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第二部
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帰り道。私はいつもの、彩月・メイ・佐津間・勉・堀田たちと一緒に帰宅の徒に付いていた。私はぼんやりと登校時と道が違うと知る。これじゃ家には遠回りだと思ったが、雰囲気が気まずく言えなかった。
ちょうど港近くまで来ていて、私が初めて島に降り立った波止場や桟橋がよく見える。
「なあ」佐津間君がぼやくように言った。
しかし全員は前を向いたまま反応を示さなかった。
「美作の奴、駄目なんのかな?」
「バカ、そんなこと言うなよ……」
反応したのは佐津間君だ。彼は、厳しい目つきをして、堀田君を諭す。そのさまは悪さをした人をとがめる警察官のようだ。その振る舞いを見た人に、彼の父親が実は警察官ですと教えたら、誰もが納得をするだろう。
「確信がないのに、そういうこと言うなって」
「うん、わりー」
佐津間君はしょげて、何も言わなくなった。また静かになった。
トボトボと全員がうつむきがちに歩いていると、唐突にガザガザと粗雑な足音が聞こえてきた。彼らは私たちの前に立ち、進路を妨害した。
どこかでお目にかかった顔ぶれだった。
金髪に、茶髪。好戦的な目つき。人を小ばかにしたような口――ダーツ。喫茶店でダーツをしていたときに、絡んできた島の不良たち。
メンバーは私たちと同じ六人。
「おい勉」
中央にいた金髪の背の高い髑髏マークのTシャツを着た男が言う。物言いが高圧的で、周りにいるメンバーも、どこか敵意に満ちていた。寒気がするほどに。
「ちょっと来いよ」
「なんでだよ?」勉君は明らかに嫌そうに返事をした。
「いいから顔出せって言ってんだよ!」
彼は周りの目も気にせず、大声をあげ私たちを恐怖で縛り上げようとした。その先には勉の差出しを求めていた。
「ちょっと」彩月が前に出る。
「あ?」
「いい加減消えてくんない?」
「はあ?」
「あんたたちとはね……」
ボンっ!
男は近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばす。カラカラと蓋が外れ、転がった。
目は殺気を飛ばし、答えを求めていた、自分たちに沿う答えを……
「また同じ目にあいてーか?」
彩月は口をつぐみ後ろに下がった。目の前にいる不良たちのおかしさに気づいたようだ。
今、恫喝をしている男だけではない。背後にいる仲間から異様な殺意を感じるのだ。不良は確かに挑戦的で、理不尽なところはある。ただ前回会った時とは違い、妙に瞳が狂気に取りつかれている。
「あー分かった。分かった……」
勉君は彼らの瞳を感じ取れていないのだろうか?
彼はぼさぼさ頭をかき、彼らの後に付いていく。
「ねえ勉ってば!」
彩月が心配そうに叫ぶ。
しかし勉は、こっちを一目見て笑っている。彼は底抜けの大馬鹿者だと私は思った。
彼らは道路を渡り、港の方へ向かっていき、姿を消した。
「おいおい、やばいぞ。あれは……」うろたえた堀田君の声。
「俺、警察署に行ってくるわ。こっから近いし」佐津間君が冷静に言う。
「うん」
「あと、あいつらどこに行きそう?」佐津間君は落ちていていた。
「多分、港の空き倉庫――あそこならだれも今は人来ないし。そうだ、気づかれないよう探ってくる!」
「おい、待て……待ってって!」
堀田君が呼び止めるが、彩月は言うが否や走り出していた。
一人が去った。後に残された者は、彩月の思いがけぬ行動に、何をすればいいのか見失っていた。
「ごめんうちも、サッチーほっとけない」
私はメイの顔は見て知った。彼女の瞳はもう決まっている。もはや引き留めることはできない――また一人いなくなった。
「ったく、見つかったらどうすんだ?」
「佐津間君は、早く警察署に。私と堀田君は、ここに残りましょ。彩月たちが帰ってきたときに、いなかったら困るわ」
「よし、行ってくる!」
佐津間君は私の顔を見て納得した様子で、その場を後にした。
これで、いい。やるべきことはやった。後は待つだけだ……
私は辺りを見回して、つかの間の休息に取る。
景色は相変わず、のどかで何事もなく過ぎている。時間は、緩やかで落ち着きと安らぎがあった。
でも、なぜこんなにも世界は平和に満ちているのに、その上を歩く人は平和を享受できないのだろう?
