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第二章 復讐
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記録十二
日付:二〇二三年三月二十日。
時刻:午前一時二十七分
場所:新宿歌舞伎町の東急歌舞伎町タワー付近
沿いの道に私はタクシーを止めていた。時刻は午前二時。窓の外に映る景色は醜悪だ。
歌舞伎町のネオン付近は老若男女が入り乱れている。男は欲望のまま女の尻を追い回し、
地にたむろする。空き缶は捨て置かれて、こぼれた酒の臭いが漂い、アスファルトを汚す。だらしない連中である。
まるで人ではなく獣の集まりだ。
優里の得た情報で川内美咲はバーを出た。昭和通り沿いを歩いている。人通りの少なくなった大通りを慎重に走らせる。
カジュアルなオレンジ色の羽織ものに、ショートデニムの女を探していた。
いた。ふらついた足取りをしているが特徴は一致している。
私はすぐさまタクシーのサインを「回送」から「割増」に変えた。
美咲はトロンとした目でふらふらと車内に乗り込んできた。
「阿佐ヶ谷の方面で」
チューハイなどの酒臭さが漂ってきた。
「あん? お前、にらんだだろ?」
美咲はドンと後部座席から運転席を蹴ってきた。
「申し訳ございません。発進します」
「さっさと出せよ。こっちは頭が痛いんだから」
私は国道四号線沿いに向かってタクシーを走らせるが、途中で進路を変える。美咲はぼんやりと窓の外を眺めていたが、進路が全然違うと気づいたようだ。
「どこに行っているんだよ! 向き先が違うぞ!」
美咲は荒い言葉でまくし立てるように言い続ける。
「こら! 止めろ! 止めろと言っているだろ!」
キッと車は急停止した。
ドンとひっくり返る音がした。
後部座席に優里が乗り込んだ。
「てめえ。殺してやるからな」
「物騒ね。正夢、運転変わるよ。この子を抑えて」
「了解」
「お前、誰だよ!」
「俺たちを覚えていないか?」
「知らねえ。どけ。降ろせ!」
「とりあえず。抵抗はやめろ」
私は美咲の脇腹に銃を突きつける。さすがに大人しくなった。
「ふざ……うっ、離せ……」
私たちは美咲の体を押さえてシンナーを嗅がせて眠らせて、大船方面に車を走らせた。役者はそろっている。後は実行あるのみ。私たちは地獄の淵が見えるまで復讐を槍と決めている。もう迷うつもりはない。
どことも分からない暗室。
「起きろ」
美咲はうっすらと目を開けて辺りを確認した。私の顔が目に入ったとたん、顔に露骨な嫌悪感を走らせた。
「放せ! 何のつもりだよ!」
「川内美咲さんですよね?」
「だったら、何だ、コラ」
「だいぶ口が悪い方ですね」
「こんなことしやがって! うちの背後に誰がいるか知ってやっているのか!」
耳障りな女だ。
「相変わらずうるさい子」
トントンと優里は足を叩いた。苛立っているようだ。
「少しお付き合いください。優里、あの人たちを呼んでくれ」
「優里?」
美咲がじっと優里を見ていた。何か気になっているようすだ。
背後を振り返って美咲を見た。了解とだけ言って部屋を出る。しばらくして背後に六人の男女を伴って戻ってきた。年齢、性別も異なる六人に共通していたのは殺気立った目である。
「ご確認ください。間違いないですか?」
「てめえら、誰だよ?」
六人の男女の異様な殺気にさすがの美咲も気が引いていた。
「何だよ……」
「分かりませんか? この人たちがどなたか?」
「私の名前は園田勉。忘れたか?」
「知るか。バーカ。とっとと汚い手をどけろ」
「息子の名前は園田歩武! お前に騙されて借金を背負わされて昨年自殺した息子の父親だ」
「私の顔を見ろ! あんたのせいだ! うちの娘はあんたに闇バイトを誘われて、それを苦にして死んだ!」
「誰か助けろ! ふざけんなよ!」
正座をさせられながら、罵詈雑言を吐き続けられる美咲は泣きべそをかいていた。
「どういうことだよ。何だよ、こいつらは」
「苦しいか? 胸が痛いか? この人たちは君の詐欺、脅迫などの悪事で人生を台無しにされた被害者の家族だ」
「なんで私だけ……私は言われた通りやっただけだから!」
「逃げられると思うな。お前の失態をアニキに拭ってもらったようだが、悪事は必ず白日の下に晒される」
「待ってよ! 私が悪かった。何でもする。もう悪いことはしないよ! 助けてよ」
「どうします?」
「私たちはもとよりこの女に反省など求めていない。正義を求めます」
六人は互いに目を合わせコクンとうなずいた。
