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第五章
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2 死因について
六月六日は音が入り乱れている日でした。深木先輩が病院に搬送された日です。救急車のサイレンが鳴り、道路にはパトカーが止まっています。授業なんてやっていられない状況です。特にセミの鳴き声がうるさい日でした。
騒々しいと集中力が途切れます。だから静かな場所でこの作品を書いています。自分の心にあらゆる音は届かない状態にして、机に向かって書き上げないといけない作品を仕上げています。
どうして深木先輩は死んだのでしょう。私たち高校生は死とは程遠い世界にいるはず。体は軽く、どんなに夜更かししても次の日は普通に授業を受けられます。宿題なんて誰かに見せてもらえばいい。
疑問に感じます。でもあまり深く考えたくありません。でも運命の輪が私を引き込みます。勇気を出して考えてみる。
答えは言葉が殺したということです。
私は人の悪口は言いたくありません。当たり前です。言葉は刃物です。嫌味を言えば相手も言い返してきます。でも今日はあえて言わなきゃいけません。
刃物を使う日です。
まず文芸部は癖のある人の集まりで、倦厭されがちな人たちがここにいます。
深木先輩は男口調で人の作品をズバズバと感覚に任せて酷評する。
松崎先輩や樫原先輩は論理的に話すのが得意で、批判をもらうと後輩たちはどうしても委縮しちゃいます。もう私は批判に慣れたけど、入部して間もない小夏ちゃんは気の毒なくらいで泣き出していましたね。小夏ちゃん、名前出してごめんね。
「下らない作品を書いているんじゃねえ!」
小夏ちゃんが書いた作品を深木先輩は吐き捨てるように言いました。私はこっそり聞いていました。
あんな言い方をされたら、誰だって言い返したくなるものです。誰だって嫌なことを言われたら反論したくなる。
文芸は別だと肌でわかる。圧倒的な実力主義です。知名度がある者の意見は絶対。ここでは深木志麻が女王だった。
私は女王を見返してやりたかった。誰だって言われっぱなしは嫌だもの。
夢はみるのではなく叶えるもの。
私の好きな言葉です。どんなに作品を否定されて落ち込んだ時は著名人の名言集を読んで気持ちを切り替えています。ぶっちゃけると私は気持ちの切り替えが得意な人なの。
ですが私の気持ちとは裏腹に外界はひどい誹謗中傷で溢れている。だから流そうと思っているの。
当時の私は見返したくて足しげく深木先生の邸宅を訪れ、教えを乞いました。成果があっという間に出てしまいました。第五十四回ライト文芸賞を取りました。史上最年少というおまけ付きで!
実績を出した。紛れもない事実です。編集者から電話がありましたもの。有頂天という感覚はこういうことだよね。
部室に向かう足取りは当然軽いものでした。檜で作られた扉を開けようとドアノブに手を伸ばすと一番に聞こえてきたのは悪口でした。
「美星が書いた壮麗なる日々を読んで頭に来ているのよ。どうしてあの子にそんな才能があったのか理解に苦しむわ。どうにも解せないのよ」
悪口を言っていたのは松崎先輩の声でした。どんなに遠くにいてもあの澄んだ声は聞き取りやすい声ですからよくわかります。人とのコミュニケーションで大事。ですが、耳を密かに澄ますと、どうやら悪口を言っているようでした。よくも公然と言えたものだなと私は嫌な気分になりました。
しかし、誰と話しているのでしょう?
