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第1章 世界の理
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聖都よりはるか東の地。都を抜けまず北道へ歩を傾ける。いくつかの街を通り抜けたら、東に向きを変える。そこから、ひたすら東へ東へと歩き続ける。広大な大草原。四方は緑に囲まれ、見晴らしはいい。ただ住みつくものはいない。
行く道は一つだ。大草原に囲まれた唯一の道を、人々は「緑の道」と呼ぶ。聞こえのいい通り名だが、ここを行き交う者はいない。
やがて歩き切ったとき、天を貫く険峻な山々が五つ見えてくる。一切の草木は生えず、灰色の刺々しい山肌がうかがえるはずである。
だが今は冬。白く覆われていて、その先は、晴れていた空も、時たまかかる雨上がりの虹もない灼熱の地だ。
天を覆う黒煙と、はざまで鳴り響く雷鳴が憤激の嵐となり訪問者を拒んでいる。参ノ国、またの名を火ノ国に入りたければ、危険極まりない山々を超えるか、道を迂回し通用門を通らなければならない。
「黒門」という。王の政治は、苛烈なもので常に犠牲となるのは人民であった。弱き民が日々鞭で打たれ叫び声をあげ、門を通り抜けて数少ない訪問者の耳に打ち付けるだろう。
嘆きに満ちたその先に踏み入れたければ、王の許諾を得る必要性があった。
訪問者は二つの選択を迫られる。
険峻な山肌を横断するか王に座し開門を迫るかのどちらかだ。
火都を出国か、入国したければどちらかの選択を取るしかない。
だが賢明な者たちは、どちらも選ばないだろう。内の者は「諦念」、外の者は「退散」、立場に応じた正しい答えだ。いや、外の者にとって参の国を訪れようとしないことが最も賢明なのかもしれない。少なくとも、王が門のうちにこもっている限り、関わり合いを持たないことが正しい判断だった。
門内にいる王は、確かな力強い外の世界への眺望に駆られている。
天に高くつき上げる声がこだました。一人の若き王がいた。身は筋骨隆々、たくましく、背は高く大柄な男がいる。身なりは腰を白い布で巻いただけで汗にまみれた素肌が現れている。色は赤茶け、髪は短い。なかなかの若者であった。
だが表情は妙に殺気立ち、石のように凝り固まっていた。目は大きく見開かれ眉元は引き締められ、口元は真一文字に結ばれる。まさに憤怒の表情である。
彼の名は、猛留。参ノ国の王である。その性は苛烈にして冷酷にして名を轟かせ所業は全世界を不安の影に陥れていた。峻烈な行いからから「烈王」と呼ぶものが多い。事実彼も呼び名を気に入っていた。
少なくとも彼につけられた忌み名よりずっといいはずだった……
烈王の腕に先端を鷲の爪のように鋭く尖らした、戟が握られていた……
目の前にひもで縛られた人々が並べられている。痩せこけた老人……若き夫人……年端の行かぬ子供までいる。皆彼の獲物だった。逃げ場を失った哀れな小動物たち。
彼らは戟を眼前で振りかざす王におののいていた。王が手に持っている武器を一振りかざすだけで、人々は恐怖に陥った。
刑の執行。ここは処刑場だ。四方を鉄の壁が覆い、松明がくべられている。中央に穴が開いた。中からもうもうと煙が立ち込めている。烈王は弱きもの、無力なもの、失敗したものを痛烈に嫌悪していた。国内にいる隷属の民からこぼれ出た落伍者を愛用の戟で切り刻み、地底より湧き出る天然の溶鉱炉に叩き落していった。
王はふうと息を吸い吐き出す。いよいよ始まるのだ。
戟が空を切り、きれいな弧を描く。やがて勢いが増し、吹っ切られ、一人目の刑の執行がなされた。
ピュウと鮮血が飛び出る。地べたに焦げた血の跡が残る。
ひいいと後ろに下がる哀れな処刑者たち。彼らは少しでも恐怖の王から離れ、生きながらえようと必死になる。しかしひもで互いを繋げられた彼らは身の動きを封じられていた。
逃げようとする処刑者を王は足蹴にし、正面からまたは背後から切り刻む。シュッ、シュッ……音がして吹きこぼれ、倒れていく。
