怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

文字の大きさ
41 / 147

41)囁くトンネル(徳島県)

徳島県某所に、地元住民が決して近づこうとしないトンネルがある。

 観光地でもなければ、大きな幹線道路でもない。
 山間部の旧道にひっそりと存在する、「奇妙な声が聞こえるトンネル」。

 地元の人々は言う。

 「夜にトンネルを通ると、誰もいないはずなのに“声”が聞こえる」

 「決して返事をしてはいけない」

 なぜなら、返事をした瞬間——

 「トンネルの向こう側へ引きずり込まれる」

 私は都市伝説や心霊スポットを取材するライターだ。

 徳島県の知人から、このトンネルの話を聞いた。

 「地元では、昔から有名なんだ。夜中にあそこを通ると、どこからともなく“誰かの声”が聞こえるんだよ」

 「どんな声?」

 「はっきりとは聞こえない。でも、“こっちへおいで”とか、“誰かいるの?”とか、そんな感じの囁き声らしい」

 私は興味を引かれ、実際にそのトンネルへ行ってみることにした。

***********************************

 夜11時過ぎ、私は車を走らせ、問題のトンネルへ向かった。

 道は細く、周囲には人家もない。

 しばらく進むと、森の中にぽっかりと開いた真っ暗なトンネルが現れた。

 ライトで照らすと、古びたコンクリートの壁がむき出しになり、所々に黒い染みが広がっている。

 「……雰囲気があるな」

 私は車を降り、徒歩でトンネルの中へ入った。

 中は静まり返っており、かすかに風の音が響いている。

 だが——

 違和感を覚えた。

 なぜなら——

 自分の足音が、妙に遅れて聞こえる。

 私は、意識的に足音を立てて歩いてみた。

 コツ……コツ……

 普通なら、足を踏み出すと同時に音がする。

 しかし、ここでは——

 半秒遅れて、もう一度“同じ音”が響く。

 「……何だ?」

 気味が悪くなり、足を止めた。

 だが、その瞬間——

 後ろから、誰かが「コツ……」と足音を鳴らした。

 私は、背後を振り返った。

 だが、誰もいない。

 気のせいか? そう思いながら再び歩き出す。

 すると——

 「……ねぇ」

 私は凍りついた。

 確かに、耳元で囁き声がした。

 「……誰かいるのか?」

 しまった。

 気がついた時には、すでに遅かった。

 私は返事をしてしまったのだ。

 その瞬間、トンネル内の空気が変わった。

 気温が急激に下がり、背筋が粟立つ。

 そして——

 「そこにいるのは、誰?」

 はっきりとした女の声がした。

 私は、恐る恐る振り向いた。

 すると——

 トンネルの奥の暗闇の中に、白い影がぼんやりと浮かんでいた。

 それは、ゆっくりと近づいてくる。

 私は、動けなかった。

 影は、徐々に輪郭をはっきりさせていく。

 それは、長い髪の女だった。

 白い服を着ており、顔はぼんやりとしか見えない。

 だが——

 目だけが真っ黒に沈んでいた。

 そして、女はこう囁いた。

 「あなた、こっちに来て……」

 その瞬間、足元が強く引っ張られた。

 私は、必死で踏みとどまる。

 すると、トンネルの外から——

 「おい!!」

 誰かの怒鳴り声が響いた。

 気がつくと、私はトンネルの入り口に立っていた。

 目の前には、一人の老人がいた。

 「お前……何しとるんや!!」

 地元の住人だった。

 「返事をしてしもうたな……!」

 「……え?」

 「あのトンネルの声に返事をしたら、向こう側に連れていかれるんや!」

 私は、ゾッとした。

 「さっきの女……あれは……?」

 老人は、しばらく沈黙した後、こう言った。

 「あそこには、昔事故で死んだ者の魂が彷徨っとるんや。」

 その老人によると、20年以上前、このトンネルで一台の車が崖下に転落する事故があったという。

 車には、女性が乗っていた。

 しかし、彼女の遺体は見つからなかった。

 それ以来、このトンネルでは深夜になると誰かの声が聞こえるようになった。

 「そこにいるのは、誰?」

 「こっちに来て」

 声に応じた者は、いつの間にか行方不明になるという。

***********************************

 私は、すぐにその場を離れた。

 しかし、帰りの車の中で——

 助手席の窓に、白い手形がついていた。

 まるで、誰かが外から覗いていたかのように。

 もし、あなたが徳島県の山中にある**「囁くトンネル」**を見つけたら——

 決して、声に返事をしてはいけない。

 なぜなら、その瞬間——

 「向こう側」に引きずり込まれるから。

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
【累計55万PV突破‼】 話題作「アンケートに答えたら、人生が終わった話」が10万PVを記録。 日常に潜む“逃げ場のない恐怖”を集めた、戦慄の短編集。 その違和感は、もう始まっている。 帰り道、誰もいないはずの部屋、何気ない会話。 どこにでもある日常が、ある瞬間、取り返しのつかない異常へと変わる。 意味が分かると凍りつく話。 理由もなく、ただ追い詰められていく話。 そして、最後の一行で現実がひっくり返る話。 1話1000〜2000文字。隙間時間で読める短編ながら、 読み終えたあと、ふとした静寂が怖くなる。 これはすべて、どこかで起きていてもおかしくない話。 ――あなたのすぐ隣でも。 洒落にならない実話風・創作ホラー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。