真夜中の出会い

naomikoryo

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第8話:ミサの秘密

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朝焼けに包まれたアトリエは、まるで何事もなかったかのように静まり返っていた。

 誰もいないフロアに、結城怜司は一人で立っていた。

 手には、昨夜ミサと一緒に考えたドレスのスケッチ。

 そして、目の前には──
 白い仮縫いドレスを纏った、無機質なマネキン。

 ミサにそっくりなそのマネキンは、ただそこにいるだけで、怜司の胸を締めつけた。

 「ミサ……」

 呟いても、返事はない。

 怜司は、ゆっくりと手を伸ばし、マネキンの肩に触れた。

 冷たく、硬い。

 まるで、昨夜の温もりが嘘だったかのように。

 けれど、怜司は知っていた。

 このマネキンには、たしかにミサの魂が宿っていたことを。

 それは、ただの思い込みじゃない。
 確かな奇跡だった。

 怜司は、拳をぎゅっと握った。

 「……必ず、もう一度会う」

 そう心に誓った。

 ***

 日中、怜司はアトリエの奥にある資料室へ向かった。

 資料室には、アトリエの創業以来の古い記録や設計図、メモなどが山のように保管されている。

 きっと、この場所に──
 ミサに関する何かが残されているはずだ。

 そう思った。

 薄暗い部屋に入り、怜司は古いファイルを一冊一冊めくっていった。

 年代物の紙は手触りももろく、ページをめくるたびに埃が舞い上がる。

 (……これだ)

 ふと、手に取った一冊のアルバム。

 そこには、アトリエに置かれているマネキンたちの写真が記録されていた。

 仮縫い用、展示用、ショーケース用──
 さまざまなマネキンたちの中に、怜司が探していたものがあった。

 ──白いワンピースに身を包んだ、ミサによく似たマネキン。

 写真の下には、こんな説明が添えられていた。

 《特別製マネキン "No.23 ミサ"── 願いを叶えるドレスとともに存在する存在》

 怜司は、震える指でその説明をなぞった。

 ──願いを叶える。

 ミサは、ドレスに込められた「幸せになりたい」という想いを受け取るために、このアトリエに存在していたのだ。

 単なるマネキンじゃない。
 誰かの「幸せ」を願う心が、奇跡を起こした。

 怜司のドレスを、そして、怜司の想いを、ミサは感じ取った。

 だから、彼女は夜ごと現れ、怜司のそばにいた。

 ──怜司を、支えるために。

 怜司の胸は、熱いもので満たされた。

 ***

 夜。

 怜司は、再びアトリエに戻ってきた。

 ドレスルームは変わらず静かで、ミサのマネキンがそこに立っていた。

 「ミサ……」

 怜司は、ゆっくりと近づいた。

 「……ありがとう」

 ポツリと呟いた。

 ミサは、自分を助けるために、ここにいた。
 彼女は、自分がどれだけ孤独だったか、どれだけ迷っていたか、すべてわかっていたのだ。

 誰も気づかなかった。
 誰も見てくれなかった。

 でも、ミサだけは、見つけてくれた。

 その奇跡に、怜司は感謝したかった。

 だから──

 「お前が教えてくれたこと、絶対に忘れない」

 怜司は、胸に手を当てた。

 「ドレスを作ることは、人を幸せにすることだって。
 俺が誰かの幸せを願って、心から作品を作り続ければ──
 きっとまた、お前に会える」

 マネキンは、何も答えない。

 けれど、怜司にはわかっていた。

 心の中で、ミサが微笑んでいることが。

 ***

 それから怜司は、昼も夜も、ドレス作りに没頭した。

 昼間は顧客との打ち合わせや、工房との連携。
 夜は、自分の心のすべてを注ぎ込んだスケッチと制作。

 疲れて倒れそうになったこともあった。

 でも、怜司は負けなかった。

 心の中に、ミサがいたから。

 彼女の微笑みが、彼を支えてくれたから。

 そして、展示会の日が、近づいてきた。
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