もそもそした声色が注意深く扉に耳を押し当てるとかろうじて聞こえてきます。深木先輩でしょうか。なら納得です。松崎先輩は秘書ですからいつも行動を共にしています。
「ばかばかしい」
つかつかと扉に近づいてきます。別館に隠れる死角はありません。
バンと強い勢いで扉が開きます。
目と目が合ってしまいました。最悪の遭遇です。じっとにらみつけられていました。視線を逸らすことができません。あまりにも恐ろしかったからです。本当の殺意を見せつけられました。
何も言えずにその場は終わりました。
部室内に入ると中にいたのは深木先輩でした。どうにも浮かない表情をしています。グズグズと鼻を啜っています。泣いているのではと思いました。
「はい、テッシュです」
チーンと鼻をかみました。私は新人賞を取ったことを伝えました。反応は期待したほどではありませんでした。目の前にいるのはいくつもの賞を取っている方です。言い争う声がしたので何かあったのかと聞いてみました。
なんでも書くことに飽きているのに、次の執筆をどうするのか執拗に聞かれるのが嫌だったそうです。
「あいつは嫉妬しているのよ。とりあえずよかったな。最近、俺の家によく来るから色々得られるものがあったみたいだな」
まるで興味がない素振りです。恐らくこれから大変だと伝えたかったのでしょう。そう言えばいいのに、分かりづらい。
まあ先輩らしい教え方です。あと二、三言だけ交わして私は帰りました。
松崎先輩は私に先を越されて明らかにイライラしていました。
なぜ「ばかばかしい」なんて言うのだろう。私には理解が及びません。言葉を扱うなら品性が必要でしょう。
松崎先輩と深木先輩の関係は周りから見ても素晴らしいものです。深木志麻の創造力は松崎先輩の細かい支援の上に成り立っています。まさに相互補完と呼ぶべきもの。一方がないものを補うべく通じ合っている。幼いころから切磋琢磨した関係性は私にはなくて憧れます。
しかし死が蜜月関係にある二人を永遠に裂きます。
知られていない創作じゃないかと言われるかもしれません。深木先輩は交通事故に遭っています。あれはゴールデンウイーク明けの五月七日です。深木先輩と私は文学春秋社の対談イベントに向かうために移動中でした。
背後からバイクがものすごいスピードで接近してきます。背後からドンと私の体は突き飛ばされます。
「わっ!」
叫び声がすると同時に、隣を見たら志麻先輩がいません。跳ね飛ばされガードレールに頭を打って倒れています。
「先輩! しっかりしてください!」
「ばか野郎!」
ブーンとバイクは走り去ります。
「待ちなさい!」
ひき逃げです。私は途中まで追いかけましたが逃げられてしまいました。救急車を呼びます。
ガードレールに打ち付けて赤い斑点がアスファルトを濡らしています。血です。
「事故の件は誰にも言わないように」
「先生。先輩は?」
「命に別状はないが、頭を打っている。しばらく様子を見る必要がある。医師からそう言われている。君は自宅に戻りなさい。出版社には私から話をしておこう」
誠一郎先生の言葉に従うしかありません。お礼をするためにご自宅を訪れたときに先生の口からききました。誰も知らない事実でしょう。
六月六日より早い段階で亡くなっていた線もありますけど、実際に六日に救急車が運んで行った遺体は誰なのかって話になっちゃいます。
別館はいわくつきの場所です。誰かが自殺したかもしれません。もしそうなら学校は不祥事が起こるとすぐ隠蔽したがるから、生徒たちは知らないでしょう。
全くまかふしぎですね。やはり別館は呪われていますから。
最後に死因について私の見解を述べさせていただくと事故死だと主張します。事実、松崎先輩との言い争いの後で事故に遭っています。最後に見たのはそのときです。事故で患った傷が思っている以上に深くて亡くなったのではないでしょうか。ニュースで報道されないのは有名過ぎるからで深木先生が伏せるよう関係者に言い含めている可能性はあります。
完
朗読が終わって灯りが付いた。
シーンと場の空気が静まり返る。誰一人として他の部員を非難した者がいなかったからだろう。
「藤垣さん、素敵な朗読をありがとう。なかなか芯のある言葉でした。こういう由緒正しい規律ある学園にいれば余計に目上の人へ意見いうのは難しいもの。だから文芸を通した表現は不平不満を昇華させる機能を持っているかもしれません。大変面白い小説です」
陽花は静かに感想を述べる。
「私の選んだカードは事故死でした。でも本当はそうじゃなくて、間接的他殺と呼ぶべきものです。あの日の言い争いを私は聞いていました。言葉は刃物になり得ます」
美星の言葉に憤り込められている。「ばかばかしい」という下劣な一言が深木志麻を追い詰めた。傷心の果てに事故に巻き込まれた主張はないわけでない。
「確かに私はばかばかしいという表現をしました。ひどい品のない言葉だわ。謝罪します。でも、私の言葉で志麻は傷ついて、注意散漫になり交通事故に遭う。因果関係があったかどうかは証明できていないわ」
「はっきり言わせてください。あの日、ばかなんて言わなければ、深木先輩は感傷に浸れて、注意散漫になって車に轢かれるなんてなかったんです!」
「横で見ていたように言うわね。志麻はプロの小説家です。誰かに貶されるなんて日常茶飯事。放心状態で交通事故に遭う。筋書きとしては偶発性が高くて苦しいわね。ああ、もしかしてあなたが――」
陽花は鮮やかに美星の指摘を返す。
「いいカウンター」
ポツリと実歩が嫌味をつぶやいた。
「確かに藤垣さんのおっしゃるとおり言葉は刃物。使い方を誤れば、鋭い刃物と成り得る。あなたが聞いていた言い争いについてお教えしましょう」
「ぜひ聞かせてください」
「志麻が喫煙している姿を見てしまった。未成年者がしていいことではないでしょう。だから改めるよう言ったのよ。ですが返答は六月六日に死ぬだって……ばかの一つぐらい浴びせてあげたくなるでしょう」
「先輩が煙草を吸っているところなんて見ていませんけど?」
「単にあなたが見ていないだけよ。私が品なき言葉を認めるわけがございません。ですが、あまりにも愚かしい発言には毅然と反論します。志麻の素行が悪いから注意した。ただそれだけよ」
美星はじっと陽花をにらみつける。
「ああ怒らないで。私はあなたと喧嘩なんてしたくないの。誤解があるわ。私はあなたの筆力を見誤っていました。私は応募した作品が落とされてイライラしていた。敵愾心をあなたに向けたことはお詫びするわ。ごめんなさい。でも、あなたの作品を聞いて違和感を覚えたの」
「何ですか? 文句があるなら言ってください!」
「話すのは審議の時にしましょう。まだお二人の朗読が残っているから」
陽花は話を遮った。物語は中盤に差し掛かっている。まだまだ先は長い。
六月六日は音が入り乱れている日でした。深木先輩が病院に搬送された日です。救急車のサイレンが鳴り、道路にはパトカーが止まっています。授業なんてやっていられない状況です。特にセミの鳴き声がうるさい日でした。
騒々しいと集中力が途切れます。だから静かな場所でこの作品を書いています。自分の心にあらゆる音は届かない状態にして、机に向かって書き上げないといけない作品を仕上げています。
どうして深木先輩は死んだのでしょう。私たち高校生は死とは程遠い世界にいるはず。体は軽く、どんなに夜更かししても次の日は普通に授業を受けられます。宿題なんて誰かに見せてもらえばいい。
疑問に感じます。でもあまり深く考えたくありません。でも運命の輪が私を引き込みます。勇気を出して考えてみる。
答えは言葉が殺したということです。
私は人の悪口は言いたくありません。当たり前です。言葉は刃物です。嫌味を言えば相手も言い返してきます。でも今日はあえて言わなきゃいけません。
刃物を使う日です。
まず文芸部は癖のある人の集まりで、倦厭されがちな人たちがここにいます。
深木先輩は男口調で人の作品をズバズバと感覚に任せて酷評する。
松崎先輩や樫原先輩は論理的に話すのが得意で、批判をもらうと後輩たちはどうしても委縮しちゃいます。もう私は批判に慣れたけど、入部して間もない小夏ちゃんは気の毒なくらいで泣き出していましたね。小夏ちゃん、名前出してごめんね。
「下らない作品を書いているんじゃねえ!」
小夏ちゃんが書いた作品を深木先輩は吐き捨てるように言いました。私はこっそり聞いていました。
あんな言い方をされたら、誰だって言い返したくなるものです。誰だって嫌なことを言われたら反論したくなる。
文芸は別だと肌でわかる。圧倒的な実力主義です。知名度がある者の意見は絶対。ここでは深木志麻が女王だった。
私は女王を見返してやりたかった。誰だって言われっぱなしは嫌だもの。
夢はみるのではなく叶えるもの。
私の好きな言葉です。どんなに作品を否定されて落ち込んだ時は著名人の名言集を読んで気持ちを切り替えています。ぶっちゃけると私は気持ちの切り替えが得意な人なの。
ですが私の気持ちとは裏腹に外界はひどい誹謗中傷で溢れている。だから流そうと思っているの。
当時の私は見返したくて足しげく深木先生の邸宅を訪れ、教えを乞いました。成果があっという間に出てしまいました。第五十四回ライト文芸賞を取りました。史上最年少というおまけ付きで!
