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第18話
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彼の腕の中。
熱い告白の言葉が、まだ私の頭の中でぐるぐると反響している。
『俺が好きなのは、十四年前も今もお前だけだ、美鈴!』
廊下の向こうでは鈴木課長や佐藤くんたちが、呆然とした顔でこちらを見ている。
その視線に、はっと我に返った。
このままではいけない。
「……俊くん」
私は、彼の胸をそっと押し返した。
「場所変えよう。……ちゃんと話がしたい」
私の言葉に、彼もようやく周りの状況に気づいたようだった。
バツが悪そうに一度頭を掻くと、しかし掴んだ私の腕は離さないまま、人気のない非常階段へと私を導いた。
夕日が差し込む、オレンジ色の静かな空間。
二人きりになった途端、また心臓が大きく音を立て始める。
彼はまだ、私の腕を掴んだまま離さない。
その真剣な瞳が、私の答えを待っている。
◆◇◆
「……ごめんなさい」
私の口から最初にこぼれ落ちたのは、喜びでも感謝でもなくただ謝罪の言葉だった。
「え……?」
彼の眉が訝しげにひそめられる。
「私、ずっと俊くんに、嘘をついてた」
私は震える声で、十四年間心の最も深い場所に、固く固く封じ込めてきた真実を、語り始めた。
『他に好きな人ができた』。
あの言葉は真っ赤な嘘だったこと。
本当はあの頃、父の会社が経営の危機に陥っていたこと。
家の経済状況が急激に悪化し、地元の大学へ進学する余裕さえなくなってしまったこと。
東京の大学の、返済が不要な給付型の奨学金。
その特待生試験に合格することだけが、私が大学へ進む唯一の道だったこと。
「俊くんに、そんな私の家の事情で、重荷を背負わせたくなかった」
涙で、声がかすれていく。
「あなたの、未来の邪魔をしたくなかった。待ってて、なんて、そんな、身勝手なこと、言えるはずもなかった」
「だから、嫌われるのが、一番だと、思ったの。あなたが、私のことなんて、さっさと忘れて、新しい、素敵な恋ができるようにって……。ひどいよね。本当に、身勝手で、最低だよね……」
◆◇◆
全てを話し終えた時、私はもう立っていることさえできなかった。
その場に、へなへなと崩れ落ちそうになる。
嗚咽が止まらない。
俊は黙って、私の全ての告白を聞いていた。
彼の顔は、驚きと痛みと、そしてどうしようもない愛おしさが、複雑にぐちゃぐちゃに混じり合った、私が今まで一度も見たことのない表情をしていた。
「……馬鹿か、お前は」
彼は、そう絞り出すように言うと、崩れ落ちそうになる私の体を今度は壊れ物を抱きしめるように、優しくしかし力強く、抱きしめた。
「そんなこと、一言、言ってくれればよかったんだ」
彼の声も震えていた。
「俺はお前が思うほど弱くない。お前の家の事情がどうだろうと、そんなこと俺たちの間では何の問題にもならなかった」
「どんな事情があったって、俺はお前を待ってた。何年だって待つつもりだったんだぞ……!」
「……ごめんなさいっ、ごめんなさい……っ」
彼の温かい胸の中で、私は十四年分の後悔と寂しさを全て吐き出すように、ただ子供のように泣きじゃくった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
ようやく涙が収まった私が、顔を上げる。
彼のシャツが、私の涙でぐっしょりと濡れてしまっていた。
「……私も、好きです」
彼の潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめて、私は言った。
「ずっと俊くんのことが好きでした。忘れたことなんて、一度も、なかった」
その言葉に、彼の顔が喜びでくしゃりと歪んだ。
それは、私がずっとずっと見たかった、彼の心からの笑顔だった。
そして。
彼の顔がゆっくりと近づいてくる。
私は、そっと目を閉じた。
十四年という、あまりにも長い遠回り。
その時を超えて、私たちの唇が静かにそして確かめるように、優しく重なった。
*****長い、長い、遠回りだった。
お互いを想いながら、すれ違い、傷つけ合った。
でも、もう、迷わない。
夕日が、そんな二人を、オレンジ色に、優しく、照らしている。
