婚約直前、俺の人生どこで間違えた?

naomikoryo

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第三章:元カノの愚痴は止まらない

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「……相談乗ってあげよっか?」

そう言った奈々の表情は、なんというか……めちゃくちゃ楽しそうだった。

俺は思わず身構える。
いや、ちょっと待て。俺は「相談したい」なんて言ってない。

「え? いや、別にそんなつもりで——」

「なに? 婚約前でビビってんの?」

「いや、ビビってるわけじゃ……」

「じゃあ何?」

「……ちょっと、なんかこう、違和感があって……」

「ほら出た。『なんか』とか『こう』とか、具体性ゼロの男の語彙!」

「うっ……」

ぐうの音も出ない。
確かに俺は言葉にするのが苦手だ。

奈々は呆れたようにため息をつくと、「ま、いいや」と言って俺の腕をぐいっと引っ張った。

「え、ちょ、どこ行くんだよ?」

「いいから。ちょっと静かなとこで話そ?」

そう言って、奈々は居酒屋の隅の二人席に俺を押し込んだ。
昔からそうだった。
俺が戸惑ってる間に、奈々は強引に物事を決めてしまう。

気づけば、俺は生ビールを片手に元カノと向かい合っていた。

……どうしてこうなった。

◆ 元カノの口撃、開始

「で? 何が『なんか違う』のか、ちゃんと話してみ?」

俺はジョッキの泡を見つめながら、考える。

「……婚約者、篠原 美咲って言うんだけどさ」

「あー、○○物産の部長の娘さんね」

「知ってんの?!」

「い、いやぁ、そりゃ有名でしょ。取引先の部長の娘とか、そんなんとっくに話題になるに決まってんじゃん」

「あー……まあ、そうか」

考えてみれば、美咲はスペック的に申し分ない。
会社関係者から見ても、「桐生、お前勝ち組じゃん!」と言われるほどだ。

でも——

「なんていうか……いい人なんだけど、何考えてるのか分かんねぇんだよな」

「……ふーん?」

「俺が何か話しても、にこって笑って『そうなんですね』って返されるだけでさ……話が深まらないっていうか……」

「はいはい、つまり、『反応が薄くて不安になる』ってことね?」

「お、おう。そんな感じ?」

奈々はニヤッと笑って、ジョッキを傾けた。

「それってさぁ、あんたのせいじゃない?」

「……え?」

「相手が何考えてるか分かんないんじゃなくて、あんたが相手に踏み込んでないだけでしょ?」

「いや、そんなことは……」

「あるある!」

奈々はビールを置くと、指を立てて説明を始める。

「いい? 清楚系お嬢様ってのはな、たいてい『聞き役』に回るのがうまいの。
自分の意見を押し付けないし、あんまり自己主張もしない。
でも、それって『何も考えてない』わけじゃなくて、ただ言葉にするのが苦手なだけだったりするんだよ。」

「……そうなのか?」

「知らんけど」

「おい」

「いや、でもさ!」

奈々は俺を指さしながら、さらに続ける。

「昔からそうだったよね、あんた。『相手がどう思ってるか分からない』とか言って、結局、自分から深掘りしようとしない」

「……そ、そうか?」

「そうだよ! 私と付き合ってた時も、私が『察してよ』って言ってんのに、あんた全然気づかなくてイライラしたもん!」

「うっ……」

確かに、思い当たる節はある。

「で、結局、あんたは『何考えてるか分かんない』って理由で不安になってんでしょ?」

「……まあ、そうかも」

「はー……マジで成長してないね、あんた。」

奈々は呆れたように頭を抱えた。

「じゃあさ、美咲ちゃんにちゃんと『どう思ってるの?』って聞いたことあんの?」

「え?」

「ないでしょ?」

「……ない」

「ほらね!」

奈々は「やれやれ」と肩をすくめた。

「結局のところ、あんたが怖がってるだけじゃん?」

「……かもな」

俺はため息をついて、ビールを飲み干した。

そうかもしれない。
美咲が何を考えているのか分からないんじゃなくて、俺がちゃんと向き合おうとしていないだけなのかもしれない。

……いや、でも待てよ。

「でもさ、それなら美咲ももっと自分のこと話してくれたらいいじゃん?」

「それができたら清楚系じゃねぇんだよ!」

「うわ、雑な理論」

「いやマジで! 清楚系の子は基本的に受け身だから、自分からグイグイ言うのは苦手なの!」

「はぁ……」

奈々はジョッキを置いて、大きく伸びをした。

「ま、でもさ。あんたがモヤモヤしてるのはよく分かったよ」

「おう……」

「てことで——直接、本人に聞いてみたら?」

「は?」

「私からも聞いといてあげるわ!」

「おいおい、勝手に——」

その瞬間、店の入り口で見覚えのある姿が現れた。

「……え?」

俺は目を疑った。

そこにいたのは、まさかの——

篠原 美咲だった。

「……亮さん」

「ええええええええ!?!?!?」

俺の驚愕の声が、居酒屋に響いた——。
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