異世界ダークエルフの守護者 -Master of Dark Elf-

あんたれす

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本編

22 ダークエルフ達の食事

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 吾郎は屋上での昼食を終えると、屋上の端まで歩み寄って防御壁の間から砦の下を覗き込んだ。

 砦から少し離れた場所で、ダークエルフ達がイソイソと昼食の準備に取り掛かっている。

 巨大なジャガイモを小さく切り取る者達、巨大なロールパンを小さく切り分ける者達、火にかけられた大きな寸胴鍋の中を巨大なお玉でかき混ぜる者、それぞれが黙々と仕事をこなしていた。

「外国のテレビ映像で、暴動なみに我先にと食料を奪い合うのを見たことがあるが、こんな状況下でも、彼女達ダークエルフは見事なほどに規律正しいのだな」

 かなりの空腹であるはずのダークエルフ達がみせる落ち着きと規律ぶりに、吾郎はとある人種をふと思い出した。

「大災害時でもお互いを思いやり、整然と配給を受け取る為の列を作る……というのは俺達、日本人の特徴と同じだな。外国などでは、ハリケーンが来ようものなら街中で略奪が大発生だ。ダークエルフ達は恩義に厚く、礼儀を知り、規律も正しく、更には命懸けの特攻精神さえも持つ……なんかますます日本人ぽいな」

 吾郎は静かにダークエルフ達の行動を見つめ続けた。

 ロールパンを切り分ける係達の前には何十人ものダークエルフ達が列を作っており、ロールパンの切れ端を受け取ったダークエルフはそれを手に持ったまま、寝転んでいるケガ人の元に小走りで駆け寄ると、ケガ人の看病をしている仲間にロールパンの切れ端を渡し、看病をしていた者は受け取ったロールパンの切れ端を、ケガ人にゆっくりと食べさせてあげるのだった。

 ロールパンを運ぶ係のダークエルフ達は、誰も自らの口にロールパンを運ぶ者はおらず、まずはケガをした仲間の為にとロールパンの切れ端を運んでは看病している者に手渡し、またロールパンの列の最後尾に並ぶ。

 もちろん、ジャガイモを切り分ける者達、ロールパンを切り分ける者達、寸胴鍋をかき混ぜる者、手伝う事が出来ずに疲れて座っている者達ですら、ケガ人である仲間の回復を最優先にして、誰も食料には手を出さずに大人しく待っているのである。

 ハリケーン時に銃で威嚇射撃をしたところで、少しも暴動が収まらない外国の惨状と比べれば、誰かに強いられるわけでもないのに、ダークエルフ達の間で自然と保たれている秩序とモラルの高さは、日本人である吾郎ですら感心してしまうほどであった。

「しかし、本当に大したものだ。もしかすると、俺達、日本人よりも更に真面目で規律正しいかもしれない」

 吾郎は腕組みをしながら小さく一人頷く。

 なにせ、疲れて座り込む者達でさえ、文句のひとつも言わずにケガ人である仲間の回復を優先しているのだ。

 日本人の吾郎でさえ、疲れて座り込んでいる彼女達ぐらいは先に食べれば良いのにと思ってしまうぐらいである。

 だが、彼女達は皆、誰かに言われるわけでもなく、強制されるでもなく、その秩序と規律に自然と従い実行している。

 つまりは、その高い規律とモラルを、まるで呼吸をするかのように、当たり前にダークエルフ全員の中で共有しているということなのである。

「この異世界のダークエルフが、これほどにド真面目な種族とはな……」

 元の世界ではエルフの闇側として描かれるダークエルフであるが、この異世界でのダークエルフは規律正しく、優しく、恩の為には命すらもいとわない勇ましさまで持ち合わせているという、実に見事な種族のようであった。

「これが家族や部族内だけに見せる姿ならば、大して魅力を感じないのだが、他種族である俺の為にも、命を懸けてくれたというのは、やはり凄い」

 だからこそ、吾郎は「なぜ」という疑問が浮かび上がった。

「これだけの高潔そうな種族が、なぜに追放されたのか……だな」

 彼女達を死へと追放するに値するほどの何か恐ろしい原因があるのかもしれない、と吾郎は考えると同時に、だからこそ、謎に満ちたダークエルフ達に対する警戒感が完全には拭い去れないのであった。

 吾郎は「うーん」と小さく唸った。

「元の世界の歴史を紐解けば、罪人が追放されるというのは当然として、それ以外も多々あるにはある」

 所払い、流罪の中には、罪人だけでは無く、政争や戦争に負けた側、権力者にとって都合の悪い人物や一族、時には立派すぎるがゆえに権力者から疎まれて追放されるなんて事もある。

「追放された、という理由だけで危険であると断定はしないが、もうしばらくは様子見も大事だろうな」

 吾郎の中でのダークエルフ達に対する評価が、概ね「良し」へとランクアップしたのだった。

 一見、低い様に見えるかもしれないが、ぼっち気質の吾郎にとっては、近年稀に見るほどの好評価な相手が登場してきたという驚くべき程のことであった。


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