婚約直前、俺の人生どこで間違えた?

naomikoryo

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第四章:婚約者、まさかの登場

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「……亮さん」

俺の目の前に立っていたのは、紛れもなく**篠原 美咲(しのはら みさき)**だった。

清楚で落ち着いた雰囲気のロングヘア、姿勢の良さ、そしていつも通りの上品な微笑み——

なぜか、こんな居酒屋に現れている。

「え、ええええ!? なんで!? え!?」

俺は完全にパニックだった。
まさか、同窓会に参加していたわけでもないのに、こんなタイミングで美咲と遭遇するとは。

すると、隣でビールを飲んでいた奈々が、めちゃくちゃ悪い顔で笑った。

「いやぁ~、来るの遅かったじゃん?」

「……亮さんもいるなんて知りませんでしたけど…」

「んふふ~♪」

コイツ、呼んでやがった。

俺は奈々を睨んだ。

「ちょっ、お前、勝手に美咲を呼ぶなよ!」

「いやいや、だってさ?」

奈々は肩をすくめながら言った。

「結局、お前が**『美咲とちゃんと向き合えてない』**って話だったじゃん?」

奈々が亮の真似をして言った。

「……いや、まあ、そうかもしれないけど……!」

「だったら直接話せばいいじゃん?」

「いや、そういう問題じゃ……」

「それとも?」

奈々はニヤリと笑って、俺を挑発するように言った。

「直接話したら何かマズいことでもある?」

「……」

それを聞いて、美咲も静かに俺を見つめてきた。

「亮さん、私も……話したいです」

「……」

なんだこの流れ。
完全に逃げられない空気じゃん。

「お、俺、ちょっとトイレ——」

「行かせるか!!」

「ぐはっ!!?」

俺が立ち上がろうとした瞬間、奈々が思いっきり俺の肩を掴んで押し戻してきた。

相変わらず力強い。

「お前、そろそろ腹くくれよ?」

「ぐぬぬ……」

仕方なく俺は座り直し、美咲と向き合うことになった。

◆ 直接話してみたら……?

美咲はいつものように、静かに微笑んでいた。

「亮さん、今日はこうしてお話する機会を作ってくださって……ありがとうございます」

「いや、俺は作ってない……」

「あはは、奈々さんが無理やり、ですよね」

「でしょ? いい仕事したでしょ?」

奈々はドヤ顔でビールを飲んでいる。
コイツ、ほんとに余計なことばっかするな……。

俺は軽くため息をついて、正面の美咲を見た。

「美咲、その……急に呼び出されて困っただろ?」

「いえ、むしろ良かったです。私も、お話したいことがありましたから」

「お話……?」

「はい」

美咲はふっと視線を落とし、少しだけ考えるような表情をした。

そして、静かに口を開いた。

「亮さん、最近……私のこと、避けていませんでしたか?」

「えっ……?」

避けていたか?

いや、そんなつもりはない……はず。

だけど、たしかに最近は会う回数が減っていたし、自分から積極的に連絡を取ることも少なくなっていたかもしれない。

「避けてたっていうか……なんかこう、どう接すればいいのか分からなくて……」

「どう接すれば、ですか?」

「あー、また出たよ、『なんかこう』っていう適当な表現!」

「うるせえ奈々!!」

美咲はクスッと笑って、俺を見つめた。

「亮さん、私……ずっと不安でした」

「……え?」

「私も、亮さんのことが好きです。でも、亮さんがどう思っているのか、正直分からなくて……」

「俺が……?」

「はい」

美咲は、ジョッキの取っ手を軽く指でなぞりながら、言葉を続けた。

「亮さんはいつも優しくしてくれます。でも、それが本当に私への気持ちなのか、ただの礼儀なのか……分からなかったんです」

「……そんなこと……」

「だって、亮さん……私に『どう思ってる?』って一度も聞いたことないですよね?」

「……!」

その言葉に、俺は完全に言葉を失った。

確かに。
俺はずっと「美咲が何を考えてるか分からない」と思っていた。
でも、それはつまり——

俺が、美咲に対して何も聞いていなかったからじゃないのか?

◆ 俺の気持ちと、彼女の気持ち

「亮さんが私に興味を持ってくれないなら……このまま結婚しても、きっと私は寂しいままだと思っていました」

美咲は静かにそう言った。

俺はそれを聞いて、初めて気づいた。

美咲も俺と同じだったんだ。

彼女も、「どう思われているのか分からない」ことに悩んでいた。

「美咲……俺さ……」

俺はジョッキを握りしめながら、言葉を絞り出した。

「俺、正直に言うと……お前のことが好きなのか、自分でも分かんなくなってた」

「……」

「でも、今話してて思った。俺、お前のことをちゃんと知ろうとしなかったんだなって」

美咲は驚いたように目を丸くした。

「……亮さん」

「だから、これからちゃんと話そう。美咲が何を思ってるのか、俺も知りたい」

すると、美咲はふわっと微笑んだ。

「はい……ありがとうございます」

その笑顔を見て、俺はようやく肩の力が抜けた気がした。

「いやぁ~~~、ようやくまともな会話したねぇ!!!」

「お前は黙ってろ奈々!!」

俺が奈々を睨むと、彼女はゲラゲラ笑ってビールを飲み干した。

「ま、これでお前らもちゃんと向き合えそうじゃん? めでたしめでたし!」

「……そうだな」

俺は苦笑しながら、美咲を見た。

「これから、よろしくな」

「はい、亮さん」

美咲は、これまでよりも少しだけ嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

——こうして、俺のモヤモヤは少しずつ晴れていった。

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