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第二十四話「加納、ちょっとだけ本気出す」
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「……やっぱ、動き始めてるな。あの子」
東京都内・渋谷のカフェ。
薄いグレージュのジャケットに身を包んだ加納涼介は、スマホの画面をスクロールしながらつぶやいた。
目の前のタブレットには、あるSNSの投稿が映っている。
「二高文化祭で見た女子高生の演技がヤバすぎた。泣いた」
「主演の子、名前は小森紬って言うらしい。調べたけど情報出てこない」
「最近、こういう“素で魅せる子”って減ってたよね。期待したい」
リポスト、いいね、いいね、いいね。
いつの間にか、じわじわと話題が拡散していた。
(まだバズってるってほどじゃないけど……
あの演技を見てた人が、確実に残ってる)
カフェの席に現れたのは、業界でも知られる老舗事務所のマネージャーだった。
加納より少し年上で、いつも目つきが鋭い男、川端(かわばた)。
「久しぶりだな、加納。
どうしても紹介したい子がいるって言ってたが、まさか高校生?」
「うん。しかも、“自称25歳”らしい」
「なにそれ」
「いやマジで。
しかも、こっちが思ってるよりもずっと“自覚的”にそのキャラやってる」
「……意図的?」
「っていうより、“本当の自分を出すためのフィルター”って感じかな。
でも、それが変にウケててさ。
たまたま文化祭に来てたプロデューサーが気にし始めてて、
次の配信ドラマのオーディション、候補に入れてみたいって」
川端は少し驚いたように眉を上げる。
「……お前、いつから“ガチの育成”に戻ったんだよ。
最近はフリー気分でゆる~くやってたじゃん。
推す子がいても“本人がやりたければ”ってスタンスだったろ」
加納はコーヒーをひと口飲んで、少し黙ってから答えた。
「……あの子、放っておくと“消える”タイプなんだよ」
「……」
「目立ちすぎないし、ガツガツもしない。
でも、芝居になると――そこにある“想い”が、どうしても伝わっちまう」
「……なるほど、“持ってる”ってやつか」
「でも、“持ってるだけ”じゃ駄目なんだよ。
“見つけてもらって”、“信じてもらって”、“守ってもらって”、
やっと残れる」
川端はふと、加納の目をまっすぐ見て、静かに言った。
「――香坂のときと、似てるのか?」
加納は、ピクリとまぶたを震わせた。
(……やっぱり、そこに触れてくるか)
「……似てる。
雰囲気も、演技の温度も、根っこにある“何かを背負ってる感じ”も。
でも――違うのは、“やり直せること”だ」
◆◇◆
香坂結。
それは、紬の前世の名前――だが、加納にとっては“過去に失った才能”の象徴だった。
当時、加納はまだ駆け出しのマネージャーで、
若くて、熱くて、でも空回りも多かった。
結は、その中で出会った数少ない“本物”だった。
感情の芯がぶれず、誰よりも観客の心を揺らせる。
だが彼女は、夢半ばで白血病に倒れ、わずか25歳で逝った。
(もっと、守れていれば――)
(彼女の芝居は、きっともっと遠くまで届いたはずだった)
そんな後悔は、今も加納の中に根強く残っている。
だから――
似た匂いを持つ少女を、今度は絶対に見逃したくなかった。
「“本気出す”って言ったら笑われるかもだけどさ。
今度こそ、ちゃんとやるよ。育てる。守る。
“選ばれる存在”にしてやる」
川端は軽く笑って、背もたれに体を預けた。
「……いいじゃん。そういうの、久しぶりに見たな」
「お前も、最近人情に飢えてんじゃね?」
「うるせぇ」
◆◇◆
数日後。
放課後の学校の正門前。
「――え、マネージャーが学校来るの!?」
沙月の声が一オクターブ上がった。
「……なんか、今後の活動について、少し話したいって」
「いやそれ、“自称25歳の高校生が本格始動”ってことじゃん!!
ねぇ紬、それマジで、そろそろ“芸能人オーラ”出てるよ!? わかってる!?
私、友達として今のうちに撮影しといたほうがいい!?」
「落ち着いて」
「いや落ち着けない! 柚季も言ってやって!」
「……やるなら背景ちゃんとして。ごちゃごちゃしてるとバズんないよ」
「協力的ー!!」
紬は苦笑しながら、玄関先に現れた加納に目を向けた。
いつもよりスーツがビシッとしてる。
「あの……なんか、今日はいつもより真面目ですね?」
「うん、ちょっとだけ本気出す日なんで」
「……ちょっとだけ?」
「最初から全力出すと、こっちもバテるんで」
「その感じが加納さんだなぁ……」
けれど、その表情の奥には確かに、
紬がまだ知らない“覚悟”が静かに宿っていた。
◆◇◆
帰宅後、ノートに書き記す。
「大人が本気を出すって、やっぱり空気が変わる。
軽く見える言葉にも、深く刻まれた記憶があるんだと思った。
加納さんが“ちょっとだけ本気出す”と言った日。
私も、ただの“自称25歳”ではいられない気がした」
東京都内・渋谷のカフェ。
薄いグレージュのジャケットに身を包んだ加納涼介は、スマホの画面をスクロールしながらつぶやいた。
目の前のタブレットには、あるSNSの投稿が映っている。
「二高文化祭で見た女子高生の演技がヤバすぎた。泣いた」
「主演の子、名前は小森紬って言うらしい。調べたけど情報出てこない」
「最近、こういう“素で魅せる子”って減ってたよね。期待したい」
リポスト、いいね、いいね、いいね。
いつの間にか、じわじわと話題が拡散していた。
(まだバズってるってほどじゃないけど……
あの演技を見てた人が、確実に残ってる)
カフェの席に現れたのは、業界でも知られる老舗事務所のマネージャーだった。
加納より少し年上で、いつも目つきが鋭い男、川端(かわばた)。
「久しぶりだな、加納。
どうしても紹介したい子がいるって言ってたが、まさか高校生?」
「うん。しかも、“自称25歳”らしい」
「なにそれ」
「いやマジで。
しかも、こっちが思ってるよりもずっと“自覚的”にそのキャラやってる」
「……意図的?」
「っていうより、“本当の自分を出すためのフィルター”って感じかな。
でも、それが変にウケててさ。
たまたま文化祭に来てたプロデューサーが気にし始めてて、
次の配信ドラマのオーディション、候補に入れてみたいって」
川端は少し驚いたように眉を上げる。
「……お前、いつから“ガチの育成”に戻ったんだよ。
最近はフリー気分でゆる~くやってたじゃん。
推す子がいても“本人がやりたければ”ってスタンスだったろ」
加納はコーヒーをひと口飲んで、少し黙ってから答えた。
「……あの子、放っておくと“消える”タイプなんだよ」
「……」
「目立ちすぎないし、ガツガツもしない。
でも、芝居になると――そこにある“想い”が、どうしても伝わっちまう」
「……なるほど、“持ってる”ってやつか」
「でも、“持ってるだけ”じゃ駄目なんだよ。
“見つけてもらって”、“信じてもらって”、“守ってもらって”、
やっと残れる」
川端はふと、加納の目をまっすぐ見て、静かに言った。
「――香坂のときと、似てるのか?」
加納は、ピクリとまぶたを震わせた。
(……やっぱり、そこに触れてくるか)
「……似てる。
雰囲気も、演技の温度も、根っこにある“何かを背負ってる感じ”も。
でも――違うのは、“やり直せること”だ」
◆◇◆
香坂結。
それは、紬の前世の名前――だが、加納にとっては“過去に失った才能”の象徴だった。
当時、加納はまだ駆け出しのマネージャーで、
若くて、熱くて、でも空回りも多かった。
結は、その中で出会った数少ない“本物”だった。
感情の芯がぶれず、誰よりも観客の心を揺らせる。
だが彼女は、夢半ばで白血病に倒れ、わずか25歳で逝った。
(もっと、守れていれば――)
(彼女の芝居は、きっともっと遠くまで届いたはずだった)
そんな後悔は、今も加納の中に根強く残っている。
だから――
似た匂いを持つ少女を、今度は絶対に見逃したくなかった。
「“本気出す”って言ったら笑われるかもだけどさ。
今度こそ、ちゃんとやるよ。育てる。守る。
“選ばれる存在”にしてやる」
川端は軽く笑って、背もたれに体を預けた。
「……いいじゃん。そういうの、久しぶりに見たな」
「お前も、最近人情に飢えてんじゃね?」
「うるせぇ」
◆◇◆
数日後。
放課後の学校の正門前。
「――え、マネージャーが学校来るの!?」
沙月の声が一オクターブ上がった。
「……なんか、今後の活動について、少し話したいって」
「いやそれ、“自称25歳の高校生が本格始動”ってことじゃん!!
ねぇ紬、それマジで、そろそろ“芸能人オーラ”出てるよ!? わかってる!?
私、友達として今のうちに撮影しといたほうがいい!?」
「落ち着いて」
「いや落ち着けない! 柚季も言ってやって!」
「……やるなら背景ちゃんとして。ごちゃごちゃしてるとバズんないよ」
「協力的ー!!」
紬は苦笑しながら、玄関先に現れた加納に目を向けた。
いつもよりスーツがビシッとしてる。
「あの……なんか、今日はいつもより真面目ですね?」
「うん、ちょっとだけ本気出す日なんで」
「……ちょっとだけ?」
「最初から全力出すと、こっちもバテるんで」
「その感じが加納さんだなぁ……」
けれど、その表情の奥には確かに、
紬がまだ知らない“覚悟”が静かに宿っていた。
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帰宅後、ノートに書き記す。
「大人が本気を出すって、やっぱり空気が変わる。
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