全ての障壁がなくなった今、二人はようやく、本当の意味でのスタートラインに立った。
*****
熱い告白の言葉が、まだ私の頭の中でぐるぐると反響している。
『俺が好きなのは、十四年前も今もお前だけだ、美鈴!』
廊下の向こうでは鈴木課長や佐藤くんたちが、呆然とした顔でこちらを見ている。
その視線に、はっと我に返った。
このままではいけない。
「……俊くん」
私は、彼の胸をそっと押し返した。
「場所変えよう。……ちゃんと話がしたい」
私の言葉に、彼もようやく周りの状況に気づいたようだった。
バツが悪そうに一度頭を掻くと、しかし掴んだ私の腕は離さないまま、人気のない非常階段へと私を導いた。
夕日が差し込む、オレンジ色の静かな空間。
二人きりになった途端、また心臓が大きく音を立て始める。
彼はまだ、私の腕を掴んだまま離さない。
その真剣な瞳が、私の答えを待っている。
◆◇◆
「……ごめんなさい」
私の口から最初にこぼれ落ちたのは、喜びでも感謝でもなくただ謝罪の言葉だった。
「え……?」
彼の眉が訝しげにひそめられる。
「私、ずっと俊くんに、嘘をついてた」
私は震える声で、十四年間心の最も深い場所に、固く固く封じ込めてきた真実を、語り始めた。
『他に好きな人ができた』。
あの言葉は真っ赤な嘘だったこと。
本当はあの頃、父の会社が経営の危機に陥っていたこと。
家の経済状況が急激に悪化し、地元の大学へ進学する余裕さえなくなってしまったこと。
東京の大学の、返済が不要な給付型の奨学金。
その特待生試験に合格することだけが、私が大学へ進む唯一の道だったこと。
「俊くんに、そんな私の家の事情で、重荷を背負わせたくなかった」
涙で、声がかすれていく。
「あなたの、未来の邪魔をしたくなかった。待ってて、なんて、そんな、身勝手なこと、言えるはずもなかった」
「だから、嫌われるのが、一番だと、思ったの。あなたが、私のことなんて、さっさと忘れて、新しい、素敵な恋ができるようにって……。ひどいよね。本当に、身勝手で、最低だよね……」
◆◇◆
全てを話し終えた時、私はもう立っていることさえできなかった。
その場に、へなへなと崩れ落ちそうになる。
嗚咽が止まらない。
俊は黙って、私の全ての告白を聞いていた。
彼の顔は、驚きと痛みと、そしてどうしようもない愛おしさが、複雑にぐちゃぐちゃに混じり合った、私が今まで一度も見たことのない表情をしていた。
「……馬鹿か、お前は」
彼は、そう絞り出すように言うと、崩れ落ちそうになる私の体を今度は壊れ物を抱きしめるように、優しくしかし力強く、抱きしめた。
「そんなこと、一言、言ってくれればよかったんだ」
彼の声も震えていた。
「俺はお前が思うほど弱くない。お前の家の事情がどうだろうと、そんなこと俺たちの間では何の問題にもならなかった」
「どんな事情があったって、俺はお前を待ってた。何年だって待つつもりだったんだぞ……!」
「……ごめんなさいっ、ごめんなさい……っ」
彼の温かい胸の中で、私は十四年分の後悔と寂しさを全て吐き出すように、ただ子供のように泣きじゃくった。
どれくらいの時間が経っただろうか。
ようやく涙が収まった私が、顔を上げる。
彼のシャツが、私の涙でぐっしょりと濡れてしまっていた。
「……私も、好きです」
彼の潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめて、私は言った。
「ずっと俊くんのことが好きでした。忘れたことなんて、一度も、なかった」
その言葉に、彼の顔が喜びでくしゃりと歪んだ。
それは、私がずっとずっと見たかった、彼の心からの笑顔だった。
そして。
彼の顔がゆっくりと近づいてくる。
私は、そっと目を閉じた。
十四年という、あまりにも長い遠回り。
その時を超えて、私たちの唇が静かにそして確かめるように、優しく重なった。
*****長い、長い、遠回りだった。
お互いを想いながら、すれ違い、傷つけ合った。
でも、もう、迷わない。
夕日が、そんな二人を、オレンジ色に、優しく、照らしている。
全ての障壁がなくなった今、二人はようやく、本当の意味でのスタートラインに立った。
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