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20.まさかの外部犯行説(2)
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「血溜まりが……拭き取られていた?」
黒須が倒れていた場所に広がっていた血痕のことだろうか。たしか昨夜、血痕はそのままにした状態だった。特に掃除をする必要もないと思ったし……それならば、渇いて黒ずんでいるはずではないのか。
「昨夜は、割とたっぷりと血痕が残っていたでしょう? それが明らかに消えているの。マーリンさんにも確認したけれど、今、二階のお掃除ロボットは停止させているから、にゃいぼが綺麗にしたわけじゃない。犯人がなんらかの意図をもって現場で作業したのよ」
「血痕なんて……覚えてないよ、そんなこと」と、夢人が口を尖らせて言う。
「私の能力はカメラ・アイ。映像を脳裏に保存することができる。だから間違いない。皆が自室に戻っていったあと、現場に戻り、血痕を拭きとったやつがいる」
カメラ・アイ……見た物をそのまま記憶する能力か。
突然の能力の暴露には戸惑うしかないが、その能力者の怒りの矛先は夢人へと向けられている。
「そんなことをした犯人は、あなたなんじゃないの? 『潔癖症』の、夢人くん」
「はぁ? 潔癖症は、事件に関係ないし……なんで僕がそんなこと」
「理由なんて知らないわよ。昨夜は気づかなかったけど、ダイイングメッセージがあったのかもしれないわ」
現場はよく調べたが、そんなものはなかったと思うんだが……。
ただ、黒須の遺体を部屋の中に運んだあと、血溜まりがそこにあったことは覚えている。血痕を拭きとっただなんて……なんのために?
それに、宇佐美は自分の能力まで明かして、大丈夫なのだろうか。冷静な彼女も、だいぶ逆上しているらしい。
「うーん。ちょ、ちょっと、いったん落ち着こう……」
「あのぉ……ひとつ、いいかしら?」
事件のことにはあまり口を出さないマーリンさんが、おずおずと間に入ってきた。少しほっとして、問いかけに応じる。
「なんでしょうか?」
「事件に関係があるかわからないんだけど……実は、倉庫の在庫チェックをしたら、食料が減っているのよ。つまみ食いされたような感じで……」
「え? それはどういう……」
「乗客なら、食べ物代は乗船料に含まれているのだから、お腹がすいたら注文してくれればいいわけでしょ? それをわざわざ倉庫に忍び込んでつまみ食いだなんて……おかしいじゃない? ということは、よ? あなたたち以外に、誰か潜んでいるってことはないかしら」
乗客以外の者が紛れ込んでいる――だと!?
ますますわけがわからなくなってきた。新たな『外部犯人説』の浮上に、皆一様に瞳を白黒させている。
「あぁああ、もう~、意味がわからない! 僕がせっかく推理したのに! ……だけど僕は、絶対に宇佐美さんが犯人だと思う。明日の選択の時には、そう答えようと思う。僕はもう部屋に引きこもるよ。殺されたらゲームオーバーになってしまうし」
夢人はそう言って、宇佐美をじろりとねめつけた。
「わ、私だって、あなたが犯人だと確信したわ! 投票は多数決なんだからね。挙動のおかしいあなたと、私……どちらが支持されるか、答えは明白ね」
「こっちのセリフさ!」
ふんっと漫画のように顔を背け、夢人は自室へと帰ってしまった。
宇佐美も「失礼するわ」と言い残し、対立者と時間をずらして食堂を去る。
「あーあ……バラバラだな」
ため息しか出ない。
「……情報は出そろってきた気もするが……アリバイなどもあわせて、考えなおす必要があるな」
ヒカルもまた、マーリンさんにテイクアウトできる軽食を頼み、それを手に去っていった。
場に残ったエレノアと顔を合わせるが、彼女も困ったように首を傾げるだけだ。
「食料が減っていたという話は……どうなのでしょうかね?」
「うーん……今さら第三者がいるかもと言われてもなぁ」
