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第二十三話「“自称25歳”のスカウト事件」
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日曜日の午後。
学校帰りでも、オーディションでもない、ただの“休日”。
紬はお気に入りの本屋に寄ったあと、静かな住宅街を歩いていた。
いつもならスマホを見ながら歩くけど、今日は珍しく何も見ずに、空を眺めながらのんびり歩いている。
(こういう時間、ほんと久しぶりかも)
風に髪がふわりと揺れたとき、ふいに声をかけられた。
「――あの、すみません」
「……はい?」
振り返ると、黒のジャケットにチノパンという、いかにも「仕事してます」感のある男性が立っていた。
目元は柔らかいけれど、どこか“見慣れた目つき”――。
(……あ。これ、もしかして)
「突然すみません。
失礼かもしれませんが、今少しお時間いただけますか?」
「……何のご用件ですか?」
「実は、芸能関係の仕事をしておりまして……」
(やっぱり出たー!)
「あなたの姿を見て、もしご興味があればと思い……。
ご年齢、うかがってもよろしいですか?」
その瞬間、紬の中で何かがピコンと反応した。
(聞かれた。これ、言っていいやつだよね?)
紬は一瞬だけ口元を引き締めて、それから真顔でこう言った。
「……自称25歳です」
「……えっ?」
男性の目が、明らかに一瞬バグった。
「……い、いま、“自称”とおっしゃいましたか?」
「はい、“自称25歳”です」
「……あ、あああの、つまり……その、実年齢は……?」
「高校二年生です。17歳です」
「………………」
(見た。今、完全にバグってる。人が処理落ちする瞬間、はじめて見た)
男はしばらく口をパクパクさせていたが、ようやく我に返ったらしく、額に手を当てた。
「す、すみません……確認させてください。
あなたは高校二年生、だけど“自称25歳”。
つまり、外見は17歳、中身は25歳という……」
「はい。中身は前世持ち帰りなので」
「前世!?!?」
「……冗談です」
「あ、はい……」
男はしばらく沈黙したあと、深く息を吐いて、なぜか笑った。
「これは……参りました。
高校生相手に、こんなに動揺したのは初めてです」
「よく言われます。特に年上から」
「……」
(やばい、黙らせた)
男はポケットから名刺を取り出して、差し出してきた。
「改めまして。僕は奥田(おくだ)といいます。
芸能事務所“アイゼロプロ”で、若手俳優・タレントの発掘と育成を担当しています。
君のことを“見つけてしまった”のは……偶然じゃないと思いたい」
「ありがとうございます。
でも、すでに今、別の事務所さんに所属していて」
「あ、それはすみません、リサーチ不足で……」
「ただ、“自称25歳”というネタはどこでも使っていいことになってます」
「え、許可制なんですか、それ」
「はい。申請していただければ」
「なんの団体ですかそれ」
やりとりの端々で、奥田の顔に困惑と笑いが交互に走っている。
(……なんか楽しいな、この人)
「……実は、最近ちょっとした舞台を観たんです」
「舞台?」
「文化祭です。とある高校の演劇を。
そこで主演してた女の子が、すごく自然で――
演技が“上手い”とかそういうことじゃなくて、観てて“引き込まれる”感じだった。
あのときの子に、どこか似てるなって思ったんです。君の佇まいが」
紬はその言葉に、静かに心が動いた。
(……見てたんだ)
「もしかして、二高の文化祭、観に来てたんですか?」
「……うん。実は、候補生の妹が通ってて、誘われたんです。
君の名前、すぐには分からなかったけど――
今日、偶然見かけて、“あれ、この子かな?”って思った」
紬は、名刺を指でなぞりながら、言った。
「……それ、“香坂結に似てたから”とかじゃないですか?」
奥田は驚いたように目を丸くした。
「――知ってるの?」
「ちょっと前、別の人にもそう言われたんです。
だから、なんとなくわかってきました。
私、前世的に似てるらしいです」
「いや、それは冗談でしょ……?」
「どうでしょう。自称なので」
「……なんか、クセになるなこの子……」
「よく言われます。あと、“扱いにくい”もセットで」
奥田は名刺をもう一度押し込みながら、言った。
「紬さん――って呼んでいい?」
「はい、喜んで」
「紬さん。
君みたいな人が“表に立ってる”ってこと自体が、きっと誰かの勇気になる。
変な子だって言われても、それを“見せること”を怖がらないでほしい。
君の中にあるものは、たぶんまだ全部出てない」
「……はい」
「君の演技、また観たいと思ってる人は、確実にいるから。
事務所がどこでも関係ない。
君が“自分で選んで進んでる”こと自体が、すごいと思うよ」
「ありがとうございます。
じゃあ、“自称25歳でがんばります”って伝えておいてください」
「うん、よくわかんないけど、伝えるわ」
◆◇◆
帰宅後、ノートを開く。
「“自称25歳”がついに街で通用した(?)
