怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

文字の大きさ
56 / 147

56)百一夜の契り

百物語——それは、語られるごとに闇が深まり、百話目を語ると何かが現れるとされる怪談の儀式。

 しかし、この話は、百話では終わらなかった。

 「百一話目」を語ってしまった者は、どうなるのか——。

「百物語、やらない?」
 大学生のAとBは、怪談好きの友人だった。

 ある夏の夜、二人は仲間を集め、「百物語」をやることにした。

 メンバーは5人。

 「百話も話せるか?」

 そう思ったが、スマホで検索すれば、怪談はいくらでも出てくる。

 ルールは簡単。

 ・1話語るごとに、ロウソクを消す。
 ・百話目を語り終えたら、絶対に外へ出てはいけない。

 そして、夜11時。

 百物語が始まった——。

***********************************

 最初の数話は、定番の怪談だった。

 「トイレの花子さん」
 「こっくりさん」
 「山で拾った呪いの石」

 話が進むにつれ、次第に雰囲気が変わっていった。

 50話を過ぎる頃、部屋の空気が重くなった。

 「なんか……部屋、暑くね?」

 「いや、寒い気がする……」

 そして、ロウソクの炎が妙に揺れ始めた。

 80話を過ぎると、誰も笑わなくなった。

 そして——99話目。

 「最後の話、誰がやる?」

 Aがスマホを手に取り、怪談を読み始めた。

 その瞬間——

 ロウソクが、一斉に消えた。

「これで終わり……のはずだった」
 真っ暗な部屋に、誰かの息遣いが響いた。

 「おい、今誰か息した?」

 「してない……」

 Bがスマホのライトをつけると、ロウソクの火が一本、まだついていた。

 百話目を語る前に、ロウソクは全部消えたはずだった。

 「おかしくね?」

 すると、Aがスマホの画面を見つめ、呟いた。

 「……これ、百話目じゃない」

 Bが覗き込むと、そこには**「百一話目」**と書かれていた。

 「百一夜目の怪談」——

 その話のタイトルは——

 「百一夜の契り」

 Aは、震える手で画面をスクロールした。

 その話は、こうだった。

 「百物語を終えた者は、百一話目を語ってはならない。
 もし語れば、"何か"が現れる。
 そして、その話を最後まで聞いた者は、"向こう側"へ引きずり込まれる——」

 「なんだこれ、ふざけてんのか?」

 Bがそう言った瞬間——

 部屋の隅から、カサ……カサ……と何かが這う音が聞こえた。

 全員、凍りついた。

 スマホの光を向けると——

 部屋の隅に、黒い影がいた。

 「な、なんだよ……」

 影は、まるで煙のようにゆらめきながら、ゆっくりと近づいてきた。

 そして、はっきりと聞こえた。

 「次の話を、聞かせて?」

 Aがスマホを落とした。

 画面には、続きを示すボタンが浮かび上がっていた。

 「百二話目を読む」

 「もうダメだ! 消すぞ!」

 Bがスマホを叩き壊そうとした瞬間——

 Aが、ゆっくりと口を開いた。

 「……読まなきゃ、ダメなんだよ」

 Aの目は、黒く濁っていた。

 「おい、やめろ!!」

 Bが止めようとしたが、Aは画面をタップした。

 その瞬間——

 部屋の電気が点いた。

 「……え?」

 何もなかったように、部屋は静まり返っていた。

 だが——

 Aの姿だけが、消えていた。

 翌日、BたちはAを必死に探した。

 しかし、Aの姿はどこにもなかった。

 警察にも届けたが、「家出かもしれない」と言われただけだった。

 Bは、Aが最後に見ていたスマホを開いた。

 そこには、怪談サイトのページが開かれていた。

 そして——

 「百二話目を読む」ボタンが、まだ表示されていた。

 Bは、恐る恐るその下のコメント欄を見た。

 すると、一番下の投稿に——

 「たすけて」

 「ここから、でられない」

 投稿者名は、Aの名前だった。

***********************************

 それ以来、Bは絶対に怪談を語らなくなった。

 しかし、怪談好きの間では噂になっている。

 「百物語をやるときは、百話で終わらせろ」

 そして、もし——

 「百一話目」を語るサイトを見つけても、絶対に開いてはいけない。

 なぜなら、その瞬間——

 "次の話を語る者"に選ばれるのだから。

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

洒落にならない怖い話【短編集】

鍵谷端哉
ホラー
【累計55万PV突破‼】 話題作「アンケートに答えたら、人生が終わった話」が10万PVを記録。 日常に潜む“逃げ場のない恐怖”を集めた、戦慄の短編集。 その違和感は、もう始まっている。 帰り道、誰もいないはずの部屋、何気ない会話。 どこにでもある日常が、ある瞬間、取り返しのつかない異常へと変わる。 意味が分かると凍りつく話。 理由もなく、ただ追い詰められていく話。 そして、最後の一行で現実がひっくり返る話。 1話1000〜2000文字。隙間時間で読める短編ながら、 読み終えたあと、ふとした静寂が怖くなる。 これはすべて、どこかで起きていてもおかしくない話。 ――あなたのすぐ隣でも。 洒落にならない実話風・創作ホラー。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。