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スピンオフ編【一ノ瀬悠真】:第9話「夏の午後、少し傾いた影の中で」
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金曜日の放課後、夏の終わり。
窓から差し込む光は少し柔らかく、教室の隅に長く伸びた影を落としていた。
悠真は、廊下に出たまま空を見上げた。
もう少ししたら、夕焼けが空を染める時間帯だ。
最近は涼しい風が吹くようになったが、日差しはまだ肌に残る暑さを含んでいる。
「おーい、帰らないの?」
夏菜の声が背中から飛んできた。
「あぁ、いや……ちょっと考えごとしてて」
「へぇー? 悠真が“考えごと”? それはニュースじゃない?」
「失礼なやつだな」
「え、図星でしょ?」
夏菜は笑いながら鞄を肩にかけて、悠真の隣に並んだ。
「ねえ、今日さ、寄り道しない? たまには」
「どこ行くんだよ」
「ふふん、決めてない」
「はぁ……それ、寄り道って言わねぇだろ」
「いいからいいから、つべこべ言わず、ついてこい一ノ瀬!」
夏菜は有無を言わせぬ笑顔で、悠真の腕を引っ張る。
その手は軽く、でも確かに“引かれている”ことを実感させる力があった。
◆
ふたりがたどり着いたのは、小さな公園だった。
子どもたちの姿もなく、ベンチに座る老夫婦がひと組だけ。
セミの声が遠くから響く。
木漏れ日が静かに、ふたりの足元を照らしていた。
「ちょっと座らない?」
「あ、あぁ。」
悠真がベンチに腰掛けると夏菜もすぐ横に座った。
決して近い距離ではないが、遠くもない。
今の二人の関係を表しているようだ。
「どう?落ち着いた?」
夏菜の唐突の疑問に、
「そうだな。ぼちぼちかな…」
對馬は静かに空を見上げながら言った。
「好きって気持ちも色々あるのが分かって来たかな、最近…」
「そ、そうなんだ…」
沈黙が落ちた。
優しい風が頬をなでていく。
悠真は視線を夏菜へ向けた。
「でも、今は……」
「今はもう、そういうのじゃない。
ちゃんと“終わった”って思ってる。
……思えるようになった」
言いながら、自分の心に問いかける。
確かに、もう痛みは薄れている。
あのときの悔しさも、苦しさも、
今の夏菜の隣では、遠い昔のことのように感じる。
「夏菜」
「ん?」
「俺、お前といるとき、楽しいって思えるんだよ」
「……急にどうしたの?」
「いや、ちゃんと伝えておこうと思って」
夏菜は、笑わなかった。
ただ、まっすぐに悠真を見つめ返してきた。
「私もね」
「悠真といると、すごく楽しいよ」
「でもね、まだ怖いの」
「“このまま友達でもいいかな”って思い始めたときに、
もしもそれが“本気”だったらって。
……また誰かの隣を選ばれるのが、怖い」
その言葉に、悠真は胸がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚えた。
「……俺さ、誰かの“代わり”になりたくないって思ってたんだ」
「でも、気づいたんだ。
本気で向き合わなかったのって、怖かったからだって」
「凛音に振り向いてもらえなかったからじゃない。
……誰かを、本当に好きになるのが怖かったんだって」
夏菜は少し驚いたように、目を丸くした。
「でもさ」
「今は、お前といる未来を考える方が怖くない。
……むしろ、楽しみって思えるんだ」
ゆっくりと、悠真は立ち上がった。
そして、ベンチに座る夏菜の前に立ち、手を差し出す。
「一歩だけ。もう一歩だけ、踏み出してもいいかな」
夏菜は、ほんの数秒だけ黙ったあと、その手を取った。
「……うん。一歩だけ、ね」
ふたりは笑った。
つないだ手はまだ温かくて、
名前はまだつけられないけど、
確かにそこに“想い”があった。
それで、今は十分だった。
窓から差し込む光は少し柔らかく、教室の隅に長く伸びた影を落としていた。
悠真は、廊下に出たまま空を見上げた。
もう少ししたら、夕焼けが空を染める時間帯だ。
最近は涼しい風が吹くようになったが、日差しはまだ肌に残る暑さを含んでいる。
「おーい、帰らないの?」
夏菜の声が背中から飛んできた。
「あぁ、いや……ちょっと考えごとしてて」
「へぇー? 悠真が“考えごと”? それはニュースじゃない?」
「失礼なやつだな」
「え、図星でしょ?」
夏菜は笑いながら鞄を肩にかけて、悠真の隣に並んだ。
「ねえ、今日さ、寄り道しない? たまには」
「どこ行くんだよ」
「ふふん、決めてない」
「はぁ……それ、寄り道って言わねぇだろ」
「いいからいいから、つべこべ言わず、ついてこい一ノ瀬!」
夏菜は有無を言わせぬ笑顔で、悠真の腕を引っ張る。
その手は軽く、でも確かに“引かれている”ことを実感させる力があった。
◆
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子どもたちの姿もなく、ベンチに座る老夫婦がひと組だけ。
セミの声が遠くから響く。
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「ちょっと座らない?」
「あ、あぁ。」
悠真がベンチに腰掛けると夏菜もすぐ横に座った。
決して近い距離ではないが、遠くもない。
今の二人の関係を表しているようだ。
「どう?落ち着いた?」
夏菜の唐突の疑問に、
「そうだな。ぼちぼちかな…」
對馬は静かに空を見上げながら言った。
「好きって気持ちも色々あるのが分かって来たかな、最近…」
「そ、そうなんだ…」
沈黙が落ちた。
優しい風が頬をなでていく。
悠真は視線を夏菜へ向けた。
「でも、今は……」
「今はもう、そういうのじゃない。
ちゃんと“終わった”って思ってる。
……思えるようになった」
言いながら、自分の心に問いかける。
確かに、もう痛みは薄れている。
あのときの悔しさも、苦しさも、
今の夏菜の隣では、遠い昔のことのように感じる。
「夏菜」
「ん?」
「俺、お前といるとき、楽しいって思えるんだよ」
「……急にどうしたの?」
「いや、ちゃんと伝えておこうと思って」
夏菜は、笑わなかった。
ただ、まっすぐに悠真を見つめ返してきた。
「私もね」
「悠真といると、すごく楽しいよ」
「でもね、まだ怖いの」
「“このまま友達でもいいかな”って思い始めたときに、
もしもそれが“本気”だったらって。
……また誰かの隣を選ばれるのが、怖い」
その言葉に、悠真は胸がぎゅっと締めつけられるような感覚を覚えた。
「……俺さ、誰かの“代わり”になりたくないって思ってたんだ」
「でも、気づいたんだ。
本気で向き合わなかったのって、怖かったからだって」
「凛音に振り向いてもらえなかったからじゃない。
……誰かを、本当に好きになるのが怖かったんだって」
夏菜は少し驚いたように、目を丸くした。
「でもさ」
「今は、お前といる未来を考える方が怖くない。
……むしろ、楽しみって思えるんだ」
ゆっくりと、悠真は立ち上がった。
そして、ベンチに座る夏菜の前に立ち、手を差し出す。
「一歩だけ。もう一歩だけ、踏み出してもいいかな」
夏菜は、ほんの数秒だけ黙ったあと、その手を取った。
「……うん。一歩だけ、ね」
ふたりは笑った。
つないだ手はまだ温かくて、
名前はまだつけられないけど、
確かにそこに“想い”があった。
それで、今は十分だった。
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