39 / 51
記憶なき女Ⅳ 傀儡
5
しおりを挟む
朝の陽ざしが差し掛かり千里は目覚めた。頭が痛い。のみすぎたようだ。また記憶を飛ばした。
「目が覚めたかな?」
どこからか声がした
「おはよう」
「え……」
「驚くことないよ。昨日飲みすぎて寝ちゃったんでしょ?」
「あなたは……」
「本当に何も覚えていないんだね」
はだけた姿になった千里を見て沙良は笑う。今は理佐としてふるまってあげないと混乱するか。
「何で沙良がいるの?」
「大した話じゃない。あなたのマティーニに睡眠薬を入れた。洋二さんが眠そうなあなたをホテルにまで連れて行った。私は彼にどこのホテルに連れ込むか聞いておいたの。こっちも用が済ませてホテルにやってきた。ただそれだけよ」
千里はおおよそ信じられないという顔つきでいる。
「何の話?」
「男にお持ち帰りされるタイプだね」
「なに、何なの?」
「言ったでしょ。気にすることじゃないって。洋二さんはしつこいし、酔うと絡んでくるからね。うまく千里さんに目が向くよう話を持って行ったのは私だけどね」
沙良はタイミングを見計らって洋二にお願いをした。千里とは明日約束しているからどこのホテルに泊まるか教えてほしいと。沙良のお願いを聞かなかった男はいない。ただ一人を除いてだが。
千里は目の前にいる沙良に恐怖を感じた。喫茶店で会った時とは別人である。顔かたちは変わっていないのに、何か内からの雰囲気が全然違う。底知れぬ恐ろしさが今の沙良にはあった。
「じゃあ本題に入るわ。実は聞きたいことがあるの。隠していることあるでしょ?」
沙良は喫茶店の時のように間合いを詰めてせせら笑う。
「あなたにお金を渡して、私を尾坂理佐に仕立て上げたのは香西正彦? 違う?」
沙良の切れのいい質問は千里を追い込んでいく。場の支配権は沙良にあった。
「え? なにが」
「あのね、時間がないの。質問には「はい」か「いいえ」で答えてね」
「はい……」
「どうなの?」
「はい……」
「いつ振り込まれたの?」
「十月六日」
喫茶店であった日か。時間軸として間違っていなそうである。
「何で頼まれたの? お金がなくて困っているみたいね」
「お母さんの治療費よ。もう残っていた家も売ったけど、足りないの」
「いくらもらったの?」
沙良は千里の事情をくみ取らず質問を続けていた。
「三千万」
「どうやってもらったの?」
「現金振込です」
もはや聞くことはない。
「そう、ありがとう」
「知らないから。私、本当に何も知らないからね!」
「わかっている。それ以上聞く気ないから。安心して」
千里は泣き出している。沙良の持つ圧迫感がもたらす恐怖に感情が制御できなくなっていていたのだ。
「落ち着いて。私の眼だけを見るの。そう、それでいい」
うんうんと千里は何度もうなずいていた。赤子のようだった。
「しばらく横になっているといいわ。もう私のことは忘れて。誰にも言っちゃいけないわ」
沙良は微かにふるえる千里に語り掛けて、部屋を出た。
十分だ。まず消すべき人間がわかった。何かにつけて放置していた人物だ。
大通り沿いで迎えの車が来るのを待っていた。しばらくして昨日の車がやってきた。黒いセダン。
「お疲れ。何だか眠いわ」
「合コンはどうだったんですかい?」
「まあ、楽しめたわ。でも私には無用みたいね」
「ボスのあんたがプラプラ合コンなんてまずいのでは?」
助手席に乗っていた男が問う。
「気づいたやつがいたわ。少し、遊んであげたわ」
プッと前の二人は笑った。
「いい駒が見つかったから収穫はあったわよ」
「じゃあ、遠見の野郎を消す算段が付いたわけですかい?」
「もちろん。遠見は渋谷で社長就任パーティをやるみたい。あなたの晴れ舞台で盛大に散ってもらう」
「誰が実行を?」
「私」
裏切った人物は沙良にとって大きい存在だった。世話にもなったし、最期ぐらいは自分の手で送ってあげたい。
