異世界ダークエルフの守護者 -Master of Dark Elf-

あんたれす

文字の大きさ
22 / 25
本編

21 腹ごしらえ

しおりを挟む
 吾郎は砦に戻ると屋上へと上がり、昨夜の突然のダークエルフ来訪のせいで、夕食後から放ったらかしな丸机の椅子に腰掛けると、丸机の上に置きっぱなしのペットボトル2Lの蓋を開けるやラッパ飲みをして乾いた喉を潤した。

「ふぅ……」

 異世界転移してからのドタバタ続きに、吾郎は疲れがこもったため息を長めに吐き捨てた。

「いやはや、本当に酷い目にあった」

 吾郎は丸机に突っ伏すように頭から上半身を倒れこませた。

 空は青く澄んでおり、白い雲がゆるゆると流れている。

「さすがは異世界というべきか、色々なイベントが目白押しだな。ハッキリ言って迷惑この上ないが」

 本気で死にかけた以上、吾郎にとっては迷惑以外の何ものでもなかった。

 吾郎はテーブルの上に置きっぱなしにしていた「アーモンド入りチョコ」の残りを、箱から一粒取り出して口に放り込む。

「とにかく、死にかけはしたが、何とかそれなりの金貨を確保することはできた」

 吾郎は丸机から上半身を起き上がらせると、通販ウインドウを立ち上げて右上にある残高を確認した。

「ダークエルフ達の為にいきなり出費がかさんだけれども、まだ残りが12万金貨もある」

 吾郎は腕を組むと安堵のため息を吐いた。

「無様とはいえ死にそうな危険を乗り越えただけの価値が、この金貨にはある」

 吾郎はゆっくりと青空を見上げた。

「そもそも、コツコツとやっていけば何とかなるだろうから、しばらくは今の装備でも十分だろうと考えたわけだが、いやはや、この異世界は甘くないどころかここまで激辛だったとは。用心をしているつもりでも、余裕で想像の斜め上を突き抜けてきやがる。ただし、先程のような本気で死にかける程の貴重な経験を乗り越えさせてもらった以上は、こちらも今後はそれ相応の対応をさせてもらおう」

 吾郎は目を閉じて色々と思案を重ねていく。

「んー……、ただ、その前に」

 吾郎はカセットコンロの上に置いてある片手鍋に水を注ぎ入れると火を点けた。

「腹が減っては戦ができぬ、だ。チートを使って腹も減ったことだし、とりあえず俺も昼飯にしよう」

 吾郎はネット通販でカップ式焼きそば(150金貨)を購入すると、テーブルの上に商品が淡い金色の粒子に包まれながら現れた。

 吾郎は無造作にペリペリと包装を剥がしていく。

「……しかし、まさか大黒蟻の大群とはな。ただ、そのお陰でダークエルフの律儀さを知る事ができたわけで」

 次いで吾郎は紙蓋を半分までめくり上げる。

「何が良いのか悪いのかは、見方によって変わってしまうものだからな」

 吾郎はカップの中からソースと青のりを取り出すと、片手鍋のお湯がカラカラと沸騰し始めた。

 吾郎はカップの中へ片手鍋を傾けてお湯を注ぎ入れてから紙蓋を閉めた後、ぼんやりと空を眺めながら3分を過ごす。

「……さてさて」

 吾郎は湯切り部分を開けて片手鍋の中にお湯を捨てると、麺の上にソースを回し入れた。

 割り箸でかき混ぜると、何とも香ばしい匂いが鼻孔をくすぐり、吾郎の口内に涎が溢れだす。

 吾郎は青のりをふりかけると、カップ式焼きそばに両手を添えて「強化鍛冶師(インフレスト)」の力を注ぎ込んだ。

 カップ式焼きそばが、あっという間に3倍近い大きさに巨大化する。

 麺の太さも3倍近い極太麺になってしまったが、吾郎はお構い無しにそのままズバズバとカップ式焼きそばをかき込み始めた。

「うま! 極太焼きそば、うま!」

 見た目は焼きうどんかという程であったが、カップ式焼きそばらしいモチモチ食感は失われてはいないので、かなりの絶品であった。

 出来上がってからの巨大化なので、麺もきちんと火が通っているしソースも十分に絡んで染み込んでいる。

 吾郎は焼きそばでさえもまるで飲み物でも飲むかのように、大して噛むこともなくズルズルズバズバと極太麺の喉越しを楽しみながら、巨大化させた超大盛り極太なカップ式焼きそばを一気に平らげるのだった。

「……はぁー、食った食った」

 吾郎の体内にはカロリーを魔力に変える「魔力変換回路」が組み込まれている。

 これにより魔力を必要とするチートを、魔力無しの吾郎でも使用することが可能となっているわけだが、この変換回路のせいで、吾郎はかなりの大食い体質に変わってしまっている。

 しかも、魔力が消耗している時などはより早く魔力変換がされてしまうので、消化能力も異様な程に高いのであった。

「食った食った……と思ったが、足りない」

 カップ式焼きそばを勢い良くかき込んだので、雰囲気的には食べた感じがしたのだが、吾郎の満腹中枢はあまりご機嫌では無さそうだった。

「となれば、先日のリベンジといきますか」

 吾郎は次いで、先日はそのままの普通な大きさで食べてしまったカレーパン(100金貨)を召喚もといネット通販で購入すると、それを10倍ぐらいに巨大化させてからかぶりつくとバクバクと一気に平らげていくのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

処理中です...