怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo

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56)百一夜の契り

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百物語——それは、語られるごとに闇が深まり、百話目を語ると何かが現れるとされる怪談の儀式。

 しかし、この話は、百話では終わらなかった。

 「百一話目」を語ってしまった者は、どうなるのか——。

「百物語、やらない?」
 大学生のAとBは、怪談好きの友人だった。

 ある夏の夜、二人は仲間を集め、「百物語」をやることにした。

 メンバーは5人。

 「百話も話せるか?」

 そう思ったが、スマホで検索すれば、怪談はいくらでも出てくる。

 ルールは簡単。

 ・1話語るごとに、ロウソクを消す。
 ・百話目を語り終えたら、絶対に外へ出てはいけない。

 そして、夜11時。

 百物語が始まった——。

***********************************

 最初の数話は、定番の怪談だった。

 「トイレの花子さん」
 「こっくりさん」
 「山で拾った呪いの石」

 話が進むにつれ、次第に雰囲気が変わっていった。

 50話を過ぎる頃、部屋の空気が重くなった。

 「なんか……部屋、暑くね?」

 「いや、寒い気がする……」

 そして、ロウソクの炎が妙に揺れ始めた。

 80話を過ぎると、誰も笑わなくなった。

 そして——99話目。

 「最後の話、誰がやる?」

 Aがスマホを手に取り、怪談を読み始めた。

 その瞬間——

 ロウソクが、一斉に消えた。

「これで終わり……のはずだった」
 真っ暗な部屋に、誰かの息遣いが響いた。

 「おい、今誰か息した?」

 「してない……」

 Bがスマホのライトをつけると、ロウソクの火が一本、まだついていた。

 百話目を語る前に、ロウソクは全部消えたはずだった。

 「おかしくね?」

 すると、Aがスマホの画面を見つめ、呟いた。

 「……これ、百話目じゃない」

 Bが覗き込むと、そこには**「百一話目」**と書かれていた。

 「百一夜目の怪談」——

 その話のタイトルは——

 「百一夜の契り」

 Aは、震える手で画面をスクロールした。

 その話は、こうだった。

 「百物語を終えた者は、百一話目を語ってはならない。
 もし語れば、"何か"が現れる。
 そして、その話を最後まで聞いた者は、"向こう側"へ引きずり込まれる——」

 「なんだこれ、ふざけてんのか?」

 Bがそう言った瞬間——

 部屋の隅から、カサ……カサ……と何かが這う音が聞こえた。

 全員、凍りついた。

 スマホの光を向けると——

 部屋の隅に、黒い影がいた。

 「な、なんだよ……」

 影は、まるで煙のようにゆらめきながら、ゆっくりと近づいてきた。

 そして、はっきりと聞こえた。

 「次の話を、聞かせて?」

 Aがスマホを落とした。

 画面には、続きを示すボタンが浮かび上がっていた。

 「百二話目を読む」

 「もうダメだ! 消すぞ!」

 Bがスマホを叩き壊そうとした瞬間——

 Aが、ゆっくりと口を開いた。

 「……読まなきゃ、ダメなんだよ」

 Aの目は、黒く濁っていた。

 「おい、やめろ!!」

 Bが止めようとしたが、Aは画面をタップした。

 その瞬間——

 部屋の電気が点いた。

 「……え?」

 何もなかったように、部屋は静まり返っていた。

 だが——

 Aの姿だけが、消えていた。

 翌日、BたちはAを必死に探した。

 しかし、Aの姿はどこにもなかった。

 警察にも届けたが、「家出かもしれない」と言われただけだった。

 Bは、Aが最後に見ていたスマホを開いた。

 そこには、怪談サイトのページが開かれていた。

 そして——

 「百二話目を読む」ボタンが、まだ表示されていた。

 Bは、恐る恐るその下のコメント欄を見た。

 すると、一番下の投稿に——

 「たすけて」

 「ここから、でられない」

 投稿者名は、Aの名前だった。

***********************************

 それ以来、Bは絶対に怪談を語らなくなった。

 しかし、怪談好きの間では噂になっている。

 「百物語をやるときは、百話で終わらせろ」

 そして、もし——

 「百一話目」を語るサイトを見つけても、絶対に開いてはいけない。

 なぜなら、その瞬間——

 "次の話を語る者"に選ばれるのだから。
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