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第十三話「過去からの手紙」
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放課後、駅前の書店。
「ごめんね、沙月。ちょっとだけ本屋寄りたいの」
「いいけど? どしたの? 美容雑誌の新刊出た?」
「それもあるけど……なんとなく。
ふと、“思い出したくなった”って感じかな」
沙月は一瞬「?」という顔をしたが、それ以上は何も聞かなかった。
この数週間で、彼女は“詮索しない距離感”を覚えたらしい。
その気遣いが、紬には本当にありがたかった。
(……あの時、香坂結としては何を求めていたんだろう。
ただ、モデルをして、演技の練習をして……
それだけだったっけ?)
自分の中にある“香坂結”の記憶は、日ごとに鮮明になってきている。
ただし、それは感情や映像ではなく、あくまで「記録」のようなもの。
本当の“生きた証”は、あの世界のどこかにまだあるのだろうか。
ふと、確かめたくなった。
ファッション雑誌のコーナーを眺めていると、
一冊の厚めの特集号が目に留まった。
『MODE+(モードプラス)総集編:10年代を彩ったモデルたち』
表紙には煌びやかなモデルの集合写真。
その中に──
(……いた)
目を疑うほど自然に、そこに“彼女”はいた。
いや、“自分”だった。
3列目、笑顔は控えめで、それでも目が強くて、誰よりも“カメラに語りかけて”いる。
(香坂結)
懐かしいという感覚よりも、“今でもまだいる”という錯覚が勝った。
(私……まだ、この世界に“残ってる”んだ)
ページをめくると、彼女の特集記事もあった。
「25歳、駆け抜けた光」
短く綴られた経歴と、関係者のコメント。
そして、今はもう更新されていない、ある個人ブログの名前が載っていた。
《Kanon Memories - 香坂結応援ブログ(閉鎖済)》
※一部アーカイブにて閲覧可能
(……ブログ?)
香坂結を応援していた、誰かが記録を残してくれていた。
もう亡くなったはずの“自分”を。
帰宅後、紬はスマホを手に、そっと検索していた。
「Kanon Memories 香坂結」
表示されたのは、個人ブログのアーカイブサイト。
シンプルなテンプレートに、優しいパステルカラー。
今では懐かしいレイアウトだ。
タイトルの下には、淡い文字でこう書かれていた。
「あなたのまっすぐな眼差しが、私を前に進ませてくれた」
――管理人:Riko
一つひとつ、投稿を読んでいく。
現場レポ、雑誌感想、テレビ出演情報。
香坂結が出たイベントの感想、写真、感動のメモ。
(これ……全部、誰かが私のために残してくれたもの)
時折添えられたコメントに、紬は静かに息を呑んだ。
「今日の結ちゃん、すごく大人っぽかった。笑顔の奥に、少しだけ影が見えた気がする」
「あのインタビュー、“自分はまだまだ”って言ってたけど、私はもう十分すごいと思う」
「でも、もっと見ていたいと思わせてくれるから……やっぱり、これからだって思っちゃうんだよね」
(……ごめん。私、最後まで“これから”を見せられなかった)
最終更新:2022年4月
「香坂結さん、ありがとうございました。
最後まであなたは、誰よりも美しく、強かったです。
どうか、またどこかで、“あなたの光”に会えますように」
(……)
画面を見つめたまま、紬の目から涙がひとすじ、こぼれた。
心の奥で誰かが呟いていた。
――“私は、あのとき、ちゃんと生きてたんだ”
もう終わった命でも。
もう触れられない記憶でも。
たしかに“誰かの心に届いていた”証が、ここにあった。
「……泣いてる?」
声がして振り返ると、部屋のドアが少しだけ開いていて、蒼が心配そうに覗いていた。
「あ、ごめん……大丈夫。泣いてないよ、ちょっと、目にゴミが……」
「うそ。泣いてる顔してた」
「……ちょっと、昔のこと思い出してただけ」
「お姉ちゃん、昔って、なに?」
「ん……そうね、例えば……
誰かに“ありがとう”って言われたことを、思い出してたの」
「ふーん。でも、泣くほど?」
「その“ありがとう”が、すごく大事だったから」
蒼はまだ納得していない顔だったが、「じゃあ、晩ごはんできたって」とだけ告げて去っていった。
紬は目元をぬぐって、スマホをそっと置いた。
(ありがとう。知らない誰か。
私の“終わり”を、ちゃんと見てくれていた人)
そして、心の中でそっと誓った。
(今度こそ、“続き”を見せる。
香坂結では終わらなかった人生を、“小森紬”として、最後まで生ききってみせる)
◆◇◆
夜。
机の前で、紬は新しいノートを開いていた。
その一ページ目の見出しに、こう書いた。
「夢をもう一度――自分に向けたレッスンプラン」
ボールペンを走らせながら、思った。
(これは過去の自分への答えであり、
今の私への挑戦状でもある)
どちらの人生も、大事なもの。
でも、“どちらかになりきる”んじゃない。
両方を抱きしめて、生きていく。
それが、“自称25歳の女子高生”としての生き方だ。
「ごめんね、沙月。ちょっとだけ本屋寄りたいの」
「いいけど? どしたの? 美容雑誌の新刊出た?」
「それもあるけど……なんとなく。
ふと、“思い出したくなった”って感じかな」
沙月は一瞬「?」という顔をしたが、それ以上は何も聞かなかった。
この数週間で、彼女は“詮索しない距離感”を覚えたらしい。
その気遣いが、紬には本当にありがたかった。
(……あの時、香坂結としては何を求めていたんだろう。
ただ、モデルをして、演技の練習をして……
それだけだったっけ?)