実績を出した。紛れもない事実です。編集者から電話がありましたもの。有頂天という感覚はこういうことだよね。
部室に向かう足取りは当然軽いものでした。檜で作られた扉を開けようとドアノブに手を伸ばすと一番に聞こえてきたのは悪口でした。
「美星が書いた壮麗なる日々を読んで頭に来ているのよ。どうしてあの子にそんな才能があったのか理解に苦しむわ。どうにも解せないのよ」
悪口を言っていたのは松崎先輩の声でした。どんなに遠くにいてもあの澄んだ声は聞き取りやすい声ですからよくわかります。人とのコミュニケーションで大事。ですが、耳を密かに澄ますと、どうやら悪口を言っているようでした。よくも公然と言えたものだなと私は嫌な気分になりました。
しかし、誰と話しているのでしょう?
もそもそした声色が注意深く扉に耳を押し当てるとかろうじて聞こえてきます。深木先輩でしょうか。なら納得です。松崎先輩は秘書ですからいつも行動を共にしています。
「ばかばかしい」
つかつかと扉に近づいてきます。別館に隠れる死角はありません。
バンと強い勢いで扉が開きます。
目と目が合ってしまいました。最悪の遭遇です。じっとにらみつけられていました。視線を逸らすことができません。あまりにも恐ろしかったからです。本当の殺意を見せつけられました。
何も言えずにその場は終わりました。
部室内に入ると中にいたのは深木先輩でした。どうにも浮かない表情をしています。グズグズと鼻を啜っています。泣いているのではと思いました。
「はい、テッシュです」
チーンと鼻をかみました。私は新人賞を取ったことを伝えました。反応は期待したほどではありませんでした。目の前にいるのはいくつもの賞を取っている方です。言い争う声がしたので何かあったのかと聞いてみました。
なんでも書くことに飽きているのに、次の執筆をどうするのか執拗に聞かれるのが嫌だったそうです。
「あいつは嫉妬しているのよ。とりあえずよかったな。最近、俺の家によく来るから色々得られるものがあったみたいだな」
まるで興味がない素振りです。恐らくこれから大変だと伝えたかったのでしょう。そう言えばいいのに、分かりづらい。
まあ先輩らしい教え方です。あと二、三言だけ交わして私は帰りました。
松崎先輩は私に先を越されて明らかにイライラしていました。
なぜ「ばかばかしい」なんて言うのだろう。私には理解が及びません。言葉を扱うなら品性が必要でしょう。
松崎先輩と深木先輩の関係は周りから見ても素晴らしいものです。深木志麻の創造力は松崎先輩の細かい支援の上に成り立っています。まさに相互補完と呼ぶべきもの。一方がないものを補うべく通じ合っている。幼いころから切磋琢磨した関係性は私にはなくて憧れます。
しかし死が蜜月関係にある二人を永遠に裂きます。
知られていない創作じゃないかと言われるかもしれません。深木先輩は交通事故に遭っています。あれはゴールデンウイーク明けの五月七日です。深木先輩と私は文学春秋社の対談イベントに向かうために移動中でした。
背後からバイクがものすごいスピードで接近してきます。背後からドンと私の体は突き飛ばされます。
「わっ!」
叫び声がすると同時に、隣を見たら志麻先輩がいません。跳ね飛ばされガードレールに頭を打って倒れています。
「先輩! しっかりしてください!」
「ばか野郎!」
ブーンとバイクは走り去ります。
「待ちなさい!」
ひき逃げです。私は途中まで追いかけましたが逃げられてしまいました。救急車を呼びます。
ガードレールに打ち付けて赤い斑点がアスファルトを濡らしています。血です。
「事故の件は誰にも言わないように」
「先生。先輩は?」
「命に別状はないが、頭を打っている。しばらく様子を見る必要がある。医師からそう言われている。君は自宅に戻りなさい。出版社には私から話をしておこう」
