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21.消えた血溜まり
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エレノアは食堂に残り、考え事をすると言うので、その場で別れた。
食堂を辞したその足で、二階の宿泊ルーム区画へ戻り、黒須の部屋前の廊下を見にいくことにする。彼が殺害された犯行現場だ。
昨夜、そのままにしてあったはずの血溜まりは――宇佐美の言うとおり、拭き取ったようなわずかな痕跡を残し、なくなっていた。
(一体どういうことだ? わざわざ汚れを掃除する意味がわからない……ちゃんと綺麗になっているわけでもないし、どちらかというと雑に擦ったような感じだな……)
この中途半端具合からして、潔癖症の夢人が性分で手を加えたという説は薄い気がする。
ひととおりの確認は済ませたものの、ほかに手がかりになるようなものはなく、その場をあとにする。
ついでに少し話を聞ければと、途中にある夢人の部屋を訪ねた。
想定はしていたが、インターフォンから帰ってきた返事は、『悪いけど……』。
面会は断られてしまった。敵視されてはいないが、信用されてもいないらしい。
まぁ仕方がないか、とその場を離れようとすると――。
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、『あの……』と呼び止められる。
「ん?」
『ライさんは……僕のこと、疑ってる……?』
どう答えようか迷ったが、正直に感じたままを口にした。
そうゲームの進行に大きな影響を与えるものでもないだろう。
「まぁ、疑っていないといえば嘘になるけど。でもそれは、他のプレイヤーたちに感じるものと、同レベルかな。特に君だけを疑っているというわけではないよ」
『そう……そう、だよね』
わずかだが、ホッとしたような色が浮かんでいた。
『僕……僕の能力は、「リード(read)」なんだ……。人に触れたときに、ワンフレーズだけど、相手の心を読むことができる。だけど、僕は自分から人に触るなんて本当に無理で……だから力を使えなくて……』
夢人の能力は、「リード」。
突然の吐露に驚きながら、頭の中では冷静に情報を整理する。
「それじゃあ、さっき食堂で、俺が君に手を触れたときは……?」
『うん。振り払ったときに、一瞬だったけど読めたよ。真剣に、あーちゃんさんを殺した犯人を見つけ出そうとしてた。だから、ライさんのことだけは、犯人じゃないと、断言できる……』
だけどドアを開けるのは怖いから、勘弁してほしい。
悪く思わないでほしいと告げて、室内外の通信は切れた。
「夢人くん。とても参考になったよ。話してくれてありがとう……」
プレイヤーの持つ特殊能力というやっかいな要素。
ひとつ、隠されたパズルのピースが埋まったことは大きい。
信ぴょう性は確かではないが、今の会話は信じてもいいような気がしていた。
――さぁこの後は……。
部屋に戻っても進展はないだろうから、船内の探索を続けるか。
行動方針を決めて、エレベーターホールのあたりに差しかかると――。
「ぬわっ」
足もとが滑っていて、危うく転びそうになった。
よく見ると、赤い色をした粘液が、うっすらと床にこびりついている。
(なんだ? これは……)
透明だが、ねばねばしている。ナメクジが通った跡のような……。
周囲を這うようにして調べると、廊下の隅に設置されている観葉植物の陰など、目立たないところにもそれは散見された。
もしかしたら、何者かが血溜まりを踏んだ靴で、ここを通った跡なのかもしれない。
時間が経っているのに乾きもせずに、妙にぬるぬるしているのは不気味だったが、なにかのヒントには違いない。
慎重にあとを辿っていった。おそらくエレベーターを使ったと推察し、扉が開いた中に乗り込む。
だがエレベーターに乗ったあと、そこから行き先を見失ってしまった。
行き先ボタンにも粘液物質が付着していないかと期待したが、そう甘くはなかった。
(困ったな……各階の床をくまなく調べていくしかないのか?)
