俺様王子は女嫌い?!本当は一途すぎて幼馴染のキミしか見てない

naomikoryo

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第17話「はじまりの日曜日、手をつなぐ距離」

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日曜日の朝。

カーテン越しに射し込む光が、凛音の部屋をじわじわと温めていた。

目を覚ました瞬間
――いつもなら、聞こえるはずの姉たちの足音がなかった。

玄関には「本日は女子会のため不在」と、誰かのイタズラっぽいメモが貼られていた。

 
「……奇跡だ」

凛音は、洗面台の前で呟く。

誰にも襲われず、ヘアアイロンの実験台にされることもなく、
三女の創作服を無理やり着せられることもない。

日曜の朝、ここまで平穏なのは、いつぶりだろう。

 
その理由の一部が、
スマホの通知でわかった。

天音からのLINE。

《今日、ひさしぶりに外出てみない?》

その一文に、
どこか胸の奥がざわついた。

ただのデートの誘い。
そう解釈すれば簡単だった。

でも、それ以上に、
“外で、ふたりでいること”が、少しだけ怖くもあった。

 
“俺様キャラ”の仮面を外してしまったら。
彼女の前で、素の自分が出すぎたら。
壊れてしまうような気がして。

けれど――

もう、あの教室で言葉を交わした時点で、
踏み出していたのだ。

 
だから、彼は答えた。

《迎えに行く。駅前、11時な》

 


 
凛音は、少しだけ気合いを入れていた。

ヘアセットは自分でやったが、選んだ服は珍しく私服のシャツにジャケット、細身のデニム。

シンプルだけど、どこか“他人の目”を意識したコーディネートだった。

……というのも、昨日の夜、由依から送られてきた「デート初回服装ガイド」というPDFの存在があったからだった。

ページ数12。
タイトルは《桐嶋家男子の名に恥じぬ服選び》。

 
「やりすぎだろ……」

でも、その中の「地味すぎず、目立ちすぎず、品を残せ」は、妙に納得してしまったのだ。

 
駅前には、天音がすでにいた。

白いノースリーブワンピースに、薄手のカーディガン。
髪を一つにまとめて、いつもより少しだけ大人びた雰囲気。
 

「……待たせた?」

「ううん、私もさっき来たとこ」

 
自然に笑い合う。
気まずさは、なかった。

むしろ、初めてなのに
――この空気が自然すぎることが、不思議だった。

 
「どこ行く?」

「何でもいい。お前が行きたいとこ」

 
「じゃあ、ちょっと歩こうか」

 
ふたりは、駅から離れた遊歩道を歩き出した。

途中の雑貨店で、天音が気に入ったマグカップを手に取ったり、
凛音がひとつひとつ冷静にツッコミを入れたり。

ファストフードの店でポテトを半分こして食べながら、
くだらない話で笑い合う。

誰も見ていない。
“俺様キャラ”も、“優等生”も、ここにはいない。

ただ、ふたり。

穏やかに、歩いていた。

 
そして。

遊歩道を抜けた先の、人気の少ない公園のベンチ。

木漏れ日が落ちてくる中、
天音がふと、口を開いた。

 
「……悠真、なんか変わったよね」

 
凛音が一瞬だけ、顔を曇らせた。

「……変わった、って?」
 

「昨日、ちょっとだけ話したの。
 “好きだったけど、今はもう違う”って言ってた」
 

凛音は、何も言わずにベンチのひじ掛けを見つめた。

 
「でも、私、ちょっとだけ……わかる気がして」

 
「なにが」

 
「たぶん、悠真自身も、まだ気づいてないの。
 “本当はどう思ってるのか”」
 

凛音は、はっとしたように目を向けた。

天音の声は、静かで優しくて
――でも、どこか確信めいていた。
 

「だから、私、彼の嘘に付き合うことにしたの。
 “もう好きじゃない”って嘘に、気づかないふりして。
 それが、今できる唯一の優しさだって思ったから」
 

その言葉は、凛音の心を突いた。

幼馴染として、家族のように寄り添ってきた悠真。

どんなに冷たくしても、いつも隣にいた。

それが“特別”でないはずがない。

それを失った時、ようやくわかる。

大切だったんだ、と。

 
「……あいつ、バカだな」
 

「うん、バカだよ」
 

「でも……いいやつなんだよな」
 

「うん。……わかってる」
 

沈黙。

でも、それは重苦しいものではなかった。
ふたりで、悠真を思い出しながら、静かに向き合っているような時間だった。

 
天音がそっと、ベンチから立ち上がる。

「さ、帰ろっか」
 

「……おい、手」

凛音が、ぽつんと。

唐突に、天音の手首をつかんだ。

「な、なに?」
 

「いいだろ。別に」
 

「急すぎじゃない?!」
 

「お前、わかってるくせに」
 

凛音の手が、天音の指をそっと絡める。

恋人繋ぎ。

初めての、その距離。

天音は、少し照れたように笑って、

「……バカ」

と、呟いた。

けれど、握り返したその手は、
とても、あたたかかった。

 

 

その日の夜。

凛音が自宅に戻ると、
リビングには悠真がいた。

いつのまにか姉たちと“家庭内女子会”に参加していたらしい。

「よぉ、王子様」

「うるせぇよ」

 
「お土産くらいあんだろ? ほら、彼女のセンスで選んだキーホルダーとか」

「買ってねーよ」

 
「うっわ、女子力皆無か」

 
そんな会話をしながら、
ふたりの間にある空気は、確かに少しだけ
――変わっていた。

でも、壊れてはいなかった。

天音の言った通り。

嘘は、優しさだったのかもしれない。

そして、その優しさが、
いまの関係を守っている。

 
【つづく】
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