やがて最後の一人になった。女だ。まずは目の前で女の幼子を切り捨ててやった。王は見たかった。大切な我が子を失った女に、どんな表情があふれ出るのか、期待していたのに。
だが女は泣くこともなく、烈王に憎しみの炎をぶつけることもなかった。
じっと王を見つめていた。純真な綺麗な瞳が王を捉えていた。
気に入らない、と思った。なんだ、女の目は? まったくわけがわからない。
女には生気が満ちている。期待していたのはこんな反抗的な顔ではない。王は戸惑った。やがて心に宿ったわだかまりは怒りへと変貌する。
「ああっ!?」
むかつくやつだ。こいつの所業は自分への挑戦だ。
ならばいいだろう。烈王はハチャメチャに女をいたぶる。すぐには殺さなかった。たっぷりと痛めつけて中央の穴へ落とし込んでやる。
女は執拗な責めにこらえ。顔は苦渋に満ち、白装束がところどころ血でにじむ。
やがて女は、散々に虐げられ、無造作に地べたに転がっていた。
「殿下」
女を灼熱の溶鉱炉の中へ叩き落そうとした時、思わぬ邪魔が入る。
「何の用だ?」
烈王はじろりと声の主の方を向く。返答次第では、こいつも同様に穴の中へと叩き落とすが、やめた。その者が王のお気に入りの妾であったこと。何より伝えてきた内容が大事なことであったから。
「四ノ国王が、本件で話をしたいと」
「すぐ行く」
遊びは終わりだった。烈王はすでに罪人の処刑なんて飽き飽きしていたから、いい加減違ったことをしたかった。丁度よかった。
烈王は目の前に寝転がる女の腹を戟で一刺しにした。彼が差し込んだ戟の先端が真っ赤になり燃え上がった。「憤激の戟」と言われる七宝の一つである。彼は火の使え手。力は戟より生じ、灼熱の火炎をいともたやすく起こす。
哀れな女は全身を内部から焼き焦がされていく。口から、耳から、目から、火があふれ出ている。そんな様をみて彼はあざ笑う。
炎の苦しみはこれだけではない。彼は女を足で穴の中へ落とした。女の体は視界から消え、ポチャンと音がした。
すべての刑が済んだとき、烈王は妾から差し出された上着を着て、処刑場を出た。外には火車が待っていて、ためらうことなく乗り込んだ。外装は火で覆われ、常人なら乗ることはできない。
大半のものは火でおおわれている。住処も、乗り物も、何もかもだ。国民は、烈王の火に縛られて生きていた。都に住む者たちの額に赤き龍の刻印があって、烈王の臣民であり、絶対服従を課せられている証だ。
印がなければ、たちまちのうちに火で焼き殺されてしまう人々の意志。火車は都の行政府に着いた。
烈王は部下からの平伏を受ける。こうして跪かれることに彼は喜びを見出していた。正面の扉を潜り抜け、まっすぐ進む。その先に王の間がある。行政府の構造は至って単純だった。入ってまっすぐ進めば王の間、右に折れれば、執政の間、反対に左に折れれば、役人たちが大勢いた。それぞれ所業に励んでいる部署がある。
やがて赤茶色をした扉の前に差し掛かるここより先、限られた者しか踏み入れることが出来ない。
烈王は両手を扉に押し当てる。彼の手より赤い熱気が現れ、扉全体に広がっていく。するとガチャリと音がして扉は自然に開かれた。
妾を下がらせ、一人で入る。中にはすでに人がいる。
「来たね」
先客がゆっくりと烈王の方を見て、悠長な口調で話しかける。暑さがたぎる国で、大層なマントを羽織って、澄ました表情をした青年。年は烈王と同年代だ。瞳は烈王とは違った雰囲気が漂う。
「お前、熱くないのか?」
まあ、と気だるそうでもったいぶった返事した。
「話を聞かせてくれ」
いいよ、と彼は言う。
烈王はドシンと自身の椅子に座った。どこで何をやっていたか知らないが、相変わらずだと思った。
こいつには自分の策を話すとき口元に手を置く癖がある。その仕草、要注意だ。烈王も最初から最後まで心して聞かねばならなかった。
つねに怒りに身を任せる烈王が、真剣に話を聞く相手とは誰であろう?
