俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

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スピンオフ編【一ノ瀬悠真】:第10話(最終話)「名前のない恋が、名前を持つとき」

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季節は少しだけ進んで、秋の入り口。
 

空は高く、風は穏やかで、
校庭の木々はほんのりと色を変え始めていた。
 

凛音と天音の“R+T”が文化祭ライブを終えて、
学園中がまだその余韻に包まれている中、
悠真は、静かに変化しようとしていた。
 

誰にも大声で宣言するわけでもなく、
ただひとりの相手に、ちゃんと“気持ち”を伝えるために。
 


 

日曜日の午後。
街はいつもより少しだけ騒がしい。
 

ハロウィンの装飾が並び始めたアーケードの中、
悠真は約束の時間より少し早く待ち合わせ場所に着いていた。
 

何度もポケットの中のスマホを確認して、
鏡で髪の乱れをチェックして、
深呼吸を三回。
 

緊張してないふりをしながら、全部がバレバレだった。


「……早いじゃん」

 
そんな悠真の前に現れたのは、
見慣れた制服じゃない私服姿の夏菜。
 

落ち着いたベージュのニットに、濃い色のデニム。
飾らないけれど、妙に“大人っぽい”その姿に、
悠真は一瞬、言葉を失った。

 
「似合ってるな」

 
「うん、ありがと。
 悠真のシャツ姿も、わりと嫌いじゃないかも」

 
「わりと、かよ」

 
そんな軽口を交わしながら、ふたりは歩き出した。
 

最初は、何でもない話。
クラスのこと、先生の笑い方の癖、天音の相変わらずな天然さ。
 

けれど、街を歩くうちに、ふたりの会話は自然と静かになっていった。
 

向かったのは、川沿いの公園。
ベンチに並んで腰掛けると、風が心地よく吹き抜けた。
 



 
「ねえ、悠真」

 
夏菜がぽつりと言った。

 
「もし、今の関係に“名前”をつけるとしたら……どんなの?」

 
悠真は、少し黙ってから答えた。

 
「“途中”……かな」
 

「途中?」

 
「まだ、ゴールじゃない。
 でも、スタートでもない。
 お互いに、ちゃんと歩き出したけど、
 まだ“確かめてる”って感じ」

 
「……うん。わかる」

 
夏菜は膝に手を置いて、じっと空を見つめた。

 
「だけど、私ね」

 
「悠真が“途中”って呼んだとしても、
 私は、今日ここに来るのにちょっとだけ覚悟してきたんだ」

 

「もし……もし、悠真が“もう一歩進みたい”って言ってくれたら、
 私、ちゃんと“名前”をつけたいって」

 
悠真の心が、大きく震えた。

 
ずっと、ずっと避けてきた言葉。
でも、それを今、自分の口から言える気がした。
 

「夏菜」

 
呼びかけた声は、思ったよりも低くて静かだった。

 
「俺、お前のこと……好きだ」
 

「親友としてとか、慰めとかじゃなくて。
 ちゃんと、恋として。
 “恋人になりたい”って気持ちが、俺の中にあるって気づいた」
 

「……それでもいいなら、俺と付き合ってください」

 
静寂が落ちる。
 

風の音も、遠くの子どもの声も、全部消えたような錯覚。

 
夏菜は、じっと悠真を見ていた。

 
そして、すっと目を細めて、
少し涙ぐんだ笑顔を見せた。
 

「……やっと言ってくれた」

 
「言わせんなよ」

 
「言いたかったくせに」

 
「うるせぇ」

 
ふたりは、笑った。
 

さっきまでとは違う、何かがほどけて、
何かがちゃんと、結ばれたような気がした。
 

そして、そっと手が伸びて、ふたりの指が重なる。

 
それは、手をつなぐよりももっと優しくて、
でも確かに伝わる、はじまりの温度。

 
「“途中”じゃなくなったね」

 
「うん。“名前”がついた」

 
「……彼氏と彼女」

 
「わりと、いい響きじゃね?」

 
「うん、わりと、ね」

 
ふたりは、手をつないだまま空を見上げた。

 
風が頬をなでていく。
季節が、確かに変わろうとしていた。

 

 

🔷最終話エピローグ

その日の夜、夏菜から天音にメッセージが届いた。

 
《やっとね、悠真が“前”を向いてくれたよ》

 
しばらくして、返信が来た。

 
《よかった。私、悠真くんのこと……ずっと味方でいたかった》

 
《私も。あんたには何度も助けられたし》

 
《じゃあ、次はダブルデートだね♡》

 
《早いわw》

 
ふたりの笑顔が、夜空の下で並ぶ。
それぞれの恋が、それぞれの場所で“名前”を持ち始めた。

 
そして、物語は続く――。
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