「星河さん……」
押し殺したような堀田君のくぐもった声が、私の耳に入ってきた。
「何で、そんなに冷静なの?」
「え?」
私は質問の意味を理解しかねていた。
「昼、美作が倒れた。あいつは血を吐いてたぜ。でも星河さんは、人工呼吸までして助けようとした。それに今も皆が勝手に動いている中で、指示出してた……」
声が震えている……私は何か間違ったことをしたのだろうか?
私は、ただ慌てたくないのだ。でも今の彼に言っても理解してもらえないと思った。
返事に困って私は、沈黙でその場を押し通してしまう。
やがて彩月たちが帰ってきた。
「ねえやばいってば。勉、勉が……」
彩月の顔は切羽詰まっている、涙声だ。私は、彼女を冷静にさせなければいけない。
「どうしたの? ねえとにかく落ち着いて」
「殺されちゃう!」
その一言に、ハッとさせられる。
私は視線をメイの顔に移す。勉の彼女である彩月より、客観的に状況を説明できるはずだ。
「殴られたの?」
メイは、私の言葉に自信なさげに言う。
「かなり……メッタメッタに……」
彼女もまた見たくない現実を見せられたのだ。顔は引きつって、息苦しそうなメイ。彼女の瞳から涙が零れ落ちる。
「ねえどうしよ! どうしよ! 殺されちゃうよ!」
彩月は四歳の子どもになっていた。
「落ち着け! 動くな! じっとしてろ!」
怒号が人気のない港にこだまして響き渡る。それは、下手な慰めより説得力があって、効果を発揮した。
「とにかく、堀田が来るまでまとう……いや、ごめん」
堀田君は、自らの声に狼狽して目のやり場に困っていた。
待つべきだ。下手に行っても返り討ちにあうだけだ。そして思った。分かっていることが一つある――今日という一日は、本当に呪われている。
ちょうど港近くまで来ていて、私が初めて島に降り立った波止場や桟橋がよく見える。
「なあ」佐津間君がぼやくように言った。
しかし全員は前を向いたまま反応を示さなかった。
「美作の奴、駄目なんのかな?」
「バカ、そんなこと言うなよ……」
反応したのは佐津間君だ。彼は、厳しい目つきをして、堀田君を諭す。そのさまは悪さをした人をとがめる警察官のようだ。その振る舞いを見た人に、彼の父親が実は警察官ですと教えたら、誰もが納得をするだろう。
「確信がないのに、そういうこと言うなって」
「うん、わりー」
佐津間君はしょげて、何も言わなくなった。また静かになった。
トボトボと全員がうつむきがちに歩いていると、唐突にガザガザと粗雑な足音が聞こえてきた。彼らは私たちの前に立ち、進路を妨害した。
どこかでお目にかかった顔ぶれだった。
金髪に、茶髪。好戦的な目つき。人を小ばかにしたような口――ダーツ。喫茶店でダーツをしていたときに、絡んできた島の不良たち。
メンバーは私たちと同じ六人。
「おい勉」
中央にいた金髪の背の高い髑髏マークのTシャツを着た男が言う。物言いが高圧的で、周りにいるメンバーも、どこか敵意に満ちていた。寒気がするほどに。
「ちょっと来いよ」
「なんでだよ?」勉君は明らかに嫌そうに返事をした。
「いいから顔出せって言ってんだよ!」
彼は周りの目も気にせず、大声をあげ私たちを恐怖で縛り上げようとした。その先には勉の差出しを求めていた。
「ちょっと」彩月が前に出る。
「あ?」
「いい加減消えてくんない?」
「はあ?」
「あんたたちとはね……」
ボンっ!