彼こそ、烈王の悪事や欲求を陰でこしらえ補助する存在だった。
四ノ国王。聡士。
もとをただせば、火の国の原型を考えたのも彼。険峻な山肌、山中を鳴り響く雷鳴、絶えず湧き出る炎すべて四ノ国王が烈王の能力を駆使して作り上げた作品だった。彼は魔術師と呼ばれている。
「分かっていると思うけど、聖女を近々連れ去る」
聖女強奪作戦。内々に進行していた計画。
「懐かしいなあ」
烈王の顔が珍しく和やかになった。
「感動の姉弟の再会というわけだ」
「向こうはそうは思わないさ。西王は? あいつは何とか殺せないか?」
「まずは聖女を取ろう。あと厄介のがもう一人……」
聡士の目が鋭く光る。
「姉ちゃんには、互いに苦労させられんな」
「いいさ。聖都に侵入させたスパイから準備が整ったと」
「そうか」烈王は深く物事を考えていない主義だ。事が成立するならいい。己を満足させてくれるのならばいい。
「兵をいつでも出せる用意をしておけ」
「わかった」
ただ兵の派兵は、南だぞと聡士は言う。
「なに?」
てっきり緑の道を一走りに駆け上り聖都を陥落させるのだと思っていた。
「南の大地はいずれ草刈り場になる。そこをすべて押えろ。そうすれば聖都を二方向から包囲できる」
南、草刈り場、二方向?
烈王の頭には言葉が断片的にしか入ってこず、理解が追い付かなかった。
「どういうことだ?」
すると四ノ国王は、すらすらと事由を述べ始めた。話を聞けば聞くほど、驚嘆に満ちることばかりだ。
「本当に言っているのか?」
ああ、とだけ四ノ国王はいう。
烈王の顔はにんまりと歪む。道は開けたな。今まで暗澹とした道を歩んできてばかり。ようやく終わる。辺境の片隅に追いやられているのはまっぴらごめんだ。いよいよ、本番だ。きっかけが南の経路だ。全てを手に入れる。
行く道は一つだ。大草原に囲まれた唯一の道を、人々は「緑の道」と呼ぶ。聞こえのいい通り名だが、ここを行き交う者はいない。
やがて歩き切ったとき、天を貫く険峻な山々が五つ見えてくる。一切の草木は生えず、灰色の刺々しい山肌がうかがえるはずである。
だが今は冬。白く覆われていて、その先は、晴れていた空も、時たまかかる雨上がりの虹もない灼熱の地だ。
天を覆う黒煙と、はざまで鳴り響く雷鳴が憤激の嵐となり訪問者を拒んでいる。参ノ国、またの名を火ノ国に入りたければ、危険極まりない山々を超えるか、道を迂回し通用門を通らなければならない。
「黒門」という。王の政治は、苛烈なもので常に犠牲となるのは人民であった。弱き民が日々鞭で打たれ叫び声をあげ、門を通り抜けて数少ない訪問者の耳に打ち付けるだろう。
嘆きに満ちたその先に踏み入れたければ、王の許諾を得る必要性があった。
訪問者は二つの選択を迫られる。
険峻な山肌を横断するか王に座し開門を迫るかのどちらかだ。
火都を出国か、入国したければどちらかの選択を取るしかない。
だが賢明な者たちは、どちらも選ばないだろう。内の者は「諦念」、外の者は「退散」、立場に応じた正しい答えだ。いや、外の者にとって参の国を訪れようとしないことが最も賢明なのかもしれない。少なくとも、王が門のうちにこもっている限り、関わり合いを持たないことが正しい判断だった。
門内にいる王は、確かな力強い外の世界への眺望に駆られている。
天に高くつき上げる声がこだました。一人の若き王がいた。身は筋骨隆々、たくましく、背は高く大柄な男がいる。身なりは腰を白い布で巻いただけで汗にまみれた素肌が現れている。色は赤茶け、髪は短い。なかなかの若者であった。
だが表情は妙に殺気立ち、石のように凝り固まっていた。目は大きく見開かれ眉元は引き締められ、口元は真一文字に結ばれる。まさに憤怒の表情である。
