怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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54)消えたマラソンランナー

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オリンピック——。
 世界中が熱狂するスポーツの祭典。
 しかし、その歴史の中には、決して公にはされない不可解な事件が存在する。

 「ある選手が、ゴール直前で姿を消した」

 これは、1970年代に実際に起きた出来事である。

***********************************

 それは、ある国のオリンピックでの出来事だった。

 その日、男子マラソンの決勝が行われていた。

 猛暑の中、各国の代表選手が42.195kmを走り抜ける。

 そして、優勝候補の一人とされていた選手、**D・F(仮名)**は、順調にトップを走っていた。

 彼のペースは完璧だった。

 35km地点——

 D・Fは、後続の選手を引き離し、優勝はほぼ確実と言われていた。

 観客も、沿道で歓声を上げる。

 しかし、その直後——

 彼は突然、コース上から姿を消した。

 D・Fが消えたのは、コースのトンネルの中だった。

 この大会のコースには、一つだけ短いトンネルがあり、そこを通過する必要があった。

 しかし、彼はトンネルに入ったまま——

 二度と出てこなかった。

 後続の選手がトンネルを通過するときには、彼の姿はどこにもなかった。

 観客やカメラも、トンネルの出口を注視していたが、彼が出てくることはなかった。

 まるで——

 その場で消えたかのように。

 大会スタッフがすぐにトンネルを調査した。

 だが、中には誰もいなかった。

 不思議なことに、D・Fの足跡だけが途中で途切れていた。

 トンネルの入り口には、彼が走っていた痕跡があった。

 しかし、途中から一切の足跡が消えていた。

 まるで、何かに吸い込まれたかのように。

 同じコースを走った選手たちの証言はこうだった。

 「トンネルの中が、異常に寒かった」

 「壁が妙に湿っていて、空気が重かった」

 「何かの気配を感じた」

 しかし、誰も彼が消える瞬間を目撃していなかった。

 警察や大会運営がD・Fの行方を必死に探したが、どこにも彼の姿はなかった。

 やがて、関係者がトンネル内の監視カメラを確認することになった。

 そして——

 そこには、奇妙な映像が残されていた。

 D・Fがトンネルに入る瞬間までは、普通の映像だった。

 だが、トンネルの奥へ進むにつれ、映像にノイズが走り始める。

 そして、彼が消える直前——

 映像の端に、何か黒い影のようなものが映り込んでいた。

 その影は、人のように見えた。

 いや、それどころか——

 D・Fのすぐ後ろに、もう一人の足が映っていた。

 しかし、その足は地面についていなかった。

 それから数週間後——

 D・Fは、遥か500km離れた廃墟で発見された。

 彼は、トンネルから消えたはずなのに——

 なぜか、全く別の場所で見つかったのだ。

 しかし、問題はそれだけではなかった。

 彼の遺体は、40年前に亡くなったような状態だった。

 皮膚は乾燥し、まるで長年風雨にさらされたように劣化していた。

 そして、彼の口元には——

 何かを伝えようとしたような、かすかな歯形が残されていた。

 この不可解な事件の後、地元の研究者がこのトンネルの過去を調査した。

 すると、驚くべき事実が明らかになった。

 かつてこの場所には、第二次世界大戦中に軍の施設があったという。

 そして、そのトンネルは元々、戦争中に使われていた地下壕の一部だった。

 しかし、戦時中に大規模な崩落事故が発生し、数十人の兵士が生き埋めになったと記録されていた。

 彼らの遺体は回収されず、そのまま埋められたという。

 D・Fは、彼らに“連れて行かれた”のかもしれない。

 事件の後、そのトンネルは使用されなくなり、大会のコースも変更された。

 しかし、その後も奇妙な目撃証言が相次いだ。

 ・夜になると、トンネルの中から足音が聞こえる。
 ・トンネルの入り口で、「助けて……」という声がする。
 ・通りかかった車のドライブレコーダーに、誰もいないはずの足が映る。

 そして、最も不可解なのは——

 オリンピックのたびに、同じような失踪事件が報告されていることだった。

***********************************

 もし、あなたがオリンピックのマラソンコースを観戦することがあれば——

 選手がトンネルを通過する時、足元をよく見てほしい。

 もし、彼の影が2つに増えていたら——

 その選手は、もう二度とゴールにはたどり着けないかもしれない。
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