女子高生探偵:千影&柚葉

naomikoryo

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第1章:開かずのアパート

第10話:「地下へ続く階段」

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 「……あまり深入りしない方がいい」

 歪んだ男の声が響いた直後、通話は切れた。

 千影はスマートフォンを耳から離し、しばらく画面を見つめていた。

「……非通知」

「ちょ、ちょっと待って! 何それ!? なんでこんなタイミングでそんな不気味な電話がかかってくるの!?」

 柚葉が焦った様子で千影の腕を掴む。

「知らないわ。でも、少なくとも"誰か"が私たちの動きを見ているのは確かね」

「えぇ……やばいって、それ!」

 美咲は不安そうに千影を見つめ、杉田も難しい顔をしていた。

「……千影、お前、心当たりは?」

「ええ、あるわ」

 千影は、ゆっくりとクローゼットの中に視線を戻した。

「この階段よ」

 クローゼットの奥——そこには、埃っぽい床とは明らかに質感の異なる、小さな石造りの階段が口を開けていた。

 地下へと続く、隠された通路。

 それは、まるで"誰にも知られたくない秘密"を隠すために存在するかのようだった。

「……ここが、このアパートの"核心"かもしれないわね」

 千影は淡々と言いながら、スマートフォンのライトを点ける。

「ちょ、ちょっと待って! まさか、行くの!?」

「行くわよ。ここまで来て、引き返す選択肢はないでしょう?」

「いやいやいや! あからさまに危険でしょ、これ!?」

 柚葉が慌てて千影の腕を引っ張る。

「だってさっきの電話、明らかに"警告"だったじゃん!?」

「それが何よりの証拠よ」

 千影は冷静に言った。

「私たちが"正しい場所"にたどり着いたからこそ、誰かが警告してきたのよ。つまり、この先に何か"知られてはいけない秘密"があるってこと」

「ぐっ……そ、それは確かに……」

 柚葉は渋い顔をしながらも、言い返せなかった。

「行くなら、私も……」

 美咲が小さな声で言った。

「だめよ」

 千影は即座に首を振る。

「これ以上、危険なことに巻き込むわけにはいかないわ。美咲ちゃんはここに残って」

「で、でも……」

「私たちが何を見つけても、必ず戻ってくるわ」

 千影の目を見て、美咲はしばらく躊躇した後、ゆっくりと頷いた。

「……分かった」

 杉田も腕を組みながら言った。

「俺も残る。もし何かあったら、すぐに逃げられるようにしておく」

「ありがとう。じゃあ、柚葉」

「うぅ……もう、本当に千影のこういうところ……!」

 柚葉は頭を抱えながら、それでも覚悟を決めた表情をした。

「……分かったよ! 行けばいいんでしょ、行けば!」

「ええ、頼もしいわ」

 千影は微笑むと、ゆっくりとクローゼットの中へと足を踏み入れた。

 そして——

 暗闇の地下へと、二人は降りていった。


 地下へ降りると、空気が一気に変わった。

 湿った土と石の匂い。壁には古びたレンガが使われており、まるで"戦時中の防空壕"のような雰囲気があった。

「……何ここ……?」

 柚葉が呆然と呟く。

「こんな場所、普通のアパートの地下にあるわけないよね……?」

「ええ。どうやら、"ここは後から作られたもの"みたいね」

 千影はライトを慎重に動かしながら進んでいく。

 道は狭く、所々に木箱や古びた布が散乱していた。

「うわ、なんか……こういうの、映画とかで見たことある……!」

「盗品の隠し場所か、もしくは"秘密の取引"に使われていた可能性もあるわね」

「ちょっと待って、千影! このアパート、マジでやばいやつなんじゃないの!?」

「ええ、私もそう思うわ」

 千影は歩みを止め、ライトをさらに奥へ向けた。

 すると——

「……扉?」

 地下通路の奥に、一枚の鉄製の扉があった。

 重厚で古びているが、比較的新しい南京錠で閉ざされている。

「……ここが"最奥"ね」

 千影は扉の前に立ち、南京錠を調べる。

「鍵は……普通のものね。ピッキングで開けられそう」

「また!? いや、ちょっと待って! これ本当に開けていいやつ!?」

「答えは、開けた先にあるわ」

「ぐぬぬ……!」

 柚葉が悶絶する中、千影は手際よくヘアピンを使って鍵を操作した。

 ——カチッ。

「……開いたわ」

「いや、開いちゃうんだ……!」

 千影は静かにドアノブを回し、扉を押し開けた。

 そして——

「っ……!」

 二人は、思わず息を呑んだ。

 そこには、古びた机と無数のファイルが積まれた"隠し部屋"があった。

「……何これ……」

 柚葉が恐る恐るファイルの一つを手に取る。

 埃を払い、表紙を確認すると——

 「松風荘 取引記録」

 「取引記録……?」

 千影はファイルを開き、内容を確認する。

 そこには、数字や名前が羅列されていた。

「……金の流れね」

「えっ?」

「このアパート……昔、"何かの違法取引"に使われていた可能性があるわ」

「マジでやばいやつじゃん!!」

 柚葉が青ざめる。

 千影はさらに別のファイルを開く。

 そして——あるページを見た瞬間、その表情が変わった。

「……嘘」

「千影?」

 千影は震える手で、そこに書かれた名前を指でなぞる。

「この名前……美咲ちゃんの"母親"の名前じゃない……?」

「……えっ!?」

 柚葉が慌ててファイルを覗き込む。

 そこには、数ヶ月前の取引記録の中に、美咲の母親の名前がはっきりと記されていた。

「どういうこと……?」

「分からない。でも、少なくとも——」

 千影は、ファイルをしっかりと握りしめながら言った。

「美咲ちゃんの母親は、このアパートと何か深い関係がある。」

 そして、それこそが——美咲の母親が突然失踪した理由なのかもしれない。

 "開かずのアパート"の謎は、まだ終わらない——。
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