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第12話
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企画課の若手、佐藤の視点から言わせてもらうと、最近のフロアはまるで昼ドラの舞台みたいで正直めちゃくちゃ面白い。
主役はもちろん、うちのエース・長谷川さんと最近Uターン転職してきた、噂の元カノ・黒崎さんだ。
最初は、氷河期かよってくらい冷え切った空気だったのに、公園のクレーム対応あたりから、なんかこう雰囲気が変わってきた。
二人で残業してる時のあの微妙な距離感。
高校時代の話をしてる時の黒崎さんの嬉しそうな顔と、長谷川さんのちょっとだけ素直な横顔。
俺は、デスクの陰から固唾をのんで見守っていた。
「これは、ワンチャンあるんじゃね?」
そう思った矢先に、ラスボス登場だ。
広報課の早乙女京華さん。
あの人、美人だけど目が笑ってない。
長谷川さんにベタベタする裏で、黒崎さんが進めてる商店街のプロジェクトを明らかに妨害してる。
市のウェブサイトのあのやる気のない告知記事。
あれは絶対わざとだ。
素人が見ても分かる。
おかげで最近の黒崎さん、見てらんないくらい追い詰められてる。
顔色悪いしため息ばっかだし。
長谷川さんもなんかピリピリしてるし。
昼ドラは面白いけど、さすがに後味が悪い。
「……黒崎さん、ちょっといいスか」
その日の昼休み。
一人デスクで青い顔をしている黒崎さんに、俺は意を決して声をかけた。
◆◇◆
「え……?」
声をかけられ顔を上げると、そこに立っていたのはお調子者の佐藤くんだった。
「あの、広報課の件なんスけど」
彼は周りを気にするように声を潜めて言った。
「あそこがダメなら俺たちでやっちゃいましょうよ! ゲリラ的に!」
「え、ゲリラ的って……?」
「俺、大学の時イベントサークルにいたんスよ。SNSでバズらせるのとか結構得意で。広報課を通さなくても、やり方なんていくらでもあるって!」
佐藤くんの悪戯っぽく笑うその目に、私は一瞬言葉を失った。
すると、私の向かいの席の先輩まで「面白そうじゃない! 私も手伝うわよ!」と話に乗ってきた。
「黒崎さんの企画すごく良いと思うし、このまま潰されるなんて絶対おかしいもん」
「そうそう! 俺たち企画課の意地、見せてやりましょうよ!」
一人また一人と、同僚たちが私のデスクに集まってくる。
みんな私のこと、そしてこのプロジェクトのことをちゃんと見ていてくれたんだ。
「……皆さん」
じわりと目の奥が熱くなる。
一人で抱え込んでいると思っていた。
誰にも頼れないと思っていた。
「……ありがとうございますっ!」
私は深々と頭を下げた。
もう一人じゃない。
◆◇◆
その日の午後、企画課の有志による「非公式広報チーム」が秘密裏に結成された。
佐藤くんの指揮のもと、私たちはゲリラ的な宣伝活動を開始した。
若者向けのローカル情報サイトを運営している佐藤くんの友人に記事を書いてもらったり、この街出身のフォロワーの多い人気ブロガーにプレスリリースを送ったり。
私は商店街をもう一度回り、各店舗の「隠れた逸品」の最高に魅力的な写真を撮ることに専念した。
源田さんの店の艶やかな餡がのぞくいちご大福。
喫茶店の琥珀色に輝くサイフォンコーヒー。
その一つ一つに物語を添えて、SNSに投稿していく。
この作戦は、俊くんにはまだ内緒にしている。
彼に「非効率だ」と否定された手前、意地になっている部分も少しだけあった。
作戦が少しずつ効果を出し始めた頃、私は鈴木課長に部長室へ来るようにと呼び出された。
何か問題でもあったのだろうか。
不安な気持ちでドアをノックすると、課長は意外なことを口にした。
「黒崎さん、広報課の件であまり長谷川を責めないでやってくれ」
「え……?」
「あいつ、お前さんと口論になったあの夜の後、俺に何も言わずに一人で動いてたんだぞ」
課長は、ゆっくりと語り始めた。
俊が、あの日部長やさらには副市長にまで、今回のプロジェクトの重要性を直談判しに行っていたこと。
そして万が一の場合に備え、別の予算を確保できるように頭を下げて回っていたこと。
「『広報課の協力が得られない場合も想定し、別ルートでの広報予算を確保すべきです。黒崎の企画は、それだけの価値があります』ってな。あいつ、普段は絶対に頭なんて下げない男なのに必死だったぞ」
課長は、そこで一度言葉を切った。
「あいつは、昔から口下手で誤解されやすい損なタイプなんだ。でもな、黒崎さん。一度信じた仲間や仕事は、絶対に見捨てない。お前のこともお前の企画も、あいつはちゃんと見てるさ」
私は言葉を失った。
彼は、私を突き放したんじゃなかった。
私が感情的になっている間に、彼なりの「効率的な方法」で私やこのプロジェクトを守ろうとしてくれていた。
一人で戦っていると思っていた。
誰にも分かってもらえないと膝を抱えていた。
でも違った。
彼は、私の知らないところで私のためにたった一人で戦ってくれていたんだ。
申し訳なさと感謝と、そしてどうしようもなく込み上げてくる彼への愛おしさで、胸が張り裂けそうだった。
もう自分の気持ちから逃げるのはやめよう。
オフィスに戻ると、俊が難しい顔でパソコンに向かっている。
その背中が今はとても頼もしく、そして少しだけ愛おしく見えた。
このプロジェクトを絶対に成功させる。
そして、この想いをいつかきっと。
*****
彼は、私の知らないところで…。
溢れそうになる想いを必死に堪え、美鈴は一つの決意を固める。
