自称25歳の女子高生

naomikoryo

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第十四話「小さなCM、通りました」

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「……え?」

放課後の校門前、スマホを耳に当てながら、紬は立ち止まった。

電話の向こうで、加納の落ち着いた声が続いていた。

『この間のオーディション、覚えてるよね? あの炭酸飲料のCM』

「はい。あれ……不合格だったんじゃ……」

『そう。でも、急遽、合格してた子のスケジュールが合わなくなって。
 繰り上げで、“次点”だった紬が候補に上がった。
 事務所が推したら、OK出たよ』

「……」

『つまり、明後日撮影ね』

あまりにもあっさりと言われたその一言に、紬は返事が遅れた。

(あのときの私の演技は、“良かった”わけじゃなかった。
 それでも、今このタイミングで、私に声がかかった)

理由なんて、どうでもいい。

大事なのは――“次がある”ということ。

「……ありがとうございます。やらせてください。今度は、ちゃんとやります」

『その言葉、待ってたよ』

加納は笑って電話を切った。

紬はしばらくその場から動けなかった。

空の青さが、やけに目に染みた。

◆◇◆

「おめでとーーーーーっ!!」

次の日、教室でその話を聞いた沙月が、叫んだ。

「いやちょっと待って。“落ちた”って言ってたじゃん!? どんなミラクル?」

「うん……“繰り上げ当選”みたいなもの」

「でもでもでも、選ばれたことに変わりないじゃん!
 やばい、推しが現場入りって何それ、エモすぎて咀嚼できん!!」

「……咀嚼するほどの話でもないと思うけど……」

「あるって! ていうか、服は? メイクは? 持ち物は? 当日の朝ごはんは?」

「まだそこまで考えてないよ」

「だめ!! プロの現場に行くなら準備からもう“戦い”だから!!」

「自称17歳が何言ってるの……」

二人で笑い合いながらも、紬の心の奥には、別の感情が渦巻いていた。

(“失敗した場所に、もう一度立つ”。それって、怖い)

けれど、今ならできる気がした。
あのときとは違う自分なら。

◆◇◆

撮影当日、都内某スタジオ。

制服姿のまま、ヘアメイクを終えた紬は、セット前の控えスペースにいた。

スタッフの会話、カメラの調整音、照明のチェック。
そのすべてがプロの“現場の音”だった。

(懐かしい。……でも、懐かしさだけじゃ意味がない)

「小森さん、準備OKです」

スタッフに呼ばれて、紬は立ち上がった。

セットに入ると、そこには学校の屋上を模した背景。
ベンチの横に、炭酸飲料の缶。

セリフは、たった一言。

「シュワっと、青春!」

前回、声が震えて、表情がこわばって、悔しさだけが残ったその言葉。

(今度こそ、ちゃんと“届ける”)

「それじゃあ、本番いきまーす! カメラ回しまーす!」

「よーい、スタート!」

風を感じた気がした。
照明の熱、スタッフの視線、カメラのレンズ。

(私は、小森紬。17歳。夢をやり直すために、ここに来た)

目の奥に、少しだけ“香坂結”の記憶がよぎる。
でも、それに寄りかからない。

いま、自分の中にある感情だけを使う。

笑顔。目線。姿勢。声。

「――シュワっと、青春!」

その瞬間、空気がほんの少し、動いた。

スタッフが顔を上げ、カメラマンがレンズ越しに頷く。

「OKでーす!」

声が響いた瞬間、紬の体から力が抜けた。

(……できた)

前回とは違う。

声も、表情も、ちゃんと届いた。

プロの現場に、確かに“自分”を残せたという感覚があった。

撮影後、スタッフのひとりが声をかけてきた。

「小森さん、表情、良かったよ。
 最初は緊張してるかなって思ったけど、最後はカメラにちゃんと笑ってた」

「ありがとうございます」

「次、ドラマのエキストラあるんだけど、出てみる?」

「えっ」

「演技力、あるよ。ああいう“一言で伝える”って、案外できない人多いから」

「……それは、たぶん」

紬は少しだけ考えてから、答えた。

「“伝えたいこと”が、ちゃんとあったからだと思います」

スタッフは「なるほどね」と笑いながら去っていった。

(そう。“伝えたい”って思った気持ちが、ようやく自分の声になった)

◆◇◆

帰り道。
電車の中で、沙月にLINEを送る。

無事終わったよ。

前回とは全然違って、自分の声で話せた気がする。

即座に返ってくる。

推し、覚醒。
CMオンエアいつ!? 全力録画するわ!

てか、放送されたらもう芸能人じゃん。
どうしよ、友達としてサインもらっとく?笑

……でも、ほんとにおめでとう。

紬はそのメッセージを見て、思わず小さく笑った。

(夢って、いきなり掴めるものじゃない。
でも、掴めなかった場所に“もう一度”手を伸ばすことはできる)

それが、前よりも少しだけ届いた気がする。

(次は、“届いたあと”のことを考えよう)

車窓に映る自分の顔は、ほんのり笑っていた。
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