プライスレス

風見☆渚

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あの日、あの時

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女性

ここは、どこにでもある、普通の交差点。
そう、どこにでもあるごくごく普通の・・・
でも、私にとっては、とても大切な場所。
大切で、忘れたくても、忘れられないキライな場所。
ここで、あの人は・・・
あれから、どのくらいたったのだろう。
何度、朝陽が昇り、夕陽が沈んだのだろう。
すっかり枯れて、流す涙がなくなったから、今日この場所に、また戻ってきた。
言い訳でしかないけれど、外に出るきっかけを自分の中に求めたのかもしれない。
あなたとの思い出は散り散りなってしまったけれど、微かな記憶だけが私の中に残っている。
あの時、何をどうすればよかったのだろう。
私に出来ることは、本当になにもなかったのだろうか。
あれから、自分でもよくわからなくなるくらいの時間がたったけど、後悔だけが残り、ずっと涙が止まらなかった。
周りのみんなはいつもの生活に戻っていったけれど、私はそんなすぐに切り替える事は出来なかった。
違うとは言われるけど、やっぱりあの人があぁなってしまったのは私のせいだ。
涙が枯れたのに、またここへ来て、そして、無駄に体から水分が失われていく。
乾いた頬を、その無駄な水分が重力に負けて下へ下へと落ちていく。
冷えて乾いた風に、私の頬も乾いていたから、その生ぬるい無駄な水分の温度を感じ、通り過ぎていくのが分かった。
ここでこうして、ただただ立ち尽くしている私に何があるのだろう。
私はどうすればいいのだろう。
もうあなたは、ここにいない。
他の誰でもない、あなたはもう、ここにいない。
あれから久しぶりに外を歩いたけど、今日は特に冷える気がする。
そう感じるのも、私だけだろうか。
体温が内側から失われていき、指先まで冷え切っていく気がする。
あなたと最後に交わした言葉は、ろくでもない喧嘩だった。
なんで、もう少し優しく出来なかったのだろう。
なんで、もう少しあなたの事が理解出来なかったのだろう。
なんで・・・
また、どうしようもないくらい、体の水分が無駄に失われていく。
微かな体温と一緒に。
小さくうずくまっていると、後ろから声が聞こえた。
聞き覚えのある声。
懐かしい声。
もしかして、あのことは夢だったのだろうか。
本当は、私の勘違いだったのではないだろうか。
そう信じて、私は小さな勇気で振り向いた。
でも、そこにあたなはいなかった。
あったのは、きれいな夕陽だった。
さっきまで、明るい陽射しが街を照らしていた気がしたのに。
私は、何時間ここにいたのだろう。
きれいな夕日。
空を、久しぶりに見た気がする。
とても、とても久しぶりに。
前を、上を、見た気がする。
きっと、あなたが言っている。
前を向いて歩きなさい、と。
前に進んでい行けば、全部忘れていけるのだろうか。
いやだけど、忘れたくないけど、思い出にして、前に進もうとちょっとだけ思った。
小さな勇気で前に。
1歩ずつでも、少しずつでも。





男性

僕には、ずっと想っている人がいる。
でも、それはそれは長い間、ずっと片想いのままだ。
きっとこれからも。
片想いでもかまわないと思っている。
ただ、彼女の助けになれれば、それだけで十分だ。
その彼女は、今は・・・
抜け殻のようになってしまった。
彼女に、好きな人がいることは知っている。
だって、彼女の好きな人は、僕の親友だから。
そう。
僕は、親友の彼女を好きになってしまったのだ。
あいつと一緒にいて、楽しそうにしている彼女が好きだった。
彼女と親友からすると、僕は共通の友達というものだ。
そして、その親友は、もうこの世にいない。
事故で死んでしまった。
そして、彼女も、死んだようになってしまった。
あの笑顔に、もう会えないのだろうか。
僕には、彼女にあの笑顔をあたえられない。
あの笑顔は、あいつにしかあたえることが出来ない。
もう一度、あの笑顔を取り戻してもらいたくて、何度か連絡をとってみたけど、反応がない。
様子を見に直接会いに行ったりもしたが、そもそも彼女から表情が消えてしまった。
僕には、どうすることもできないのだろうか。
あいつの死んだ現場。
毎日のようにここへ来て手を合わせる。
もう一度、彼女に笑ってほしかった。
あの笑顔を、もう一度見たい。
そう願いを込めて。
あいつが死んで、どのくらいたっただろうか。
事故現場に今日は人影が見えた。
そこには、小さくうずくまった彼女がいた。
彼女は、ただただ泣いている。
僕は、その背中を遠くから見ることしか出来なかった。
どのくらい見つめていただろうか。
少し肌寒い風がふく。
それもそのはず。
上の方にいたはずの太陽が沈みかかって、眩しい夕陽へと代わっていた。
そういえば、僕は昔からそうだ。
この気持ちを自分のなかで処理し、ただただ彼女を見守っている。
昔も今も、きっとこれからも。
何で、ここにおまえがいないんだ。
なんで、彼女を泣かしているんだ。
ただただ見守る事しか出来ない自分にも苛立った。
夕陽が沈みかけて街灯の灯りが彼女を照らす直前。
なぜだろう。
彼女の名前が僕の口からでてきた。
聞こえないであろう小さな声だった。
しかし、その時彼女が振り返り、僕の方を見た。
驚いた表情で僕を見ている。
でも、背中で沈みかかっている夕陽のせいで僕の顔はわからないはず。
彼女が振り返り、驚いた表情をした後、彼女は笑った。
あの笑顔で笑った。
そうか、あいつここにいたんだ。
彼女の涙を終わらせる為に。
そうだよな。
おまえって、そういう奴だよな。
眩しく光る夕陽は僕の後ろにあったが、彼女の笑顔の方が眩しかった。
僕は、まっすぐその笑顔を見守っている。
きっとこれからも見守る事しか出来ないけど、また彼女があの笑顔を毎日出来るように見守っていこう。
これからもずっと。

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