この恋に、真正面から向き合おうと。
*****
主役はもちろん、うちのエース・長谷川さんと最近Uターン転職してきた、噂の元カノ・黒崎さんだ。
最初は、氷河期かよってくらい冷え切った空気だったのに、公園のクレーム対応あたりから、なんかこう雰囲気が変わってきた。
二人で残業してる時のあの微妙な距離感。
高校時代の話をしてる時の黒崎さんの嬉しそうな顔と、長谷川さんのちょっとだけ素直な横顔。
俺は、デスクの陰から固唾をのんで見守っていた。
「これは、ワンチャンあるんじゃね?」
そう思った矢先に、ラスボス登場だ。
広報課の早乙女京華さん。
あの人、美人だけど目が笑ってない。
長谷川さんにベタベタする裏で、黒崎さんが進めてる商店街のプロジェクトを明らかに妨害してる。
市のウェブサイトのあのやる気のない告知記事。
あれは絶対わざとだ。
素人が見ても分かる。
おかげで最近の黒崎さん、見てらんないくらい追い詰められてる。
顔色悪いしため息ばっかだし。
長谷川さんもなんかピリピリしてるし。
昼ドラは面白いけど、さすがに後味が悪い。
「……黒崎さん、ちょっといいスか」
その日の昼休み。
一人デスクで青い顔をしている黒崎さんに、俺は意を決して声をかけた。
◆◇◆
「え……?」
声をかけられ顔を上げると、そこに立っていたのはお調子者の佐藤くんだった。
「あの、広報課の件なんスけど」
彼は周りを気にするように声を潜めて言った。
「あそこがダメなら俺たちでやっちゃいましょうよ! ゲリラ的に!」
「え、ゲリラ的って……?」
「俺、大学の時イベントサークルにいたんスよ。SNSでバズらせるのとか結構得意で。広報課を通さなくても、やり方なんていくらでもあるって!」
佐藤くんの悪戯っぽく笑うその目に、私は一瞬言葉を失った。
すると、私の向かいの席の先輩まで「面白そうじゃない! 私も手伝うわよ!」と話に乗ってきた。
「黒崎さんの企画すごく良いと思うし、このまま潰されるなんて絶対おかしいもん」
「そうそう! 俺たち企画課の意地、見せてやりましょうよ!」
一人また一人と、同僚たちが私のデスクに集まってくる。
みんな私のこと、そしてこのプロジェクトのことをちゃんと見ていてくれたんだ。
「……皆さん」
じわりと目の奥が熱くなる。
一人で抱え込んでいると思っていた。
誰にも頼れないと思っていた。
「……ありがとうございますっ!」
私は深々と頭を下げた。
もう一人じゃない。
◆◇◆
その日の午後、企画課の有志による「非公式広報チーム」が秘密裏に結成された。
佐藤くんの指揮のもと、私たちはゲリラ的な宣伝活動を開始した。
若者向けのローカル情報サイトを運営している佐藤くんの友人に記事を書いてもらったり、この街出身のフォロワーの多い人気ブロガーにプレスリリースを送ったり。
私は商店街をもう一度回り、各店舗の「隠れた逸品」の最高に魅力的な写真を撮ることに専念した。
源田さんの店の艶やかな餡がのぞくいちご大福。
喫茶店の琥珀色に輝くサイフォンコーヒー。
その一つ一つに物語を添えて、SNSに投稿していく。
この作戦は、俊くんにはまだ内緒にしている。
彼に「非効率だ」と否定された手前、意地になっている部分も少しだけあった。
作戦が少しずつ効果を出し始めた頃、私は鈴木課長に部長室へ来るようにと呼び出された。
何か問題でもあったのだろうか。
不安な気持ちでドアをノックすると、課長は意外なことを口にした。
「黒崎さん、広報課の件であまり長谷川を責めないでやってくれ」
「え……?」
「あいつ、お前さんと口論になったあの夜の後、俺に何も言わずに一人で動いてたんだぞ」
課長は、ゆっくりと語り始めた。
俊が、あの日部長やさらには副市長にまで、今回のプロジェクトの重要性を直談判しに行っていたこと。
そして万が一の場合に備え、別の予算を確保できるように頭を下げて回っていたこと。
「『広報課の協力が得られない場合も想定し、別ルートでの広報予算を確保すべきです。黒崎の企画は、それだけの価値があります』ってな。あいつ、普段は絶対に頭なんて下げない男なのに必死だったぞ」
課長は、そこで一度言葉を切った。
「あいつは、昔から口下手で誤解されやすい損なタイプなんだ。でもな、黒崎さん。一度信じた仲間や仕事は、絶対に見捨てない。お前のこともお前の企画も、あいつはちゃんと見てるさ」
私は言葉を失った。
彼は、私を突き放したんじゃなかった。
私が感情的になっている間に、彼なりの「効率的な方法」で私やこのプロジェクトを守ろうとしてくれていた。
一人で戦っていると思っていた。
誰にも分かってもらえないと膝を抱えていた。
でも違った。
彼は、私の知らないところで私のためにたった一人で戦ってくれていたんだ。
申し訳なさと感謝と、そしてどうしようもなく込み上げてくる彼への愛おしさで、胸が張り裂けそうだった。
もう自分の気持ちから逃げるのはやめよう。
オフィスに戻ると、俊が難しい顔でパソコンに向かっている。
その背中が今はとても頼もしく、そして少しだけ愛おしく見えた。
このプロジェクトを絶対に成功させる。
そして、この想いをいつかきっと。
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彼は、私の知らないところで…。
溢れそうになる想いを必死に堪え、美鈴は一つの決意を固める。
この恋に、真正面から向き合おうと。
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