しばらく考え込んでいたが、ふと気にかかっていたことが思い出されて、一階のボタンを押した。
関係があるかないかはわからないが、潰しておきたい疑問のひとつ。
マーリンさんが言っていた「倉庫の食料が減っている」という異変が気にかかったのだ。
食堂を辞したその足で、二階の宿泊ルーム区画へ戻り、黒須の部屋前の廊下を見にいくことにする。彼が殺害された犯行現場だ。
昨夜、そのままにしてあったはずの血溜まりは――宇佐美の言うとおり、拭き取ったようなわずかな痕跡を残し、なくなっていた。
(一体どういうことだ? わざわざ汚れを掃除する意味がわからない……ちゃんと綺麗になっているわけでもないし、どちらかというと雑に擦ったような感じだな……)
この中途半端具合からして、潔癖症の夢人が性分で手を加えたという説は薄い気がする。
ひととおりの確認は済ませたものの、ほかに手がかりになるようなものはなく、その場をあとにする。
ついでに少し話を聞ければと、途中にある夢人の部屋を訪ねた。
想定はしていたが、インターフォンから帰ってきた返事は、『悪いけど……』。
面会は断られてしまった。敵視されてはいないが、信用されてもいないらしい。
まぁ仕方がないか、とその場を離れようとすると――。
聞こえるか聞こえないかの小さな声で、『あの……』と呼び止められる。
「ん?」
『ライさんは……僕のこと、疑ってる……?』
どう答えようか迷ったが、正直に感じたままを口にした。
そうゲームの進行に大きな影響を与えるものでもないだろう。
「まぁ、疑っていないといえば嘘になるけど。でもそれは、他のプレイヤーたちに感じるものと、同レベルかな。特に君だけを疑っているというわけではないよ」
『そう……そう、だよね』
わずかだが、ホッとしたような色が浮かんでいた。
『僕……僕の能力は、「リード(read)」なんだ……。人に触れたときに、ワンフレーズだけど、相手の心を読むことができる。だけど、僕は自分から人に触るなんて本当に無理で……だから力を使えなくて……』
夢人の能力は、「リード」。
突然の吐露に驚きながら、頭の中では冷静に情報を整理する。
「それじゃあ、さっき食堂で、俺が君に手を触れたときは……?」
『うん。振り払ったときに、一瞬だったけど読めたよ。真剣に、あーちゃんさんを殺した犯人を見つけ出そうとしてた。だから、ライさんのことだけは、犯人じゃないと、断言できる……』
だけどドアを開けるのは怖いから、勘弁してほしい。
悪く思わないでほしいと告げて、室内外の通信は切れた。
「夢人くん。とても参考になったよ。話してくれてありがとう……」
プレイヤーの持つ特殊能力というやっかいな要素。
ひとつ、隠されたパズルのピースが埋まったことは大きい。
信ぴょう性は確かではないが、今の会話は信じてもいいような気がしていた。
――さぁこの後は……。
部屋に戻っても進展はないだろうから、船内の探索を続けるか。
行動方針を決めて、エレベーターホールのあたりに差しかかると――。
「ぬわっ」
足もとが滑っていて、危うく転びそうになった。
よく見ると、赤い色をした粘液が、うっすらと床にこびりついている。
(なんだ? これは……)
透明だが、ねばねばしている。ナメクジが通った跡のような……。
周囲を這うようにして調べると、廊下の隅に設置されている観葉植物の陰など、目立たないところにもそれは散見された。
もしかしたら、何者かが血溜まりを踏んだ靴で、ここを通った跡なのかもしれない。
時間が経っているのに乾きもせずに、妙にぬるぬるしているのは不気味だったが、なにかのヒントには違いない。
慎重にあとを辿っていった。おそらくエレベーターを使ったと推察し、扉が開いた中に乗り込む。
だがエレベーターに乗ったあと、そこから行き先を見失ってしまった。
行き先ボタンにも粘液物質が付着していないかと期待したが、そう甘くはなかった。
(困ったな……各階の床をくまなく調べていくしかないのか?)
しばらく考え込んでいたが、ふと気にかかっていたことが思い出されて、一階のボタンを押した。
関係があるかないかはわからないが、潰しておきたい疑問のひとつ。
マーリンさんが言っていた「倉庫の食料が減っている」という異変が気にかかったのだ。
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