「何をするのよ!」
美咲を箱に閉じ込め、私はショーの演出に取り掛かった。
日付:二〇二三年三月二十日。
時刻:午前一時二十七分
場所:新宿歌舞伎町の東急歌舞伎町タワー付近
沿いの道に私はタクシーを止めていた。時刻は午前二時。窓の外に映る景色は醜悪だ。
歌舞伎町のネオン付近は老若男女が入り乱れている。男は欲望のまま女の尻を追い回し、
地にたむろする。空き缶は捨て置かれて、こぼれた酒の臭いが漂い、アスファルトを汚す。だらしない連中である。
まるで人ではなく獣の集まりだ。
優里の得た情報で川内美咲はバーを出た。昭和通り沿いを歩いている。人通りの少なくなった大通りを慎重に走らせる。
カジュアルなオレンジ色の羽織ものに、ショートデニムの女を探していた。
いた。ふらついた足取りをしているが特徴は一致している。
私はすぐさまタクシーのサインを「回送」から「割増」に変えた。
美咲はトロンとした目でふらふらと車内に乗り込んできた。
「阿佐ヶ谷の方面で」
チューハイなどの酒臭さが漂ってきた。
「あん? お前、にらんだだろ?」
美咲はドンと後部座席から運転席を蹴ってきた。
「申し訳ございません。発進します」
「さっさと出せよ。こっちは頭が痛いんだから」
私は国道四号線沿いに向かってタクシーを走らせるが、途中で進路を変える。美咲はぼんやりと窓の外を眺めていたが、進路が全然違うと気づいたようだ。
「どこに行っているんだよ! 向き先が違うぞ!」
美咲は荒い言葉でまくし立てるように言い続ける。
「こら! 止めろ! 止めろと言っているだろ!」
キッと車は急停止した。
ドンとひっくり返る音がした。
後部座席に優里が乗り込んだ。
「てめえ。殺してやるからな」
「物騒ね。正夢、運転変わるよ。この子を抑えて」
「了解」
「お前、誰だよ!」
「俺たちを覚えていないか?」
「知らねえ。どけ。降ろせ!」
「とりあえず。抵抗はやめろ」
私は美咲の脇腹に銃を突きつける。さすがに大人しくなった。
「ふざ……うっ、離せ……」
私たちは美咲の体を押さえてシンナーを嗅がせて眠らせて、大船方面に車を走らせた。役者はそろっている。後は実行あるのみ。私たちは地獄の淵が見えるまで復讐を槍と決めている。もう迷うつもりはない。
どことも分からない暗室。
「起きろ」
美咲はうっすらと目を開けて辺りを確認した。私の顔が目に入ったとたん、顔に露骨な嫌悪感を走らせた。
「放せ! 何のつもりだよ!」
「川内美咲さんですよね?」
「だったら、何だ、コラ」
「だいぶ口が悪い方ですね」
「こんなことしやがって! うちの背後に誰がいるか知ってやっているのか!」
耳障りな女だ。
「相変わらずうるさい子」
トントンと優里は足を叩いた。苛立っているようだ。
「少しお付き合いください。優里、あの人たちを呼んでくれ」
「優里?」
美咲がじっと優里を見ていた。何か気になっているようすだ。
背後を振り返って美咲を見た。了解とだけ言って部屋を出る。しばらくして背後に六人の男女を伴って戻ってきた。年齢、性別も異なる六人に共通していたのは殺気立った目である。
「ご確認ください。間違いないですか?」
「てめえら、誰だよ?」
六人の男女の異様な殺気にさすがの美咲も気が引いていた。
「何だよ……」
「分かりませんか? この人たちがどなたか?」
「私の名前は園田勉。忘れたか?」
「知るか。バーカ。とっとと汚い手をどけろ」
「息子の名前は園田歩武! お前に騙されて借金を背負わされて昨年自殺した息子の父親だ」
「私の顔を見ろ! あんたのせいだ! うちの娘はあんたに闇バイトを誘われて、それを苦にして死んだ!」
「誰か助けろ! ふざけんなよ!」
正座をさせられながら、罵詈雑言を吐き続けられる美咲は泣きべそをかいていた。
「どういうことだよ。何だよ、こいつらは」
「苦しいか? 胸が痛いか? この人たちは君の詐欺、脅迫などの悪事で人生を台無しにされた被害者の家族だ」
「なんで私だけ……私は言われた通りやっただけだから!」
「逃げられると思うな。お前の失態をアニキに拭ってもらったようだが、悪事は必ず白日の下に晒される」
「待ってよ! 私が悪かった。何でもする。もう悪いことはしないよ! 助けてよ」
「どうします?」
「私たちはもとよりこの女に反省など求めていない。正義を求めます」
六人は互いに目を合わせコクンとうなずいた。
「何をするのよ!」
美咲を箱に閉じ込め、私はショーの演出に取り掛かった。
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