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第4話:マネキンたちの秘密
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あれから、怜司の中には消えない疑問が渦巻いていた。
ミサは何者なのか。
なぜ夜にだけ現れ、なぜ朝が来ると消えてしまうのか。
──夢だった、と片づけるには、彼女との時間はあまりにも鮮明すぎた。
怜司は、デザインルームのマネキンたちを眺めながら考えていた。
作業台の周囲に並ぶ数体のマネキンたち。
それぞれに異なるサイズのウエディングドレスが仮縫いされ、淡い光を受けて静かに佇んでいる。
特に、部屋の一角に置かれたひときわ美しいマネキン──
それが、妙にミサに似ている気がして、怜司は目を離せなかった。
すらりと伸びた首筋。
繊細な指先を模した手。
柔らかい曲線を描く腰のライン。
そして──どこか、微笑んでいるようにも見える、穏やかな表情。
「……まさか、な」
怜司は首を振った。
マネキンと人間が同じなわけがない。
そんなこと、理屈で考えればすぐわかる。
けれど、心のどこかで、ざわめきが止まらなかった。
まるで、目の前のマネキンが、何かを訴えかけてくるような気がした。
──思い出して。
そんな声が、耳の奥にかすかに響いた気さえした。
***
その夜も、怜司は待った。
12時が過ぎるまで、ただじっと、ミサを待った。
やがて──
カタン、とドアが開く。
そこに、いつものように、ミサが立っていた。
怜司はほっと胸を撫で下ろした。
「ミサ……」
思わず駆け寄りそうになるのを、必死で堪えた。
触れようとすれば、また彼女は消えてしまう気がしたから。
「こんばんは、怜司くん」
ミサは、変わらない微笑みを向けてくれた。
その笑顔に、怜司は心が溶けそうになった。
でも、今夜は訊かなければならない。
彼女が消える理由を。
彼女が何者なのかを。
そうしなければ、きっとまた、何もわからないまま、彼女を失ってしまう。
***
「なあ、ミサ」
怜司は、静かに切り出した。
「お前……本当に人間か?」
ミサは、一瞬だけ驚いたような顔をした。
けれど、すぐに、微笑んだ。
その笑顔が、あまりにも切なくて、胸が痛んだ。
「……怜司くんは、すごいですね」
「え?」
「本当は、もう気づいていたんでしょう?」
ミサは、そっとドレスルームのマネキンたちに目を向けた。
「私たちは……」
彼女は、静かに言った。
「ドレスルームのマネキンなんです」
怜司は、言葉を失った。
やっぱり──
でも、それがどういう意味なのか、すぐには理解できなかった。
***
「マネキンには、時々、奇跡が起きるんです」
ミサは、淡々と語った。
「特別な願いを込められたドレスに囲まれて、
人々の『幸せになりたい』っていう強い想いに触れると、
マネキンに、心が宿ることがあるんです」
それは、まるで絵本のような話だった。
けれど、ミサの言葉は嘘ではなかった。
怜司は直感でそう感じた。
「私は、怜司くんが作ったドレスの『願い』に呼び起こされた存在なんです」
ミサは、優しく微笑んだ。
「怜司くんのドレスは、誰かの幸せを、心から願って作られていた。
だから、私みたいな存在が、生まれることができたんです」
怜司は、息を呑んだ。
自分が、誰かを幸せにしたいと願って作ったドレス。
その想いが、ミサをこの世界に呼び寄せた──?
