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第十八話「文化祭で“女優”になった日」
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文化祭前日の夕方。
体育館裏の特設ステージでは、最後のリハーサルが行われていた。
「位置、もうちょい右、紬ー! そこだと照明ずれるー!」
「えっ、あ、ごめんなさいっ」
沙月が脚本と台本の束を手に、大声を張り上げる。
その横では、音響班の男子がスピーカーのテストをしている。
ザワつく中、紬はステージ上の“マーク”に足を合わせた。
(……思ってたより、本気の舞台だ)
誰もが「遊び」の延長だと思っていた文化祭の出し物。
けれど、いざ始まってみれば、クラス全員の熱量が形になっていた。
その中心で、紬と柚季が立っている。
◆◇◆
ことの発端は、1か月前。
文化祭の出し物を「演劇」に決定した時、
沙月が当然のように言った。
「主演、紬でしょ。あと、柚季も」
「……は?」
柚季が眉をひそめる。
「いや、わたし裏方希望なんだけど」
「ダメ。演技経験あるでしょ、帰宅部でしょ、時間あるでしょ、そして――」
沙月がニヤリと笑う。
「――紬との並び、ビジュ強すぎ」
「うわ出た、それ言うためだけに呼んだでしょ」
「うん♡」
結果、沙月の情熱に押し切られ、
紬と柚季のW主演が決まった。
演目のタイトルは、
『タイム・リバース・ラブ(仮)』
物語は、こんな感じだ。
ある日、ひょんなことから「25歳のキャリアウーマン」と「17歳の女子高生」の中身が入れ替わってしまう。
25歳の中身になった女子高生は、無理して大人ぶるうちに、
本当の自分と向き合えなくなる。
一方、17歳の中身になったキャリアウーマンは、
高校生という“未完成な日々”の中で、
忘れていたものをひとつずつ思い出していく――。
つまり、入れ替わりで成長する2人の物語。
まるで――
自称25歳で、香坂結の記憶を抱えた今の紬のような、話だった。
(……これ、絶対、沙月わかって書いてるよね)
(気づいてないふりしてるけど、全部、わかってるでしょ)
脚本の中で、自分と重なるセリフが多すぎる。
柚季とのテンポのいい掛け合いも、どこか“現実の縮図”だった。
◆◇◆
そして、迎えた本番前夜。
紬は、ステージの上で台詞を合わせながら、不思議な高揚感に包まれていた。
「……大人って、もっとちゃんとしてると思ってた。
でも全然、わたしの中、グラグラしてるんだよ。
それって、大人じゃないよね……?」
紬の声が響く。
台本通りなのに、どこか“生の言葉”のように聞こえる。
柚季は、ひと呼吸おいて、視線を返す。
「グラグラしててもいいんじゃない?
人間って、意外と不安定なもんだよ。
そのぐらいで崩れるなら、大人だって子どもだって一緒」
ふたりの芝居に、体育館裏でお菓子を食べていた男子が
ぽろりとつぶやいた。
「……え、なんかガチでいい芝居してね?」
「ちょ、お前泣いてんの?!」
「泣いてねーし。花粉だし」
◆◇◆
当日。
体育館は、予想以上に満員だった。
中等部の生徒、保護者、先生たち……
いつもとは違う空気に、客席がざわついている。
舞台袖。
紬は、小さく深呼吸をしていた。
(“演じる”って、前は“隠れること”だと思ってた)
(でも今は違う。
“演じる”ことで、“本当の自分”を少しずつ見せられる気がする)
隣で、柚季がぽつりとつぶやいた。
「……アンタ、最初と全然違う顔してるよ」
「え?」
「最初、顔死んでたじゃん。オーディションの時とか、マジ幽霊だったし」
「……ひどい」
「でも今は、なんか、……ちゃんと“生きてる人”って感じする」
紬は、目を見開き、それから少し笑った。
「……ありがとう、柚季」
舞台監督が声を上げた。
「30秒前でーす! スタンバイお願いしまーす!」
ステージに出る瞬間。
心臓がドクン、と大きく跳ねた。
でももう、怖くはなかった。
幕が上がる。
ライトに照らされたその瞬間、
紬は――確かに“女優”だった。
セリフは、ひとつひとつ意味を持っていた。
台本の中の言葉だけじゃない。
彼女自身の記憶、想い、痛み、希望、全部を乗せていた。
柚季の芝居も、安定していた。
ツッコミも感情の溜めも、どこか彼女自身のリアルさがあった。
そして、物語の終盤。
紬の“25歳の中身を持つ女子高生”が、最後に言うセリフ。
「未来って、もっとすごいものだと思ってた。
でも、今が思ってたより悪くないなら――
それでいいよね?」
しんと静まる会場。
その空気の中で、拍手が、ゆっくりと、そして次第に大きくなっていった。
幕が下りたあと。
沙月が袖から駆け寄ってきた。
「よっしゃああああ!!! 最高だった!! 紬、泣いた!! 柚季、ツンデレすぎた!!」
「うるさいって……」
でも柚季の顔には、珍しくはっきりとした笑みがあった。
紬は、体育館の天井を見上げながら、深く、息を吐いた。
(今の私は――確かにここにいる)
