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第三部
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孤島である面影島から東京までは長い。自分がやろうと思っていることは、可能な物なら全部できてしまう時間が与えられた。でも全部やり切ってしまうのが怖い。時間をどうやって埋めればいいのか、分からなくなるのは、とても苦しいことだった。
一日中船に乗るのだ、寝るのがベストのような気がしてきた。
携帯の電波もかなり悪かったし、これでは何もできない。
仕方ないので、共同スペースの隅に山積みさえた敷布団や枕を持ってきて寝られるようにする。
「なんだ、もう寝るのか?」
パパがつまらないことを聞いてくる。
「寝るわよ」
一体何をしろと?
私は少し強めの口調で言い返した。言い方にパパは、心外そうな顔つきをするが、知ったものか。
自分は今日いらいらしていた。〝アレ〟がそろそろ来る頃なのは、分かっていた。そのせいだ。布団に潜り込み、耽け込んだ。
個室はこの船に存在しない。ずっと思ってきたことだが、この島は移動には不便だし、サービスもひどい。まあ、あと二年ほどの辛抱。大学生になったら、出てってやる。
東京には、中学生時代までに築いた知り合いがずっといる。それなのに、隔絶した環境に置かれ、交友も途切れがちになってしまった。そこが、両親たちの身勝手な考えに振り回されたといえる。
島の生活が決して悪いとは言わない。こっちでも友達はいる、なかなか個性あふれるメンツ。
人懐っこい芽衣子――彼女とはボケとツッコミみたいな関係だ。
あのあほう面の勉――あいつとは彼氏・彼女。信じられない。
普段はおっとりだが、実は神経質の堀田――彼はおっとりしている。
真面目だが、ときに余計なことを言う佐津間――警察官の息子らしかった。
どれもいいメンツ。それに個性的でもあった。
最後はあのお嬢様。ミステリー好きな、親が変わり者の小説家の娘。自身も本ばっかり読んでいる。気立てのいい良家の娘、という印象が漂う。彼女こそ最も個の力が強い存在だった。多分自分以上に。
初めて会ったとき、彼女のベールに包まれた内面を知るには、どうすればいいのか判断に困っていた。
いかなるときも、崩れない美少女の顔。唯一崩れたのが、バドミントンの練習試合だ。
とても未経験者のレベルとは言えなかった。手加減してやったら、あのざまだ。
彼女は、中々いい筋を持っている。瞬発力、技量、体力、どれを取っても才ある存在だ。
でもそれは、自分が島に来て得た苦い経験だった。島では、狭い世界での話だったが、明美が来るまではバドミントンで自分より強い者はいなかった。テニスで磨いた技がきっと応用できている。
生意気、という言葉が浮かび上がってきた。認めた相手に対して失礼な言葉だったけれど、本心だ。自分より出来ている人への、妬みを消せなかった。
捨て去るべき感情だった。私は、明美のことが嫌いではなかったし、むしろ学ぶべきところが多かった。彼女の持つ知識は膨大だ。あの、美作が倒れたときの人工呼吸も、そう。
ただ彼女は、自分よりも何か大きな力を持っているように思えた。捉えどころのない深淵。影よりも暗い本体を持ち、決して秘めた何かを明かさない。
星河明美、あなたは……何なの?
綺麗な顔の裏に、何を隠しているの?
闇だと決めつけるのは簡単だ。違う何かかもしれない。
だが分かっていることがある。自分が、星河明美に対して優れているのは、卓球だ。お嬢様にしては、ずいぶん見苦しい打球をしていたではないか。
あの運動音痴の瑠璃と同じレベルだった。
彼女にも、意外と欠点があるのだ。
そのことを思い出して、私は少し安心できた。
一日中船に乗るのだ、寝るのがベストのような気がしてきた。
携帯の電波もかなり悪かったし、これでは何もできない。
仕方ないので、共同スペースの隅に山積みさえた敷布団や枕を持ってきて寝られるようにする。
「なんだ、もう寝るのか?」
パパがつまらないことを聞いてくる。
「寝るわよ」
一体何をしろと?
私は少し強めの口調で言い返した。言い方にパパは、心外そうな顔つきをするが、知ったものか。
自分は今日いらいらしていた。〝アレ〟がそろそろ来る頃なのは、分かっていた。そのせいだ。布団に潜り込み、耽け込んだ。
個室はこの船に存在しない。ずっと思ってきたことだが、この島は移動には不便だし、サービスもひどい。まあ、あと二年ほどの辛抱。大学生になったら、出てってやる。
東京には、中学生時代までに築いた知り合いがずっといる。それなのに、隔絶した環境に置かれ、交友も途切れがちになってしまった。そこが、両親たちの身勝手な考えに振り回されたといえる。
島の生活が決して悪いとは言わない。こっちでも友達はいる、なかなか個性あふれるメンツ。
人懐っこい芽衣子――彼女とはボケとツッコミみたいな関係だ。
あのあほう面の勉――あいつとは彼氏・彼女。信じられない。
普段はおっとりだが、実は神経質の堀田――彼はおっとりしている。
真面目だが、ときに余計なことを言う佐津間――警察官の息子らしかった。
どれもいいメンツ。それに個性的でもあった。
最後はあのお嬢様。ミステリー好きな、親が変わり者の小説家の娘。自身も本ばっかり読んでいる。気立てのいい良家の娘、という印象が漂う。彼女こそ最も個の力が強い存在だった。多分自分以上に。
初めて会ったとき、彼女のベールに包まれた内面を知るには、どうすればいいのか判断に困っていた。
いかなるときも、崩れない美少女の顔。唯一崩れたのが、バドミントンの練習試合だ。
とても未経験者のレベルとは言えなかった。手加減してやったら、あのざまだ。
彼女は、中々いい筋を持っている。瞬発力、技量、体力、どれを取っても才ある存在だ。
でもそれは、自分が島に来て得た苦い経験だった。島では、狭い世界での話だったが、明美が来るまではバドミントンで自分より強い者はいなかった。テニスで磨いた技がきっと応用できている。
生意気、という言葉が浮かび上がってきた。認めた相手に対して失礼な言葉だったけれど、本心だ。自分より出来ている人への、妬みを消せなかった。
捨て去るべき感情だった。私は、明美のことが嫌いではなかったし、むしろ学ぶべきところが多かった。彼女の持つ知識は膨大だ。あの、美作が倒れたときの人工呼吸も、そう。
ただ彼女は、自分よりも何か大きな力を持っているように思えた。捉えどころのない深淵。影よりも暗い本体を持ち、決して秘めた何かを明かさない。
星河明美、あなたは……何なの?
綺麗な顔の裏に、何を隠しているの?
闇だと決めつけるのは簡単だ。違う何かかもしれない。
だが分かっていることがある。自分が、星河明美に対して優れているのは、卓球だ。お嬢様にしては、ずいぶん見苦しい打球をしていたではないか。
あの運動音痴の瑠璃と同じレベルだった。
彼女にも、意外と欠点があるのだ。
そのことを思い出して、私は少し安心できた。
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