七宝物語

平野耕一郎

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第1章 戦いの準備

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 この世には、一人の無垢な聖女と七人の王たちがいる。王は聖女に土地と人民の統治権を移譲されていた。多くの人民を一人の権力者が束ねれば、独裁になり、危うい。また人民による話し合いによる統治は、何事もはかどらない。結果、はるか昔に編み出された統治方法が、七人の王による分割統治だった。無垢な聖女を王が中心となって奉り、平和裏にこの世を統治していく。

 しかし王が複数いればそのバランスが均衡になるのはむずかしく、大きな権限を与えられた彼らは人民を束ね、互いの領土を奪い合い始めた。時がたつほどに力を持たない聖女は存在の意義を失い、やがて血統があるとき途絶えてしまった。

 争いは争いを生み、血を血で洗う時代が長く続き、大地は荒廃し海は汚れた。人々の心もすさみ、平和への願望が一層強くなった。ある時、西の地より新王が立った。新王は瞬く間にこの世を平定し、全土をおさめた。そして聖女を見出した。

 新たに見つかった当時、聖女は幼子だった。だが、この無垢で可憐な少女は大衆の眼を避けて成長し、正式に聖女としてその地位に座った。人々はますます平和と希望を頭上に描き、夢見た。聖女は希和子という名前になった。都のはずれの貧民街にいた少女とその家族は一瞬にして、大いなる一族としてあがめられた。

 西にある都が大いに平和の中で栄える一方で、東に放逐した禍根もまたじわじわと根を深く忍ばせていた。やがて悪しき果実が大きくなった。彼は、己の都を立て、自らを「烈王」と呼称し周辺国に争いを仕掛けた。その所業は、歴史を紐解いても例が見つからないほど、残酷に満ち溢れていた。

 戦いが激しくなる中で、多くの血が流れ落ち、烈王の紅蓮の炎にあぶられた。その毒牙は聖女にも迫った。無用な戦いを聖女は疎んだ。しかしその思いとは裏腹に事態は悪くなり、悪魔は彼女のそばに差し迫り、ついに聖女をとらえた。

 挙句の果てに聖女は死んだ。わずか即位して二年だった。はるか昔より血脈が途絶えたとされる聖女が再来し、争いを忌み平和と希望を思った国民と王が望んだ女性は、巧みに誘拐され、敵の手に渡った。その事実を国民は知らず、王の秘事とされていた。密かに奪還計画が立てられ、敵の住まう苛烈な炎が見舞う都へ二人の者が差し向けられた。王は、国民の動揺を恐れ、大胆な行動には出られず、これがあだとなった。聖女は敵の都から逃げ出す途中で、攻撃を受け負傷した。腹に宿った自身の後継者を案じながら、帰還した。聖都に帰り、安堵し、平和を夢見て息を引き取った。

 国民は聖女の逝去を知り、大きな喪失感に襲われた。平和と希望。これこそが国民の願いであり、その象徴を奪われ心に大きな空白が生まれた。だが、空白には怒りという納得がいくまで消えることのない代物で埋め尽くされた。

 聖女の国葬を終え、彼らは王や行政に報復を訴えていた。烈王への呪詛にも近い怒りが聖都を覆われる中で物語は始まることになる。

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