自分の中にある“香坂結”の記憶は、日ごとに鮮明になってきている。
ただし、それは感情や映像ではなく、あくまで「記録」のようなもの。
本当の“生きた証”は、あの世界のどこかにまだあるのだろうか。
ふと、確かめたくなった。
ファッション雑誌のコーナーを眺めていると、
一冊の厚めの特集号が目に留まった。
『MODE+(モードプラス)総集編:10年代を彩ったモデルたち』
表紙には煌びやかなモデルの集合写真。
その中に──
(……いた)
目を疑うほど自然に、そこに“彼女”はいた。
いや、“自分”だった。
3列目、笑顔は控えめで、それでも目が強くて、誰よりも“カメラに語りかけて”いる。
(香坂結)
懐かしいという感覚よりも、“今でもまだいる”という錯覚が勝った。
(私……まだ、この世界に“残ってる”んだ)
ページをめくると、彼女の特集記事もあった。
「25歳、駆け抜けた光」
短く綴られた経歴と、関係者のコメント。
そして、今はもう更新されていない、ある個人ブログの名前が載っていた。
《Kanon Memories - 香坂結応援ブログ(閉鎖済)》
※一部アーカイブにて閲覧可能
(……ブログ?)
香坂結を応援していた、誰かが記録を残してくれていた。
もう亡くなったはずの“自分”を。
帰宅後、紬はスマホを手に、そっと検索していた。
「Kanon Memories 香坂結」
表示されたのは、個人ブログのアーカイブサイト。
シンプルなテンプレートに、優しいパステルカラー。
今では懐かしいレイアウトだ。
タイトルの下には、淡い文字でこう書かれていた。
「あなたのまっすぐな眼差しが、私を前に進ませてくれた」
――管理人:Riko
一つひとつ、投稿を読んでいく。
現場レポ、雑誌感想、テレビ出演情報。
香坂結が出たイベントの感想、写真、感動のメモ。
(これ……全部、誰かが私のために残してくれたもの)
時折添えられたコメントに、紬は静かに息を呑んだ。
「今日の結ちゃん、すごく大人っぽかった。笑顔の奥に、少しだけ影が見えた気がする」
「あのインタビュー、“自分はまだまだ”って言ってたけど、私はもう十分すごいと思う」
「でも、もっと見ていたいと思わせてくれるから……やっぱり、これからだって思っちゃうんだよね」
(……ごめん。私、最後まで“これから”を見せられなかった)
最終更新:2022年4月
「香坂結さん、ありがとうございました。
最後まであなたは、誰よりも美しく、強かったです。
どうか、またどこかで、“あなたの光”に会えますように」
(……)
画面を見つめたまま、紬の目から涙がひとすじ、こぼれた。
心の奥で誰かが呟いていた。
――“私は、あのとき、ちゃんと生きてたんだ”
もう終わった命でも。
もう触れられない記憶でも。
たしかに“誰かの心に届いていた”証が、ここにあった。
「……泣いてる?」
声がして振り返ると、部屋のドアが少しだけ開いていて、蒼が心配そうに覗いていた。
「あ、ごめん……大丈夫。泣いてないよ、ちょっと、目にゴミが……」
「うそ。泣いてる顔してた」
「……ちょっと、昔のこと思い出してただけ」
「お姉ちゃん、昔って、なに?」
「ん……そうね、例えば……
誰かに“ありがとう”って言われたことを、思い出してたの」
「ふーん。でも、泣くほど?」
「その“ありがとう”が、すごく大事だったから」
蒼はまだ納得していない顔だったが、「じゃあ、晩ごはんできたって」とだけ告げて去っていった。
紬は目元をぬぐって、スマホをそっと置いた。
(ありがとう。知らない誰か。
私の“終わり”を、ちゃんと見てくれていた人)
そして、心の中でそっと誓った。
(今度こそ、“続き”を見せる。
香坂結では終わらなかった人生を、“小森紬”として、最後まで生ききってみせる)
◆◇◆
夜。
机の前で、紬は新しいノートを開いていた。
その一ページ目の見出しに、こう書いた。
「夢をもう一度――自分に向けたレッスンプラン」
ボールペンを走らせながら、思った。
(これは過去の自分への答えであり、
今の私への挑戦状でもある)
どちらの人生も、大事なもの。
でも、“どちらかになりきる”んじゃない。
両方を抱きしめて、生きていく。
それが、“自称25歳の女子高生”としての生き方だ。
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