彼の名は、猛留。参ノ国の王である。その性は苛烈にして冷酷にして名を轟かせ所業は全世界を不安の影に陥れていた。峻烈な行いからから「烈王」と呼ぶものが多い。事実彼も呼び名を気に入っていた。
少なくとも彼につけられた忌み名よりずっといいはずだった……
烈王の腕に先端を鷲の爪のように鋭く尖らした、戟が握られていた……
目の前にひもで縛られた人々が並べられている。痩せこけた老人……若き夫人……年端の行かぬ子供までいる。皆彼の獲物だった。逃げ場を失った哀れな小動物たち。
彼らは戟を眼前で振りかざす王におののいていた。王が手に持っている武器を一振りかざすだけで、人々は恐怖に陥った。
刑の執行。ここは処刑場だ。四方を鉄の壁が覆い、松明がくべられている。中央に穴が開いた。中からもうもうと煙が立ち込めている。烈王は弱きもの、無力なもの、失敗したものを痛烈に嫌悪していた。国内にいる隷属の民からこぼれ出た落伍者を愛用の戟で切り刻み、地底より湧き出る天然の溶鉱炉に叩き落していった。
王はふうと息を吸い吐き出す。いよいよ始まるのだ。
戟が空を切り、きれいな弧を描く。やがて勢いが増し、吹っ切られ、一人目の刑の執行がなされた。
ピュウと鮮血が飛び出る。地べたに焦げた血の跡が残る。
ひいいと後ろに下がる哀れな処刑者たち。彼らは少しでも恐怖の王から離れ、生きながらえようと必死になる。しかしひもで互いを繋げられた彼らは身の動きを封じられていた。
逃げようとする処刑者を王は足蹴にし、正面からまたは背後から切り刻む。シュッ、シュッ……音がして吹きこぼれ、倒れていく。
やがて最後の一人になった。女だ。まずは目の前で女の幼子を切り捨ててやった。王は見たかった。大切な我が子を失った女に、どんな表情があふれ出るのか、期待していたのに。
だが女は泣くこともなく、烈王に憎しみの炎をぶつけることもなかった。
じっと王を見つめていた。純真な綺麗な瞳が王を捉えていた。
気に入らない、と思った。なんだ、女の目は? まったくわけがわからない。
女には生気が満ちている。期待していたのはこんな反抗的な顔ではない。王は戸惑った。やがて心に宿ったわだかまりは怒りへと変貌する。
「ああっ!?」
むかつくやつだ。こいつの所業は自分への挑戦だ。
ならばいいだろう。烈王はハチャメチャに女をいたぶる。すぐには殺さなかった。たっぷりと痛めつけて中央の穴へ落とし込んでやる。
女は執拗な責めにこらえ。顔は苦渋に満ち、白装束がところどころ血でにじむ。
やがて女は、散々に虐げられ、無造作に地べたに転がっていた。
「殿下」
女を灼熱の溶鉱炉の中へ叩き落そうとした時、思わぬ邪魔が入る。
「何の用だ?」
烈王はじろりと声の主の方を向く。返答次第では、こいつも同様に穴の中へと叩き落とすが、やめた。その者が王のお気に入りの妾であったこと。何より伝えてきた内容が大事なことであったから。
「四ノ国王が、本件で話をしたいと」
「すぐ行く」
遊びは終わりだった。烈王はすでに罪人の処刑なんて飽き飽きしていたから、いい加減違ったことをしたかった。丁度よかった。
烈王は目の前に寝転がる女の腹を戟で一刺しにした。彼が差し込んだ戟の先端が真っ赤になり燃え上がった。「憤激の戟」と言われる七宝の一つである。彼は火の使え手。力は戟より生じ、灼熱の火炎をいともたやすく起こす。
哀れな女は全身を内部から焼き焦がされていく。口から、耳から、目から、火があふれ出ている。そんな様をみて彼はあざ笑う。
炎の苦しみはこれだけではない。彼は女を足で穴の中へ落とした。女の体は視界から消え、ポチャンと音がした。
すべての刑が済んだとき、烈王は妾から差し出された上着を着て、処刑場を出た。外には火車が待っていて、ためらうことなく乗り込んだ。外装は火で覆われ、常人なら乗ることはできない。