各自、情報を整理することにして、不穏な空気のまま、この場はお開きとなった。
黒須が倒れていた場所に広がっていた血痕のことだろうか。たしか昨夜、血痕はそのままにした状態だった。特に掃除をする必要もないと思ったし……それならば、渇いて黒ずんでいるはずではないのか。
「昨夜は、割とたっぷりと血痕が残っていたでしょう? それが明らかに消えているの。マーリンさんにも確認したけれど、今、二階のお掃除ロボットは停止させているから、にゃいぼが綺麗にしたわけじゃない。犯人がなんらかの意図をもって現場で作業したのよ」
「血痕なんて……覚えてないよ、そんなこと」と、夢人が口を尖らせて言う。
「私の能力はカメラ・アイ。映像を脳裏に保存することができる。だから間違いない。皆が自室に戻っていったあと、現場に戻り、血痕を拭きとったやつがいる」
カメラ・アイ……見た物をそのまま記憶する能力か。
突然の能力の暴露には戸惑うしかないが、その能力者の怒りの矛先は夢人へと向けられている。
「そんなことをした犯人は、あなたなんじゃないの? 『潔癖症』の、夢人くん」
「はぁ? 潔癖症は、事件に関係ないし……なんで僕がそんなこと」
「理由なんて知らないわよ。昨夜は気づかなかったけど、ダイイングメッセージがあったのかもしれないわ」
現場はよく調べたが、そんなものはなかったと思うんだが……。
ただ、黒須の遺体を部屋の中に運んだあと、血溜まりがそこにあったことは覚えている。血痕を拭きとっただなんて……なんのために?
それに、宇佐美は自分の能力まで明かして、大丈夫なのだろうか。冷静な彼女も、だいぶ逆上しているらしい。
「うーん。ちょ、ちょっと、いったん落ち着こう……」
「あのぉ……ひとつ、いいかしら?」
事件のことにはあまり口を出さないマーリンさんが、おずおずと間に入ってきた。少しほっとして、問いかけに応じる。
「なんでしょうか?」
「事件に関係があるかわからないんだけど……実は、倉庫の在庫チェックをしたら、食料が減っているのよ。つまみ食いされたような感じで……」
「え? それはどういう……」
「乗客なら、食べ物代は乗船料に含まれているのだから、お腹がすいたら注文してくれればいいわけでしょ? それをわざわざ倉庫に忍び込んでつまみ食いだなんて……おかしいじゃない? ということは、よ? あなたたち以外に、誰か潜んでいるってことはないかしら」
乗客以外の者が紛れ込んでいる――だと!?
ますますわけがわからなくなってきた。新たな『外部犯人説』の浮上に、皆一様に瞳を白黒させている。
「あぁああ、もう~、意味がわからない! 僕がせっかく推理したのに! ……だけど僕は、絶対に宇佐美さんが犯人だと思う。明日の選択の時には、そう答えようと思う。僕はもう部屋に引きこもるよ。殺されたらゲームオーバーになってしまうし」
夢人はそう言って、宇佐美をじろりとねめつけた。
「わ、私だって、あなたが犯人だと確信したわ! 投票は多数決なんだからね。挙動のおかしいあなたと、私……どちらが支持されるか、答えは明白ね」
「こっちのセリフさ!」
ふんっと漫画のように顔を背け、夢人は自室へと帰ってしまった。
宇佐美も「失礼するわ」と言い残し、対立者と時間をずらして食堂を去る。
「あーあ……バラバラだな」
ため息しか出ない。
「……情報は出そろってきた気もするが……アリバイなどもあわせて、考えなおす必要があるな」
ヒカルもまた、マーリンさんにテイクアウトできる軽食を頼み、それを手に去っていった。
場に残ったエレノアと顔を合わせるが、彼女も困ったように首を傾げるだけだ。
「食料が減っていたという話は……どうなのでしょうかね?」
「うーん……今さら第三者がいるかもと言われてもなぁ」
各自、情報を整理することにして、不穏な空気のまま、この場はお開きとなった。
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