怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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15)白い箱

それは、私が実際に体験した出来事だ。
 今でも思い出すたびに、背筋が寒くなる。

***********************************

 当時、私は地方の小さなアパートに住んでいた。
 職場まで電車で40分、静かな住宅街の一角にあるワンルーム。

 特に変わったことはなく、平凡な日々を過ごしていた——あの日までは。

 その日、仕事を終えて帰宅すると、玄関の前に白い箱が置かれていた。

 大きさは、ちょうど靴箱くらい。
 送り主の名前はなく、宛名も書かれていなかった。

「……何だこれ?」

 私は不審に思いながらも、荷物を部屋に持ち込んだ。

 テーブルの上に箱を置き、慎重に蓋を開けた。

 すると、中には——

 古びた人形が入っていた。

 それは、小さな和風の市松人形だった。
 だが、顔には傷があり、目がくり抜かれていた。

 「……気味が悪いな」

 私はすぐに箱を閉じた。

 送り主の心当たりはない。
 いたずらだとしても、気味が悪すぎる。

 私は、その箱を押入れの奥にしまい、忘れることにした。

 しかし、それは間違いだった。

 深夜、私はふと目を覚ました。

 妙な気配を感じたのだ。

 部屋の空気が、異様に重い。

 耳を澄ますと——

 カタ、カタ……

 何かが、動いている音がする。

 私は恐る恐る布団から身を起こし、部屋を見回した。

 すると——

 押入れの戸が、少し開いていた。

 翌朝、私は押入れを確認した。

 昨日しまった白い箱が、そのまま置かれている。

「……気のせいか?」

 私は箱を取り出し、もう一度中を確認した。

 だが、何かが違う。

 昨日見た人形の向きが、変わっていたのだ。

「……ありえない」

 私は怖くなり、すぐに箱を外へ捨てた。

 これで終わった——はずだった。

 だが、その夜——

 部屋の前に、同じ白い箱が置かれていた。

 私は凍りついた。

 昨日、確かに捨てたはずの箱が、再び玄関に置かれている。

 中を開ける気にはなれなかった。

 私は意を決し、近所の神社へ向かった。

 事情を話すと、年配の神主が険しい顔をした。

「それは……“贄箱(にえばこ)”かもしれん」

「贄箱……?」

「昔から、この地域には、不要になった人形を“誰かに託す”風習があったんだ。
 持ち続けると、災いが起こるからな」

 私は息を呑んだ。

 誰かが、呪いを私に押し付けようとしている——?

 私は神主の助言に従い、その箱を持って山奥の廃寺へ行った。

「ここに置いてくればいい。決して中を見ず、振り返らずに帰るんだ」

 言われた通り、私は箱を廃寺の境内に置いた。

 そして、決して振り返らずに帰った。

 それからというもの——

 白い箱は、現れなくなった。

 私は安堵した。

 しかし、それで終わったわけではなかった。

 それ以来、夜になると——

 誰かに見られている気がするのだ。

 ある夜、私は夢を見た。

 廃寺の境内に、あの白い箱がぽつんと置かれている。

 そして、その箱の蓋がゆっくりと開く。

 中から、目のない人形がこちらを見ていた。

 「まだ、終わってないよ」

 目が覚めた時、私は気づいた。

 枕元に、白い箱が置かれていた。

***********************************

 それ以来、私は引っ越した。

 だが、それでも時折、夢の中にあの人形が現れる。

 もし、あなたの家の前に白い箱が置かれていたら——

 決して、開けてはいけない。

 それは、"誰か"があなたに押し付けたものなのだから。

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