そんな奇跡を、信じていいのか。
でも、ミサの存在そのものが、すでに奇跡だった。
***
「でもね……」
ミサは、少しだけ俯いた。
「朝になると、私はこの世界にいられなくなるの」
「なぜ……?」
「マネキンは、夜の間しか動けないから。
夜が明けたら、またただの無機質な存在に戻らなきゃいけない」
ミサの声は、かすかに震えていた。
「だから、怜司くん。
私に、もう少しだけ……あなたと一緒にいる時間をください」
その願いは、あまりにも切なくて、
怜司は何も言えず、ただ頷いた。
***
その夜、怜司はスケッチブックを広げ、ミサと一緒にデザインを考えた。
どんなドレスが一番、花嫁を幸せにできるか。
どんな素材が、どんなシルエットが、最高の一日を彩るのか。
ミサは、ドレスの細部について驚くほど詳しかった。
レースの縫い方、シルクの落ち感、ビジューの配置──
彼女のアドバイスは、怜司に新しい視点を与えてくれた。
気づけば夜明けまで、ふたりで夢中になっていた。
そして、夜明け前。
ミサはまた、ふわりと微笑み、
「ありがとう」と囁いて、消えた。
怜司は、静かにスケッチブックを閉じた。
この奇跡のような夜を、絶対に忘れない。
──彼女の存在が、たとえどんな形であっても。
怜司は、そう強く心に刻んだ。
ミサは何者なのか。
なぜ夜にだけ現れ、なぜ朝が来ると消えてしまうのか。
──夢だった、と片づけるには、彼女との時間はあまりにも鮮明すぎた。
怜司は、デザインルームのマネキンたちを眺めながら考えていた。
作業台の周囲に並ぶ数体のマネキンたち。
それぞれに異なるサイズのウエディングドレスが仮縫いされ、淡い光を受けて静かに佇んでいる。
特に、部屋の一角に置かれたひときわ美しいマネキン──
それが、妙にミサに似ている気がして、怜司は目を離せなかった。
すらりと伸びた首筋。
繊細な指先を模した手。
柔らかい曲線を描く腰のライン。
そして──どこか、微笑んでいるようにも見える、穏やかな表情。
「……まさか、な」
怜司は首を振った。
マネキンと人間が同じなわけがない。
そんなこと、理屈で考えればすぐわかる。
けれど、心のどこかで、ざわめきが止まらなかった。
まるで、目の前のマネキンが、何かを訴えかけてくるような気がした。
──思い出して。
そんな声が、耳の奥にかすかに響いた気さえした。
***
その夜も、怜司は待った。
12時が過ぎるまで、ただじっと、ミサを待った。
やがて──
カタン、とドアが開く。
そこに、いつものように、ミサが立っていた。
怜司はほっと胸を撫で下ろした。
「ミサ……」
思わず駆け寄りそうになるのを、必死で堪えた。
触れようとすれば、また彼女は消えてしまう気がしたから。
「こんばんは、怜司くん」
ミサは、変わらない微笑みを向けてくれた。
その笑顔に、怜司は心が溶けそうになった。
でも、今夜は訊かなければならない。
彼女が消える理由を。
彼女が何者なのかを。
そうしなければ、きっとまた、何もわからないまま、彼女を失ってしまう。
***
「なあ、ミサ」
怜司は、静かに切り出した。
「お前……本当に人間か?」
ミサは、一瞬だけ驚いたような顔をした。
けれど、すぐに、微笑んだ。
その笑顔が、あまりにも切なくて、胸が痛んだ。
「……怜司くんは、すごいですね」
「え?」
「本当は、もう気づいていたんでしょう?」
ミサは、そっとドレスルームのマネキンたちに目を向けた。
「私たちは……」
彼女は、静かに言った。
「ドレスルームのマネキンなんです」
怜司は、言葉を失った。
やっぱり──
でも、それがどういう意味なのか、すぐには理解できなかった。
***
「マネキンには、時々、奇跡が起きるんです」
ミサは、淡々と語った。
「特別な願いを込められたドレスに囲まれて、
人々の『幸せになりたい』っていう強い想いに触れると、
マネキンに、心が宿ることがあるんです」
それは、まるで絵本のような話だった。
けれど、ミサの言葉は嘘ではなかった。
怜司は直感でそう感じた。
「私は、怜司くんが作ったドレスの『願い』に呼び起こされた存在なんです」
ミサは、優しく微笑んだ。
「怜司くんのドレスは、誰かの幸せを、心から願って作られていた。
だから、私みたいな存在が、生まれることができたんです」
怜司は、息を呑んだ。
自分が、誰かを幸せにしたいと願って作ったドレス。
その想いが、ミサをこの世界に呼び寄せた──?
そんな奇跡を、信じていいのか。
でも、ミサの存在そのものが、すでに奇跡だった。
***
「でもね……」
ミサは、少しだけ俯いた。
「朝になると、私はこの世界にいられなくなるの」
「なぜ……?」
「マネキンは、夜の間しか動けないから。
夜が明けたら、またただの無機質な存在に戻らなきゃいけない」
ミサの声は、かすかに震えていた。
「だから、怜司くん。
私に、もう少しだけ……あなたと一緒にいる時間をください」
その願いは、あまりにも切なくて、
怜司は何も言えず、ただ頷いた。
***
その夜、怜司はスケッチブックを広げ、ミサと一緒にデザインを考えた。
どんなドレスが一番、花嫁を幸せにできるか。
どんな素材が、どんなシルエットが、最高の一日を彩るのか。
ミサは、ドレスの細部について驚くほど詳しかった。
レースの縫い方、シルクの落ち感、ビジューの配置──
彼女のアドバイスは、怜司に新しい視点を与えてくれた。
気づけば夜明けまで、ふたりで夢中になっていた。
そして、夜明け前。
ミサはまた、ふわりと微笑み、
「ありがとう」と囁いて、消えた。
怜司は、静かにスケッチブックを閉じた。
この奇跡のような夜を、絶対に忘れない。
──彼女の存在が、たとえどんな形であっても。
怜司は、そう強く心に刻んだ。
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