自称25歳の女子高生

naomikoryo

文字の大きさ
19 / 52

第十八話「文化祭で“女優”になった日」

しおりを挟む
文化祭前日の夕方。
体育館裏の特設ステージでは、最後のリハーサルが行われていた。

「位置、もうちょい右、紬ー! そこだと照明ずれるー!」

「えっ、あ、ごめんなさいっ」

沙月が脚本と台本の束を手に、大声を張り上げる。
その横では、音響班の男子がスピーカーのテストをしている。
ザワつく中、紬はステージ上の“マーク”に足を合わせた。

(……思ってたより、本気の舞台だ)

誰もが「遊び」の延長だと思っていた文化祭の出し物。
けれど、いざ始まってみれば、クラス全員の熱量が形になっていた。

その中心で、紬と柚季が立っている。

◆◇◆

ことの発端は、1か月前。
文化祭の出し物を「演劇」に決定した時、
沙月が当然のように言った。

「主演、紬でしょ。あと、柚季も」

「……は?」

柚季が眉をひそめる。

「いや、わたし裏方希望なんだけど」

「ダメ。演技経験あるでしょ、帰宅部でしょ、時間あるでしょ、そして――」

沙月がニヤリと笑う。

「――紬との並び、ビジュ強すぎ」

「うわ出た、それ言うためだけに呼んだでしょ」

「うん♡」

結果、沙月の情熱に押し切られ、
紬と柚季のW主演が決まった。

演目のタイトルは、
『タイム・リバース・ラブ(仮)』

物語は、こんな感じだ。

ある日、ひょんなことから「25歳のキャリアウーマン」と「17歳の女子高生」の中身が入れ替わってしまう。
25歳の中身になった女子高生は、無理して大人ぶるうちに、
本当の自分と向き合えなくなる。
一方、17歳の中身になったキャリアウーマンは、
高校生という“未完成な日々”の中で、
忘れていたものをひとつずつ思い出していく――。

つまり、入れ替わりで成長する2人の物語。

まるで――
自称25歳で、香坂結の記憶を抱えた今の紬のような、話だった。

(……これ、絶対、沙月わかって書いてるよね)

(気づいてないふりしてるけど、全部、わかってるでしょ)

脚本の中で、自分と重なるセリフが多すぎる。
柚季とのテンポのいい掛け合いも、どこか“現実の縮図”だった。

◆◇◆

そして、迎えた本番前夜。

紬は、ステージの上で台詞を合わせながら、不思議な高揚感に包まれていた。

「……大人って、もっとちゃんとしてると思ってた。
 でも全然、わたしの中、グラグラしてるんだよ。
 それって、大人じゃないよね……?」

紬の声が響く。

台本通りなのに、どこか“生の言葉”のように聞こえる。

柚季は、ひと呼吸おいて、視線を返す。

「グラグラしててもいいんじゃない?
 人間って、意外と不安定なもんだよ。
 そのぐらいで崩れるなら、大人だって子どもだって一緒」

ふたりの芝居に、体育館裏でお菓子を食べていた男子が
ぽろりとつぶやいた。

「……え、なんかガチでいい芝居してね?」

「ちょ、お前泣いてんの?!」

「泣いてねーし。花粉だし」

◆◇◆

当日。

体育館は、予想以上に満員だった。

中等部の生徒、保護者、先生たち……
いつもとは違う空気に、客席がざわついている。

舞台袖。
紬は、小さく深呼吸をしていた。

(“演じる”って、前は“隠れること”だと思ってた)

(でも今は違う。
 “演じる”ことで、“本当の自分”を少しずつ見せられる気がする)

隣で、柚季がぽつりとつぶやいた。

「……アンタ、最初と全然違う顔してるよ」

「え?」

「最初、顔死んでたじゃん。オーディションの時とか、マジ幽霊だったし」

「……ひどい」

「でも今は、なんか、……ちゃんと“生きてる人”って感じする」

紬は、目を見開き、それから少し笑った。

「……ありがとう、柚季」

舞台監督が声を上げた。

「30秒前でーす! スタンバイお願いしまーす!」

ステージに出る瞬間。
心臓がドクン、と大きく跳ねた。

でももう、怖くはなかった。

幕が上がる。

ライトに照らされたその瞬間、
紬は――確かに“女優”だった。

セリフは、ひとつひとつ意味を持っていた。
台本の中の言葉だけじゃない。
彼女自身の記憶、想い、痛み、希望、全部を乗せていた。

柚季の芝居も、安定していた。
ツッコミも感情の溜めも、どこか彼女自身のリアルさがあった。

そして、物語の終盤。
紬の“25歳の中身を持つ女子高生”が、最後に言うセリフ。

「未来って、もっとすごいものだと思ってた。
 でも、今が思ってたより悪くないなら――
 それでいいよね?」

しんと静まる会場。
その空気の中で、拍手が、ゆっくりと、そして次第に大きくなっていった。

幕が下りたあと。
沙月が袖から駆け寄ってきた。

「よっしゃああああ!!! 最高だった!! 紬、泣いた!! 柚季、ツンデレすぎた!!」

「うるさいって……」

でも柚季の顔には、珍しくはっきりとした笑みがあった。

紬は、体育館の天井を見上げながら、深く、息を吐いた。

(今の私は――確かにここにいる)

(“香坂結”じゃない、“小森紬”として。
 拍手をもらってる。生きてる)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完】25年後、君と答え合わせ

こころ ゆい
ミステリー
※完結いたしました。初めてのコンテストで、完結まで辿り着けたこと。全ては読者の皆様のおかげです。本当に、本当に、ありがとうございました! 東山 花乃(ひがしやま かの)24歳。 花乃は、病気に侵され、小さい頃から目がほとんど見えていない。身体も一部麻痺している。 そんな彼女には異性の親友がいた。 手越 千春(てごし ちはる)29歳。 5歳の頃、院内で出会った男の子。成長して医師になり、今では花乃の担当医をしてくれている。 千春の祖父は、花乃の入院する大きな病院の医院長。千春は将来この病院を継ぐ跡取りだ。 花乃と出会った頃の千春は、妙に大人びた冷めた子供。人を信用しない性格。 交流を続けるなかで、花乃とは友人関係を築いていくが、まだどこか薄暗い部分を抱えたまま。 「ずっと友達ね」 無邪気に笑う花乃に、千春は言った。 「ずっと友達、なんてありえない」 「...じゃぁ、25年後、答え合わせをしましょう?」 「25年後?」 「そう。25年後、あなたと私がまだ友達か。答え合わせするの」 「いいけど...どうして25年後なの?」 「...それは秘密。25年後のお楽しみだよ」 そんな会話を出会った頃したことを、千春は覚えているだろうか。花乃は、過保護な千春や両親、友人たちに支えられながら、病気と向き合っていく。 しかしーー。 ある日、花乃は千春に関する不穏な噂を耳にする。 それをきっかけに、花乃は千春にまつわるある事実を知ることになっていくーー。 25年後、花乃と千春が出した答えとは? 🌱この物語はフィクションです。登場人物、建物、題材にされているもの、全て作者の考えた架空のものです。実際とは異なります。 🌱医療行為として、チグハグな部分があるかもしれません。ご了承頂けると幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

処理中です...