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第21話
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あのぎこちない初デートから、半年が過ぎた。
季節は、燃えるような夏から、木枯らしの吹く冬へと変わっていた。
私と俊くんの関係は、あの頃よりもずっと穏やかに、そして深く育まれていた。
職場では、私たちの関係はもはや「公然の秘密」となっていた。
鈴木課長は何かと理由をつけては、私たちに共同作業を言いつけ、その様子を父親のような温かい目で見守っている。
佐藤くんは相変わらず、「ヒューヒューだよ!」と昭和の言葉で私たちをからかいながらも、誰よりも私たちのことを応援してくれていた。
早乙女京華さんは、結局市役所を退職し、実家のコネで東京の会社に転職したと、風の噂で聞いた。
彼女が新しい場所で、本当の幸せを見つけてくれることを、今はただ願っている。
あのスタンプラリーイベントをきっかけに、駅前商店街は見違えるように活気を取り戻していた。
空き店舗だった場所には、若いオーナーが経営するお洒落なカフェや手作りの雑貨を売る店がオープンし、週末には多くの若者や家族連れで賑わいを見せている。
◆◇◆
私と俊くんは、今も商店街の活性化プロジェクトの担当として、定期的に店主たちと新しい企画の打ち合わせを続けていた。
「黒崎さん、長谷川くん、お疲れ様!」
仕事帰りに二人で商店街を歩いていると、店主たちから次々に親しげな声がかかる。
その温かい交流が、今の私にとって何よりの喜びだった。
私たちはいつものように、源田さんの店『源氏堂』に寄り道をした。
「よう、来たな。ほれ、新作の試食だ。食ってけ」
店の奥から出てきた源田さんが、ぶっきらぼうな口調で出来立ての湯気が立つ栗きんとんを二つ、差し出してくれた。
「わあ、美味しい!」
「甘さ控えめで、栗の味がしっかりしますね」
私たちは、顔を見合わせて笑い合う。
こんな何気ない、穏やかな日常。
東京にいた頃は、失くしてしまったとさえ思っていたささやかな幸せが、今確かにここにある。
◆◇◆
先月、俊くんの実家へ挨拶に行った時のことを思い出す。
ガチガチに緊張していた私を、彼の厳格だと聞いていたお父さんは、厳しいながらも温かい目で見てくれた。
そして、「息子が、ご迷惑をおかけしましたな」と、深々と頭を下げたのだ。
そのことに、私は恐縮するばかりだった。
お母さんは、最初はまだ少しぎこちない様子だったけれど。
私がどれだけ、彼のことを大切に想っているか、その気持ちが伝わったのだろうか。
帰り際、「あの子、不器用だから。俊のこと、よろしくね」と、小さな声でそう言ってくれた。
その一言に、私はまた泣いてしまった。
『源氏堂』を出て、私たちはいつもの海辺の公園へと向かった。
冬の澄み切った夜空には、数えきれないほどの星が瞬いている。
ベンチに座り、二人でその美しい星空を見上げた。
「……なあ、美鈴」
隣で、俊くんが改まった声で、私の名前を呼んだ。
「ん?」
「俺さ、そろそろお前のこと、『黒崎さん』って職場で呼ぶの、やめたいんだけど」
「え……?」
「市役所でも、もうみんな知ってることだし。いつまでも、他人行儀なのもおかしいだろ」
彼の言いたいことが、いまいち分からなくて。
私が、不思議そうに首を傾げると。
彼は少しだけ照れくさそうに、でも真っ直ぐに私の目を見つめて言った。
「同じ苗字になれば、問題ないだろ?」
それは、あまりにも彼らしい、不器用で遠回しなプロポーズだった。
驚きで、目を見開く、私。
そして、次の瞬間。
喜びと、愛おしさと、幸せな気持ちが、一気に込み上げてきて、言葉にならない。
私は、返事の代わりに、彼の太くて逞しい腕に、ぎゅっと力いっぱいしがみついた。
そんな私を、彼は優しく、そして力強く、抱きしめ返してくれる。
彼の胸の中で、私は十四年間言えなかった言葉を、ようやく口にすることができた。
「ただいま、俊くん」
「おかえり、美鈴」
彼の、世界で一番優しい声が、私の耳元で囁いた。
*****
遠回りしたけれど、ここが私の、私たちの、本当の居場所。