でも、その言葉の奥には、
“私自身をどう名乗るか”というテーマがあったのかもしれない。
名前も年齢も過去も、今の私を構成してる。
自分で“選んで”立ってるかどうか。
それが、一番大事なこと」
ページの片隅に、いたずらっぽくこう書いた。
※ 柚季に言ったら「また変な人を引き寄せてる」と言われそう。
学校帰りでも、オーディションでもない、ただの“休日”。
紬はお気に入りの本屋に寄ったあと、静かな住宅街を歩いていた。
いつもならスマホを見ながら歩くけど、今日は珍しく何も見ずに、空を眺めながらのんびり歩いている。
(こういう時間、ほんと久しぶりかも)
風に髪がふわりと揺れたとき、ふいに声をかけられた。
「――あの、すみません」
「……はい?」
振り返ると、黒のジャケットにチノパンという、いかにも「仕事してます」感のある男性が立っていた。
目元は柔らかいけれど、どこか“見慣れた目つき”――。
(……あ。これ、もしかして)
「突然すみません。
失礼かもしれませんが、今少しお時間いただけますか?」
「……何のご用件ですか?」
「実は、芸能関係の仕事をしておりまして……」
(やっぱり出たー!)
「あなたの姿を見て、もしご興味があればと思い……。
ご年齢、うかがってもよろしいですか?」
その瞬間、紬の中で何かがピコンと反応した。
(聞かれた。これ、言っていいやつだよね?)
紬は一瞬だけ口元を引き締めて、それから真顔でこう言った。
「……自称25歳です」
「……えっ?」
男性の目が、明らかに一瞬バグった。
「……い、いま、“自称”とおっしゃいましたか?」
「はい、“自称25歳”です」
「……あ、あああの、つまり……その、実年齢は……?」
「高校二年生です。17歳です」
「………………」
(見た。今、完全にバグってる。人が処理落ちする瞬間、はじめて見た)
男はしばらく口をパクパクさせていたが、ようやく我に返ったらしく、額に手を当てた。
「す、すみません……確認させてください。
あなたは高校二年生、だけど“自称25歳”。
つまり、外見は17歳、中身は25歳という……」
「はい。中身は前世持ち帰りなので」
「前世!?!?」
「……冗談です」
「あ、はい……」
男はしばらく沈黙したあと、深く息を吐いて、なぜか笑った。
「これは……参りました。
高校生相手に、こんなに動揺したのは初めてです」
「よく言われます。特に年上から」
「……」
(やばい、黙らせた)
男はポケットから名刺を取り出して、差し出してきた。
「改めまして。僕は奥田(おくだ)といいます。
芸能事務所“アイゼロプロ”で、若手俳優・タレントの発掘と育成を担当しています。
君のことを“見つけてしまった”のは……偶然じゃないと思いたい」
「ありがとうございます。
でも、すでに今、別の事務所さんに所属していて」
「あ、それはすみません、リサーチ不足で……」
「ただ、“自称25歳”というネタはどこでも使っていいことになってます」
「え、許可制なんですか、それ」
「はい。申請していただければ」
「なんの団体ですかそれ」
やりとりの端々で、奥田の顔に困惑と笑いが交互に走っている。
(……なんか楽しいな、この人)
「……実は、最近ちょっとした舞台を観たんです」
「舞台?」
「文化祭です。とある高校の演劇を。
そこで主演してた女の子が、すごく自然で――
演技が“上手い”とかそういうことじゃなくて、観てて“引き込まれる”感じだった。
あのときの子に、どこか似てるなって思ったんです。君の佇まいが」
紬はその言葉に、静かに心が動いた。
(……見てたんだ)
「もしかして、二高の文化祭、観に来てたんですか?」
「……うん。実は、候補生の妹が通ってて、誘われたんです。
君の名前、すぐには分からなかったけど――
今日、偶然見かけて、“あれ、この子かな?”って思った」
紬は、名刺を指でなぞりながら、言った。
「……それ、“香坂結に似てたから”とかじゃないですか?」
奥田は驚いたように目を丸くした。
「――知ってるの?」
「ちょっと前、別の人にもそう言われたんです。
だから、なんとなくわかってきました。
私、前世的に似てるらしいです」
「いや、それは冗談でしょ……?」
「どうでしょう。自称なので」
「……なんか、クセになるなこの子……」
「よく言われます。あと、“扱いにくい”もセットで」
奥田は名刺をもう一度押し込みながら、言った。
「紬さん――って呼んでいい?」
「はい、喜んで」
「紬さん。
君みたいな人が“表に立ってる”ってこと自体が、きっと誰かの勇気になる。
変な子だって言われても、それを“見せること”を怖がらないでほしい。
君の中にあるものは、たぶんまだ全部出てない」
「……はい」
「君の演技、また観たいと思ってる人は、確実にいるから。
事務所がどこでも関係ない。
君が“自分で選んで進んでる”こと自体が、すごいと思うよ」
「ありがとうございます。
じゃあ、“自称25歳でがんばります”って伝えておいてください」
「うん、よくわかんないけど、伝えるわ」
◆◇◆
帰宅後、ノートを開く。
「“自称25歳”がついに街で通用した(?)
でも、その言葉の奥には、
“私自身をどう名乗るか”というテーマがあったのかもしれない。
名前も年齢も過去も、今の私を構成してる。
自分で“選んで”立ってるかどうか。
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