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第一章 七川蒔
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電話は無情に切れる。蒔はそれ以上電話する気にはなれなかった。圧倒的な脱力感が全身に広がっていく。
何もかもが終わった。職を失った。懲戒解雇だ。これまで通り職業が決まるはずもない。就けたとしてもロクな仕事ではない。何より裏切られた。
武蔵小杉のタワーマンションは馬鹿にならない家賃がかかる。蒔はこれまで将来への投資とばかりに金を湯水のように使ってきて、全くの長金はない。資金は枯渇し、家を追い出される。
そうなればどこに行けばいいのだろう?
実家に戻る?
大学を卒業して家業を継がず、家出同然に飛び出て自分を両親は受け入れるだろうか。
あんな田舎の米問屋なんか誰が継ぐか。あんな両親に頭を下げるなんて蒔のプライドが許さなかった。
他の安いところに引っ越してアルバイトで食いつなぐ?
安月給で年下に使われている自分を想像してみたら到底受け入れられない現実だ。
蒔をさらに追い詰めたのは後日送られてきた「損害賠償請求書」だ。一億二千六百万という数値に驚きを隠せなかった。
こんなの払えない……
お金を懐に収めたつもりはなかった。会社と裁判しても勝ち目はない。横領をしたのは事実だし、向こうは万全の態勢で裁判に臨むだろう。
まだ三十五なのに……
つい先月までは人生の見通しは明るかった。三十代で会社の役員。
上手くいけば四十代で社長になれる。そう信じていたはずだった。
インテリアやファッションにはずいぶん金をかけた。蒔は閉まっていた自らを包んでいた虚飾を握り締めた。
自分は大企業の部長。最年少での抜擢。就任したときの万雷の拍手。SNSにアップされた自分はときめいていた。
でも今はどうだろう。鍍金は剥がれ落ちてしまった。自分の醜い素顔を隠すものはない。
顔に生暖かい感覚がする。ペットのパピーだ。
今の自分に残っているのは健気に尻尾を振るポメラニアンのだけパピーだけだ。
「パピー助けてよ。どうしたらいいの?」
蒔はぐずついた。自分はどうなってもいい。でもパピーには何の罪もない。自分がいなくなったら、この子は生きていけない。自分もそうだ。信じていた人に見捨てられた。もはやパピーにすがるしか生きていけない。
「どうする? 私、お金ないのよ」
パピーをぐっと抱きしめたとき、ふと頭に思い出した。まだ可能性は残っているかもしれない。
机の引き出しに閉まった一枚の名刺が目に留まる。蒔の瞳にささやかな希望が蘇る。
まだ何とかなるかもしれない。今の生活水準を落としたくない。
自分はまだやれる。ここで終わるわけにはいかない。
蒔は名刺に書かれていた番号に電話をかける。名刺に書かれている電話番号は最後の命綱といってよかった。
何もかもが終わった。職を失った。懲戒解雇だ。これまで通り職業が決まるはずもない。就けたとしてもロクな仕事ではない。何より裏切られた。
武蔵小杉のタワーマンションは馬鹿にならない家賃がかかる。蒔はこれまで将来への投資とばかりに金を湯水のように使ってきて、全くの長金はない。資金は枯渇し、家を追い出される。
そうなればどこに行けばいいのだろう?
実家に戻る?
大学を卒業して家業を継がず、家出同然に飛び出て自分を両親は受け入れるだろうか。
あんな田舎の米問屋なんか誰が継ぐか。あんな両親に頭を下げるなんて蒔のプライドが許さなかった。
他の安いところに引っ越してアルバイトで食いつなぐ?
安月給で年下に使われている自分を想像してみたら到底受け入れられない現実だ。
蒔をさらに追い詰めたのは後日送られてきた「損害賠償請求書」だ。一億二千六百万という数値に驚きを隠せなかった。
こんなの払えない……
お金を懐に収めたつもりはなかった。会社と裁判しても勝ち目はない。横領をしたのは事実だし、向こうは万全の態勢で裁判に臨むだろう。
まだ三十五なのに……
つい先月までは人生の見通しは明るかった。三十代で会社の役員。
上手くいけば四十代で社長になれる。そう信じていたはずだった。
インテリアやファッションにはずいぶん金をかけた。蒔は閉まっていた自らを包んでいた虚飾を握り締めた。
自分は大企業の部長。最年少での抜擢。就任したときの万雷の拍手。SNSにアップされた自分はときめいていた。
でも今はどうだろう。鍍金は剥がれ落ちてしまった。自分の醜い素顔を隠すものはない。
顔に生暖かい感覚がする。ペットのパピーだ。
今の自分に残っているのは健気に尻尾を振るポメラニアンのだけパピーだけだ。
「パピー助けてよ。どうしたらいいの?」
蒔はぐずついた。自分はどうなってもいい。でもパピーには何の罪もない。自分がいなくなったら、この子は生きていけない。自分もそうだ。信じていた人に見捨てられた。もはやパピーにすがるしか生きていけない。
「どうする? 私、お金ないのよ」
パピーをぐっと抱きしめたとき、ふと頭に思い出した。まだ可能性は残っているかもしれない。
机の引き出しに閉まった一枚の名刺が目に留まる。蒔の瞳にささやかな希望が蘇る。
まだ何とかなるかもしれない。今の生活水準を落としたくない。
自分はまだやれる。ここで終わるわけにはいかない。
蒔は名刺に書かれていた番号に電話をかける。名刺に書かれている電話番号は最後の命綱といってよかった。
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