誠一郎先生の言葉に従うしかありません。お礼をするためにご自宅を訪れたときに先生の口からききました。誰も知らない事実でしょう。
六月六日より早い段階で亡くなっていた線もありますけど、実際に六日に救急車が運んで行った遺体は誰なのかって話になっちゃいます。
別館はいわくつきの場所です。誰かが自殺したかもしれません。もしそうなら学校は不祥事が起こるとすぐ隠蔽したがるから、生徒たちは知らないでしょう。
全くまかふしぎですね。やはり別館は呪われていますから。
最後に死因について私の見解を述べさせていただくと事故死だと主張します。事実、松崎先輩との言い争いの後で事故に遭っています。最後に見たのはそのときです。事故で患った傷が思っている以上に深くて亡くなったのではないでしょうか。ニュースで報道されないのは有名過ぎるからで深木先生が伏せるよう関係者に言い含めている可能性はあります。
完
朗読が終わって灯りが付いた。
シーンと場の空気が静まり返る。誰一人として他の部員を非難した者がいなかったからだろう。
「藤垣さん、素敵な朗読をありがとう。なかなか芯のある言葉でした。こういう由緒正しい規律ある学園にいれば余計に目上の人へ意見いうのは難しいもの。だから文芸を通した表現は不平不満を昇華させる機能を持っているかもしれません。大変面白い小説です」
陽花は静かに感想を述べる。
「私の選んだカードは事故死でした。でも本当はそうじゃなくて、間接的他殺と呼ぶべきものです。あの日の言い争いを私は聞いていました。言葉は刃物になり得ます」
美星の言葉に憤り込められている。「ばかばかしい」という下劣な一言が深木志麻を追い詰めた。傷心の果てに事故に巻き込まれた主張はないわけでない。
「確かに私はばかばかしいという表現をしました。ひどい品のない言葉だわ。謝罪します。でも、私の言葉で志麻は傷ついて、注意散漫になり交通事故に遭う。因果関係があったかどうかは証明できていないわ」
「はっきり言わせてください。あの日、ばかなんて言わなければ、深木先輩は感傷に浸れて、注意散漫になって車に轢かれるなんてなかったんです!」
「横で見ていたように言うわね。志麻はプロの小説家です。誰かに貶されるなんて日常茶飯事。放心状態で交通事故に遭う。筋書きとしては偶発性が高くて苦しいわね。ああ、もしかしてあなたが――」
陽花は鮮やかに美星の指摘を返す。
「いいカウンター」
ポツリと実歩が嫌味をつぶやいた。
「確かに藤垣さんのおっしゃるとおり言葉は刃物。使い方を誤れば、鋭い刃物と成り得る。あなたが聞いていた言い争いについてお教えしましょう」
「ぜひ聞かせてください」
「志麻が喫煙している姿を見てしまった。未成年者がしていいことではないでしょう。だから改めるよう言ったのよ。ですが返答は六月六日に死ぬだって……ばかの一つぐらい浴びせてあげたくなるでしょう」
「先輩が煙草を吸っているところなんて見ていませんけど?」
「単にあなたが見ていないだけよ。私が品なき言葉を認めるわけがございません。ですが、あまりにも愚かしい発言には毅然と反論します。志麻の素行が悪いから注意した。ただそれだけよ」
美星はじっと陽花をにらみつける。
「ああ怒らないで。私はあなたと喧嘩なんてしたくないの。誤解があるわ。私はあなたの筆力を見誤っていました。私は応募した作品が落とされてイライラしていた。敵愾心をあなたに向けたことはお詫びするわ。ごめんなさい。でも、あなたの作品を聞いて違和感を覚えたの」
「何ですか? 文句があるなら言ってください!」
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