男は近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばす。カラカラと蓋が外れ、転がった。
目は殺気を飛ばし、答えを求めていた、自分たちに沿う答えを……
「また同じ目にあいてーか?」
彩月は口をつぐみ後ろに下がった。目の前にいる不良たちのおかしさに気づいたようだ。
今、恫喝をしている男だけではない。背後にいる仲間から異様な殺意を感じるのだ。不良は確かに挑戦的で、理不尽なところはある。ただ前回会った時とは違い、妙に瞳が狂気に取りつかれている。
「あー分かった。分かった……」
勉君は彼らの瞳を感じ取れていないのだろうか?
彼はぼさぼさ頭をかき、彼らの後に付いていく。
「ねえ勉ってば!」
彩月が心配そうに叫ぶ。
しかし勉は、こっちを一目見て笑っている。彼は底抜けの大馬鹿者だと私は思った。
彼らは道路を渡り、港の方へ向かっていき、姿を消した。
「おいおい、やばいぞ。あれは……」うろたえた堀田君の声。
「俺、警察署に行ってくるわ。こっから近いし」佐津間君が冷静に言う。
「うん」
「あと、あいつらどこに行きそう?」佐津間君は落ちていていた。
「多分、港の空き倉庫――あそこならだれも今は人来ないし。そうだ、気づかれないよう探ってくる!」
「おい、待て……待ってって!」
堀田君が呼び止めるが、彩月は言うが否や走り出していた。
一人が去った。後に残された者は、彩月の思いがけぬ行動に、何をすればいいのか見失っていた。
「ごめんうちも、サッチーほっとけない」
私はメイの顔は見て知った。彼女の瞳はもう決まっている。もはや引き留めることはできない――また一人いなくなった。
「ったく、見つかったらどうすんだ?」
「佐津間君は、早く警察署に。私と堀田君は、ここに残りましょ。彩月たちが帰ってきたときに、いなかったら困るわ」
「よし、行ってくる!」
佐津間君は私の顔を見て納得した様子で、その場を後にした。
これで、いい。やるべきことはやった。後は待つだけだ……
私は辺りを見回して、つかの間の休息に取る。
景色は相変わず、のどかで何事もなく過ぎている。時間は、緩やかで落ち着きと安らぎがあった。
でも、なぜこんなにも世界は平和に満ちているのに、その上を歩く人は平和を享受できないのだろう?
「星河さん……」
押し殺したような堀田君のくぐもった声が、私の耳に入ってきた。
「何で、そんなに冷静なの?」
「え?」
私は質問の意味を理解しかねていた。
「昼、美作が倒れた。あいつは血を吐いてたぜ。でも星河さんは、人工呼吸までして助けようとした。それに今も皆が勝手に動いている中で、指示出してた……」
声が震えている……私は何か間違ったことをしたのだろうか?
私は、ただ慌てたくないのだ。でも今の彼に言っても理解してもらえないと思った。
返事に困って私は、沈黙でその場を押し通してしまう。
やがて彩月たちが帰ってきた。
「ねえやばいってば。勉、勉が……」
彩月の顔は切羽詰まっている、涙声だ。私は、彼女を冷静にさせなければいけない。
「どうしたの? ねえとにかく落ち着いて」
「殺されちゃう!」
その一言に、ハッとさせられる。
私は視線をメイの顔に移す。勉の彼女である彩月より、客観的に状況を説明できるはずだ。
「殴られたの?」
メイは、私の言葉に自信なさげに言う。
「かなり……メッタメッタに……」
彼女もまた見たくない現実を見せられたのだ。顔は引きつって、息苦しそうなメイ。彼女の瞳から涙が零れ落ちる。
「ねえどうしよ! どうしよ! 殺されちゃうよ!」
彩月は四歳の子どもになっていた。
「落ち着け! 動くな! じっとしてろ!」
怒号が人気のない港にこだまして響き渡る。それは、下手な慰めより説得力があって、効果を発揮した。
「とにかく、堀田が来るまでまとう……いや、ごめん」
堀田君は、自らの声に狼狽して目のやり場に困っていた。
待つべきだ。下手に行っても返り討ちにあうだけだ。そして思った。分かっていることが一つある――今日という一日は、本当に呪われている。
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