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第二十二話「柚季の悩みと、隠していた夢」
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放課後の空は、すっかり秋の色に染まっていた。
体育館横のベンチに並んで座る紬と柚季。
風が吹くたびに、近くの銀杏の葉がぱらぱらと舞う。
「……急に呼び出してごめんね」
柚季は、自販機で買ったカフェオレを手にしていた。
珍しく、少しだけ顔に“迷い”が見える。
「いいよ。なんか話したいことって言ってたよね?」
「……うん。話したいっていうか……話しといたほうがいい、気がして」
(あれ、こんなに口ごもる柚季、初めて見るかも)
彼女はいつも、サバサバしてて、感情を顔に出すのが少ない。
クラスの男子にも動じないし、舞台でも堂々としていた。
その柚季が、今はどこか目を伏せたまま、言葉を選んでいる。
「実はさ――わたし、昔……子役やってたの」
「え……?」
「小学生のとき。地元の劇団に入ってて、ちょっとだけCMとか、教育番組とか、そういうのに出てたの」
「……すごい」
「でも、誰にも言ってなかった。高校でも、友達にも。沙月にも」
紬は驚きながらも、なぜか納得していた。
(あの舞台での演技の安定感……納得しかない)
「じゃあ、舞台慣れしてたのって……」
「そう。でも……中学のとき、辞めた」
柚季の声が、少し沈んだ。
「家の事情とか、そういうのもあるけど――
一番の理由は、自分の“才能の限界”を感じたから」
「限界……?」
「当時、オーディションで毎回すごい子がいてさ。
わたし、努力はしてたけど……結局、その子には一度も勝てなかった。
周りの大人も、その子にばっか期待してた。
その子が休んだときに、やっとわたしが代役に立てた、みたいな」
柚季は、口をつぐんで一口カフェオレを飲む。
「それが悔しくて、惨めで。
“自分の夢”なのに、“他人の存在”でボロボロになるのがイヤだった。
だから、自分から辞めたの。演技なんて、やらないって決めた」
「……」
「でもさ」
柚季が、ゆっくり紬のほうを見た。
「文化祭で、久しぶりに舞台に立ったとき――
“やっぱり好きなんだな”って思っちゃった。
あの感覚、忘れたふりしてただけだったって、わかった」
紬は、何も言わずに耳を傾けていた。
柚季は、苦笑するように、でもほんの少しだけ目を潤ませながら、続ける。
「だから今、ちょっと迷ってる。
もう一度、やってみたい気持ちがある。
でもまた、“自分には無理”って思い知らされるのが怖い。
夢を追いかけるって、やっぱり……残酷だよね」
紬は、その言葉に胸を打たれた。
それは、まるで自分のことのようだったから。
(香坂結として、25歳で夢の途中で終わった人生。
紬として、“もう一度やり直そう”としている今)
柚季の“やりきれなかった夢”と、自分の“やり直している夢”。
違うようで、どこか根っこで繋がっている。
「……柚季」
紬は、静かに、でも真っ直ぐに彼女を見た。
「たぶん、“夢をやめる”理由って、いくらでも見つかると思う。
お金とか、時間とか、才能とか、周りの期待とか。
でも、“やりたい”って思った気持ちって、それより強いものだよ」
「……」
「もしまた傷つくのが怖いなら、隣で一緒に震えてるから。
私も、まだ怖いから。
でも、一緒に怖がれる人がいるなら、ちょっとだけ進める気がするよ」
柚季は驚いたように目を見開き、そして少しだけ、笑った。
「……紬って、ほんとずるいな」
「え?」
「そうやって、静かに本質ついてくるから、ズルいの。
そりゃ、演技に心動かされる人もいるわ」
「いや、それは柚季の演技もだったよ。文化祭のあのツッコミ……最高だったし」
「そこ褒める? 台詞じゃなくて?」
「うん、テンポが良かった」
「マジでずるい」
ふたりは、風に舞う葉っぱの中で笑った。
夕焼けが、すでにオレンジから藍色に変わり始めていた。
◆◇◆
帰宅後。
紬は自分の部屋で、ふと前世の記憶を思い返す。
香坂結として、生きた少女。
彼女もまた、同じように夢に迷い、挫折し、
それでも光を目指して歩いていた。
(結局、夢って、“上手くいくかどうか”じゃないんだ)
(“それを諦めきれるかどうか”なんだ)
ノートに今日のことを記録する。
「夢は、忘れたふりが一番うまくなる。
でも、心のどこかではずっと消えていない。
また歩き出すには、誰かの手が必要なこともある。
今日は、柚季の夢を、少しだけ受け取った。