(“香坂結”じゃない、“小森紬”として。
拍手をもらってる。生きてる)
体育館裏の特設ステージでは、最後のリハーサルが行われていた。
「位置、もうちょい右、紬ー! そこだと照明ずれるー!」
「えっ、あ、ごめんなさいっ」
沙月が脚本と台本の束を手に、大声を張り上げる。
その横では、音響班の男子がスピーカーのテストをしている。
ザワつく中、紬はステージ上の“マーク”に足を合わせた。
(……思ってたより、本気の舞台だ)
誰もが「遊び」の延長だと思っていた文化祭の出し物。
けれど、いざ始まってみれば、クラス全員の熱量が形になっていた。
その中心で、紬と柚季が立っている。
◆◇◆
ことの発端は、1か月前。
文化祭の出し物を「演劇」に決定した時、
沙月が当然のように言った。
「主演、紬でしょ。あと、柚季も」
「……は?」
柚季が眉をひそめる。
「いや、わたし裏方希望なんだけど」
「ダメ。演技経験あるでしょ、帰宅部でしょ、時間あるでしょ、そして――」
沙月がニヤリと笑う。
「――紬との並び、ビジュ強すぎ」
「うわ出た、それ言うためだけに呼んだでしょ」
「うん♡」
結果、沙月の情熱に押し切られ、
紬と柚季のW主演が決まった。
演目のタイトルは、
『タイム・リバース・ラブ(仮)』
物語は、こんな感じだ。
ある日、ひょんなことから「25歳のキャリアウーマン」と「17歳の女子高生」の中身が入れ替わってしまう。
25歳の中身になった女子高生は、無理して大人ぶるうちに、
本当の自分と向き合えなくなる。
一方、17歳の中身になったキャリアウーマンは、
高校生という“未完成な日々”の中で、
忘れていたものをひとつずつ思い出していく――。
つまり、入れ替わりで成長する2人の物語。
まるで――
自称25歳で、香坂結の記憶を抱えた今の紬のような、話だった。
(……これ、絶対、沙月わかって書いてるよね)
(気づいてないふりしてるけど、全部、わかってるでしょ)
脚本の中で、自分と重なるセリフが多すぎる。
柚季とのテンポのいい掛け合いも、どこか“現実の縮図”だった。
◆◇◆
そして、迎えた本番前夜。
紬は、ステージの上で台詞を合わせながら、不思議な高揚感に包まれていた。
「……大人って、もっとちゃんとしてると思ってた。
でも全然、わたしの中、グラグラしてるんだよ。
それって、大人じゃないよね……?」
紬の声が響く。
台本通りなのに、どこか“生の言葉”のように聞こえる。
柚季は、ひと呼吸おいて、視線を返す。
「グラグラしててもいいんじゃない?
人間って、意外と不安定なもんだよ。
そのぐらいで崩れるなら、大人だって子どもだって一緒」
ふたりの芝居に、体育館裏でお菓子を食べていた男子が
ぽろりとつぶやいた。
「……え、なんかガチでいい芝居してね?」
「ちょ、お前泣いてんの?!」
「泣いてねーし。花粉だし」
◆◇◆
当日。
体育館は、予想以上に満員だった。
中等部の生徒、保護者、先生たち……
いつもとは違う空気に、客席がざわついている。
舞台袖。
紬は、小さく深呼吸をしていた。
(“演じる”って、前は“隠れること”だと思ってた)
(でも今は違う。
“演じる”ことで、“本当の自分”を少しずつ見せられる気がする)
隣で、柚季がぽつりとつぶやいた。
「……アンタ、最初と全然違う顔してるよ」
「え?」
「最初、顔死んでたじゃん。オーディションの時とか、マジ幽霊だったし」
「……ひどい」
「でも今は、なんか、……ちゃんと“生きてる人”って感じする」
紬は、目を見開き、それから少し笑った。
「……ありがとう、柚季」
舞台監督が声を上げた。
「30秒前でーす! スタンバイお願いしまーす!」
ステージに出る瞬間。
心臓がドクン、と大きく跳ねた。
でももう、怖くはなかった。
幕が上がる。
ライトに照らされたその瞬間、
紬は――確かに“女優”だった。
セリフは、ひとつひとつ意味を持っていた。
台本の中の言葉だけじゃない。
彼女自身の記憶、想い、痛み、希望、全部を乗せていた。
柚季の芝居も、安定していた。
ツッコミも感情の溜めも、どこか彼女自身のリアルさがあった。
そして、物語の終盤。
紬の“25歳の中身を持つ女子高生”が、最後に言うセリフ。
「未来って、もっとすごいものだと思ってた。
でも、今が思ってたより悪くないなら――
それでいいよね?」
しんと静まる会場。
その空気の中で、拍手が、ゆっくりと、そして次第に大きくなっていった。
幕が下りたあと。
沙月が袖から駆け寄ってきた。
「よっしゃああああ!!! 最高だった!! 紬、泣いた!! 柚季、ツンデレすぎた!!」
「うるさいって……」
でも柚季の顔には、珍しくはっきりとした笑みがあった。
紬は、体育館の天井を見上げながら、深く、息を吐いた。
(今の私は――確かにここにいる)
(“香坂結”じゃない、“小森紬”として。
拍手をもらってる。生きてる)
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