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第三部
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夏休みに入った。でも皆が考えているような、浮かれていて楽しい、夏休み、というではなかった。
担任のタニヤンが死んだ。なんで? ありえない? 違う、彼は関係がない。なのに、なぜ、どうして?
私の中に無数のクエスチョンが飛び交う。
あのタニヤンが……真面目で、ときにそれが面倒だったけど、でも優しかった。誰もが心では、いい先生だと思っていたかもしれない。でも死んだ。
夏休み前の終業式。空調の効いていない体育館で、担任の訃報を校長先生から教えてもらう――全員が、動揺した。互いに互いの顔を見て、ささやき合った。やがて先生の声で静かになった。
最初何を言っているのかよく分からなかった。担任が、死ぬ? あり得ない。すでにクラスメートが二人も死んでいるのに。異常だった。
それでも終業式は淡々と進められた。自分達の担任が、なぜ死んだのかも具体的に教えてくれもしない。こういうのが大人たちの、配慮というやつなら自分は決して理解できないし、したくもない。
真実が知りたい。
教室に戻ることなる。クラス中に情報を提供しない学校に対する苛立ちと、死人が出ているという恐怖が浸透しているよう。
こういうとき、不謹慎かもしれないけど、何とか雰囲気を明るくしたいと思っていた。暗いのは、嫌いだ。ただただ沈んでいく船に乗っているようで、それじゃ面白くない。自分は沈むのがわかっていても、ウケを狙いたいタイプなのだと思う。
例えば、タイタニックが沈没するまでに、乗っていた演奏家はバイオリンを弾いて、音楽を奏でて、乗客を明るくしようとした。私だって同じ環境下なら、そうしたい。
でも今は、自分が何を言っても明るくはならない。全員が、自分以外の周りに対し、バリアーを張っている。心の壁、それは見えないけれども、はっきりと捉えることが出来ていた。
まあ黙っていても仕方がないんで、私は明美に話しかけてみた。
「また、死んだね」
「うん」
彼女は、いつも本を持っている。そして中々本から目を離さない。しかもちょっぴり微笑んでいた。そこに、冷徹な感情の割り切りが行われている気がしてならなかった。
「聞いている?」返事がないので、ちょっとイラッと来る。明美の自然な態度が、なんとなく鼻につくのは、仕方のないことだった。
「もちろん。でも結局分からないわよ?」
ほら、そういう言い方よ。
「何が?」
「誰が犯人なのかとか、どうやって殺したのかなんて」
「前に、ウチが何の部活をやっていたのか当てたみたいに、推理してみたら?」
「いやよ」
答えはきっぱりとしていた。
「どうして?」
「……」聞いても彼女は黙ったままだ。勉が襲われたときは、ずいぶん大層な推理を聞いた。明美が島で起こっている事件に興味を持っているのかと思ったが、違う?
「誰かに遊ばれているような気がして、ならないの」
「え?」
明美の一言に言葉を失いかけた。でも彼女の物言いは、いつだって的を射た発言をする。よく分かんないけれど。
そう言って彼女は、また本に目を落とす。
話になっていない。ちょっぴり明美のマイペースぶり、というか、さらりと話をはぐらかす行為を理解できなかった。
お嬢様は、今読書でお忙しいらしい……
自分も対抗して朝読書用に持ってきた本でも読むか?
いや、やめておこう、どうせ今日はもう部活とかないし、さっさと直帰するだけだ。
やがて髪の毛が薄くなった教頭がやってきた。多少の違和感があったが、タニヤンはもういない。そのことを突き付けられた気がした。
教頭は事務的に夏休み前最後のホームルームを進めていき、終わる。さっさと帰ろう。メイでも引き連れて。彼女はいつもうちの後ろに付いてくる。人懐っこいというか、笑ったときにむき出す出歯が愛嬌を誘っている。
帰ったら荷造りもしなくちゃいけない。夏はしばらく島を出て、パパの別荘で休みを満喫できる。明後日には、もう出発か……ま、その前にまた葬式だ。高校生なのに何度も死に目に会うなんて、真っ平ごめんだ。呪われているとしか言いようがない。
あ、その前にやるべきことがあった、それを片づけよう。
担任のタニヤンが死んだ。なんで? ありえない? 違う、彼は関係がない。なのに、なぜ、どうして?
