真夜中の出会い

naomikoryo

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第5話:深まる想い

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それからの日々、結城怜司の夜は静かに色づき始めた。

 昼間は相変わらず、息もつかせぬほど忙しい。
 次々に届くオーダー、展示会に向けたデザイン修正、細かな素材の打ち合わせ。
 食事もろくに取れず、気づけば深夜になる日も少なくなかった。

 それでも──怜司の心は、以前のように荒れなかった。

 なぜなら、夜の静寂の中で、彼女に会えるからだ。

 ──ミサ。

 夜中の0時を過ぎると、ふと現れ、優しく微笑む少女。

 ただ隣にいてくれるだけで、
 コーヒーを差し出してくれるだけで、
 怜司の心は救われていた。

 そして、気づかぬうちに、
 その存在は怜司にとって「なくてはならないもの」になっていた。

 ***

「ねえ、怜司くん」

 ある夜、ミサがふいに口を開いた。

 二人は、アトリエの隅に並んで座り、カップを片手に話していた。

「怜司くんは、ドレスを作っていて、どんな瞬間が一番好き?」

 ミサの問いかけに、怜司は少しだけ考えた。

「……うーん、そうだな」

 カップの中で小さく揺れるコーヒーを見つめながら、言葉を選ぶ。

「やっぱり……花嫁が笑ったとき、かな」

「笑ったとき?」

「ああ。ドレスを着た瞬間、
 鏡の前で『こんなに綺麗になれるんだ』って顔をするんだ。
 あの、ちょっと戸惑ってるような、でもすごく嬉しそうな顔」

 怜司は、ふっと微笑んだ。

 「──あの瞬間を見るために、俺はドレスを作ってるのかもしれない」

 ミサは、しばらく黙っていた。

 そして、ぽつりと呟いた。

「素敵だな……」

 怜司は、思わずミサに目を向けた。

 彼女は、心から憧れるような目で、怜司を見つめていた。

 「怜司くんのドレスは、きっと、たくさんの人を幸せにしてるんだね」

 その言葉に、胸が熱くなった。

 この世界で、自分の仕事を、
 こんなふうに純粋に信じてくれる人がいる──

 それが、たまらなく嬉しかった。

 ***

 その夜、怜司は、ふとミサに尋ねた。

「ミサは、夢とかあるのか?」

 ミサは、少し驚いた顔をした。

 そして、すぐに柔らかく笑った。

「私は……」

 彼女は、夜空を見上げるように目を細めた。

 「誰かの『一番大切な日』を、そっと支える存在でいたい」

 怜司は、その言葉に胸を打たれた。

 彼女は、マネキンでありながら、
 ただ飾られるために生まれた存在ではない。

 ──誰かを幸せにするために、生まれた。

 そんな使命を、まっすぐに背負っている。

 その姿に、怜司は心から尊敬の念を抱いた。

 「……すごいな、お前は」

 「すごくないよ」

 ミサは、くすりと笑った。

 「だって、怜司くんのドレスが、私の世界だから」

 その一言に、怜司は言葉を失った。

 何もかも、見透かされた気がした。

 そして、同時に──

 胸の奥に、確かに芽生えていた感情に気づいた。

 ──好きだ。

 怜司は、はっとした。

 気づかないふりをしていた。
 見て見ぬふりをしていた。

 でも、もうごまかせなかった。

 ミサが好きだ。

 心から、好きだ。

 彼女が笑うだけで、
 隣にいるだけで、
 こんなにも嬉しくて、こんなにも苦しい。

 この感情は、恋だ。

 ***

 ふと、ミサが囁いた。

「怜司くん……もしも」

 「もしも?」

 「もしも私が、もうすぐここからいなくなったら、どうする?」

 その問いに、怜司は息を呑んだ。

 「……そんなこと、考えたくない」

 即座に、そう答えた。

 ミサは、静かに微笑んだ。

 どこか、哀しみを湛えた笑顔だった。

 「ありがとう」

 彼女は、そっとカップを置き、立ち上がった。

 そして、怜司に向かって、小さく手を振った。

 「また、明日ね」

 怜司も立ち上がり、思わず手を伸ばした。

 でも──届かない。

 夜明けが近づくとともに、
 彼女の姿はまた、ふわりと溶けていった。

 まるで、
 春の雪が静かに溶けていくように。

 ***

 残されたのは、空のコーヒーカップと、温もりの残る椅子。

 そして、怜司の胸に残った、たしかな想いだけだった。

 ──絶対に、ミサを失いたくない。

 たとえ、彼女がどんな存在だったとしても。

 たとえ、世界がそれを許してくれなかったとしても。

 この想いだけは、嘘じゃない。

 怜司は、静かに誓った。

 「必ず、ミサを守る」

 たとえそれが、どんな奇跡を必要とする道でも──
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