次は、わたしの夢も、誰かに渡せたらいいな」
そして、ページの片隅に。
※ 柚季の子役時代、動画探してみよう。
絶対、どっかで見たことある気がする。
体育館横のベンチに並んで座る紬と柚季。
風が吹くたびに、近くの銀杏の葉がぱらぱらと舞う。
「……急に呼び出してごめんね」
柚季は、自販機で買ったカフェオレを手にしていた。
珍しく、少しだけ顔に“迷い”が見える。
「いいよ。なんか話したいことって言ってたよね?」
「……うん。話したいっていうか……話しといたほうがいい、気がして」
(あれ、こんなに口ごもる柚季、初めて見るかも)
彼女はいつも、サバサバしてて、感情を顔に出すのが少ない。
クラスの男子にも動じないし、舞台でも堂々としていた。
その柚季が、今はどこか目を伏せたまま、言葉を選んでいる。
「実はさ――わたし、昔……子役やってたの」
「え……?」
「小学生のとき。地元の劇団に入ってて、ちょっとだけCMとか、教育番組とか、そういうのに出てたの」
「……すごい」
「でも、誰にも言ってなかった。高校でも、友達にも。沙月にも」
紬は驚きながらも、なぜか納得していた。
(あの舞台での演技の安定感……納得しかない)
「じゃあ、舞台慣れしてたのって……」
「そう。でも……中学のとき、辞めた」
柚季の声が、少し沈んだ。
「家の事情とか、そういうのもあるけど――
一番の理由は、自分の“才能の限界”を感じたから」
「限界……?」
「当時、オーディションで毎回すごい子がいてさ。
わたし、努力はしてたけど……結局、その子には一度も勝てなかった。
周りの大人も、その子にばっか期待してた。
その子が休んだときに、やっとわたしが代役に立てた、みたいな」
柚季は、口をつぐんで一口カフェオレを飲む。
「それが悔しくて、惨めで。
“自分の夢”なのに、“他人の存在”でボロボロになるのがイヤだった。
だから、自分から辞めたの。演技なんて、やらないって決めた」
「……」
「でもさ」
柚季が、ゆっくり紬のほうを見た。
「文化祭で、久しぶりに舞台に立ったとき――
“やっぱり好きなんだな”って思っちゃった。
あの感覚、忘れたふりしてただけだったって、わかった」
紬は、何も言わずに耳を傾けていた。
柚季は、苦笑するように、でもほんの少しだけ目を潤ませながら、続ける。
「だから今、ちょっと迷ってる。
もう一度、やってみたい気持ちがある。
でもまた、“自分には無理”って思い知らされるのが怖い。
夢を追いかけるって、やっぱり……残酷だよね」
紬は、その言葉に胸を打たれた。
それは、まるで自分のことのようだったから。
(香坂結として、25歳で夢の途中で終わった人生。
紬として、“もう一度やり直そう”としている今)
柚季の“やりきれなかった夢”と、自分の“やり直している夢”。
違うようで、どこか根っこで繋がっている。
「……柚季」
紬は、静かに、でも真っ直ぐに彼女を見た。
「たぶん、“夢をやめる”理由って、いくらでも見つかると思う。
お金とか、時間とか、才能とか、周りの期待とか。
でも、“やりたい”って思った気持ちって、それより強いものだよ」
「……」
「もしまた傷つくのが怖いなら、隣で一緒に震えてるから。
私も、まだ怖いから。
でも、一緒に怖がれる人がいるなら、ちょっとだけ進める気がするよ」
柚季は驚いたように目を見開き、そして少しだけ、笑った。
「……紬って、ほんとずるいな」
「え?」
「そうやって、静かに本質ついてくるから、ズルいの。
そりゃ、演技に心動かされる人もいるわ」
「いや、それは柚季の演技もだったよ。文化祭のあのツッコミ……最高だったし」
「そこ褒める? 台詞じゃなくて?」
「うん、テンポが良かった」
「マジでずるい」
ふたりは、風に舞う葉っぱの中で笑った。
夕焼けが、すでにオレンジから藍色に変わり始めていた。
◆◇◆
帰宅後。
紬は自分の部屋で、ふと前世の記憶を思い返す。
香坂結として、生きた少女。
彼女もまた、同じように夢に迷い、挫折し、
それでも光を目指して歩いていた。
(結局、夢って、“上手くいくかどうか”じゃないんだ)
(“それを諦めきれるかどうか”なんだ)
ノートに今日のことを記録する。
「夢は、忘れたふりが一番うまくなる。
でも、心のどこかではずっと消えていない。
また歩き出すには、誰かの手が必要なこともある。
今日は、柚季の夢を、少しだけ受け取った。
次は、わたしの夢も、誰かに渡せたらいいな」
そして、ページの片隅に。
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