私の中に無数のクエスチョンが飛び交う。
あのタニヤンが……真面目で、ときにそれが面倒だったけど、でも優しかった。誰もが心では、いい先生だと思っていたかもしれない。でも死んだ。
夏休み前の終業式。空調の効いていない体育館で、担任の訃報を校長先生から教えてもらう――全員が、動揺した。互いに互いの顔を見て、ささやき合った。やがて先生の声で静かになった。
最初何を言っているのかよく分からなかった。担任が、死ぬ? あり得ない。すでにクラスメートが二人も死んでいるのに。異常だった。
それでも終業式は淡々と進められた。自分達の担任が、なぜ死んだのかも具体的に教えてくれもしない。こういうのが大人たちの、配慮というやつなら自分は決して理解できないし、したくもない。
真実が知りたい。
教室に戻ることなる。クラス中に情報を提供しない学校に対する苛立ちと、死人が出ているという恐怖が浸透しているよう。
こういうとき、不謹慎かもしれないけど、何とか雰囲気を明るくしたいと思っていた。暗いのは、嫌いだ。ただただ沈んでいく船に乗っているようで、それじゃ面白くない。自分は沈むのがわかっていても、ウケを狙いたいタイプなのだと思う。
例えば、タイタニックが沈没するまでに、乗っていた演奏家はバイオリンを弾いて、音楽を奏でて、乗客を明るくしようとした。私だって同じ環境下なら、そうしたい。
でも今は、自分が何を言っても明るくはならない。全員が、自分以外の周りに対し、バリアーを張っている。心の壁、それは見えないけれども、はっきりと捉えることが出来ていた。
まあ黙っていても仕方がないんで、私は明美に話しかけてみた。
「また、死んだね」
「うん」
彼女は、いつも本を持っている。そして中々本から目を離さない。しかもちょっぴり微笑んでいた。そこに、冷徹な感情の割り切りが行われている気がしてならなかった。
「聞いている?」返事がないので、ちょっとイラッと来る。明美の自然な態度が、なんとなく鼻につくのは、仕方のないことだった。
「もちろん。でも結局分からないわよ?」
ほら、そういう言い方よ。
「何が?」
「誰が犯人なのかとか、どうやって殺したのかなんて」
「前に、ウチが何の部活をやっていたのか当てたみたいに、推理してみたら?」
「いやよ」
答えはきっぱりとしていた。
「どうして?」
「……」聞いても彼女は黙ったままだ。勉が襲われたときは、ずいぶん大層な推理を聞いた。明美が島で起こっている事件に興味を持っているのかと思ったが、違う?
「誰かに遊ばれているような気がして、ならないの」
「え?」
明美の一言に言葉を失いかけた。でも彼女の物言いは、いつだって的を射た発言をする。よく分かんないけれど。
そう言って彼女は、また本に目を落とす。
話になっていない。ちょっぴり明美のマイペースぶり、というか、さらりと話をはぐらかす行為を理解できなかった。
お嬢様は、今読書でお忙しいらしい……
自分も対抗して朝読書用に持ってきた本でも読むか?
いや、やめておこう、どうせ今日はもう部活とかないし、さっさと直帰するだけだ。
やがて髪の毛が薄くなった教頭がやってきた。多少の違和感があったが、タニヤンはもういない。そのことを突き付けられた気がした。
教頭は事務的に夏休み前最後のホームルームを進めていき、終わる。さっさと帰ろう。メイでも引き連れて。彼女はいつもうちの後ろに付いてくる。人懐っこいというか、笑ったときにむき出す出歯が愛嬌を誘っている。
帰ったら荷造りもしなくちゃいけない。夏はしばらく島を出て、パパの別荘で休みを満喫できる。明後日には、もう出発か……ま、その前にまた葬式だ。高校生なのに何度も死に目に会うなんて、真っ平ごめんだ。呪われているとしか言いようがない。
あ、その前にやるべきことがあった、それを片づけよう。
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