大半のものは火でおおわれている。住処も、乗り物も、何もかもだ。国民は、烈王の火に縛られて生きていた。都に住む者たちの額に赤き龍の刻印があって、烈王の臣民であり、絶対服従を課せられている証だ。
印がなければ、たちまちのうちに火で焼き殺されてしまう人々の意志。火車は都の行政府に着いた。
烈王は部下からの平伏を受ける。こうして跪かれることに彼は喜びを見出していた。正面の扉を潜り抜け、まっすぐ進む。その先に王の間がある。行政府の構造は至って単純だった。入ってまっすぐ進めば王の間、右に折れれば、執政の間、反対に左に折れれば、役人たちが大勢いた。それぞれ所業に励んでいる部署がある。
やがて赤茶色をした扉の前に差し掛かるここより先、限られた者しか踏み入れることが出来ない。
烈王は両手を扉に押し当てる。彼の手より赤い熱気が現れ、扉全体に広がっていく。するとガチャリと音がして扉は自然に開かれた。
妾を下がらせ、一人で入る。中にはすでに人がいる。
「来たね」
先客がゆっくりと烈王の方を見て、悠長な口調で話しかける。暑さがたぎる国で、大層なマントを羽織って、澄ました表情をした青年。年は烈王と同年代だ。瞳は烈王とは違った雰囲気が漂う。
「お前、熱くないのか?」
まあ、と気だるそうでもったいぶった返事した。
「話を聞かせてくれ」
いいよ、と彼は言う。
烈王はドシンと自身の椅子に座った。どこで何をやっていたか知らないが、相変わらずだと思った。
こいつには自分の策を話すとき口元に手を置く癖がある。その仕草、要注意だ。烈王も最初から最後まで心して聞かねばならなかった。
つねに怒りに身を任せる烈王が、真剣に話を聞く相手とは誰であろう?
彼こそ、烈王の悪事や欲求を陰でこしらえ補助する存在だった。
四ノ国王。聡士。
もとをただせば、火の国の原型を考えたのも彼。険峻な山肌、山中を鳴り響く雷鳴、絶えず湧き出る炎すべて四ノ国王が烈王の能力を駆使して作り上げた作品だった。彼は魔術師と呼ばれている。
「分かっていると思うけど、聖女を近々連れ去る」
聖女強奪作戦。内々に進行していた計画。
「懐かしいなあ」
烈王の顔が珍しく和やかになった。
「感動の姉弟の再会というわけだ」
「向こうはそうは思わないさ。西王は? あいつは何とか殺せないか?」
「まずは聖女を取ろう。あと厄介のがもう一人……」
聡士の目が鋭く光る。
「姉ちゃんには、互いに苦労させられんな」
「いいさ。聖都に侵入させたスパイから準備が整ったと」
「そうか」烈王は深く物事を考えていない主義だ。事が成立するならいい。己を満足させてくれるのならばいい。
「兵をいつでも出せる用意をしておけ」
「わかった」
ただ兵の派兵は、南だぞと聡士は言う。
「なに?」
てっきり緑の道を一走りに駆け上り聖都を陥落させるのだと思っていた。
「南の大地はいずれ草刈り場になる。そこをすべて押えろ。そうすれば聖都を二方向から包囲できる」
南、草刈り場、二方向?
烈王の頭には言葉が断片的にしか入ってこず、理解が追い付かなかった。
「どういうことだ?」
すると四ノ国王は、すらすらと事由を述べ始めた。話を聞けば聞くほど、驚嘆に満ちることばかりだ。
「本当に言っているのか?」
ああ、とだけ四ノ国王はいう。
烈王の顔はにんまりと歪む。道は開けたな。今まで暗澹とした道を歩んできてばかり。ようやく終わる。辺境の片隅に追いやられているのはまっぴらごめんだ。いよいよ、本番だ。きっかけが南の経路だ。全てを手に入れる。
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