様……あの……」
「はい、何ですか?」
「あの、もう戻らないと……。陛下にも皇太后様にも、すぐに戻りますとお伝えしたのに……」
「大丈夫。ルドは何も言いませんよ。皇太后様には私から謝罪しますので、ルリは気に病む必要はありません」
「でも……あの、あの……」
ソファの背もたれにくっついて縮こまるルリが、クロヴィスには可愛くてたまらない。
クロヴィスは、「でもでも」と戸惑う彼女の方に身を乗り出すと、紅ものせていない無垢な唇をぺろりと舐めた。
「――っ、ひゃ!」
「それより、ルリ。お願いがあるのですが」
びくりと竦み上がった少女を楽しげに見下ろしながら、クロヴィスは笑みを浮かべてそう言った。
眉を見事な八の字にし、困惑した様子で見上げてくるルリの姿が、彼の中の嗜虐心を著しく刺激していけない。
クロヴィスは今すぐ襲いかかって鳴かせたい衝動を笑顔の奥に抑えながら、なるべく穏やかな声を装って続きを口にした。
「眼鏡をとってくれませんか?」
「あ、は、はい……?」
それに不思議そうに瞳をぱちくりしながらも、素直なルリは彼の言葉に従った。
柔らかそうな指先が、そっと繊細な仕草でクロヴィスの眼鏡をはずす。
そのままサイドを丁寧に畳み、請われるままにテーブルの上にそっと置いた。
それが済むと、クロヴィスは再びにこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。何しろ、あなたを逃がさぬために両手が塞がっていたもので」
「ク、クロヴィス様……っ」
「眼鏡があると、キスの時邪魔でしょう?」
それを聞いた瞬間、ただでさえ頬を赤らめていたルリが耳まで真っ赤になると、クロヴィスは唇を笑みの形にしたまま彼女のそれに押し付けた。
「……んっ……」
ソファに突っ張っていたクロヴィスの両手がふわりとルリの身体に回されて、宥めるようにそっと背中を撫でた。
屋敷の主人であるクロヴィスの兄は、彼がルリとの時間を有意義に過ごせるようにと席を外してくれた。
今頃は、兄も愛らしい細君と寝室でお楽しみのことだろう。
提供されたこの部屋の扉には鍵をかけ、二人だけの密室に。
クロヴィスの楽しみを邪魔する者は誰もいない。
腕の中に包み込んだこの純潔の乙女を、ついに彼は手にすることができそうだった。
柔らかい唇を怯えさせないように極力優しく啄みつつ、クロヴィスはゆっくりじっくり時間をかけて、ルリを味わうつもりでいた。
猫が、捕まえた獲物を食べる前に、手の中で弄ぶようなものだ。
「ちゃんと息継ぎをしなさい、ルリ」
「ん、はふ……クロヴィス……さま……っ」
「そう……上手ですよ」
何度も重ねるうちにようやくキスには慣れてきたルリだが、まだそれに応えられるほどの余裕はない。
ただただ頬を赤らめて、一生懸命受け入れようとする様はひどく健気で、クロヴィスはますます愛おしさを募らせた。
甘く優しく耳元で名を呼びながら彼女の首元に顔を埋め、白い首筋をちゅっと吸った。
とたんにびくりと竦む身体を抱き竦め、不埒な片手がついにルリの腿を撫で上げた、その時――
「やっ、やっぱりいけません! クロヴィス様!」
クロヴィスの頭の上でルリがそう叫んだかと思うと、彼の頭からぴょこんと飛び出ていた猫耳の片方にかぷっと噛み付いた。
「――っ! ルリっ……!?」
「皇太后様に、すぐに戻ると約束しました。ご心配をおかけしたくはありませんっ!」
ルリの柔らかい唇に食まれた猫の耳は敏感で、クロヴィスは思わず腰が砕けそうになって、ソファに肘をついた。
そうして彼が怯んだ隙に、とどめとばかりにルリの手が背後の尻尾をわしっと掴み上げた。
「――っ!」
耳を刺激された時以上の衝撃が、クロヴィスの背筋を駆け上がった。
えも言われぬ感覚に、とたんに呼吸は乱れ瞳が潤む。
それをいいことに、ルリはいやに真面目な顔をして、今度はそれを両手でぎゅうっと握り込んだ。
形勢逆転。
窮鼠猫を噛むとは、まさにこのことだった。
「――っ、こら、ルリ……やめなさいっ……」
「もう、落ち着いてくださいますか? いつものクロヴィス様に戻ると、約束してくださいますか?」
ルリの方もリンゴのように真っ赤になって必死だ。
相手を脅しているつもりはないのだろうが、そう言う間も彼女の手は金色の尻尾を撫で擦り、クロヴィスを呻かせた。
彼の衝動はひどく煽られつつも、身体の方はどうにも力が入らず言うことをきかない。
ぎりりと奥歯を噛み締めて、とてつもなく口惜しく思いながら、渋々ルリの言葉に頷くしかなかった。
「……わかりました。今は諦めます。だから、手を離しなさい」
「はい、クロヴィス様。無礼な真似をして、申し訳ありませんでした」
クロヴィスが嘘をついたりしないと信じるルリは、彼の降参にあっさりと尻尾を解放した。
そして、何故かキスをした時よりも顔を赤くして、さらに恥ずかしそうに俯いたかと思うと、「でも、あの……」とごにょごにょと続ける。
一方、尻尾を解放されてほっとしたのと、ルリにまた手を出せないという不本意な約束に頷いてしまったことに、クロヴィスはやれやれとため息をついた。
彼が「はいはい、何ですか?」と投げやりな返事をすると、ルリはもじもじしながら小さな声で告げた。
「あの……猫ちゃんじゃない、クロヴィス様がいいんです……」
「――うん?」
「あのっ、あのっ……初めては怖いので、いつものクロヴィス様がいいです……」
「……」
クロヴィスはたっぷり数秒固まって、ルリの言葉を反芻した。
それを理解したとたん、クロヴィスは満面の笑みを作って彼女に向き直った。
「そうですか。ああ、そうですね。私としたことが、失念しておりました。何もかも初めてのあなたに獣のようにがっついて、怖い思いをさせてしまいましたね。申し訳ない」
「いえ……あのっ……」
「しかも、兄の屋敷とはいえ、他所のリビングのソファで事に及ぼうとしたなんて」
「えっと、ええっと……」
「ルリに目を覚ましてもらえてよかった」
「あの……はい……」
その喜びを表すように、クロヴィスの頭に生えた猫耳はぴんと尖り、金色の尻尾も嬉しそうにゆらゆらと揺れていた。
(猫ちゃんなクロヴィス様って、可愛い……)
危機感の薄いルリは、本人が聞けば薄ら寒い笑みを浮かべそうなことを考えてついつい和んでしまう。
しかし、次にそっと耳元に囁かれた言葉に、彼女はまたもやぼっと顔を赤らめることになる。
「近いうちに、必ず仕切り直します――もちろん、ベッドの上でね」
その言葉に、恥ずかしくてたまらなくなったルリは、ついに両手で顔を覆ってしまった。
ただし、クロヴィスにだけ聞こえる小さな小さなか細い声で、確かに「はい」と頷いた。
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