孤島に浮かぶ真実

平野耕一郎

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第二部

20

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 堀田君に引きつられた警察官は全部で4名だ。彩月は勉君の居場所を案内した。私たちも、後に続いていく。

 横断歩道を渡り、私たちは港に入った。右手は海に面していて、漁師の船が数隻ほど停泊してあった。一方の左手には、彩月が言っていた空き倉庫がある。採った魚を降ろすのだろう、魚の匂いが立ち込める。

 海沿いをかけていくうちに、口汚い声が耳に入ってくる。

 どんどん近くまで聞こえてくる、憎しみの感情が言葉となって……

 テメーがやったんだろとか、いい加減口を開けとか、暴言が絶え間ない。

 港の端にある空き倉庫に、勉はいた。見たくはない現実がそこにあった。

 勉君は何度も何度も蹴られて、動けなくなっていた。白いワイシャツは血で汚れている。顔はうずくまっているので見えないが、その方がいい。ただでさえ状況は悲惨だ。

 間一髪だ。

「こらあ! やめなさい!」

 四人の制服姿の警察官が、一斉に警笛を鳴らした。

 音に気付いた不良たちは、暴動をやめてその場から逃走しだした。空き倉庫は、普段は海側に面した部分に開けていて、背後は壁になっていた。

 当然、不良と警察官が激突する羽目になった。

 数分の間格闘戦になった。四対六。警察官の方が数では不利だったが、訓練を受けた者の前に、鎮圧されてしまった。

「くっそ!」

 ただ1人だけ、勉に喧嘩を仕掛けた主犯格の男が逃げ去ってしまう。応援がそのあと駆け付けたが、逃げ足が速くて取り逃がしてしまったようだ。

 残った5人の男には、手錠がかけられ彼らの自由を奪った。

 現場近くまで来て、勉君の顔が勉君ではなくなっていることに衝撃を受けた。顔は紫色に腫れ上がり、片目には青タンが出来ている。

 私は、人がこんな風に殴られ地べたに打ちひしがれている姿を初めて目にした。そんな世界とは無縁だと思っていた。ましては、人の少ない小島で暴動を見るなんて……

 やがて救急車とパトカーが同時にやってきた。狼藉者はパトカーへ、被害者は救急車へと乗せられていく。

 日は没しかけている。私たちは、魚臭いこの倉庫でぼんやりと打ちひしがれていた。

 彩月はしゃがみ込み涙した。

 状況が状況で、帰ろうとはならなかった。

 私も疲れていた。昼は緑を助け、午後は勉君を……

 全員が気を取り戻すまで、時間が必要だった。おそらく彩月の涙が収まるまで。そのうち、涙が枯れて彼女も平静さを取り戻していた。

 立ちあがって、彩月は晴れやかに笑う。

「あのバカ。今度とっちめてやる」

 私も笑った。

「こんなとこにいても仕方ないよ。臭いし、出よ」彩月が、その場にいた全員に声をかける。みんなも分かっていた。彼女が周りを鼓舞し、元気にしてくれると。

 もう日は暮れた。1日は終わるのだ。すべきことはやった。あとは帰るだけだ。

 倉庫を出た。海は夕陽に照らされ光を帯びていた。目の前には、面影丸が港につながれ

 波に揺らされていた。

 大通りに、入ると歩道は提灯でライトアップされていた。店に人が入って活気に満ちていた。

 私は途中でみんなと別れ、彩月と2人きりになる。

 大通りを右に曲がり、雑木林に両脇を覆われた道を進む。夜になると枝や葉が揺れ不気味だった。1人じゃなくてよかったと思った。

 家の近くまで来て彩月と別れた。

 私は玄関に入ると、すぐに「遅かったわね」と言われた。母は心配していた。一応厳しくはないが、門限六時と決まっているのだ。

 母には、部活よとあからさまな嘘をついた。ラケットも持っていないのによく言えたものだ。

 部屋に入って着替えるとごろりとベッドに寝そべった。夕食まで少しだけ時間がある。頭を少し休ませて整理しよう。

 ぼんやりと現に耽ると何かが駆ける音がした。タイヤが地面を擦る音か?

 車ではないが……まあいい……

 眠気が、私をどっと押し寄せ遠いところへ連れて行く……
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