俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第13話「ステージで起きた小さな事件」

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午後の校舎は、文化祭の熱気で空気が重たいほどに充満していた。

外では焼きそばの煙が舞い上がり、校庭では軽音部の演奏が鳴り響く。
屋内では仮装コンテストやクイズ大会、目玉企画のファッションショーの準備が進んでいた。

そのファッションショーこそが、今日の“事件”の舞台だった。
 

桐嶋凛音は、そのステージの裏で、眉間に皺を寄せていた。

「……ふざけんなよ」

 
手元には、明らかにサイズの合わないステージ衣装。
銀のアクセントが入った黒のジャケット。
細身のパンツ。
そして、やたらと襟元が開いたシャツ。
 

「これ、絶対美咲姉が選んだやつだろ……」
 

その通りである。
バックステージの控室には、彼の次女・美咲が送ってきたと思われる箱が置いてあり、
中には手紙が添えられていた。

《凛音、ママの代理でステージモデルよろしくね♡
 これ着てセンター歩いたら、観客全員ノックアウト間違いなし♡
 #姉バカ #親バカも見てます #本気で着て》
 

凛音は天を仰いだ。

「帰りてぇ……」

 
けれど、状況が許さない。
2年B組の代表として、母親のモデル事務所の推薦もあってステージに出ることが決まっていた。
逃げ道はない。
 


 

客席は満員。
体育館のステージを中心に、各学年のクラス代表モデルたちが順番に登壇していく。

会場のあちこちからフラッシュが焚かれ、
「○○先輩やばい!」「え、モデル並みじゃん!」という黄色い声が飛び交っていた。
 

そして、ついに。

ステージアナウンスが響く。

「続いての登場は、2年B組代表――桐嶋凛音くん!」

 
照明が落ち、スポットが一点に集中する。

高身長。
銀の装飾が映える漆黒の衣装。
そのシルエットが一歩ステージに現れた瞬間、会場は一瞬、静まり返った。

 
「えっ……」

「……うそ……本物のモデルみたい……」

「え、何あのオーラ……」
 

次の瞬間。

「きゃああああああああ!!!」

割れんばかりの悲鳴のような歓声が上がった。

 
凛音はというと、眉間に皺を寄せたまま、
嫌そうな顔を隠しもしない表情でランウェイを歩き出す。

堂々たる歩み。
けれど、どこか投げやり。

それがまた、“俺様感”を爆発させ、
女子たちは逆に「それがいい!」「不機嫌な顔が最高!」と興奮状態。

 
そして、歩きながら。

視線が
――観客席の一角に立つ少女と、ぶつかった。

白石天音。

 
彼女は、誰よりも強く、誰よりも真っ直ぐな視線で、
凛音を見ていた。

(……変わらないな)

凛音は思った。

小学生の頃から。
彼女だけは、自分を“人として”見てくれる。
顔でも、人気でもなく、
“桐嶋凛音”そのものとして、向き合ってくれる。

そして。
気づいていた。

自分は
――ずっと、彼女が好きだった。
 

ずっと前から、彼女しか見ていなかった。

でも。

家では姉たちに囲まれて、疲れ果てて。
学校では女子を避ける“演技”がどんどん板について。
気づけば、自分の本心を押し殺すのが日常になっていた。
 

今、ステージのど真ん中に立って、
彼女と目を合わせた瞬間。

胸が、少しだけ痛んだ。

(こんなふうに……ずっと避けて、
 俺、何してんだよ)

 
ステージの終盤。
凛音がターンして引き返そうとしたそのとき。

――トラブルが起きた。

 
足元の段差に、スタッフが置き忘れたコードがあった。

凛音のブーツの先が引っかかる。

その瞬間、重心が崩れた。

「――っ!」

ステージの最前列がざわめいた。

凛音の身体が傾き、体勢を崩す――そのとき。

観客席から飛び出すように走り出す影。

白石天音だった。
 

「凛音っ!!」
 

彼女はステージ脇のスタッフの制止を振り切って、
瞬時に駆け上がった。

そして、倒れそうになる凛音の腕をとっさに支えた。

 
客席がどよめいた。

教師たちもざわつく中、凛音の身体はぎりぎりで転倒を免れた。

ステージ中央に、ふたり。

そのまま、見つめ合ってしまう。

 
「……バカ」

凛音が、天音の額を指で弾いた。

「お前、なにやってんだよ……」
 

「だって、見てられなかったもん」
 

言葉の響きが優しすぎて、
会場全体がしん……と静まった。

 
「か、かかか……感動的すぎるぅ!!!」

「ヒーローとヒロインじゃん!!」

「この学校の姫と王子は、やっぱりこのふたりだってば!!」
 

観客が総立ちになって拍手。

完全に偶然の事故が、ドラマチックな演出になっていた。

だが。
凛音と天音は、観客の反応など見ていなかった。

視線を重ねたまま、ふたりの時間だけが流れていた。
 

その光景を
――悠真は、舞台袖から、じっと見ていた。

心の奥に、言いようのない感情が広がっていた。
 

(俺は……あそこに立てない)

(天音が走り出したとき、
 俺は……動けなかった)

 
そして、はっきりとわかった。

自分の心が、誰に向いていたのか。
それは“恋”という言葉にするにはまだ曖昧で。
でも、“ただの友情”と切り捨てるには、重たすぎた。

 
あの瞬間、
天音が凛音を助けたあの一秒。

悠真の心に、
静かに“恋の名前”が降りた。

けれど、もう遅いのだと
――そのとき、理解してしまった。
 

ステージでは、ふたりが降壇するところだった。

凛音は、最後にもう一度、天音の手を軽く握って。

そして、小さく言った。

 
「ありがとな、天音」
 

彼女は、にこりと笑って、

「うん、当たり前でしょ」

と返した。

その笑顔を見て、悠真はまた一歩だけ、後ろへ下がった。

心に、答えを出すにはまだ、時間が足りない。

けれど、その一歩は、きっと
――始まりでもある。
 

【つづく】
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