そうですかと運転席から低い声が聞こえた。
「目が覚めたかな?」
どこからか声がした
「おはよう」
「え……」
「驚くことないよ。昨日飲みすぎて寝ちゃったんでしょ?」
「あなたは……」
「本当に何も覚えていないんだね」
はだけた姿になった千里を見て沙良は笑う。今は理佐としてふるまってあげないと混乱するか。
「何で沙良がいるの?」
「大した話じゃない。あなたのマティーニに睡眠薬を入れた。洋二さんが眠そうなあなたをホテルにまで連れて行った。私は彼にどこのホテルに連れ込むか聞いておいたの。こっちも用が済ませてホテルにやってきた。ただそれだけよ」
千里はおおよそ信じられないという顔つきでいる。
「何の話?」
「男にお持ち帰りされるタイプだね」
「なに、何なの?」
「言ったでしょ。気にすることじゃないって。洋二さんはしつこいし、酔うと絡んでくるからね。うまく千里さんに目が向くよう話を持って行ったのは私だけどね」
沙良はタイミングを見計らって洋二にお願いをした。千里とは明日約束しているからどこのホテルに泊まるか教えてほしいと。沙良のお願いを聞かなかった男はいない。ただ一人を除いてだが。
千里は目の前にいる沙良に恐怖を感じた。喫茶店で会った時とは別人である。顔かたちは変わっていないのに、何か内からの雰囲気が全然違う。底知れぬ恐ろしさが今の沙良にはあった。
「じゃあ本題に入るわ。実は聞きたいことがあるの。隠していることあるでしょ?」
沙良は喫茶店の時のように間合いを詰めてせせら笑う。
「あなたにお金を渡して、私を尾坂理佐に仕立て上げたのは香西正彦? 違う?」
沙良の切れのいい質問は千里を追い込んでいく。場の支配権は沙良にあった。
「え? なにが」
「あのね、時間がないの。質問には「はい」か「いいえ」で答えてね」
「はい……」
「どうなの?」
「はい……」
「いつ振り込まれたの?」
「十月六日」
喫茶店であった日か。時間軸として間違っていなそうである。
「何で頼まれたの? お金がなくて困っているみたいね」
「お母さんの治療費よ。もう残っていた家も売ったけど、足りないの」
「いくらもらったの?」
沙良は千里の事情をくみ取らず質問を続けていた。
「三千万」
「どうやってもらったの?」
「現金振込です」
もはや聞くことはない。
「そう、ありがとう」
「知らないから。私、本当に何も知らないからね!」
「わかっている。それ以上聞く気ないから。安心して」
千里は泣き出している。沙良の持つ圧迫感がもたらす恐怖に感情が制御できなくなっていていたのだ。
「落ち着いて。私の眼だけを見るの。そう、それでいい」
うんうんと千里は何度もうなずいていた。赤子のようだった。
「しばらく横になっているといいわ。もう私のことは忘れて。誰にも言っちゃいけないわ」
沙良は微かにふるえる千里に語り掛けて、部屋を出た。
十分だ。まず消すべき人間がわかった。何かにつけて放置していた人物だ。
大通り沿いで迎えの車が来るのを待っていた。しばらくして昨日の車がやってきた。黒いセダン。
「お疲れ。何だか眠いわ」
「合コンはどうだったんですかい?」
「まあ、楽しめたわ。でも私には無用みたいね」
「ボスのあんたがプラプラ合コンなんてまずいのでは?」
助手席に乗っていた男が問う。
「気づいたやつがいたわ。少し、遊んであげたわ」
プッと前の二人は笑った。
「いい駒が見つかったから収穫はあったわよ」
「じゃあ、遠見の野郎を消す算段が付いたわけですかい?」
「もちろん。遠見は渋谷で社長就任パーティをやるみたい。あなたの晴れ舞台で盛大に散ってもらう」
「誰が実行を?」
「私」
裏切った人物は沙良にとって大きい存在だった。世話にもなったし、最期ぐらいは自分の手で送ってあげたい。
そうですかと運転席から低い声が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる