怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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41)囁くトンネル(徳島県)

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徳島県某所に、地元住民が決して近づこうとしないトンネルがある。

 観光地でもなければ、大きな幹線道路でもない。
 山間部の旧道にひっそりと存在する、「奇妙な声が聞こえるトンネル」。

 地元の人々は言う。

 「夜にトンネルを通ると、誰もいないはずなのに“声”が聞こえる」

 「決して返事をしてはいけない」

 なぜなら、返事をした瞬間——

 「トンネルの向こう側へ引きずり込まれる」

 私は都市伝説や心霊スポットを取材するライターだ。

 徳島県の知人から、このトンネルの話を聞いた。

 「地元では、昔から有名なんだ。夜中にあそこを通ると、どこからともなく“誰かの声”が聞こえるんだよ」

 「どんな声?」

 「はっきりとは聞こえない。でも、“こっちへおいで”とか、“誰かいるの?”とか、そんな感じの囁き声らしい」

 私は興味を引かれ、実際にそのトンネルへ行ってみることにした。

***********************************

 夜11時過ぎ、私は車を走らせ、問題のトンネルへ向かった。

 道は細く、周囲には人家もない。

 しばらく進むと、森の中にぽっかりと開いた真っ暗なトンネルが現れた。

 ライトで照らすと、古びたコンクリートの壁がむき出しになり、所々に黒い染みが広がっている。

 「……雰囲気があるな」

 私は車を降り、徒歩でトンネルの中へ入った。

 中は静まり返っており、かすかに風の音が響いている。

 だが——

 違和感を覚えた。

 なぜなら——

 自分の足音が、妙に遅れて聞こえる。

 私は、意識的に足音を立てて歩いてみた。

 コツ……コツ……

 普通なら、足を踏み出すと同時に音がする。

 しかし、ここでは——

 半秒遅れて、もう一度“同じ音”が響く。

 「……何だ?」

 気味が悪くなり、足を止めた。

 だが、その瞬間——

 後ろから、誰かが「コツ……」と足音を鳴らした。

 私は、背後を振り返った。

 だが、誰もいない。

 気のせいか? そう思いながら再び歩き出す。

 すると——

 「……ねぇ」

 私は凍りついた。

 確かに、耳元で囁き声がした。

 「……誰かいるのか?」

 しまった。

 気がついた時には、すでに遅かった。

 私は返事をしてしまったのだ。

 その瞬間、トンネル内の空気が変わった。

 気温が急激に下がり、背筋が粟立つ。

 そして——

 「そこにいるのは、誰?」

 はっきりとした女の声がした。

 私は、恐る恐る振り向いた。

 すると——

 トンネルの奥の暗闇の中に、白い影がぼんやりと浮かんでいた。

 それは、ゆっくりと近づいてくる。

 私は、動けなかった。

 影は、徐々に輪郭をはっきりさせていく。

 それは、長い髪の女だった。

 白い服を着ており、顔はぼんやりとしか見えない。

 だが——

 目だけが真っ黒に沈んでいた。

 そして、女はこう囁いた。

 「あなた、こっちに来て……」

 その瞬間、足元が強く引っ張られた。

 私は、必死で踏みとどまる。

 すると、トンネルの外から——

 「おい!!」

 誰かの怒鳴り声が響いた。

 気がつくと、私はトンネルの入り口に立っていた。

 目の前には、一人の老人がいた。

 「お前……何しとるんや!!」

 地元の住人だった。

 「返事をしてしもうたな……!」

 「……え?」

 「あのトンネルの声に返事をしたら、向こう側に連れていかれるんや!」

 私は、ゾッとした。

 「さっきの女……あれは……?」

 老人は、しばらく沈黙した後、こう言った。

 「あそこには、昔事故で死んだ者の魂が彷徨っとるんや。」

 その老人によると、20年以上前、このトンネルで一台の車が崖下に転落する事故があったという。

 車には、女性が乗っていた。

 しかし、彼女の遺体は見つからなかった。

 それ以来、このトンネルでは深夜になると誰かの声が聞こえるようになった。

 「そこにいるのは、誰?」

 「こっちに来て」

 声に応じた者は、いつの間にか行方不明になるという。

***********************************

 私は、すぐにその場を離れた。

 しかし、帰りの車の中で——

 助手席の窓に、白い手形がついていた。

 まるで、誰かが外から覗いていたかのように。

 もし、あなたが徳島県の山中にある**「囁くトンネル」**を見つけたら——

 決して、声に返事をしてはいけない。

 なぜなら、その瞬間——

 「向こう側」に引きずり込まれるから。
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