二人の幸せな物語は、まだ始まったばかりだ。
*****
季節は、燃えるような夏から、木枯らしの吹く冬へと変わっていた。
私と俊くんの関係は、あの頃よりもずっと穏やかに、そして深く育まれていた。
職場では、私たちの関係はもはや「公然の秘密」となっていた。
鈴木課長は何かと理由をつけては、私たちに共同作業を言いつけ、その様子を父親のような温かい目で見守っている。
佐藤くんは相変わらず、「ヒューヒューだよ!」と昭和の言葉で私たちをからかいながらも、誰よりも私たちのことを応援してくれていた。
早乙女京華さんは、結局市役所を退職し、実家のコネで東京の会社に転職したと、風の噂で聞いた。
彼女が新しい場所で、本当の幸せを見つけてくれることを、今はただ願っている。
あのスタンプラリーイベントをきっかけに、駅前商店街は見違えるように活気を取り戻していた。
空き店舗だった場所には、若いオーナーが経営するお洒落なカフェや手作りの雑貨を売る店がオープンし、週末には多くの若者や家族連れで賑わいを見せている。
◆◇◆
私と俊くんは、今も商店街の活性化プロジェクトの担当として、定期的に店主たちと新しい企画の打ち合わせを続けていた。
「黒崎さん、長谷川くん、お疲れ様!」
仕事帰りに二人で商店街を歩いていると、店主たちから次々に親しげな声がかかる。
その温かい交流が、今の私にとって何よりの喜びだった。
私たちはいつものように、源田さんの店『源氏堂』に寄り道をした。
「よう、来たな。ほれ、新作の試食だ。食ってけ」
店の奥から出てきた源田さんが、ぶっきらぼうな口調で出来立ての湯気が立つ栗きんとんを二つ、差し出してくれた。
「わあ、美味しい!」
「甘さ控えめで、栗の味がしっかりしますね」
私たちは、顔を見合わせて笑い合う。
こんな何気ない、穏やかな日常。
東京にいた頃は、失くしてしまったとさえ思っていたささやかな幸せが、今確かにここにある。
◆◇◆
先月、俊くんの実家へ挨拶に行った時のことを思い出す。
ガチガチに緊張していた私を、彼の厳格だと聞いていたお父さんは、厳しいながらも温かい目で見てくれた。
そして、「息子が、ご迷惑をおかけしましたな」と、深々と頭を下げたのだ。
そのことに、私は恐縮するばかりだった。
お母さんは、最初はまだ少しぎこちない様子だったけれど。
私がどれだけ、彼のことを大切に想っているか、その気持ちが伝わったのだろうか。
帰り際、「あの子、不器用だから。俊のこと、よろしくね」と、小さな声でそう言ってくれた。
その一言に、私はまた泣いてしまった。
『源氏堂』を出て、私たちはいつもの海辺の公園へと向かった。
冬の澄み切った夜空には、数えきれないほどの星が瞬いている。
ベンチに座り、二人でその美しい星空を見上げた。
「……なあ、美鈴」
隣で、俊くんが改まった声で、私の名前を呼んだ。
「ん?」
「俺さ、そろそろお前のこと、『黒崎さん』って職場で呼ぶの、やめたいんだけど」
「え……?」
「市役所でも、もうみんな知ってることだし。いつまでも、他人行儀なのもおかしいだろ」
彼の言いたいことが、いまいち分からなくて。
私が、不思議そうに首を傾げると。
彼は少しだけ照れくさそうに、でも真っ直ぐに私の目を見つめて言った。
「同じ苗字になれば、問題ないだろ?」
それは、あまりにも彼らしい、不器用で遠回しなプロポーズだった。
驚きで、目を見開く、私。
そして、次の瞬間。
喜びと、愛おしさと、幸せな気持ちが、一気に込み上げてきて、言葉にならない。
私は、返事の代わりに、彼の太くて逞しい腕に、ぎゅっと力いっぱいしがみついた。
そんな私を、彼は優しく、そして力強く、抱きしめ返してくれる。
彼の胸の中で、私は十四年間言えなかった言葉を、ようやく口にすることができた。
「ただいま、俊くん」
「おかえり、美鈴」
彼の、世界で一番優しい声が、私の耳元で囁いた。
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遠回りしたけれど、ここが私の、私たちの、本当の居場所。
二人の幸せな物語は、まだ始まったばかりだ。
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