怪奇蒐集帳 続ノ篇(短編集)

naomikoryo

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11)手札

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――カードは選ばれない。選ぶのは、“向こう”だ。

【1】遺品のトランプ
三回忌の法要を終えた帰り、**蒼井美琴(あおい みこと)**は、祖父の古い山荘に立ち寄った。
祖父・章一は博識で変わり者だった。美琴が小学生の頃から、毎夏この山荘で「怖い話」を語ってくれた。

その日、押し入れの奥から、木箱に入った古いトランプが見つかった。
重厚なレザー調の蓋には、黒いインクでこう書かれていた。

DEATH OF HANDS
“あなたが誰かを出すたび、誰かがあなたを引く”

開けると、中には少し焦げた匂いのするカードが52枚。
だが、全ての札にどこか微妙な歪みがあり、クラブ・スペード・ハート・ダイヤのはずのマークも、目のような形に見えた。

美琴は、気味悪さを覚えつつも、数枚を取り出して並べた。

♠A(スペードのエース)
♥6(ハートのシックス)
♣Q(クラブのクイーン)

カードの背景には、見知らぬ人の写真が印刷されていた。まるで指名手配写真のようなモノクロの顔写真。

「これ、何……?」

だが、夜が更けてから、事態は動き出す。

【2】消える人々
トランプを見つけた翌日、美琴のスマホに通知が殺到した。

・同級生が交通事故に遭った
・職場の後輩が“突然いなくなった”
・ニュースで、見知らぬ女性が「行方不明者」として報道されていた

その女性の顔に見覚えがあった。

前夜、カードに印刷されていた“♥6”の人物だった。

恐る恐る他のカードを見ると、それぞれの札にも**“失踪者らしき人物”の顔**が写っていた。

しかも、シャッフルしたときだけ写真が変わる。

カードは、誰かの“命”と繋がっている。
引いた瞬間に、どこかの誰かが消える。

そして夜、美琴の夢の中に“トランプを配る声”が現れた。

「つぎのプレイヤーを選んでください」
「ひとり出せば、あなたは生き残れます」
「もう一度引けば、倍の報酬がもらえます」

【3】祖父の記録
翌朝、美琴は再び山荘の書斎を漁った。

すると、一冊の手帳が見つかった。
そこには祖父・章一の筆跡で、こんな記録が残されていた。

【1976年6月14日】
手札、初起動。2枚目を引いた途端、誰かが消える。
このカードは“自動的に因果を代替”する。
人を救いたければ、誰かを切れ。
人を殺せば、自分が残る。
だが、誰も引かずにいると、最後は“お前がめくられる”。

【1976年12月25日】
妻・睦子が夢に現れた。「あれは“遊び”じゃない、“審判”だ」と。
もう残り札が数枚。
引いた顔が自分に似てきている。

美琴はページの最後を見て凍りついた。

そこには、自分の顔写真が貼られていた。
祖父が生前、札をめくってしまったのだ。

しかも、その下に、こう書かれていた。

♣J(クラブのジャック):ミコト

【4】ゲームのルール
その晩、美琴は再び夢の中でカードを配られた。

そこは、見覚えのないカジノのような空間。
テーブルの向かい側には、白いスーツを着たディーラーが座っている。

顔がない。
顔の代わりに、ハートのエースが貼りついている。

「1枚引いてください。誰かが“出ます”。」

「あなた自身が引かれる前に、次の“犠牲”を選んでください。」

「やめて!」

美琴が叫んだとき、手元の札が勝手に1枚めくられた。

♦K(ダイヤのキング)

目を覚ますと、テレビで“与党幹部の急逝”が報じられていた。
名前を見ると、カードにあった名前と一致していた。

「もう、関係ない人ばかりじゃない……!」

カードは、次第に“近しい人間”を選び始めている。

【5】選ばれる手
逃げる方法はない。
カードを燃やしても戻る。
山奥に埋めても、戻る。

何をしても、朝には枕元に“1枚のカード”が置かれている。

ある夜、美琴の夢の中に祖父が現れた。

「お前は、最後の“プレイヤー”なんだ。もう場が続かない」
「手札を終わらせるには、“自分をめくる”しかない」
「だが、それは“本当の引導”を渡す行為になる」
「お前が自分をめくれば、誰も引かれなくなる」
「……さあ、どうする?」

【6】最後の札
翌朝。

美琴は、トランプをすべて並べた。

52枚――のはずが、53枚あった。

1枚だけ、裏面が黒い札。
そこには、何も書かれていない。

それをめくると、“あなた”の顔が写っていた。

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