俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第14話「夜の教室、ふたりの過去とこれから」

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文化祭の全てのプログラムが終わり、生徒たちが後夜祭の準備に向けてざわざわと動き始めた頃、
校舎の一角はすでに静寂を取り戻していた。

午後の熱気が嘘のように引いて、窓の外には夕暮れが溶けかけている。
音楽室から漏れ出すピアノの音も、誰かが口ずさむ祭りの余韻も、遠くなっていく。

2年B組の教室には、ひとつだけ灯りが点っていた。
その淡いオレンジの光の下に、ふたりの影が並んでいた。
 

「……ありがとな、さっき」

凛音が教室の後ろ側の窓枠に腰をかけながら、
隣の席に座る天音に目を向ける。

カーテンがゆっくり揺れ、光と影が彼の頬を滑った。

 
「なにが?」

天音は机の上に頬杖をついたまま、ふふっと笑った。

「倒れかけた俺を支えた、あれだよ」

 
「あー……あれね」
 

「“あれね”って、お前な……」
 

「かっこよかったよ、凛音」
 

その一言で、凛音の動きがピタリと止まる。

少し照れたように顔を背ける。
だが、それがまた“俺様”っぽくて、天音は笑ってしまう。

 
「……うっせ」

 
「でも、ちょっと怖かった。ほんとに倒れるかと思って」

 
「まあ……あれはちょっと焦った」

 
凛音が目を細め、窓の外を見やる。

遠くに、後夜祭用のステージに灯りがともり始めていた。
提灯がぶら下がり、風に揺れている。
誰かが流しているらしい、懐かしいポップスのサビが微かに聞こえた。

 
「昔も、あったよな。ああいうの」

凛音の言葉に、天音は首をかしげる。
 

「昔って?」
 

「ほら……小4のとき。運動会で、障害物競走んとき」
 

「……あ」
 

思い出した。

跳び箱に足を引っかけて、前のめりに倒れかけた凛音を、
ゴール地点で待っていた天音が、本気で走ってきて受け止めた。

小さな身体で、必死に支えようとして、
でも結局ふたりして転がって。

土まみれになって笑った
――あの瞬間。
 

「よく覚えてたね」

 
「お前、泣いたくせに」
 

「ち、ちがうっ! あれは……顔に砂が入ったから!」

 
「はいはい」

 
凛音が小さく笑う。
その笑顔が、どこか子どものころと同じで、
天音の胸がぎゅっとなった。
 

昔の凛音は、もっと頼りなかった。
すぐに黙って、ひとりで我慢して。

それが嫌で、天音はいつも凛音の前に立っていた。

でも今は――

彼はもう、自分の力で人を惹きつけていて、
守られる存在ではなくなっていて。

それでも、たまに見せるこういう顔が、
天音の心をどうしようもなくかき乱す。

 
「……ずっと、好きだったんだよ、私」

 
ぽつんと。
空気に落ちたその言葉に、凛音が目を見開く。
 

「……」
 

「子どものころから。
 あんた、何考えてるかわかんなくて、いつも一人でなんでも我慢して。
 でも、ほんとは泣き虫で、優しくて……」

 
「……」

 
「転校して離れるとき、言おうと思ってたの。
 “好きだよ”って。
 でも言えなかった。
 あの頃の私、ちゃんと好きって言える強さがなかった」

 
天音は目を伏せる。
声が震えていた。
 

「だから、また会えたとき、嬉しくて……
 でも、変わってたから、あんた。
 ちょっと冷たくて、
 私のことなんて忘れてるんじゃないかって、不安で」
 

凛音はゆっくりと天音に近づく。
窓枠から降りて、彼女の正面に立つ。

 
「忘れてねぇよ」

 
小さな声だった。

 
「忘れるわけ、ねぇだろ。
 あんだけ守ってくれた奴、他にいねぇし」
 

「……ほんとに?」
 

「ほんとだ」
 

「……凛音は、ずっと……」

 
「俺も、お前のことが、好きだった」

 
今度は、はっきりと。
凛音の瞳がまっすぐに天音を見ていた。

 
「ずっと言えなかった。
 家じゃ姉貴らに囲まれて、学校じゃ“俺様”で。
 誰にも本音なんて言えなかった」

 
「……」

 
「でも、お前だけは……違った。
 昔も今も、俺を“俺”として見てくれてる」

 
天音の目に涙が浮かぶ。

でも、それは悲しい涙じゃなかった。

ずっと待ってた言葉が、ようやく届いたから。
ずっと心の奥にしまってた想いが、ようやく形になったから。

 
「好きだよ、凛音」

 
「……俺も、お前が好きだ」

 
そのまま、ふたりはしばらく黙っていた。

静かな教室。

カーテンが揺れ、外から後夜祭のざわめきが微かに届く。

でも、ここだけは、別の時間が流れていた。
 

「なあ」

 
「ん?」
 

「言っとくけど、俺様キャラは継続だからな」
 

「えっ、そこは変わらないの?」
 

「つか、姉貴たちがうるさくてよ、家じゃ今も女に追い回されてんだぞ?」
 

「……ちょっと想像しただけで同情するわ」
 

「だから、俺のこと“守る側”続けろよ」

 
「え、なにそれ、命令?」

 
「当然」
 

「はいはい、俺様様~」
 

笑い合うふたりの声が、教室にぽんと弾んだ。
さっきまでの涙が嘘のように、あたたかい空気が満ちていた。

それは、過去から続いてきた感情が、ようやく“今”と結びついた瞬間だった。

そして、その“今”を、誰よりも強く待っていたのは――ふたりだった。

 
――けれど。

その教室の扉の向こうに、ひとり、立ち尽くす影があった。

廊下の薄暗がりに沈む、一之瀬悠真。

彼は、偶然通りかかった。

……いや、たぶん偶然じゃなかった。

凛音が教室に向かったのを見かけて、無意識のうちに後を追った。

そして、聞いてしまった。

ふたりの会話。
天音の告白。
凛音の想い。

全部、聞こえてしまった。
 

それでも、悠真は静かに背を向けた。

胸の奥がじんわりと痛む。
でも、それはきっと、自分がまだ曖昧だったせいだ。

誰を好きで、誰に何を求めていたのか。

ようやくわかりかけたそのときに、
もう、答えは出ていた。

 
(……良かった、よな。凛音)
 

ポケットの中で、握った拳がじんわりと湿っていた。

でも、もう何も言わずに。
ただ、階段を下りていった。

心の奥で何かが終わって、
そして、何かがまた始まりそうな気がしていた。

 
【つづく】
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